1998年1月1日(通巻94号)

目   次
巻頭言歌声を奪うもの…増田れい子
論 文運輸産業における「協力金」問題について…国分  武
アメリカの出版事情ほか

歌声を奪うもの

増田れい子

 クリスマスイブ。久しぶりに銀座で夕食でも…と旧友三人誘いあって出かけた。待ち合わせ場所の帝国ホテルロビーに着くと、思わぬクリスマスコンサートに出くわした。
 ラウンジを舞台に総勢百人あまりの男声合唱団が聖しこの夜をうたいはじめた。早大と慶大の合唱団の合同演奏だった。
 「ふだんはカタキ同士ですが今宵は共にうたいます。二泊三日の合宿訓練の成果をおきき下さい」と笑わせて、独唱をまじえつつモミの木やホワイトクリスマスの定番を若々しく美しく熱唱してくれた。
 二十歳前後の若い男性の声というのは、こんなにも独特のものか…とあらためてききほれた。低音も高音もやわらかい。ボーイソプラノはどこか金属的なかたさを残してそこがまた魅力なのだが、それを通りこした青年たちののどには、一種の甘美さがそなわってまろやかである。
 ふと思い出したことがあった。年末には各地で第九の演奏がさかんに行われる。市民参加の第九である。しかし悩みがある。第九のいのちである合唱団に参加する男性が減っていることだ。女性は増えるのに、男性は減る。声のバランスがとれないというのだ。
 これにはさまざまな背景が考えられる。職場が忙しすぎて、練習に出られない。リストラされてしまった。エネルギーを使い果たして歌えない。地域活動に慣れていないので誘いがあってもためらってしまうなどなど。
 帝国ホテルのイブをいろどった早慶の合唱団員も卒業して企業に入ったとたん合唱から切り離されてしまうのではないだろうか、と不安にかられた。
 労働の職場で押し進められている人間カンバン方式。変型労働制やら裁量労働制。労働者を分断する方式だ。顔を合わせ、語りあい、共にいる時間を奪う。そうなれば合唱といった集団でつくる文化は成り立たない。人間カンバン方式は文化の敵というほかはない。
(会員・ジャーナリスト)


運輸産業における「協力金」問題について

国 分  武

「協力金」の存在すら認めなかった運輸省

 最近、トラック運輸業界において「協力金」という名の運賃買い叩きが、大企業の横暴を象徴する問題としてクローズアップされている。
 97年秋は、この「協力金」問題を一貫して追求してきた運輸一般のたたかいを、業界紙各社が軒並み一面で大きく取り上げたのをはじめ、朝日新聞も7段抜きの記事で紹介した。これは「協力金」に象徴される大企業の横暴・下請いじめが各産業共通の問題になっているからであろう。
 「協力金」問題が、業界中小企業を中心に深刻な問題となりだしたのは、バブル崩壊後の92.3年頃からであり、大企業のリストラ「合理化」が激しくなる時期と重なっている。しかし、この問題を社会問題化するまでには息の長いたたかいの継続が必要であった。94年から95年にかけて、運輸一般の各地方労使協議会の代表で構成し、年数回開催している中央労使協議会では、必ずといっていいほど「運賃下落」が問題になっていたが、95年の春頃、経営側から運賃下落の具体的問題としてこの「協力金」の存在が強く出され、労使協議会として実態アンケート調査を行うこととなった。組織内を中心とした百数十社からの回収ではあったが、その結果は、約半数の企業に「協力金」が強要されていることが明らかになった。
 運輸一般は、その後、この調査をもとに運輸省などに「協力金」問題での指導要請を繰りかえし行ったが、当時の運輸省は「協力金」の存在すら認めようとしなかった。
 この局面を決定的にかえたのは、95年の通常国会における日本共産党の寺前巌衆議院議員と、筆坂秀世参議院議員の追及である。両議員は、「協力金問題の発端は、数年前、大手メーカーや小売業者がリストラに伴う対策予算を、協力金の名目で求めるようになってから。物流サービス部門を子会社化し、そこに運賃の5〜10%をバックさせるやり口」で、これは、「独禁法の優越的地位の濫用」であり、「貨物自動車運送事業法の12条『運賃または料金の割り戻しの禁止』に違反する」と追及し、運輸省に同法64条を活用して、「荷主勧告」せよと迫ったのである。
 これによって、運輸省は協力金の実態調査を約束し、荷主勧告についても「必要な場合は厳正に対処する」と答えたのであった。

