1999年11月1日(通巻116号)

目   次
巻頭言

 地域の視点を………………………………宮崎 鎮雄

論 文

 トヨタの経営戦略と労働者・国民………佐々木昭三

 働くもののいのちと健康を守る全国、
 地方のセンターの活動の展開……………山田 信也



地域の視点を

宮崎 鎮雄

 全労連結成10周年に当り、この場を借りて連帯と期待の意を表したい。結成時140万人の組織人員が、今日150万人を超えている(小林洋二議長記)。階級的ナショナルセンターが、10年間引き続き発展しているのは、わが国労働運動史上、前例がなく、まさに特筆すべきことであろう。しかし、わが国労働組合(運動)を全体的にみれば、その組織率は、この10年間減り続け、労働省「労働組合基礎調査」によれば、98年度のそれは、22.4%にまで落ち込んでいる。さらに、労働省「労働争議統計調査」によれば、90年代の労働争議件数は、93年が最低で1084件、97年が最高で1334件、20年ほど前の約1万件と比べて、7分の1以下になってしまっている。そのような中で、最高裁の調べによれば、全国の地方裁判所に正式裁判として持込まれた労使紛争が、昨年1年間で1793件に上がったという。これは、統計のある61年以降最多であり、61年に97件にすぎなかった労働裁判が、その後増加を続け、93年からは6年連続1000件を超えているのである(日経8/20)。
 以上の数値から推測出来ることは、関係労働者の「権利のための闘い」が一定の前進をみせている反面、労働組合(運動)が、しかるべき役割を果たしていないために、個々の労働者が、長年にわたる苦難を覚悟の上で、裁判闘争に望みをかけたということになるのではあるまいか。労働組合(運動)に対する不信か期待外れの表われと言ったら言い過ぎであろうか。気掛かりなことである。
 資本の側のグローバルな再編と日本的労使慣行にもとづく雇用環境の崩壊が進む中で、労働組合(運動)は、とりわけ生活基盤である地域に根をおろさねばならないと思われる(地域的団結権構想)。企業帰属意識から解放された労働者が、地域労働組合において、年配層と若年層の連帯を築き上げることを祈るや切りである。本年、日本一を決めたダイエー・ホークスのベテランと若手の連携の如く。

(会員・愛知大学教授、愛知労問研理事)




Rodo-Soken No.27(英文、99年7月号)に掲載した、佐々木昭三・愛知労働問題研究所理事の「トヨタの経営戦略と労働者・国民」及び山田信也・労働総研理事、いのちと健康全国センター理事長の「働くもののいのちと健康を守る全国、地方のセンターの活動の展開」の日本語原稿を掲載します。

トヨタの経営戦略と労働者・国民

佐々木 昭三

国際的再編のなかでの日本の自動車産業

 自動車産業は21世紀に向け「生き残りをかけた」国際的再編が加速的にすすんでいる。昨年、独ダイムラーと米クライスラーが合併を発表し、世界に衝撃をあたえた。3月、日本第2位のメーカー日産自動車が仏ルノーと資本提携をして外資主導で「経営再建」をめざす。マツダが米フォードの支配にはいった以上の波紋を広げ、日本の自動車産業は大きな転換期を迎えた。
 自動車産業の国際再編のなか、「高い環境技術力」をもち、「株価が安い」日本の自動車メーカーは提携先として、世界再編のなかに巻き込まれつつある。
 日本の国内生産は、国内販売の低迷、アジアの経済危機、海外現地生産の本格化などで1,000万台割れがつづき(ピークは90年1,350万台)、300万台以上の過剰生産能力(国内11社の生産能力は1,300万台)となっている。現在、日本とアジアの収益悪化により、北米での販売が収益動向に大きく影響している。好調組(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業)、不振組(日産自動車、三菱自動車)の二極化がすすんでいる。
 こうしたなか国内の自動車産業各社も本格的な再編とリストラ戦略をおしすすめている。それは、国内生産能力の削減、系列部品メーカーの再編・切り捨て、低コスト化・技術力強化のための提携(資本・技術)、グローバル化・国際再編の見直し、国内販売体制の再編・強化、人事・賃金制度のフラット化・個別・能力主義化、雇用制度の再編(女性・高齢者の活用、派遣・契約社員導入)などの本格的なリストラ策である。以下、国際的再編との関連でトヨタの戦略とその労働者・国民への影響を見てゆく。

