1999年9月1日(通巻114号)

目   次
巻頭言

 懸念と問いかけ……………………………吉井清文

論 文

 韓国の労働問題研究所の活動状況………芹沢寿良

99年度定例総会での発言(上)ほか

懸念と問いかけ

吉井清文

 1、労働組合とは、そこに自立した人々がいるということが前提になって、はじめてなりたつことなのであって、自立そのものを阻まれた存在を前にするときには、あらたな対応や論立てやみとおしを求められるのではないか、そこがはっきりされないままでの模索が、今日の組織問題になっているのではないか。
 2、人間は社会としての存在である、この原点をくずされて成育したままで、数年、10数年を経過すると、人々の競争と分散の発想が思想として定着してしまい、ついには一国の労働組合運動が例外的な存在にされてしまうようなところへ結果することになるのではないか。これは危惧にすぎないか。
 3、それともこの国の労働組合が、戦後にゼロから出発してわずか数年で、55パーセントの組織率にまで飛躍し、それが世界史に刻印された(ウイリアム・フォスター「世界労働組合運動史」下巻)、そういう飛躍が、ことと次第によって必ずおきる、そのときこそ全労連のいぎが明らかになると確信してよいか。目下進行中の組織拡大の成果を、その予兆とみてよいか。
 4、それとも、自立を阻まれたままの人々には、そういうふうにして社会と政治をうごかすのとは別のうごかし方をすることになるのだ、それは全戸配布やメディアに反撃する投票行動なのだ。政治をかえて職場をかえるという「方向」は、この国では、そういう独自の意味をもってくるのだ、そう考えるのは不当だろうか。
 5、理論が人々をつかめば、物理的な力になるということは、絶対の法則なのであって、政治活動と学習、教育の意義は不動のものであり、政治革新も絶対のことである。
 6、以上にたって、労働組合論の再構築を考えてみてはどうだろうか。人は社会のために生きるのが本質であり、そのことでこそ個人が輝くのだ、この理論=史的唯物論のこの側面が青年、中年(元青年)に提示されたうえでの労働組合論、団結論を書いてみたいと思っているのだが。それともこういうのは一つの動揺だろうか。(1999・7・26)

(会員・関西勤労者教育協会会長)


韓国の労働問題研究所の活動状況

芹沢寿良

 私は、1998年4月に、「協同労働」をめぐる諸問題を理論、政策、運動の面から国内外の動向を踏まえて研究活動を続けている協同総合研究所関係の方々と「韓国労働者協同組合を訪ねる旅」に参加した。その際に韓国労働運動の活動家集団のリーダーから当時ナショナルセンターとしての法的地位を獲得し、闘う韓国労働組合運動の中心として国際的にも特に注目を集めていた全国民主労働組合総連盟(民主労総)の成立経過と運動状況を学び、また民主労総傘下の現代自動車労組に対する「整理解雇」への抗議のためソウル市内で座込む組合幹部、組合員と交流して韓国労働組合運動の現状認識を深めた。
 今回は、一年ぶりに、私と昨年行動を共にした協同総合研究所の坂林哲雄氏、それに韓国から法政大学大原社会問題研究所へ客員研究員として高齢者福祉問題の日韓比較研究で留学中の牟 智煥氏と3名で韓国を訪問し、4月のはじめから8日間滞在して予め申し入れてアポイントをとった韓国の研究機関の労働・社会問題の研究者や大学教員、現代自動車労組の幹部や失業・雇用問題に取り組んでいる活動家の方々と交流した。私達の目的は、韓国の幾つかの労働問題研究所の活動状況、1998年5月からの現代自動車労組の「整理解雇」反対闘争について、終結以降の韓国労働組合運動の動向や組合運動内部、あるいは研究機関において、その評価をめぐりどのようなことが論議されているのかを学び、失業に反対し、雇用を守る運動の現状、韓国労働組合運動の今後の発展、前進のための課題や運動方向について広く意見交換を行なうということであった。私が、このような目的のために、労働組合のナショナルセンターレベルではなく、労働問題の研究機関や労働組合の下部、ローカルの組織を調査、交流対象にしたのは、闘いの周辺で活動する研究機関の方が全体状況を客観的に、全体的に把握し、職場状況を踏まえて比較的冷静に分析しているのではないか、今日の韓国労働組合運動の問題点を知る上では、研究機関や下部、ローカルの組合幹部、活動家の見方に示唆に富むものが多いのではないかと考えたからであった。
 私が関わっている金属労働研究所の機関誌『金属労働研究』第33号、第34号、第35号で現代自動車労組の「整理解雇」反対闘争の過程をとりあげ、第39号の「韓国労働組合運動の状況(4)現代自動車労組の整理解雇反対闘争終結後の状況」では、今回の訪問による各研究所関係の最近の労働組合運動に関わる問題に対する見方をより詳細に紹介しているので、それらも参照していただきたい。
 なお、交流した大学教授と研究者は、韓神大学校、中央僧伽大学校、成均館大学校の3名の労・政治問題研究者と大宇自動車研究所研究員、運動家は民主労総現代自動車労組事務局長、大宇自動車労組協議会政治政策局長、ナヌメジップ(分かち合いの家)運動のリーダー(神父)の方々であった。本稿では、この方々と韓国協同組合研究所については、紙数の関係で割愛せざるを得ない。
 以下、訪問順に主な5つの労働問題の研究所の活動内容を中心に報告する。