大企業の横暴が赤裸々に

 それから2年後の97年6月、運輸省はいわゆる「協力金」の実態調査を発表した。調査対象4,412事業所のうち、2,273事業者が回答しているが、運輸一般の調査結果と同じくその約半数の事業所が「協力金」の名目で運賃値引きなどの値下げ要求を受けていることが判明した。その内容は次のようなものである。
 政府の手で荷主・大企業の横暴の実態が具体的に明確にされたのである。
 この調査をもとに、運輸省は「荷主勧告」ととれるような通達を荷主団体と全日本トラック協会に送付している。その問題については後述するとして、ここでは運輸省の調査に加えて、その後、運輸一般労使協議会が97年8月〜9月に行った運賃実態調査結果を紹介し、荷主・大企業の「下請いじめ」の実態をさらに明確にしておきたい。
 運輸一般中央労使協議会のアンケート調査は、北海道から九州まで運輸一般各地本の運動として、無差別に1万社に対して直接訪問したり、郵送で行われた。目的は運輸省の行った調査結果と通達(荷主勧告)を宣伝し、その影響を実効あらしめるためと、さらに荷主・大企業の横暴を鮮明にすることであった。
 97年10月6日時点で回収された1,158社の回答結果は、次のようなものである。
 さらにこの調査には回答者の多くから、アンケート用紙の欄外や用紙の裏面が真っ黒になるほど、様々な意見や不満が寄せられた。そこには「運送業者としてやっていけない」「廃業したい」「従業員の社会保険料も払えない」などの悲痛な叫びや、「協力金を断ったら取引が中止された」「押しつけ運賃を受け入れなければ契約解除される」といった荷主の横暴を指摘する声、高速道路料金・消費税・軽油引取税の引き上げなど政府の悪政が経営悪化の原因になっていると怒っている声などが綿々とつづられ、「消費税廃止のため、ゼネストでもやって頑張って下さい」といった労働組合に対する期待も少なくなかった。
 このように、運輸省の調査も運輸一般の調査も、中小運送事業者が大企業・荷主の横暴による運賃切り下げと「協力金」の強要に泣かされている現実を赤裸々にした。
 トラック運輸業界では、ここ数年、高速道路料金の連続値上げ、軽油引取税の引き上げに加え、年金など社会保険料の負担増、消費税アップなどの経営圧迫要因が重なり、「四重苦・五重苦」などといわれている。それに加えての運賃切り下げ・「協力金」の強要がどんなにひどいものであるかは想像に難くない。もともとトラック運輸事業の利益率は2%前後といわれており、3%〜10%もの「協力金」は、それこそ、「乾いたタオルをしぼる」ようなものである。

「協力金」が横行する背景

 トラック運輸業界において、「協力金」が横行する背景にはいくつかの要因がある。
 その第1は、業界構造の問題である。トラック運輸は「生産がストックされない」といわれるように、完全な受注産業であり、その日の仕事がなくても、他の日に穴埋めするということにはならない。したがって、原価を無視しても仕事を確保することとなり、荷主に対しては全く弱い立場にある。
 さらに、約46,600社あるトラック運輸事業者は、従業員1,000人以上の大企業はわずかに0.12%で、99%が中小企業であり、うち10人以下が36.5%、11〜20人が29%、21〜50人が25%といった、典型的な中小零細企業で構成されている(95年度末)。中小の8割は何らかの形で同業大手の下請的存在といわれており、中小は他産業の荷主からも、トラック大手からも運賃切下げ、協力金の強要を受けている。
 第2の問題は、大企業本位の規制緩和・価格破壊攻撃である。トラックは1990年までは認可事業であり、運賃も実態は伴わなかったにせよ認可運賃であった。これは、運輸の公共性や業界の弱い立場を考慮したものであったといえる。ところが政府・財界の規制緩和政策によって、トラック運輸事業は90年以降、認可から許可事業に緩和され、運賃は届出運賃となり、参入規制も大幅に緩和された。この結果、新規参入は7年間で約8千社(約2割)も増え、企業間競争が激化したのである。
 トラックの届出運賃は、貨物自動車運送事業法によって、「運賃及び料金を定め、あらかじめ運輸大臣に届けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする」と定められ、この運賃又は料金がつぎの各号に該当する場合は変更を命じることができるとされている。(@能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えるものであるとき。A特定の荷主に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。B他の一般貨物自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるとき)また、「荷主に対し、収受した運賃又は料金の割り戻しをしてはならない」と定められ、さらにこうした行為が、荷主による場合は、荷主に対して「違反行為の再発防止を図るため適当な措置を執るべきことを勧告することができる」と定めているのである。
 しかし、現実には荷主との力関係でこの法律は形骸化されている。特に問題なのは、トラック大手事業者が自ら事業法を無視し業界秩序を破壊していることである。大手は激しい物流合理化の中で、生き残りをかけた寡占化競争を展開。原価を無視した運賃ダンピングで中小分野の仕事もかき集め、それをさらに徹底した低運賃で中小下請に押しつけている。こうした中で運賃は事実上「自由運賃」と化し、運輸省が行政指導を全く破棄している中で、大企業・荷主の横暴=価格破壊=運賃切り下げ・協力金の強要は放置されたままなのである。  トラック運輸産業は、運送量の増大にともなって営業収入を伸ばし、90年には10兆円産業となり、92年には12兆円を超えた。ところが、94年には初めて前年比マイナスの11兆円台に落ち込み、運賃低下がくっきりとあらわれている。

