1999年10月1日(通巻115号)

目   次
巻頭言

 日本労働運動の新たな発展………………佐々木昭三

論 文

 苦悩するベトナム経済……………………小林 由知
 ─その成果と問題点─


日本労働運動の新たな発展

佐々木 昭三

 全労連大会を3日間傍聴参加し、日本のナショナルセンターの視点からの積極的で感動的な提案、論議を聞かせてもらった。賃金闘争の今後の展開、緊急3課題(雇用・反失業闘争、介護・年金などの社会保障闘争、戦争法防止・憲法擁護)や一致する要求・政策での大きな共同の方向、政治・経済・社会の民主的変革へのたたかいなど、この1年の全労連運動の実践に裏づけされた力強いものだった。
 この大会やいのちと健康全国センターの活動にも関わっての私の実感は、21世紀を前にして日本の労働運動は新たな発展段階に入ったことである。それは、全労連を中心とするまともなたたかう労働組合運動が、日本の労働運動のなかでイニシアチブを発揮し、ナショナルセンターのワクを超えて一致する要求・政策にもとづく共同の広がりをつくりだし、その流れを本流とする時代にしつつある。
 労働法制改悪反対「働く(ワーク)ルール」の確立をめざすナショナルセンターの事実上の共同、「戦争法」阻止の陸・海・空・港湾20の日本を代表する労働組合の共同とその継続と広がり、「盗聴法」廃案に向けたすべての労働組合の共同とその運動によるすべての野党共同の実現などが劇的にすすんでいる。
 私のこの間の講師活動の経験も、地方で参加者の半数は連合、半数は全労連の組合員の共同した国民春闘大学習会、地域で連合と地域労連がどの要求・課題で共同できるかを追求した地域春闘学習討論集会や連合系労組での学習会では「要求の正当性、労働組合の基本的あり方」を柱にとの要請内容、また、連合の中心労組の役員が高揚している国際的な労働運動や全労連運動の発展と革新政党日本共産党の前進をふまえて対応ができるメンバーが増えつつあることなどである。
 このような転機にたつ日本の労働運動の新たな発展にとって、今後いっそう重要となる調査・研究・政策活動など労働総研への期待と役割は大きなものがある。

(会員・いのちと健康全国センター常任理事)



苦悩するベトナム経済
―その成果と問題点―

小林由知

はじめに

 ベトナムのドイモイ(刷新)政策は外資導入による高度成長と同義語と受け取られるに至ったが、1997年の東南アジア地域の金融危機の影響で、外国直接投資は激減し、ベトナム経済の高度成長は終わりを告げた。ASEAN経済の回復の兆しが話題になっているが、ベトナム経済は深刻な不況下にある。その回復にはさらに1〜2年を必要としているようだ。ベトナム政府は事態に押されて、調整過程で国営企業のリストラと大量解雇という苦痛に満ちた選択を強いられ、そのうえで安定成長を模索せざるをえなくなっている。

1 コメの輸出大国ベトナムの栄光

 ニュージーランドのオークランドで9月9〜10日に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)でベトナムのファン・バン・カイ首相の発言が注目された。APECのアジア太平洋地域食糧安全保障ネットワークの設立にベトナムが積極的役割を果たすと表明したからだ。ベトナムは国際食糧備蓄能力をすでにもっている。90年代はじめに、世界のコメ市場でタイ、米国とともにベトナムは3大輸出国に躍り出たが、農業発展がこの首相発言の背景にあった。
 ベトナムは昨年11月にもハノイで、ASEAN諸国、国連開発計画(UNDP)、国連食糧農業機関(FAO)と「ベトナム・ASEAN食糧安保フォーラム」を開いた実績がある。
 ベトナムは1988〜98年の10年間に農業生産の年平均伸び率4.3%を実現、人口増加率の2倍のテンポで農業を発展させてきた。この点について、FAOも高く評価した。ことしの1人当たりの食糧生産(もみ換算)が400キロを超えることが確実で、1991年の324.9キロの1.2倍となる。
 ベトナムはこれまで、コメについては相当の輸出余力をもっていたが、政府は自国の食糧安保を重視し、300万トン以上の輸出を認めなかった。しかし、97年350万トンをへて、98年には384万トンと史上最高の輸出を記録した。ことしの輸出計画では前年比12%増の430万トンという野心的な目標を掲げ、最低10億ドルの外貨獲得が予想されている。
 しかし、コメ輸出価格はトン当たり平均227ドルにとどまっている。これは1995年以来の最低水準であり、前年の平均輸出価格に対しトン当たり35ドル落ち込んでいる。細米含有5%ものでトン当たり平均217〜222ドル、同10%もの227〜230ドル、同15%もの217〜222ドル、同25%もの211〜213ドルとなっている。ベトナムの主力銘柄はこの25%ものだ。国際市場のコメ需要は1999年2,210万トン、2000年2,240万トンの見通しだが、輸出価格は今後も下落するものと見込まれる。