@韓国労働研究院労働動向分析室

 Korea Labor Institute(韓国労働研究院)は、韓国の民主化宣言以後の1988年5月、韓国における広範な労働問題の調査と政策研究を目的として政府系の調査研究機関として設立されたものである。わが国における現在の日本労働研究機構とほぼ同じものとみてよいであろう。
 労働研究院の調査研究分野は、労働動向、雇用と失業、労資関係、労働法制、賃金、労働条件、労働福祉で、機構の中心的なセクションは、雇用調査センター、調査企画調整室、労働動向分析室などである。労働動向研究室は、国内外の労働(市場)の動向、見通しを分析し、「労働動向四季報」、「KLI労働統計」、「KLI海外労働統計」などを作成している。
 私達が訪ねた労働動向分析室は、いわゆる官庁街の中小企業関係のビルの上階にあり、室長室は日本の大学の研究室程度の広さで日本の労働問題関係のものを含めてハングル語の本、雑誌、統計・調査報告、その他の資料等が書架にぎっちりに並べられていた。
 ここでは、室長のガン・スンヒ氏の外研究員2名と面会したが、室長は40歳代前半で、他の2名は30歳代前半と後半の若い研究者、室長と1人の30歳代後半の研究員は大学院出身の博士号をもち、もう1人は現在博士論文提出中の研究者であった。室長は、経済学博士号を持ち、すでに労働基本権、賃金決定制度を中心にした日本の公共部門の労使関係や日本の雇用調整制度の実態、問題点についての著書など多くの研究業績を発表し、また1987年以降10年間の韓国労働運動の主体的、客観条件の変化、及び運動の展開と特徴をまとめた研究書も1998年10月に刊行している方であった。
 労働動向分析室では、韓国における1987年以降の10年間の変化について全般的な見解を質し、労働法制改悪反対闘争の評価、現代自動車労組の整理解雇反対闘争の経過と問題点、政労使委員会の状況と見通し、韓国労総と民主労総の関係、進歩的政党結成問題などで意見交換したが、冷静、客観的に情勢を把握、分析していて韓国労働組合運動全体については、その「闘争力の低下」を認め、現代自動車争議は、政府の政治的配慮により労働組合にも「一定の成果」があったのではないかという認識を示していた。
 韓国労働研究院の1988年12月に発行した英文小冊子“Labor Market and Industiral Relations in Korea”(118ページ)は、韓国労働問題の概要、この10年間の回顧と21世紀への政策方向がまとめられており便利である。

