1998年12月1日(通巻105号)

目   次
巻頭言

 "公金"の動向総点検を……………津田達夫

論 文

 経済動向・戦後最悪の不況の現局面での特徴………大場 秀雄

11月の研究活動ほか

“公金”の動向総点検を

津田 達夫

 “公金”の横領と乱費、その企てにたかる利権あさり、汚職と贈収賄の横行─いずれも最近ますます目にあまるものとなってきた現象である。そこには政官財一体となって強行されてきた年来の保守支配体制の政治的現実がさらけだされているといえる。
 ここでいう“公金”とは多彩な内容、仕組をもっている。まず国家財政と総称される国の一般、特別両会計、政府関係機関予算、財政投融資計画で運用される資金がそれである。また、地方自治体の地方財政資金や広範な分野に張りめぐらされている公共料金、手数料のたぐいも“公金”である。
 なかには日本の外国為替市場で運用されている“公金”もある。郵政省の管轄下にある簡易保険の資金がそれである。もともと国営の生命保険事業が集めた積立金であり、投機的な為替取引きなどに使われるべき資金ではない。その結果投入された資金の収支計算は大きな赤字といわれるが、正確な数字は不明である。
 その他“公金”はさいきん不可解な使われ方をするようになった。自民党政府が強行した銀行救済のためという巨額のカネもむろん“公金”の部類に入るべきものだが、その返済は現在のような保守支配が維持された場合、結局のところ国民が負担させられる公算が大きい。
 しかも“公金”に関する同様の事例はこと欠かない昨今である。そこで筆者はこの際“公金”の動向を総点検し、全容を提示することを研究部会にはかりたい。そのことがこんにちの日本でまかり通っている保守政治の重要な側面を明らかにすことに役立つのではないだろうか。

(会員・ジャーナリスト)