労働強化、重大事故増加の要因にも

 問題は、こうした業界の実態が、そこに働くトラック運輸労働者に深刻な影響を及ぼしていることである。
 トラック運輸産業(道路貨物)は、全産業水準とくらべて40歳で年収で15%も低く、時間当り賃金では7〜8割の低賃金である。労働時間も全産業ワースト1で、他産業より年間348時間も多い、年間総労働時間2,592時間という長時間労働である(平成8年度)。
 こうした実態に加えて、荷主による運賃の切り下げ、「協力金」の強要が荷物の着時間指定の強化とあいまって、運転者に対してよりいっそうの長時間労働、過積載、スピード運行を強要しているのである。
 この結果、重大事故が増加し、労災死もワースト1という不名誉な事態となっている。トラックがからむ交通事故は、一般国民を巻き込む重大事故になる場合も多く、しばしば社会問題化している。

「共同」を広げ、実利の追求を

 最後に、労働組合としての今後の取り組みについてである。
 運輸一般は、トラック運輸産業のように中小零細企業が圧倒的多数で、他産業とも業界大手とも対等・公正な取引条件を確立できないでいる中では、以上に述べた賃金・労働条改善や職場環境の改善は、個別企業内だけでは困難が大きいと考えている。従って、要求闘争の推進にあたっては、組織拡大と並行して、業種別の横断的賃金・労働条件の確立による企業間競争の規制や、業界秩序の改善、公正取引の実現など業界構造の民主的改革の運動、悪政阻止と政治革新などを一体のものとして推進することが重要と考えている。
 こうした観点にたって、これまで「協力金」問題をたたかってきたが、業界における「協力金」を社会問題化し、運輸省による「荷主勧告」の実施までが現時点での到達点である。
 前述した通り、私たちの運動に押されて運輸省は「協力金」調査の結果にもとづいて、自動車交通局貨物課長名での通達「トラック事業の取引の正常化に関する依頼について」を、日本自動車工業会、日本鉄鋼連盟など42の荷主団体に対して送達し、まがりなりにも「荷主勧告」らしいポーズをとったのである。また、全日本トラック協会に対しても「トラック事業における公正取引の確保について」という通達で、特に元請けの立場にある大手トラック事業者に対して、「荷主勧告」を行ったのである。このこと自体は、それが例えポーズであろうと、従来の運輸省の姿勢からすれば大きな前進と評価してよいと思われる。
 しかし、その内容は別掲したとおり、「トラック事業法は、届出運賃の適用を義務づけており、運賃・料金の割り戻しを禁止しているから、『協力金』はこれに抵触する」という程度のもので、実際の改善には到底なり得ないものであった。
 また、その後の運輸省の態度は、業界紙から「及び腰の運輸省」「調査してオシマイか」と皮肉られたように、自ら発した通達の実効性についてはまるで無関心・無責任である。
 かんじんなことは、この通達を生きたものとし、「協力金」を独禁法の対象にのせ、実際にやめさせることである。
 しかし、運動の前進を阻むように、政府は規制緩和をいっそう進め、運賃・参入規制・営業区域規制などを全て撤廃し、トラック運輸事業の完全自由化をすすめようとしている。また、公正取引委員会は、現在、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独禁法上の指針」をまとめようとしているが、その中では運輸事業における取引が「運賃届出制」をはじめとする事業法上の規制があるにもかかわらず、それを無視し、「代金の減額」「協力金」などが「対価に係わる交渉の一環として行われ、その額が需給関係を反映するものと認められる場合は、優越的地位の濫用問題とはならない」と断言し、大企業の横暴、下請いじめを免罪しようとしている。
 私達は、こうした反動的攻撃をハネ返し、規制緩和に反対するとともに、必要な規制の強化、現行法の最大活用を求めて運動を強化したいと考えている。当面、運輸省の「協力金」実態調査と通達(荷主勧告)を最大限活用して、荷主団体を管轄している通産省などに対して、98春闘の中で業界ぐるみ・労使共同の運動を大きく盛りあげるなどの運動、あるいは業界内の大手企業の違法行為を指導できる立場にある運輸省の責任追及などを通じて、大企業の横暴を規制するたたかいを、いっそう推進したいと考えている。
(団体会員・全日本運輸一般労働組合書記長)
自貨第68号の2
平成9年6月18日
事業者団体の長殿
運輸省自動車交通局貨物課長