A韓国労働理論政策研究所

 この研究所は、「労働運動の現場主義と階級性」を重視し、民主労総運動の階級的、民主的な発展をめざして1995年7月に創立された「左派の左派」という最左派的立場を鮮明にした労働問題研究である。進歩的学者・研究者と労働運動の幹部、活動家で構成されており、会員は現在海外を含めて100名とのことで、所長はソウル大教授。常勤者8名で活動している。
 ソウルの街中のアスハルト道路に面した小さなビルの3階にあり、事務局の部屋、パソコン等の機器を備えた共同研究室的な部屋、比較的広い会議室の三部屋の研究所である。事務処長は最近就任した女性。面接者は、前事務処長のパック・ソンイ氏という40歳代半ばの民主労総運動の動向にかなり詳しい方と30歳前後の賃金、労働条件問題に関心をもつ女性研究員であった。私達は、主として「韓国民主労組運動の評価と今日における問題点」を質した。
 パック・ソンイ氏の話によると、研究所は、「現場から未来へ」をスローガンにして、事業として月刊誌の発行、各種の政策討論会・研究発表会の開催、各種研究プロジェクトへの参加、教育事業の推進、労働組合の国際的連携への協力をおこなっており、1999年秋から新しい理論学術誌『正論』の発行を計画中とのことであった。
 パック・ソンイ氏は、民主労総運動について、現代自動車労組の整理解雇反対闘争の結果にふれながら、「現代自動車労組の闘争は失敗し、組合員にとって大きな存在意義をもっていた雇用を守るべきナショナルセンターが雇用を守れなかったことに対して強い不満が噴出した。妥結した協定内容を組合員総会で法的にそれが再交渉に繁がるものでないことを承知しながらも否決したことはその表れであった。抗議の意思も示さず受け入れれば、整理解雇の攻勢がさらに広がることになるという気持ちがあったからと思う。これは韓国国労働組合運動の力、民主的労働組合運動とはこういうものだということを示したものともいえるのではないか。今後、金大中政権の新自由主義的な構造調整−雇用調整政策に対抗して労働者と国民の利益を守っていくためには、民主労総が克服すべき弱点や解決すべき課題は多くあるが、闘争力を強化、統一して闘争を発展させていくなかで、組合員の信頼感をいかに回復させるかということであろう。これが一番重要な問題である」と語った。また、進歩的政党の結成問題についても、これが大衆的に議論されていないことを指摘し、進歩的な政党は、社会変革をめざす本来の意味の階級的な労働者政党の結成としてめざすべきで、それには自らの労働組合としての力量を強め、他の社会運動団体とともに充分な準備の上に進めるべきという意見であった。

B労働政策教育協会

 この組織が活躍しているウルサンは、慶尚南道の日本海沿岸の都市で、プサンから自動車で一時間程度のところにあり、パク政権が1961年に韓国工業化のモデルとしてここに工業団地を建設してから、今日、発電所、石油精製、造船、自動車、化学肥料など韓国屈指の重化学工業が集中している地域である。
 労働問題の研究組織というよりも労働者教育の実践的運動組織というべき性格の団体であり、1994年に労働組合運動を労働者教育と政治運動の両面で支援することを目的として設立され、専従者5名と現代自動車ウルサン工場を中心とする現場活動家が参加している。Aの韓国労働理論研究所と緊密な協力関係にあって、そこの出版物を職場組合員に普及し、機関紙誌(現在は休刊中の「週刊通信」など)の配布、現場活動家養成のための講座とグループミーティングの開催(「産業別組織建設の重要性」、「経済学の基礎理論」などをテーマに、外部講師の協力も得る場合ある)。これに対する会社側の妨害、干渉はなく、郵送方式も利用して普及に努めているとのことであった。
 協会の事務所は、広大な現代自動車ウルサン工場周辺の幅広い道路に面した低層の長屋煉瓦作り風の建物二階にあり、事務室とやや広い会議室(壁際の本棚に書籍、資料が並べられ、なかに分厚い「資本論1」の韓国訳も見られた)の二部屋が確認された。面接者は、協会代表のイ・チョンホ氏と民主労総現代自動車ウルサン労組事務局長の2人で、「ウルサン地域の労働運動史−現代自動車を中心にして」というテーマで、1998年8月の現代自動車労組の整理解雇反対闘争終結に対する「敗北」とする批判的、否定的評価や、ウルサン工場における現場組織運動の歴史と実態、役員選挙制度の特徴(ランニングメート方式)、役員選挙の見通しなど詳細な説明を受けた。その後、休日のため労働者は出勤していなかったが、整理整頓が行き届いた、広大なウルサン工場内を車で見学した。
 現代自動車労組内には、5つの労働者の自主的なグループ(現場組織運動)があり、(a)「労働者連帯会議」(右派の労使協調主義路線に立つ最も歴史の長い組織)、改良主義的な中間派の(b)「現代自動車労働者新聞」(合理的労働運動主義に立ち、毎週新聞を発行している組織)と(c)「現代自動車実践労働者会議」(労使対等の労使関係の確立を掲げる組織)、そして左派の(d)「現場を守る人たち」(進歩的な労働運動の推進を追求する組織)と最左派の(e)「現代自動車民主労働者闘争会」(階級的労働運動の実践を主張する組織)が存在し、活動しているとのことであった。闘争終結後の執行部の引責辞任に伴う役員選挙結果は、1995年〜97年の第6期の委員長を歴任したチョン・カットウ氏を委員長候補として擁立した(c)「現代自動車実践労働者会議」グループが左派二派と連合し、決戦投票(30日実施)で組合員投票総数24,800票の51.2%(12,708票)の支援を獲得して当選した。連合グループが掲げた選挙政策は、現場組織の分裂と弱体化が労働組合の危機を招くとして@現場組織の復権−民主手続きの尊重、現場組織間の意見調整を提起し、A労使対等の実現と保障の確立−会社側がこれを認めない場合は、現代自動車の直面する諸課題の解決はきわめて困難であることを訴えたものであったという。
 労働政策教育協会は、1997年3月に「現場組織運動の過去・現在・未来」(262ページ)を発行している。