トヨタ自動車の世界戦略

 国内最大手で世界の5大メーカーのトヨタは3月期決算で5,780億の経常利益をあげ、内部留保も4兆8606億の巨額にのぼっている。国際的な再編のなかで、トヨタは、グループ各社の「結束力を強化」し、「GM・フォードをキャッチアップし、21世紀にも世界のメジャー・プレイアーとして勝ち残る」として、いまを「2005年ビジョン」のなか「第二操業期」として位置づけている。そして、国内生産が300〜350万台でも収益拡大できる体制づくりをめざしている。トヨタの生産能力は400万台、ダイハツなどを加えれば550万台で、昨年の国内生産台数は316万台で、このうち約4割は輸出向けであった。そのため、トヨタグループの効率経営と結束強化をめざして、生産システムの見直し、部品メーカー・販売会社に「300万台でも利益がでる」体制づくりを徹底させている。その一環として、トヨタ元町工場ライン半減、系列車体メーカー関東自動車工業深浦工場、トヨタ車体刈谷工場の閉鎖を決めた。
 トヨタは、世界再編の波のなか「競争に勝ち残れる体制」として、「持ち株会社」を構想している。現在のトヨタ自動車グループはトヨタを頂点にデンソー、アイシン精機などの部品、車体メーカーなど14社と出資比率50%を超える子会社326社(うち海外126社)で構成され、販売会社をなどを含めると社員は100万人を超える。「世界競争に勝ち抜く」ために「グループの結束力」を強化するとして、デンソーに常勤役員を送り、ダイハツ工業、日野自動車を子会社化し、関連企業への出資率を高め、持ち株会社に向けて支配力を強めている。トヨタ自動車やグループの部品メーカーなどの上に「グループ経営戦略会議に特化」した「最高意志決定機関」となる統括会社「持ち株会社トヨタ」を置き、各社を支配する、強力な指揮命令系統を確立する形態を検討している。また、グループで重複している研究開発分野を整理統合して、スリム化し、グループ全体で効率化することをめざしている。
 豊田名誉会長(前会長・経団連前会長)、奥田会長(前社長・日経連会長)がその中心にすわる。トヨタ自動車は、トヨタ生産方式・JITかんばん方式の普及や米TMMK立ち上げの中心となった張社長とした。そして、徹底したコスト削減と効率的な経営をおしすすめようとしている。