経済動向

戦後最悪の不況の現局面での特徴

大場 秀雄

ここまで経済を悪化させた自民党政権の失政―切実さ増す消費税3%

 日本経済はバブルが崩壊し、戦後最悪の長期不況におちこんだ1991年春から事実上8年目を迎えるが、その出口はおろかその底さえなおみえない状態である。(経済企画庁の「景気循環」では97年4月から新しい不況に入っている。)ここまで日本経済を悪化させた直接の原因が橋本自民党政権の経済失政にあることをまず確認しておきたい。
 本来、景気回復を願う以上、消費はもっとも重視しなければならないのに、橋本内閣は反対に、最初からこれを敵視しふみにじってきた。橋本内閣は97年4月から消費税を3%から5%に引き上げて5兆円、特別減税を打ち切り2兆円、9月から医療制度を改悪して2兆円、合計9兆円もの国民負担増を押しつけ、国民消費購買力をよりいっそう引き下げた。さらに、11月には「財政構造改革法」を成立させ、医療、年金、福祉などの社会保障を今後いっそう改悪する方向を打ち出した。そのため国民は生活の「先行き不安」を増大させ財布のヒモをしめた。こうして、国民負担増政策は消費を急速に落ち込ませ生産に波及し、それがさらに消費を押し下げるという、不況の悪循環の引き金をひき、その結果、97年度のGDP(国内総生産)の実質成長率は戦後最悪のマイナス0.7%におちこんだのである。そのなかで、GDPの約6割を占める個人消費は戦後初のマイナス1.2%を記録している。
 しかも、98年に入って、不況の悪循環はさらに強まっている。総務庁の家計調査による「全世帯の消費支出」は93年から97年の5年連続マイナスだったが、さらに97年11月から11ヵ月連続でマイナスである。こうした個人消費の落ち込みが企業の売上げの減少と在庫増をもたらし、生産を低下させ、企業の設備投資を大幅に低下させるとともに、完全失業率を4%台へ押し上げる雇用環境のかってない悪化と賃金・所得の低下をまねき、それがまた消費を冷えこませている。
 この不況の悪循環を断ち切るための突破口は、国民の家計を直接あたため、個人消費を拡大することを基本にすえた対策であり、そのきめ手は消費税率を3%にもどすことである。
 ところで政府は、97年度「経済白書」のなかで、96年に大企業の設備投資が製造業、非製造業ともにプラスに転じたこと(中小企業はマイナスつづき)などを根拠に日本経済が個人消費や設備投資の主導する「自律回復過程に乗り始めた」というまったく見当はずれの見通しを示した。さすがに98年度「経済白書」では、予想以上の家計の落ち込み、その生産、雇用への波及などにふれているものの、「政策不況」への反省はまったく欠落していた。橋本内閣が「景気対策」として最初に行なったことは、98年3月、30兆円もの税金を使っての大銀行支援策であった。橋本、小渕両内閣をつうじて現在まで政府・自民党がもっとも、熱心にとりくんだ「景気対策」は、不良債権処理にできるだけ巨額の公的資金を投入することであった。この点に関連して植草一秀氏(野村総研主任エコノミスト)はつぎのようにいっている。
 「日本経済は深刻な危機に直面している。危機を打開するためには問題の本質を的確に認識することが不可欠である。事態深刻化の一因は、本年4月以降、問題の本質が意図的にすりかえられてきたことだ。日本経済はいま、加速する大不況と抜き差しならぬ金融問題の二つの難問に直面している。重要性に差はないが、問題顕在化の根源が(実体)経済の急激な悪化にあることを見落してはならない。……日本経済がここまで悪化した原因は、昨年度のいわゆる9兆円の負担増の経済政策にある。これを起点に景気悪化──株価下落──金融不安のスパイラルが発生した」(日経新聞、98年10月5日)と。
 小渕内閣は11月17日、「緊急経済対策」を発表した。しかし、その中心はあいかわらず公共事業の積み増しと、高額所得者中心の所得減税や大企業減税であり、朝日新聞の世論調査(11/22発表)によれば、76%という圧倒的多数が「期待できない」としている。小渕首相は「対策」発表にあたって消費税3%を拒否したが、不況がつづくもとで、消費税3%要求は一段と切実さを増している。