トラック事業の取引の正常化に関する協力依頼について

 平素は、運輸行政に対するご理解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
 ご高承のとおり、トラック事業の運賃・料金につきましては、貨物自動車運送事業法第11条の規定により各トラック事業者から運輸大臣に対する届出が義務付けられていると同時に、届出た運賃・料金を適用しない場合には所定の罰則規定が設けられております。
 また、同法第12条によって、収受した運賃・料金の割戻しが禁じられているとともに、違反行為が荷主の指示に基づいて行われた場合には、同法第64条により運輸大臣から当該荷主に対しても再発防止のための勧告を行い得ることとなっています。
 運輸省としても、従来からこれらの遵守についての指導を行ってまいりました。その一環として、先般、トラック事業者に対するアンケート調査を実施したところ、貴団体傘下の会員を含む一部の荷主企業等からトラック事業者に対して運賃支払額の一部カットなどいわゆる「協力金」等の名目による値引き要請が行われているとの回答が寄せられており、これらの中には上記の条項に抵触するケースも含まれているものと考えられます。
 いうまでもなく、安定的かつ良質な運送サービスの提供には、荷主企業等とトラック事業者との良好な取引関係の維持が不可欠であります。
 つきましては、貴職におかれましても、上記趣旨にご理解を賜り、傘下会員等に対して格別のご配慮をいただきますようご指導方お願い申し上げます。

12月の研究活動

12月5日 国際労働研究部会=報告・対論/国際情勢について及び1997年版「世界労働者のたたかい−世界の労働組合運動の現状調査報告」編集について検討
6日 労働法制研究部会=報告・討論/「労働基準法の女性保護規定擁護をめぐって」、「日本におけるグローバリゼーションの影響と労働法の『改革』」、「アジア諸国における最近の雇用情勢について」
8日 賃金・最賃問題研究部会=報告・討論/「ジェンダー問題」
15日 青年問題研究部会=報告・討論/「職業能力開発政策の方向」
16日 社会保障研究部会=報告・討論/「年金改革の動き」
女性労働研究部会=報告・討論/「中基審の建議『労働時間法制及び労働契約法制の整備について』」
17日 中小企業問題研究部会=報告・討論/「パート・臨時労働者組織化の意義と課題」
22日 生計費研究プロジェクト=報告・討論/「家計における固定支出の拡大の課題と問題点」

アメリカの出版事情

小林由知

 日本で、大月書店が96年に「マルクス・エンゲルス全集」のCD版を出し、新日本出版社が97年12月に新訳「資本論」全3巻(5冊・索引付き)を刊行したが、この時期にアメリカでも注目すべき動きがあった。
 ニューヨークのInternational Publishers社が96年に「資本論」(英語版)の第1および2巻を出し、97年に第3巻を出した。また同社は、日本でも有名なビクター・パーロの「人種主義の経済学U:不平等のルーツ  アメリカ合衆国」を刊行した。
 多くの著作を残した労働史家で94年末に故人となったフィリップス・フォナーの「合衆国における労働運動の歴史」も同社から97年に再出版された。
 このような、資本主義批判の著作がアメリカでも再び脚光を浴びていることから、同国の左翼や労働運動、そして研究家の中に何か変化が起きているように思われる。
(ジャーナリスト・会員)

寄贈・入手図書資料コーナー


会員からの寄贈研究報告書


12月の事務局日誌

12月2日 98国民春闘共闘委員会討論集会(宇和川)
3日 名古屋市職学習会(草島)
結核予防会労組結核研究所支部「能力主義賃金」学習会(宇和川)
5日 ナショナルミニマム問題協議会世話人団体会議(宇和川)
12日 労働総研・全労連定期協議(代表理事中心に)
97年度第3回企画委員会(代表理事中心に構成)
13日 兵庫県労働運動総合研究所設立5周年記念集会及び祝賀会(浜岡常任理事)
千葉県シリーズ労働運動学習会(草島)
18〜20日 日本医労連98国民春闘討論集会(宇和川)