2 解決困難な農村の貧困

 記録的な干ばつによる影響でもあるが、ことし3月、首都ハノイ南西60キロのホアビン省で、住民777,400人のうち、23%に当たる181,530人が飢餓に襲われた。村落単位だと省内の70%が飢餓の影響下にあった。水不足のため耕地の29%しか田植えができなかった。これは農民の離村と放浪を意味した。

ASEANの経済指標
GDP成長率%1人あたりGDP国内総貯蓄のGDP比%
96年97年98年99年2000年米ドル97年97年98年
カンボジア7.02.00.04.06.03004.310.8
インドネシア7.84.9-13.70.02.01,10031.026.2
ラオス6.96.94.0......400......
マレーシア8.67.7-6.20.72.74,53043.948.0
ミャンマー6.45.75.00.34.0...10.412.1
フィリピン5.85.2-0.52.44.01,20014.312.2
タ イ5.50.4-8.00.02.52,74032.936.0
ベトナム9.38.24.03.74.531020.121.4
出所:@アジア開発銀行年次報告1998(日本版)。
Aベトナムは97年のGDP伸び率を9%と公表したが、専門家から7%台とする反論が出た。アジア開銀は8.2%とした。
Bアジア開銀はベトナムの98%GDP伸び率を当初5.8%としたが、99年4月19日発表で4.0%とした。
C1999年と2000年の予測値はアジア開銀の99年4月19日発表資料(英文)。

ASEAN諸国の貧困と教育
貧困人口%就学・小学校就学・中学校
85年98年85年98年85年98年
  
カンボジア301061301831
インドネシア173911412011311741504149
ラオス461001219212319271931
マレーシア1610100101939353536458
ミャンマー9610110811222242323
フィリピン493810710811611765648378
タ イ181397100979828303738
ベトナム511001064144
出所:アジア開発銀行年次報告1998(日本版)


 農業農村発展省によると、現在ベトナムの総人口7,632万人のうち、8割を占める農民層の中の貧困層は2,500万人とされる。(世界銀行やアジア開銀は総人口の半分が貧困としている。一方、国際労働機関ILOはベトナムの貧困人口を総人口の24.5%としている。)今後の予測として、地方農村で1,300万人が村落を捨てる可能性があるという。
 ことし4月に労働・傷病軍人・社会問題省が公表したデータによると、国が定めた貧困ラインは月額世帯所得が農村で5万ドン以下、都市で7万ドン以下の層である。2.75万ドン以下が「飢餓世帯」とされる。
 貧困による、農村からの人口流出はドイモイ政策の早い時期から始まった。1985年の価格・賃金・通貨改革の失敗による年率800%というハイパーインフレで1987年にはハノイでも周辺農村から子どもたちが浮浪してハノイに流れ込んでいた。1990年代後半には、中部山岳地帯から農民がホーチミン市に浮浪者となって流入しただけでなく、穀倉地帯のメコンデルタでも市場経済による貧富の格差で土地を失う農民が社会問題となって、今日に至っている。政府の推定値では、都市への年間の流入は首都ハノイで2万人、ホーチミン市で6万人とされている。
 政府は、国連の支援を受けて、2000年末までに貧困率を現在の17.7%から10%に引き下げる開発プログラムを実施している。もっとも、5月の国会では、貧困率が17.7%まで下がったとする政府報告に対し、疑問視する見解が議員の中から出ていた。