C嶺南労働運動研究所

 プサンで活動しているこの研究所は、1994年2月にウルサン、プサン、マサンのベルト地帯の労働運動を重視し、その特性に基づいた研究活動をめざして創立され、主要な研究テーマを企業別組合の限界を克服する産業別労働組合運動の建設、推進に関わる調査、研究とし、会員は正会員(個人と団体)と資料会員から構成されている。個人会員は大学教員と弁護士など、団体会員は200組合で主要労組や社会団体が加盟しており、所長はプサン大学教授、副所長は現場代表(民主労総プサン金属連盟本部委員長)と研究者(慶南大学教授)、常勤専従は事務局長の外2名である。地域別選出の委員20名の運営委員会(月2回)が中心により、この外に分科委員会(政治理念、調査研究、産業別組織、法制度、経営分析)があって、月1回開催され、産業別組織問題の分科会だけは、主要テーマであるため月2回開催されている。産業別組織の建設問題では、研究所はこれまでの研究成果をまとめて『産別労組100問100答』を発行しているとのことである。
 今回の訪問に応対してくれたのは女性の事務局長キム・ヨン・リーさんで、彼女は大学で歴史を学び、卒業後労働現場に入り、組合運動では、全労協教育宣伝部長を歴任、民主労総運動のスタートにより全労協が解散したのに伴い、95年にこの研究所に入所した人で、30歳代後半の視野の広い、能力の高さを感じさせるリーダーで、受け答えは明快であった。
 事務局長から、ウルサン、プサン、マサン地域における1995年末の金属産業を中心とする産業別労働組合運動−民主金属労連結成以降の流れと1998年末結成の産業別労組としての保険医療労働組合の結成(約3万人)、金属産業連盟への団体交渉権委任問題などの現状、未組織労働者の組織化(成果未だなし)や失業者同盟組織化をめぐる意見、進歩的政党結成問題への見解(「時期尚早論」)などを聞くこと出来たが、現代自動車労組の闘争終結については、左派の韓国労働理論政策研究所や労働政策教育協会の評価とは異なり、研究所の集団的な討論の結果に基づく見解は「整理解雇受け入れの独断的交渉は批判されねばならないが、あの受け入れは最善ではないにしても、あれ以外になかった次善の策の選択であった」というものであった。
 この研究所は、月刊の労働政策専門誌『連帯と実践』を発行しており(600部)、1998年9月号に「次善の策の選択」とする副所長の問題提起論文を発表し、討論を呼び掛けたが、これには500名から基本的に支持する見解が寄せられたとのことである。続く10月号では、闘争終結をめぐる座談会「危機を超えて」を特集し、関係者間の討論を広範な問題をめぐって行なっているが、そこでの、これからの運動課題としてほぼ合意された方向は、「もっと現場をめぐる闘争の重視を」、「指導執行力の強化を」、「産業別組織建設の実践プログラムを」、「広範な社会的諸団体との共闘で対政府の政策制度闘争を」ということで、また、経済綱領・福祉綱領の提起、積極的な改良闘争の重視、ストライキを含む多様な戦術を採用する必要性など指摘されている。因みに訪問した段階の1999年3月号の『連帯と実践』の最新号には、研究ノート・「韓国労働体制の転換と労使関係−コーポライズムあるいは急進化」、現場通信・「働いている女性のための地域女性労組」などが掲載されていた。