トヨタ経営戦略と労働者・国民

 トヨタは、「社員7万人の雇用は守る」といいながら、グループや関連企業に犠牲を押しつけ大量に人べらしをすすめてきた。トヨタはこの6年間に従業員を約5,500人減らした。92年は従業員7万5266人だったのが、98年では7万人を切った。この1年で今までの倍近い1,841人削減し、現在6万7912人である。愛知県の人減らしトップ企業である。退職者の不補充、新規採用は 抑制する。来年の技能系(生産)新規採用は800人である。
 事務・技術系はこの間、組織再編・フラット化にともない2割人を減らした。業務がまわらないところは派遣労働者で対応している。そのため、事務・技術系労働者はいっそう長時間・過密労働となった。2003年までにさらに2,200人削減する。トヨタは雇用を悪化させる中心である。
 また、組織改革の中で中間管理職が大幅に減らされた。部長は300人から140人、次長は540人から370人、課長1,700人・係長3,700人の計5,400人いたのが新たなスタッフリーダー制となり、それは1,550人となった。50歳代以上の職制は関連・下請企業へ出向・転籍させられている。
 技能職・ライン生産でも工長2,000人から1,400人、組長5,900人から3,800人で名称もポスト長となった。班長10,000人は廃止となった。こうした中間管理職・職制はきついライン生産労働へ回されたり、若い労働者と競争させられたりして、職場に居づらくさせられ、辞めざるをえない状況がつくりだされている。そのため、労働者の過労死・在職死、健康(身心)・生活破壊が広がっている。
 中間職制はこれまでの職場の技能・技術や職場のリーダーであり、労働組合の職場役員であった。こうしたトヨタのやり方は、職場の不安定化、動揺、不満をつくりだし、たたかう労働者との共同やいままでの労使一体の労働組合のあり方にも影響を与えている。
 トヨタは、「雇用を守る」ため「人件費を大幅に削減する」として、今春闘ではベアを700円に抑えた。徹底した賃金抑制である。さらに、賃金体系を10月から徹底した個別の能力主義・成績主義にして、年功型の賃金を解体する。事務・技術系は裁量労働制が導入され、実質30〜50時間残業しても15時間分の裁量労働手当しかつかず、職場の不満が広がり、手当は25時間分となった。事務・技能系では年齢給が廃止され、オール能力給となった。
 雇用は正規労働者でなく派遣・契約社員を拡大し、生産ラインにも賃金の低い女性と高齢者の導入、派遣・契約社員の拡大をすすめている。事務系は派遣労働者の比率を高め、新たな雇用は派遣労働者である。
 生産ラインの深夜交代勤務に若い女性労働者を導入するためトヨタは女子保護撤廃・労働法制改悪の推進力となった。4月からの女子保護撤廃にともない500人の女性ライン労働者を年内に1,000人にする。今までは女性労働者が午後10時30分までしか勤務できなかったのを深夜帯最後の午前0時25分まで働かせるようにした。工場も今後さらに女性や高齢者を視野にいれた抜本改革(多品種小量生産、組立ラインの変更など)をすすめている。
 トヨタは「世界最適地調達」体制をとり、高品質・低コストの部品なら世界から集めるとしている。トヨタは部品メーカーの選別・育成と再編成をすすめ、系列外部品調達、海外調達も拡大している。トヨタの部品協力会の3団体を4月に統合した。こうしたトヨタの戦略のもとで下請けメーカーの現実は「部品を出せば出すほど赤が出て」「価格協力」の名で原価低減を強いられ、加工賃がバブル期の半分近くに下落している。
 愛知の地域経済におけるトヨタの影響は非常に大きい。製造業に占める自動車関連の割合は約25%であり、関連部品の鉄鋼、機械、電機、繊維、プラスチックなどを含めれば「自動車」の比重は大変大きい。電力ではトヨタ・グループが全体の7%を占め、工業用ガスの40%を占める。自治体の税収も2割近くを占める。愛知県の調査でこの間のトヨタの国内生産の減産と海外生産の拡大で100万台が削減され、それが工業製造の付加価値を1兆3000億減らす要因となり、このことが労働者の雇用・生活、下請・関連企業の経営の悪化、自治体財政の減収となり、地域経済に大きな打撃をあたえている。
 トヨタの経営戦略は労働者、関連下請企業、地域経済、自治体財政など国民に重大な犠牲を強いる大規模なリストラ「合理化」策としてすすめられている。こうした社会的なルールを無視した横暴な企業の収益だけを最優先した「資本の論理」での戦略に対して、労働者・国民の立場から大企業の横暴を規制して、企業の社会的責任と国民経済の安定の視点からの要求・政策、共同した運動が今切実に求められている。労働者・国民のたたかいと共同は大きく広がりつつある。

(ささき しょうぞう 会員・労働総研日産問題プロジェクト)