3 所得倍増計画は手の届く水準に

 1996年5月のベトナム共産党第8回大会は、1人当たりGDPについて、1990年水準に対し、2000年までに倍増、2010年までに8〜10倍を目標として掲げた。1999年初の計画投資省資料によると、2000年末の倍増は可能と予測している。アジア開銀のGDP伸び率(予測)の1999年3.7%と2000年4.5%、およびベトナム側の1999年と2000年の予測人口増加率1.9%をファクターとして計算すると190.4となり、ほぼ倍増を確認できる。
 しかし、これは公務員・国営労働者の賃金の改善には直結しない。80年代後半のハイパーインフレの影響で実質賃金が激減し、91年、92年に入ってもインフレ率はそれぞれ83.1%、37.6%ときわめて高い水準にあったからだ。
 政府はインフレが終息したとされる93年当時、公務員の月額賃金を12万ドンから15万ドンに20%引き上げるとしたが、実施は97年に延ばされた。93年末を起点とする物価が30%を超えたことから、実質賃金の低下は回復しなかった。
 ベトナム共産党第7回中央委員会総会(ことし8月9〜16日)は、賃金・雇用制度改革を発表した。これによると、2001年までの2年間に現行給与を約1.5倍に引き上げるとしている。93年を基準とする物価は2001年末の推定で1.59〜1.65倍となると見られることから、この改革による調整が93年当時の実質賃金を回復するのかどうか微妙である。
 一方、1人当たりGDPの伸び以外に、基礎的な社会政策上の弱点がベトナムに見られる。ベトナムは、貧困世帯が31%のフィリピンに対し、51%と落差が大きい。就学率についても、この両国は小学校ではほぼ同水準だが、中学校についてはベトナムが劣り、熟練労働者の育成の基礎条件が低位にあることをうかがわせる。特に、職業訓練を受けた労働者の比率がASEAN諸国で50%前後に位置しているのに対し、ベトナムは18%に低迷している。

ベトナムのGNP成長率と指数
1991〜1995年単純年平均 8.2%(実績)
1996〜2000年   同上 6.0%(予測)
1990年(=100)1995年 148.3  2000年 198.5
出所:@GNP伸び率は実績、予測とも計画投資省資料による。
   A指数は同資料により筆者作成。


4 外資依存か自力更正か

 ベトナムの近年の経済成長は外国直接投資の導入を刺激剤として促進された。1998年末の外国直接投資はプロジェクト1,760件、登録資本額312億ドル(実行ベース40%)となっている。また、ODA資金債務は98年末で130億ドル(実行ベース57%)となっている。しかし、アジア金融危機によって、その後の外国直接投資の導入が激減、経済成長の刺激が失われ、99年前半期のGDP伸び率は4.3%にとどまった。
 外国直接投資の足取りを見ると、1996年の87億ドルをピークに、97年55億ドル、98年38.5億ドルと急減しており、99年前半では8.3億ドルと前年同期比42%減となった。このことから、99年の通年予測値35〜39億ドルの実現は危ぶまれている。
 政府は外国資本の導入によって、輸出能力の拡大による外貨獲得を追求したが、国民1人当たりの輸出能力はASEAN諸国と比較して成功したとはいえない。1998年の1人当たりの輸出額はベトナムで119ドルだったが、同じようなファンダメンタルズのインドネシアが252.2ドル、フィリピンが285.9ドル、タイが928.7ドルだった。マレーシアの3.687ドルには遠く及ばない。
 資金調達の代替策として、政府は、1990年代初期から国営企業の株式化と証券市場の創設による自己調達を掲げたが、1999年初になっても実現しなかった。
 証券市場の創設に待つまでもなく、国内貯蓄の動員が経済成長の成否のカギを握るとされるが、国内貯蓄は芳しいものではなく、外国直接投資の激減によって、この欠陥が目立ってきた。このことから、ベトナムは自力更正を主とし、外国資本を従とする、主体的意欲に欠けるのではないかという深刻な疑問が出ている。
 ベトナムの国内貯蓄の対GDP比は1996年の17.2%、97年の20.1%、98年の21.4%と増えてはいるが、1998年のマレーシアの48.0%、タイの36%、インドネシアの26.2%に及ばない。
 同じ経済体制の下にある中国と比較すると興味深い。中国の97年の国内貯蓄の対GDP比は40.1%で、1,467億ドルの対外債務と、1,434億ドルの対外準備はほぼ均衡し、したがって対外純債務は差し引きゼロに近い。対GDP比は限りなくゼロに近づく。一方、ベトナムは国内貯蓄率が20.1%で、対外準備は21億ドル、対外純債務残高216億ドルは多すぎ、GDP245億ドルの79.6%という高い水準にある。これは財政政策としては不健全であり、選択肢が当をえなければ、今後きわめて危険な状況を迎えかねないことを意味している。

