労働総研緊急提言

雇用と就業の確保を基軸にした、住民本位の復興
    ――東日本大震災の被災者に勇気と展望を(概要)

2011年4月22日
労働運動総合研究所


 東日本大震災からの復興にかかわって、労働総研は「雇用と就業就労を基軸にした住民本位の復興」政策の実施を求め、別添の提言を発表する。とりわけ強調したいのは以下の点である。

1.復興財源には大企業の内部留保を活用
 復興に必要となる多額の費用の財源には、企業内に蓄積されている内部留保(ため込み利益)を活用すべきである。資本金1億円以上の企業3万3355社の内部留保額は、2009年度までの10年間で189.7兆円から317.6兆円へと127.9兆円も積み増している。仮に復興事業費を15兆円と想定するなら、内部留保総額の4.7%にすぎない。しかも内部留保のうち換金性資産は99兆円にも上る(現金・預金、有価証券、公社債、自己株式等)。つまり、財源調達要請に迅速に対応できるということである。

2.内部留保を活用した復興で景気回復をはかる
 大企業が引き受ける国債は無利子で引き受けることとする。それでも企業は復興事業の経済波及効果を享受でき損はない。労働総研の試算によれば、社会インフラ設備の復旧に8兆円、被災者生活資金等に5兆円、地場産業等の復旧・復興資金に2兆円投入すると、その経済波及効果は、国内生産誘発額で26.5兆円、付加価値誘発額(錐蒼熨告カ産)で13.2兆円となる。日本の経済成長率を2.6%以上押し上げる効果が生まれる。ほかにも復興事業を呼び水とした民間設備投資が加わるため、さらなる生産拡大、付加価値額の増加が見込まれる。
 なお、消費税増税で財源をまかなうとの意見もあるが、ただでさえ苦しい国民・労働者家計に過重な負担を強いることは、消費の落ち込みを招き不況を長期化させ、復興を停滞させる愚策である。

3.復興政策では「構造改革路線」の誤りを正し、雇用・就業確保を軸とした住民本位のものとする
 復興政策の柱として、以下の4本の視点を据えることを提案する。
(1) すべての被災者・失業者の生活と住居の保障
(2) 国や自治体など公的責任による雇用創出
(3) 住民と自治体参加による復興計画の策定と住民本位の行政体制の再確立
(4) 農漁業や地場産業・中小企業復興、「安心の街づくり」等への公的支援

 詳細は本論に譲るが、いくつか提案を列挙するならば、
・被災者が主導する「住民復興会議」を設置し、“上から目線”でないボトムアップ型復興の牽引役とする。
・広域行政化=市町村統廃合により、必要な施策が住民に届かない問題が浮き彫りとなった。住民本位の自治体機能を拡充させる。公務員も増員する。
・雇用保険の適用を受けない農漁業者、自営業者等のため、全額国庫負担の「失業手当」を新設し、就労の実現まで給付する。
・公的就労事業をはじめ、被災者に潤沢な雇用機会を提供し、賃金収入と消費の経済サイクルを復活させる。
・復興事業は地元事業者への発注を基本とする。
・国や自治体は公契約の発注にあたり、現場労働者への賃金水準の保障と健康を守る措置を徹底する。
……等を実施すべきである。

 最後に、復興にあたって、道州制などの広域行政化推進、消費税増税実施、TPP導入など、この危機的状況を利用して、大企業優先の政策導入を強行しようとする動きがある点に、国民の注意を喚起したい。これらは労働者・庶民の暮らしに痛みを与え、多国籍大企業のみが肥え太り、国民経済を危機に招くものであり、復興政策において採用してはならない路線である。

以上

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