過剰生産、空洞化と「第2次リストラ」攻勢に解雇規制・雇用創出の共同を

 以上のように、今日の不況はなによりも消費不況としてあらわれているが、今日の長期不況は、@過剰生産・過剰設備、Aバブル崩壊と金融危機、B為替相場の乱高下とアジア・世界経済危機の3つが重なった複合不況である。以下、現在の局面の特徴について記することにする。
 不況を長期化させている、異常にふくれあがった過剰生産は、1970年代後半以降自動車、電機の2つの加工組立産業を中心とする輸出・対外投資と、ゼネコンによる公共事業がけん引車となった大企業中心の経済拡大方式がゆきづまり、「生産と消費の矛盾」が表面化したものである。その間、60年代の高度成長が崩壊し、国内市場の拡大が弱まったもとで、一方ではアメリカから円高、市場開放、低金利などの負担や犠牲がおしつけられ、他方では日本の大企業はアジア太平洋市場のシェア拡大をめざし、高度成長期に匹敵する巨額の設備投資を行うとともに、「トヨタ生産方式」に代表される徹底した搾取強化を追求した。こうして大企業は大量輸出で世界一の貿易黒字をかせぎだすとともに、海外に工場を移転するなど、大規模な対外直接投資にのりだし、国内の産業と雇用の空洞化をすすめた。たとえば、通産省の調査によれば、日本の製造業の海外進出企業による国内外の従業員数は、90〜95年度に国内が55万9000人減、海外が57万8000人増と逆転した。
 こうした結果、日本の大企業の巨大化した生産力と、アメリカ、日本の大企業によって低く抑えられた国民生活とのギャップが拡大して、異常に大きな過剰生産・過剰設備となったのである。バブル期のタダ同然の資金で巨額の過剰投資が行なわれ、過剰生産を拡大したという意味では、今日の過剰生産もバブルの後遺症といえるだろう。
 ここで、〔図1〕が示しているように、通産省発表の鉱工業生産指数、出荷に占める在庫水準の割合を示す在庫率指数、生産設備の操業度を示す稼働率指数を使って、97年4〜6月期以降の過剰生産の状況を確認しておく。前記の個人消費の急激な落ち込みをうけて、鉱工業生産は前期比で98年4〜6月期にはマイナス5.1%という75年1〜3月期以来約23年ぶりの大幅な低下を記録し、在庫率指数(95年=100)は98年4〜6月期には113.8という23年ぶりの高水準を記録した。これとは反対に、稼働率指数は、98年4〜6月期には94.1に低下した。これは95年=100とした数字で95年の実際の生産能力に対する稼働率は約74%なので、これをもとにした実際の稼働率は70%を割り込んだ22年半ぶりの低水準である。これは過剰生産のもとで減産幅が拡大していることを示しているが、経済企画庁の調査によれば、製造業では企業の「設備過剰」感がバブル崩壊直後を上回る最高になっている。
 自動車の過剰生産はその典型である。自動車の国内生産は1990年の1348万台をピークに減りはじめ、95年に1019万台に落ち込んだ。この後輸出が増え、国内生産が多少回復したが、98年にはアジア経済危機によってアジア向け輸出が激減し、自動車業界の雇用確保の目安とされている1,000万台を割るものとみられている。
図1  このように、80年代日本経済のけん引車になってきた自動車産業が停滞しているのは、内需の不振、輸出の減少によるだけでなく、94年以降自動車の海外現地生産が年間500万台を突破、国内の産業と雇用の空洞化がすすんだことによる。自動車産業は現在国内に年間300万台以上の余剰能力をかかえているといわれる。もちろん、自動車の過剰生産は日本だけのことではない。98年11月、独ダイムラー・ベンツと米クライスラーという世界の巨大自動車メーカーが合併し、売上高で世界第3位の新会社、ダイムラー・クライスラーが誕生した。その背景の1つは自動車の世界的供給過剰(アメリカの資料によれば、米国の年間販売台数の約1.5年分にあたる2230万台の生産能力が世界にあまっている)にあり、その合併の最大のねらいは、グローバルな生産・開発・販売体勢の構築にある。
 日本の財界・大企業は今日、このように、巨大企業間の競争の場が「ローカル(地域)」から「世界」に移行するなかで、この世界競争にうち勝って高収益態勢の再構築をはかることをめざしている。国内では、97年4〜6月期以降の消費不況の深化や同年秋の大銀行、大証券会社の破綻など金融危機の深まりのもとで、「第2次リストラ」と呼ばれるリストラ・「合理化」攻勢が生産、流通、サービスのあらゆる部門で展開されている。この攻勢の中心は、「大型合併」や「分社化」「子会社化」「外注化(アウトソーシング)」などと結びつけた「余剰労働力」の削減におかれている。最近の経済同友会アンケートによれば、半数近くの経営者が第1に「リストラの実施により余剰労働力の削減」(45%)をあげ、今後の雇用政策(複数回数)では多くの経営者が「年俸制・裁量労働制を拡大」(71%)、「コア(中心部)業務以外は正社員から外注にシフト」(53%)すると回答し、労働力の流動化を追求する姿勢を明らかにしている。
 もちろん「第2次リストラ」攻勢は、雇用・失業問題をかつてなく悪化させ、完全失業率は3.5%台から4%台へと過去最悪を更新している。OECD(経済開発協力機構)の「日本経済の見通し」は日本の失業率を98年4.2%、99年4.6%、2000年4.9%と予測している。
 このような財界・大企業の攻勢にたいして、全労連は7月末の定期大会で、解雇を規制し、失業者の生活を守り、雇用を拡大する「緊急雇用対策(案)」を打ち出した。この提案には、公共事業をゼネコン型から医療・介護・福祉関連など生活密着型に転換させて新たな雇用拡大をはかること、また、サービス残業などの削減により労働時間短縮をすすめ、720万人の雇用を創出させることがふくまれており、合計900万人の雇用拡大をめざしてる。「第2次リストラ」攻勢に対抗し、職場、地域を基礎に解雇規制、雇用創出の共同のよりいっそうの展開が求められている。