働くもののいのちと健康を守る全国、
地方のセンターの活動の展開
−労働運動の新しい流れを育てる−

山田 信也 


1.「いのちと健康」全国センター設立の意義

 1998年12月15日、「働くもののいのちと健康を守る全国センター」が、多くの働く人々の期待を担って誕生した。総評を母体として1967年に設立された日本労働者安全センターが、1989年に総評解体とともに消滅してしまって以来の10年間の空白は克服され、新しい理念と民主的な運営を基礎にした新しいセンターが誕生した。
 1990年代に入り、企業の国際競争力を高めるための政府の支援策は、労働法規の規制を緩和し、企業の自由度を高め、過長な労働時間を放任し、裁量労働時間制度、派遣労働の拡大、深夜勤務の比重の増大、解雇を前提とした出向や即時の解雇を放任している。企業は、これに支えられ苛酷なリストラ策を進めている。それらは、労働者の生活の自由を奪い、いのちと健康に大きな脅威を与えている。こうした緊急の事態は、このセンターの設立を促す重要な背景であった。センターの出現は、こうした政策や企業活動に断固として抗議し、働くもののいのちと健康を、政治や経営の基本にすることを求める運動の開始を意味する。
 こうした国際経済競争の嵐は、世界中に吹き荒れている。この嵐は、19世紀から20世紀にかけて世界の働くものが、苦闘の中で築きあげてきた働くものの人権を尊重する社会的諸制度や慣習を押し潰し、労働条件を切り下げ、社会保障を台なしにし、働くもののいのちと健康を危機的な状況に陥れようとしている。ILOの国際労働基準は、実質的になしくづしにされようとしている。この事態は、世界の労働者との連帯なしには解決の道が無いことを日本の労働者に教えている。日本の働くものは、センターの設立を通して、世界の仲間との連帯をより強く決意している。ILO労働者活動局、世界労連、国際労連、フランスCGT、インド労働組合センター、などからのセンター設立によせられた連帯のメッセージは、日本の労働者への強い激励である。

2.全国センターと地方・地域のセンターの協同

 このセンターは、全労連および中立の積極的な労働組合、地方の働くもののいのちと健康を守るセンター、労働災害・職業病対策組織、全日本民主医療機関連合などの諸組織、医学・法学・経済学・工学の専門家や、安全衛生の専門家、医師、弁護士などの個人によって構成されている。
 センター活動を指導する理事会は、職場の安全衛生や労働災害職業病の被災者の救済や予防の取り組みの経験を持つ38名で構成されている。彼らの所属は、新聞・出版、印刷、教育公務(国、地方自治体)、運輸、通信、放送、化学、金属、医療、建設、福祉、商業、自営業、農業などの産業の労働組合や組織、労働災害被災者組織民主医療機関連合弁護士組織、9つの地方センターなどである。(下線は常任理事である。)専門家の代表が、専門に応じて協同する方法が目下検討されている。参加組織・個人の顔ぶれ、理事会の構成のしかたは、明らかに、このセンターが、これまでの労働組合運動のスタイルを脱皮したユニークな活動を目指していることを示している。
 地方のセンターは、全国的なネットワークをもち、全国センターと協同して地方の活動を高める重要な役割りを果たす。地方センターの活動は、北端の北海道地方、南端の九州地方の大きなセンターと、太平洋沿岸、瀬戸内海沿岸の工業地域の主要な諸都市を中心にした県のセンターで行われている。いま、これらの諸都市の中に、地域的に細分化されたセンターを育てることが計画されている。日本の労働組合が企業単位に組織されている弱点を克服することは、いのちと健康を守る活動でも重要な課題である。そのために、全国センター、地方センターの強化とともに、地域センターをできるだけ数多く育てることが計画されている。