5 リストラをめぐる世銀とベトナムの対立

 世界銀行主催のベトナム支援国会合(中間会合)がことし6月15日にハイフォンで開かれた。席上、世銀と支援国がベトナムの経済改革の遅れを非難した。IMF・世界銀行とベトナムの関係修復(1993年)以来、世銀はベトナムのドイモイ政策と構造調整策を高く評価するとともに、国営企業の株式化と民営化を求めていた。しかし、国営企業改革が期待ほど進んでいないことから、銀行経営と絡めて、初めてベトナム政府批判を行った。これに対して、ベトナム政府は、安定を第一とする穏歩前進の改革が必要なのだと反論した。
 ベトナムは国営企業経営では難問をかかえている。経済が右上がりの時期に、特に1995〜96年に国営企業は好調だったことから、株式化は必ずしも進まなかった。しかし、東南アジア地域の金融危機の影響で、国営企業の構造的弱点が露呈し始めた。また、国立、民間両銀行に見られるベトナム特有のファンダメンタルズの欠陥が問題化している。
 国営企業はベトナムのGDPの40%を占めている。その国営企業の70%は赤字経営に陥っていると報告されている。国立銀行の貸出の63%が国営企業向けだが、貸出額の75%が不良債権化している。国家財政からの補助金による経営方式はドイモイ政策のなかで中止され、担保による融資に代わったが、土地、建物、設備などの担保物件の競売は事実上不可能で、換金できないことから、補助金に代わる国の制度融資として今日に至っている。これが不良債権の累積となって現れた。
 世界銀行や支援国は、国が保証しているとはいえ、銀行が国営企業に資金供給し続けることはもはや不可能であり、資金供与国でも実施している自由化とリストラをベトナムも実施すべきだと主張した。また、民間銀行51行のうち、21行がすでに経営破綻し、あるいはその可能性があることに世界銀行は危機感をもっている。
 一方、ベトナム政府は穏歩前進策をとるとしているが、その内容はかなり厳しいリストラを指向している。政府は国営企業の従業員170万人のうち、当面3万人の解雇を検討している。かつてベトナム政府は1989年に70万人を解雇したことがある。電力、建設、石炭、鉄鋼、肥料、セメント、観光部門を中心に、国営企業の現職の半分が過剰労働力と見なされている。石炭部門は、現在の従業員52,000人について、適正人員を14,000人とし、賃金も現行水準の50%削減を掲げている。政府は、国家セクターからの労働力の分離を打ち出している。しかし、民間部門も深刻な状況にあり、都市の失業者はことし6月には10%に達したと報じられた。

おわりに

 ベトナムの1998年のインフレ率は9.1%で、99年1〜3月も前年同月比で9%前後だった。ところが4〜9月はそれぞれ4.5%、3%、1.5%と急速に下落、デフレ状態に入ったといわれている。経済全体に見られる消費不振が現実のものとなっている。このことからベトナムのGNP成長率は99年3.7%というアジア開銀予測を下回る可能性が出てきた。ベトナム政府は安定成長に向けた現実的政策への転換を迫られている。

(こばやし・よしとも=会員、ジャーナリスト)


9月の研究活動

9月6日 労働時間問題研究部会=報告・討論/大須賀哲夫・下山房雄共著「労働時間短縮─その構造と理論」(御茶の水書房)について及び「ワークシェアリングについて『労問研報告』を分析する」
6日 賃金・最賃問題研究部会=報告・討論/「総額人件費と社会保障」
8日 青年問題研究部会=報告・討論/「青年の失業問題」
11日 地域政策研究プロジェクト=報告・討論/「大型店舗立地法など3法の内容と問題点」
17日 社会保障研究部会=報告・討論/「病院における職員の労働実態と医療事故」及び「当研究会の中間まとめの検討」(継続)
国際労働研究部会=報告・討論/全労連から当面の国際活動報告及び年度年報(2000年版)について検討
18日 政治経済動向研究部会=報告・討論/「今日における政治経済動向について」
25日 日本的労使関係プロジェクト=報告・討論/「グローバリゼーション下の日本的労使関係(仮題)」出版について検討
27日 中小企業問題研究部会=報告・討論/「中小企業政策審議会の中間答申について」
28日 女性労働研究部会=報告・討論/「労働白書」及び「経済白書」について(いずれも平成11年版)