経営責任を棚あげ、税金60兆円をテコにビックバンを推進

 バブル崩壊の最大の後遺症は不良債権問題であり、それは今日の不況をより困難なものにしている。本来、不良債権は銀行、とくに大銀行がつくりだしたものである。それは、バブル期に株と不動産の異常な上昇を背景に、ろくに審査もしないで行なわれてきた過剰融資や不正融資がバブル崩壊にともなって不良債権として顕在化したものであり、国民にはなんらのかかわりもない。こういう銀行の不始末は銀行、銀行業界全体が自らの責任で解決するのが当然であり、これにたいして国民の血税を投入するのはまったくスジの通らぬ、無暴なことである。そして、そのようなやり方をやめようというのが、最近の世界の流れになっているなかで、わが国では国民の多数の反対を無視して、不良債権処理をめぐって莫大な税金を投入する仕組みがつくられた。これを支えたのは、「護送船団方式」といわれる政(自民党政治家)・官(大蔵省高級官僚)・財(大銀行幹部)の癒着構造だが、大量の不良債権の発生はそうした日本経済の金融構造の破綻をも意味している。
 ところで、98年3月期に10兆円をこえる不良債権処理額をひねりだし、「不良債権処理にメドがついた」と口をそろえた大手18行は9月の中間決算で、金利低下を追い風に高水準の業務純益をあげる一方、通期で不良債権処理額が7兆8400億円に達するといわれる。不良債権処理が本格化した93年3月期から99年3月期までの処理額は、18行で累計すると43兆5000億円強となるが、そのなかには実際の処理のおくれや不況の長期化によって発生した不良債権もふくまれている。そのおくれの理由とて、小西一雄氏は、@問題の隠蔽と引き延ばし、A不況の長期化、B直接償却の遅れ、C銀行問格差をあげているが、このようにして不良債権問題の傷口が広げられてきたことを見のがすことはできない。
 ここで、不良債権処理のための税金投入の枠組みづくりの経過と内容を簡単に紹介する。
 97年11月の北海道拓殖銀行(拓銀)、山一証券の破綻から1年、政府、自民党などは、バブルに踊った乱脉経営のツケを国民に押しつけるため税金による銀行救済・支援策を強行してきた。「預金者保護」「貸し渋り対策」「善良な借り手保護」を口実に支援枠は10兆円→30兆円→60兆円にふくれあがったのである。
 第1段階。拓銀、山一の破綻が表面化した97年11月、宮沢元首相は金融システムの安定化のためには公的資金の投入が絶対必要といいだした。12月はは自民党の緊急金融システム安定化対策本部が10兆円枠の銀行支援策を決めた。
 第2段階。98年2月、通常国会で政府は30兆円枠の銀行支援策を強行成立させた。その中身は@金融機関の破綻処理などに税金を投入する預金保険法「改正」案(17兆円枠)、A大手銀行の体力増強に税金を資本注入する「金融安定化法案」(13兆円枠)。
 不況がいっそう深刻化するもとで、30兆円枠で、都銀など21行に総額約1兆8000億円が資本注入された。政府は、不況の原因が「金融不安」にあり、銀行への資本注入で「貸し渋り」が解消され、景気回復につながると宣伝した。しかし、現実には「貸し渋り」は一段と強まり、「健全銀行」だとして資本注入をうけた日本長期信用銀行(長銀)はわずか3ヵ月で破綻した。
 第3段階。7月の参院選では、消費税、不良債権問題が大きな焦点となり、自民党は惨敗し、日本共産党は躍進した。そして、小渕内閣が橋本内閣とかわったが、銀行への税金投入路線に固執し、税金投入枠を一挙に60兆円に引き上げるなどの改悪された金融関連法が10月臨時国会で強行可決された。
 金融関連法は、〔図2〕のように、あらゆる銀行を対象に、すでにある預金者保護の「特例業務勘定」、国が一時国有化や「ブリッジバンク」(つなぎ銀行)方式などで破綻した銀行を丸がかえして税金で後始末をする「金融再生勘定」、「早期健全化勘定」の三つをふくんでいる。「早期健全化勘定」は、日本版「ビッグバンの下、大手銀行に国際投機競争に耐えられる“体力”をつけさせるため、銀行の自己資本に最大25兆円の公的資金を注入できるようにしている。また、国の資金注入にあたって乱脉経営で巨額の不良債権を発生させた経営者の責任を棚上げする一方、「リストラ計画」を作成して一般従業員の削減を強行させることを義務づけている。すでに大手18行は最大で5兆7800億円の公的資金の申請を決めている。  98年4月、投機的取引をふくむ資本取引の規制が原則廃止されたのにつづいて、12月、銀行・証券・保険分野の公的規制を大幅に緩和する「金融シテスム改革法」が施行され、日本版「ビックバン」が新しい段階に入った。実体経済のゆきづまりを反映して銀行が過剰といわれるなかで、日本版「ビックバン」は金融機関の整理・再編を意識的にすすめ、投機的国際競争に勝てる巨大銀行をつくることを狙ったものであり、大銀行への公的資金の資本注入はそのテコとなるものである。
図2  しかし、それとは対照的に銀行、とくに大銀行による「貸し渋り」・資金回収はすさまじさを増しており、「貸し渋り」による企業倒産は98年1〜10月合計で671件、前年の5倍に達している。また、公的資金の投入枠60兆は日本国民が国に納める税金1年分(57兆円、国民1人あたり50万円)を超える巨額なものである。大銀行がこの税金を使っていけば、日本の財政危機はいっそう深刻となり、国民生活関連予算の削減や、消費税の大増税の方向にすすむ危険性が非常に強まることは明白である。