D韓国労働社会研究所

 1986年に労働教育協会として発足し、1995年に民主労総や韓国労総との一定の協力関係をもつ研究教育機関に改組された組織である。ソウル市内の高台の小さなビルに三つの部屋を構え、同じフロアーには産業別組織の保険医療労組本部も入っていた。
 面接者は、イ・ウォポ所長で、1992年には日本の大阪で労働組合運動を視察された経験をもち、部屋には戸木田嘉久氏など日本の研究者の著者が積まれていた。研究所の構成は、常勤10人と専門毎の非常勤研究員で、教育活動を担う教育室と政策研究活動を担う研究室を設けて活動している。教育活動は、労働組合への講師派遣、教育計画の立案やスエーデン、オランダ、ドイツの国際自由労連系の労働組合と協力して多数者を対象とした従来の講義方式からヨーロッパ型の参加者本位の教育方式(小グループによる討論中心)への転換、実施などを進め、政策研究活動では、「労働者の政治勢力化」、「雇用構造の変化」、「金属労働者の意識調査」、「社会保険の統合問題」などのテーマを取り上げた活動を進めているとのことである。研究所は、1998年6月に『21世紀の労働者教育』(329ページ、内英文要約11ページ)を発行している。
 そして、月刊誌『労働社会』(平均約130ページ程度、800部)を発行しており、その普及に努めているが、因みに1999年3月号は、特集として『先進国労働組合運動から学ぶ』が組まれ、「労働者階級の政治勢力化問題」、「産別組織保険医療労組の一年」、「労働運動は平等をいう資格があるか−評価と課題」、「民主主義を考える」、「不当は整理解雇への対応」といったテーマが取り上げられている。
 所長は、これからの韓国労働組合運動は、現代自動車労組の整理解雇反対闘争の教訓としても、「あらゆる問題を解決する観点から闘うことが必要であり、そのためには政策制度闘争を広範な社会的諸団体と共に闘うことが求められている。その点で、進歩的政党の結成問題は注目される」と語っていた。なお、日本の労働組合運動については、労働者の連帯意識の欠如を弱点として指摘しながら、運動方向が不透明な上、職場の組織力が弱体化し、大衆的な闘争力が後退していることから、実際に力量があるのかどうか。こうした見解、疑問を呈していた。
 訪問した韓国の労働問題研究機関が、当然のこととはいえ、労働組合運動の動向に高い関心を示し、組織、運動、闘争、各階層の反応など、状況全般を可能な限り把握し、研究、討論を積極的に行なっていることが共通した傾向であった。

(理事)


99年度定例総会での発言要旨(上)