3.労働者、労働組合の運動とセンターの役割り

 日本の働くもののいのちと健康を守る運動にはいくつかの重要な課題がある。
 第1は、1963年の三池炭坑の大災害への国民的な抗議をきっかけにして法定された職場の労働安全衛生委員会活動の強化と全国的な協同活動である。この活動は、職場の労働者の一人一人の安全と衛生に関する創意を活かした草の根運動の構築である。この活動は、企業別、産業別の、労働の人間化を図るための労働協約の締結と、これを全労働者に普及させる労働安全衛生法の改訂を目標にしている。さしあたっての切実な共同の課題は、残業及び夜勤の規制である。ILO国際労働基準を受け入れる国内法の整備と批准の促進も、これに関連する重要な目標である。
 第2は、労災・職業病の被災者の補償のための行政審査の請求と、申請を却下された場合の裁判による企業や国の責任の追求である。労災・職業病の認定基準やその運用は、労働者に極めて不利である。弁護士、医師、労働組合が協同する全国的な過労死110番には、こうした事例の相談が数多く寄せられている。全国、地方のセンターの活動は、過労死、過労自殺や、他の多くの業務上疾病の認定を求める行政審査請求や裁判提訴の活発化に役立っている。被災者支援のこうした活動によって、労働安全衛生の多くの活動家が育っていることに注目する必要がある。
 第3は、課題別の広い国民的な共同である。過重な深夜勤務に悩まされる病院看護婦の深夜勤務の規制要求は、国民医療の充実を求める広範な市民的要求に支えられ、看護婦確保法が生まれた。過重な教育負担の過労による病死やうつ病に悩まされる教師の労働安全衛生活動は、社会的なストレスの重圧を受け、学校生活のうえでも異常な精神状態に陥れされている子供達を守ろうとする親たちとの協同を生みつつある。退職した高齢労働者の医療と介護保険制度の充実を求める地域的な活動は、地域の中年労働者の広範な関心を高め、協同が生まれつつある。ダイオキシン汚染被害は、自治体労働者と住民の協同を生んでいる。こうした協同が、労働者と市民の連帯の自覚を強めていることは、極めて大きな意義がある。
 第4は、地域での協同である。未組織の労働者は、中・小規模企業に集中し、労働力人口の75%以上を占めている。かれらの災害や病気は深刻であり、そのための障害や病弱による解雇さえも数多い。また地域住民の生活を支えてきた自営業者は、大規模店舗の無軌道な進出のための営業破綻に追い込まれ、病気や自殺が増加している。いずれの場合も、地域の労働者、自営業者の協同による企業や自治体や政府への働き掛けが、解決への力を育てる重要な出発点である。

 こうした諸活動の発展のために、全国・地方のセンターの役割りは極めて大きい。
 第一の役割りは、労働と健康に関する実態や分析の情報、労働者の取り組みの情報、安全衛生に関する政府、企業の動向の情報などの提供である。全国センターは、設立後の半年の間に、月刊ニュースが6回、季刊雑誌が2回発行された。地方センターでも同様な情報活動がなされている。
 第二の役割りは、教育活動の普及と活動家の養成である。6月には、東日本地域、西日本地域で、労働安全衛生の学習セミナーが開催された。地方での講座も活発である。
 第三の役割りは、労働安全衛生活動および労災被害者の救済活動の経験交流の企画である。地方では、それぞれの地方の独自の課題の取り組みが、頻繁に行われている。10月には、全国的な交流集会が開催され、職場別や産業別の交流、地方・地域センターの交流が企画されている。
 第四の役割は、情勢の分析や活動の方針を理論面で掘り下げ、運動の課題、社会への問題提起、政策提言に発展させることである。専門家との協同研究が重要である。いま、労働安全衛生に関しては、夜勤・交替労働研究会、国際労働安全衛生研究会が組織された。労災・職業病に関しては、過労死問題研究会、労災・職業病の行政審査や裁判の事例研究会が発足した。これらの研究会は、社会的に公開されている。これから、労働と健康の実態を分析し解決問題を提起すること、労働の人間化を目指す労働安全衛生システムや労働安全衛生法規を改訂すること、職業病予防と救済のシステムを充実させること、国民的な協同の課題を提起すること、ILO条約・勧告を中心とした国際的な労働基準の確立をすすめることなど、多くの研究活動が必要である。
 第五の役割りは、研究、調査や実践活動を豊かにするために、ひろい分野の専門家との協同の仕方を多様に企画することである。
 第六の役割りは、社会への発言、政策的提言などである。労働行政の在り方への提言、労働基準行政や労災補償行政の審議会への参加要求などの交渉が開始されている。