99年度定例総会での発言要旨(下)

 去る7月30日に開催された労働運動総合研究所の99年度定例総会での事業計画にかかわる発言(要旨)を9月号と本10月号に2回にわたり掲載します。
小島 宏・年金者組合(団体会員)
 1、介護保険料の年金からの天引きを国民の合意を得ないままに実施することは、納得が行かない。財産権の侵害ではないか。
 2、15,000円の年金受給者から徴収することは、「生存権」の保障を否定するものではないか。
低い年金から「国民健康保険料」を徴収され、医療費の自己負担は年々ふえ、そのうえ追い打ちをかけるように消費税が増税され、年金生活者、低所得者の生活はますます苦しくなる一方である。年金は生活を保障するもので、生活を困難にする税金、保険料、使用料など自己負担を徴収することは、「生きる権利」の侵害として争うことはできないか。検討願います。
 3、高齢者団体が毎年自治体に対して、年金・医療・介護・福祉など「高齢期要求実現キャラバン行動」を展開している。とくに、年金制度の改善にはほとんどの自治体が賛意わしめしている。「米の売上より年金収入のほうが多く、年金が悪くなればまちの経済が冷え込んでしまう」と全国3,300のうち1,200をこえる市町村が政府に年金改善の意見書を提出し、政府、国会に大きな影響をあたえている。
 地方経済と社会保障について、解明をしていただき、自治体との共同の運動を一層前進させたいと願っている。
角瀬保雄会員
 労働総研の21世紀に向けた研究課題を検討するにあたって提起したいのは、コーポレート・ガバナンスの問題にどう取り組むのかということである。労働者の職場である企業を民主的なものへと改革していくにあたって、労働総研がこれまで取り組んできた民主的規制の重要性はいうまでもないところであるが、同時に企業の内部から、企業の構造と機能に則して企業改革の問題を考えていくことが求められてくるのではないかと思うのである。とくに今日の段階における改革が「資本主義の枠内での民主的改革」といわれるとき、資本主義が作り出し、またその矛盾を激化させている企業というものの改革のイニシャチブを労働運動がどうとることができるかとうことは、将来を展望したとき、きわめて重要となるのではないかと思われるからである。
儀我壮一郎会員
〈父さんは 解雇じゃないの リストラよ〉(小田急の車中広告で見た川柳)
 1、会計基準の「グローバル・スタンダード」化は大問題を含む。確定拠出型企業年金・年金・退職金制度及び介護保険・医療保障制度問題も重視が必要。
 2、インターネット全体を米国政府・国防総省などが監視・掌握しようとしている。盗聴法などはこの面からも要警戒。
 3、ビル・ゲイツやジョージ・ソロスをはじめ米国のもうけ頭はスピードを重視。足をすくわれない構えが大切。
 4、マクロの時空のなかに、ミクロを位置づけ、ミクロの世界でマクロの総体を把握する「曼荼羅」(まんだら)的思考は、21世紀にも参照に値する。
 5、理論、政策(実践)、歴史のうち、労働運動の歴史的研究がやや手薄であったが、研究所創立10年の諸変化が、あまりにも大きくかつ加速度的であったので、やむをえない面もある。
 6、持ち株会社も含めてコーポレート・カバナンス重視などの新しい動向に迅速な対応が必要である。経営学・会計学、金融論などの領域での批判的研究の強化を望みたい。労働総研が、重厚長大偏重の経団連と同じような弱点をもたぬように。
〈99年3月の中国華南経済圏視察の印象〉
 1、香港の日系百貨店は、草分けの大丸はじめ総撤退に近く、残るはそごうのみ。日系の銀行・保険・証券各社も大幅な「リストラ」の嵐。建設業も同じ。
 2、訪問した日系製造企業では、若年女子労働者が目立った。たとえば、四川省出身で「22歳定年」までに故郷に送金し家を建てる。故郷では別の少女が順番待ち。視力3.0以上の「乙女」を選りすぐって、精密連続作業の「乙女ーション」を実現した例や座高まで統一した例もある。中国全体の「人治」から「法治」への過渡期にありがちな諸困難も軽視できない。
春山 明会員
 日本のインターネット人口は1,700万人といわれ、廉価で操作簡単な情報メディア機器が急速に市場を拡大している。ネットバンキングや電子商取引の市場拡大には拍車がかかり、また、大規模な不動産証券化が動きだしている。「無料PC」100万台配布広告や、全小中学校に10年間無料「PC」を贈る先行投資構想も報道されている。タイの小学生が投資リスクを学ぶテレビも放映された。日本の個人資産1,200兆円に一つ焦点がある。そういう環境醸成メディアのもとで、「401k」年金導入政策がある。
 ネットの普及と共に、情報セキュリティ問題は盗聴法がらみで国会でも取り上げられた。「表現・言論・通信の自由」侵害も生じている。今、1日300万件のメール交換があるといわれるが、発信者の知らない情報チェックは、すでに行われている。過日、ネットで発信した「失業者の合法的な結集と活動を」の呼びかけが、プロバイダーに一方的に「不適切だから」と削除された。不法不当な内容チェックがあったと思う。問題ではないか。
犬丸義一会員
 労働運動史研究をどう位置づけるのか。労働組合運動100年の論文が出ていない。「労働運動史研究会」は休会となっている。こういう分野が低調になっていることをどう考えればいいのか。戦後の活動家が亡くなっていく。貴重な資料が消えていく。このことについて考えてほしい。