アジアの経済危機と日本の大企業・大銀行

 1997年7月、タイの通貨・バーツの暴落に端を発したアジア通貨危機・経済危機は現在2年目に入っているが、IMF(国際通貨基金)のきびしい支援下にある韓国、タイ、インドネシアをはじめアジア各国は、莫大な対外債務と過剰生産・大量失業をかかえ、深刻な同時不況がつづいている。
 ところで、アジア各国が急激な経済成長をはじめたのは1980年代のなかごろからで、90年代には「世界の成長センター」と呼ばれた。その急成長のひとつ要因はすさまじい外国マネー、外国資本の流入であり、アジアの製造業では大規模な設備投資がくり返され、工業生産が飛躍的に発展した。アジア諸国はこの生産力と国際的に非常に低い賃金とを結びつけて輸出競争力を強化して工業品輸出を飛躍的の伸ばしたが、そのトップランナーがタイであった。しかし、このようなアジア諸国の輸出急増にはもう1つの要因があった。それは95年にピークに達した円高・ドル安という国際環境で、ドルと連動した為替相場制をとり、日米を主要輸出相手国とするアジア各国にとって非常に有利な条件であった。しかし、95年を境にして円高・ドル安は円安・ドル高に転じ、アジア各国の輸出競争力は一挙に失われ、貿易収支の黒字が減り、赤字が増えはじめた。
 もう1つの大きな変化は、90年代に世界的な投機的取引をふくむ資本取引の自由化がすすむなかで、「世界の成長センター」であるアジア諸国に、これまでの長期資金ではなく、生産と結びつかない、投機性が強く、逃げ足の早いといわれる短期資金が大量に流入したことである。その異常な膨張がアジアバブルを発生させ、「ヘッジファンド」と呼ばれる米系国際投機集団が急成長のトップセンターであるタイのバーツに目をつけ、大量のパーツ売り・ドル買いにでて、パーツを暴落されることになった。
 このようなアジア経済危機は日本経済に重要な影響をもたらし、不況を長期化、深化させる一因となっているが、ここでは日本の大企業・大銀行がアジア経済危機に関連して果たしてきた役割について簡単にふれることにする。
 日本の大企業にとって、アジアは最大の輸出先(96年総輸出の46%)であり、海外現地生産を急速にのばし(95年、直接投資累積額747億ドルでアメリカの1.6倍)大きな利益をあげてきた。また、日本の大銀行も日本でのバブル崩壊後高い利回りを求めて融資を大幅に増やし、最大の融資国(97年、2714億ドル)となっており、バブルや過剰生産のもとをつくった意味で大きな責任がある。さらに、IMFの融資条件がその支援下におかれている3国の経済危機を深めたという指摘があり、マレーシアでは短期資金の移動を規制する重要な実験も行われている。これにたいして、日本はIMFをテコに使ったアメリカの横暴な政策を支援してきた点でも重大な責任がある。
 今日、世界経済に大きな困難をもちこんでいるアメリカの横暴なドル戦略とこれに従属する日本の金融・財政にたいする批判を強めると同時に、大企業・大銀行がアジアで果たしてきた役割を明確にすることは、私たちが今後日本の経済再建を、アジア諸国と連帯していくなかで進めるために不可欠である。