4.国際的な連帯への期待

 働くもののいのちと健康を守る運動の国際的な交流と連帯は、センターの重要な計画の一つである。センター設立に寄せられたILO労働者活動局のメッセージは、我々のセンターが、日本のみならず、発展途上国の労働者の運動と連帯することを期待している。フランスCGTからは、労災・職業病の被災者の救済と予防、労働安全衛生活動での協同が提案されている。
 今日の国際経済競争がもたらす厳しいリストラ合理化が、全世界を覆い、ILO条約・勧告に示されている国際労働基準の実現を多くの国で困難にしている。発展途上国の労働者のいのちと健康への影響は深刻である。こうした時代こそ、世界の労働者の相互の交流と協力が必要であり、連帯した活動が計画されねばならない。全国センターは、まず隣国の韓国源進職業病財団との交流を開始した。提案されているフランスCGTをはじめ広く世界の国々の労働者組織との交流を企画していく予定である。多くの国々からの情報を寄せられることを期待する。21世紀を働くものの世紀にするための連帯を!

(やまだ しんや 労働総研理事、名古屋大学名誉教授、いのちと健康全国センター理事長)



会員からの寄贈研究報告書

相沢与一訳「福祉国家の終焉か?」
 The End of the Welfare State?
 by Martin Powell and Martin Hewitt,
 Social Policy and Administration Vol.32,No.1,
 March 1998:pp.1−13
 (「長野大学紀要」第21巻第1号・通巻第78号抜刷・99年6月)
相沢与一訳・Richard POTHSTEIN著「合衆国における労働組合の強さ・UPSストライキの諸教訓−現代アメリカ大企業のパートタイム雇用および職域企業年金問題への一接近として捧−」(札幌大学経営学部付属産業経営研究所「産研論集No.21抜刷・99年3月」)
儀我壮一郎著「21世紀における多国籍製薬企業」(経営情報学部【浜松大学】第12巻、第1号、1999年6月)



 10月の研究活動

10月2日  不安定就業と雇用・企業問題研究部会=報告・討論/「今日の大企業におけるリストラ問題について」他
4日  賃金・最賃問題研究部会=報告・討論/「21世紀へ向けて国民春闘再構築の方向」
7日  労働時間問題研究部会=報告・討論/「ワークシェアリング研究の中間整理」
9日  地域政策研究プロジェクト=報告・討論/「地域政策プロジェクト研究のあり方と今後の課題」
19日  女性労働研究部会=報告・討論/「フランスの労働時間研究の動向」
22日  青年問題研究部会=報告・討論/「高校生の就職状態」
23日  政治経済動向研究部会=報告・討論/「国際会計基準について」「『春闘白書』総論について」「研究計画について」
29日  国際労働研究部会=報告・討論/「世界労働者のたたかい2000年版」発行準備のための各メンバーからの情報交流



寄贈・入手図書資料コーナー

  • 中本悟著「現代アメリカの通商政策」(有斐閣・99年10月)
  • 日本婦人団体連合会編「婦人白書1999−今、女性の人権は 女性差別撤廃条約20周年」(ほるぷ出版・99年8月)
  • 全労働運動史編纂委員会編集「全労働運動史第2巻」(全労働省労働組合・99年9月)
  • 全損保東海支部分裂・再建30年の記録刊行委員会編集「怒って笑って胸はって−東海支部分裂・再建30年の記録」(全日本損害保険労働組合・東京海上支部・99年9月)
  • 東京中郵部労組結成にいたる記録集編集委員会「原点・東京中央郵便局労働組合結成にいたる記録集」(郵政産業労働組合東京中郵部支部・99年10月)
  • 民放労連テレビ新潟労働組合編集・発行「報道部デスク小林剛さん過労死から労災認定350日の記録」(99年8月)



 10月の事務局白誌

10月7日 2000春闘白書編集会議(牧野、辻岡、大木、金田、西村、草島、宇和川)
8日 99年度第1回拡大企画委員会
   99年度第1回企画委員会
12日 自交総連第22回定期大会へメッセージ
16日 労働総研クォータリー編集会議
21日 99年度社会・労働関係資料センター連絡協議会総会(宇和川)
31〜11月1日 「失業・リストラ『合理化』」反対・雇用確保全国交流集会」(草島)