 去る7月30日に開催された労働運動総合研究所の99年度定例総会での事業計画にかかわる発言(要旨)を9月号と10月号に2回にわたり掲載します。
相沢与一会員
 1、「基本的視点」中で、「資本蓄積条件の再構築」など資本蓄積視点が特記されている点は重要であるが、同時に、歴史的・論理的に資本蓄積の論理よりもはるかに先行しているはずの、「生活保障の原理」、すなわち、さまざまな歪みと疎外をともなってきたものだが、原始共産制社会以来の、共同体的生活保障に由来する社会的生活保障の原理を重視し、新自由主義的、グローバルな資本蓄積条件のリストラがいかにその生活保障の原理の矛盾・敵対し、かかわるかを問う観点も重要だと思う。労働総研が重視してきたナショナルミニマム保障の原理も、この関係から再重視する必要がある。
 2、また、その節の最後に「連合」「社民」路線へのイデオロギー批判の必要が指摘されており、それはそれとして有意義であるが、同時に今日のクーデター的全面改悪攻撃のなかでの事実上の共闘の発生をも重視し、「対話と共同」、統一戦線を追求する観点とそれを具体化する立場も大いに重視しなければならないのではないか。
小川政亮会員
 1、介護保険法と児童福祉法1997年「改正」を突破口に、従来、憲法25条にもとづく社会福祉基礎構造の一つであった措置制度を解体して契約制度へと変えて行こうとする動きが進められているが、「措置から契約へ!」が時代の流れだと厚生省当局者は得意然とのべている。「身分から契約へ」という有名な法制史家の言葉をもじったつもりだろうが、形式的に対等な筈の労資間の契約を基本とする近代法構造のもたらした社会問題激化の中から実質的平等を求めての労働者階級のたたかいが生存権思想とその具体化としての社会保障制度をかちとってきたものであり、措置制度もその一環であるという歴史的流れを180度ひっくり返そうという支配階級のたくらみが、「措置から契約へ」に集約されている訳である。このような歴史逆転を正当化しようとする支配の側のスローガンとその論理を明らかにする作業が必要ではないか。
 2、私は1990年代を、社会保障裁判第三の波の高まりの時代と呼んでいる。反動的攻撃が強められて来ている今日であるだけに、人民の側からの社会保障裁判闘争は一層の重要性をおびてくる。労働権貫徹のためにも、裁判運動は重要性をもっている。労働運動総合研究所というからには、労働法研究者はじめ法律家のさらなる参加が求められる。
 3、当研究所への若手研究者の多数参加を促す努力をお願いしたい。
西村直樹会員
 1、リストラ「合理化」は産業再生法をまたず、たとえば大阪では信金信組10を3グループに集約すると称し、1600人が解雇されるというように、98年秋の金融再生法のときには予想もしなかった中小金融機関つぶしの武器とされようとしている。民間製造業のリストラも吹き荒れよう。小さな成果をつみあげ、典型例を早急につくりだしたい。
 2、サマータイム制が国民の合意なしに進められている。いまの社会では、長時間労働を一層一般化することになろう。各戸に20ほども時計のある時代だ。それを動かすことで大儲けをする資本のいいなりにはさせたくない。
 3、ISOについて。9000シリーズ(危機管理)、14,000シリーズ(環境対策)は経営の仕事が主だとしても、16,000(安全衛生管理)は労働側として放置できないテーマなので、急いで対応を考えたい。研究者にもそのことをお願いしたい。
 4、全労連の会館建設について、それぞれのかかわりで取り組んでおられると思うが、とくにそういうつながりのない労働総研会員各位も、全労連とのキズナ強化の観点から積極的にカンパ運動に協力されることをお願いしたい。
芹沢寿良会員
 1、昨年の総会において発言したことと基本的には同じことであるが、研究機関としても労働組合運動の全体状況や注目すべき特別の動向を把握し、調査研究を深め、必要な提言も行うことがますます必要かつ重要になってきているのではないか。今日の深刻化する労働をめぐる諸問題の解決のためには、環境や条件の大きな変化のなかで、労働者の団結の仕方、闘い方、対話と共同、つまり組織と運動の新たな在り方の検討が求められている。
 2、この1年間の労基法を中心とする労働法政改悪反対闘争、労働者派遣法改悪反対闘争、その他戦争法反対、盗聴法反対共闘の展開などにみられた労働組合運動内部の注目すべき変化と発展などについて、研究機関としての調査、研究、討論、提言の必要性。
 3、全労連大会における2000年春闘をめぐる労働組合らしい活発な討論の展開、地方労連の労働者、地域住民の利益を守る積極的運動の取り組みは、全労連運動の前進と定着をしめしている。しかし、春闘問題にしても、まだ、連合、全労協、その他所属組合の春闘総括や論議の状況を踏まえて、全労働者・労働組合を視野に入れた春闘の新たな闘い方の提起になっていない。全労連の枠内の論議ではないか。
 4、コーポレイトガバナンス問題にしても、すでに連合運動サイドでは、それを労働組合運動の今後に大きな影響をもつという問題意識をもって連合総研がすでに研究活動を進めてきており、秋には一定の見解、報告書を発表するとされている。他の労働団体や関係研究機関等のこうした情報収集も共同の展開のためには一層重要となっている。
 5、現状における全労連運動の労働組合の調査体制と能力のみでは、労働組合運動の動向の情報、資料の収集と的確な分析を行なうことは極めて困難で、大きな立ち後れを招くことは避けられない。それは研究機関が中心になり、労働組合との協力体制を確立して進めるべきであろう。
岩崎 俊・通信産業労働組合(団体会員)
 今年の7月1日、NTTは、戦後は初めての純粋持ち株会社のもとにNTTコミュニケーションズ(長距離国際会社)と東西地域会社の三社に分割「再編成」された。分割の最大の狙いは、NTTが国際的な情報通信の分野での競争にうって出るためである。国内の電話の儲けを純粋持ち株会社に集中させ、国際通信ネットワークの構築のために、NTT国際会社を通じて莫大な資金投資を行おうとしている。
 持ち株会社は、NTTグループ全体に絶大な支配力を持ち、グループ会社にはリストラを押しつけながら、子会社の労働条件などに責任をとらない態度である。大企業が持ち株会社に参入しやすくするために、連結納税制度、資産譲渡益課税の免税や分社化をやりやすくする法整備などが進められようとしている。この持ち株会社方式が21世紀の産業のあり方、労働者の働き方などに大きな問題を提起している。ぜひ、これらの研究を今後ともお願いする。

(続く) 




寄贈・入手図書資料コーナー




8月の事務局日誌

8月7日 自治労連研究機構設立シンポジウム及びレセプション(草島)
  25日 国公労連第45回定期大会へメッセージ
  28日 全労連・全国一般第10回定期大会へメッセージ



8月の研究活動

8月2日  賃金・最賃金問題研究部会=報告・討論/「成果主義と賃金体系」