(会員・労働者教育協会理事)


全労連編
「1999国民春闘白書」発刊

 第1部・総論
  労働者・国民の状態の急速な悪化と政治経済の新局面
 第2部・各論
  T.深刻な雇用・失業問題と緊急雇用対策
  U.行革・規制緩和と労働法制改革反対のたたかい
  V.広範な労働者との共同した賃金闘争、最賃闘争
  W.21世紀へむけた日本の社会保障制度をどうするか
  X.新ガイドライン立法化阻止をはじめとする平和を守るたたかい
  Y.労働者・国民の期待にこたえ、不況打開・国民生活擁護の国民的闘争を
  Z.未組織労働者へ組織化の積極的な働きかけを
   ─データで見る労働者と労働組合

 ─資料─
 ※第3回地域政策研究全国交流集会への問題提起
 ※「主要企業11社の内部留保」の概要
   ─ビクトリー・マップ98秋闘版─

 発 行 学習の友社
 東京都港区新橋6−19−23
        平和と労働会館内
 鴎03−3433−1856 
 振替/東京00100-6-179157
  定 価 1,300円

 (注)毎年の「春闘白書」の発行にあたっては、労働総研は編集及び執筆に協力しています。

11月の研究活動

11月3日政治経済動向研究部会=報告・討論/宅美光彦著「『大恐慌』型不況」(講談社)についてのコメント
13日青年問題研究部会=報告・討論/学制の比較 −ドイツと日本
19日女性労働研究部会=報告・討論/「同一価値労働同一賃金」について
21日日本的労使関係研究プロジェクト=報告・討論/今後のプロジェクト研究について
26日労働時間問題研究部会=報告・討論/ヨーロッパにおける労働時間短縮の現状と特徴(ドイツとフランスを中心にして)ほか
27日国際労働研究部会=報告・討論/@ベトナム労働総連合第8回大会A公務インター第8回大会B「世界の労働者のたたかい−1998」発行準備

寄贈・入手図書資料コーナー

11月の事務局日誌

11月10日京都医労連「1998年労働学校」(宇和川)
12〜14日全労連第2回全国討論集会(草島)
27日98年第1回企画委員会(黒川、戸木田、大江代表理事、牧野、草島、宇和川)
全労連役員との懇談会(上記企画委員)
28日日本共産党主催「労基法改悪と職場でのたたかいについての報告・討論集会」(宇和川)