99年度第1回常任理事会報告

 99年度第1回常任理事会は、9月2日、東京で開催。内容は次のとおり。
1.報告
 「労働運動をめぐる情勢の特徴と全労連第18回大会」について、熊谷金道常任理事(全労連副議長)から報告を受け、意見交換を行った。
2.加入・退会申請の件
 個人会員の入会、退会を承認した。
3.99年度定例総会の総括と本年度事業計画の重点の件
 @.設立10周年の事業活動を総括し、今後10年の情勢の展望と今後の研究活動の方向と課題に明らかにすること。
 A.会員の拡大をはかること。
 B.労働情勢の変化に即応しうる全労連との常設的連携体制の確立をはかること。
 C.次期役員の選出作業を迅速にすすめること。
 D.事務局体制の強化をはかること
 以上について申し合わせた。
4.機関紙誌編集委員の補充・強化の件
 創立以降、「労働総研クォータリー」編集責任者として協力をしていただいた故加藤佑治常任理事の補充と強化のために、相沢与一常任理事、藤吉信博会員を選任した。
5.その他(略)



寄贈・入手図書資料コーナー




9月の事務局日誌

9月2日 99年度第1回常任理事会(別頂参照)
  7日 全法務省労働組合第54回定期全国大会へメッセージ
 建設交通一般労働組合結成記念レセプション(黒川代表理事、草島)
  17日 2000春闘白書編集委員会(牧野、辻岡、金田、草島、宇和川)
  19日 東京靴工組合第40回定期大会へメッセージ
 生協労連第32回定期大会へメッセージ
  20日 全運輸第38回定期大会へメッセージ



たたかいの砦「全労連会館」建設募金へ
の協力の御願い

 個人会員のみなさまへ

1999年10月1日 
労働運動総合研究所常任理事会 

 労働総研は本年12月11日に結成10周年を迎えますが、ほぼ同時に結成された全労連も本年11月21日に結成10周年を迎えます。
 21世紀を目前に、いま、日本の労働運動は転機を迎え、全労連は労働運動の新たな発展の拠点となりつつあります。全労連は、結成10周年記念事業として全組合員参加によるたたかいの砦「全労連会館」建設に取り組み、2000年暮には完成予定です(東京都文京区湯島・JR御茶ノ水駅徒歩7分)。
 現在入居している「平和と労働会館」(東京都港区新橋)が、築30年余を経過して耐震上の欠陥や老朽化で安全確保のため建て替えが急務であること、また、階級的ナショナルセンターであった「産別会議」の財産を継承した現会館の建て替えに全労連が積極的に参加して国内外の労働運動・平和運動の全国センターをつくりあげること、を会館建設の目的にしています。建設費はおおむね10億円で、全労連が分担する建設費は8億円です。
 労働総研の本年度定例総会でも、個人会員の建設募金への協力の提案があり、それを受け、労働総研の本年度第1回常任理事会において建設募金を個人会員に呼びかけることを申し合わせました。出費のかさむ今日このごろでありますが、全労連とのきずなをつよめるという立場から、募金に協力いただければ幸いです。

   @募金=任意
   A締切=明年3月31日
   B送金方法=東京労金/新橋支店・(普)3990700/全労連
         振込の場合は、お名前の前に「ソウケン」と記入して下さい。