2010年12月14日

労働総研提言

「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵――企業の社会的責任を問う」(概要)

労働総研代表理事 牧野富夫
労働総研研究員  木地孝之
労働者状態統計分析研究部会 藤田 宏


 労働総研は、この度、労働総研提言「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵――企業の社会的責任を問う」をまとめた。
 日本経済はいま、深刻な病=デフレに陥っている。その根は深く、日本経済は深刻な危機に直面している。この危機を生み出した最大の要因は、企業が膨大な利益をあげながら、設備投資にも回さず、労働者にも配分せずに、内部留保としてため込んできたことである。その結果、日本経済は深刻な需要不足に陥り、構造的なデフレ体質になってきた。
 提言では、こうした状況を踏まえ、(1)企業が目先の利益だけを追うことを改め、社会的責任を自覚して、必要な賃上げや労働条件の整備をおこない、内需の拡大をおこなうこと、(2)政府は、企業の収益が国民生活の向上につながるように必要な法制度の整備をおこない、国民の合意にもとづいて企業活動をコントロールすることが、現下の日本経済の危機を打開するうえで、待ったなしの課題となっていることを明らかにした。2011年春闘での労働組合のたたかいの発展が期待される。

【労働総研の主張】
 1 今回の提言にあたって、われわれは、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスの先進5カ国の雇用者所得と国内総生産についての国際比較(1995〜2008年)をおこなった。そのなかで、日本だけが雇用者所得が減少し、他の4カ国はいずれも増加していることがわかった。重要なことは、雇用者所得の増減に比例して国内総生産も増減していることである。つまり、不況下でも頑張って賃金を支払ってきた企業・国が経済を維持・拡大できたということである。

 2 リーマンショック後の2年間を振り返ると、国の財政は税収の落ち込みが著しく赤字国債を41兆円も積み増し、労働者家計は賃金の低下と失業の増大などで家計貯蓄は81万円も減少している。ただ、企業の内部留保だけが以前と変わらず増加し、2年間で38兆円も増加している。
 企業の内部留保を国内需要に転嫁させることが決定的に重要である。企業が社会的責任を自覚し、労働者に十分な賃金を支払い、非正規労働者の待遇改善を図り、非正規の正規化などをおこなってこそ、日本経済は成長することができる。

 3 われわれは、今回の提言にあたって、(1)非正規労働者の待遇改善――非正規雇用を正規雇用に変える、(2)最低賃金を1000円に引き上げる、(3)すべての労働者の賃金を月1万円引き上げる、(4)働くルールの厳守(サービス残業根絶、年休完全取得、完全週休2日制)による356.1万人の雇用創出をはかることを提起した。
 産業連関分析の手法で、そうした施策を実現した場合の経済効果を算出したところ、これらすべてを実現すると、356.1万人の雇用創出と27.1兆円の消費需要が生まれ、それによって国内生産が51.1兆円、付加価値(触DP)が26.3兆円誘発される。日本のGDPをおよそ500兆円とすると、経済成長率を5.26%も押し上げることになる。それに伴い、税金も国と地方を合わせて4.7兆円の増収となることもわかった。そのために、38.2兆円の原資が必要になるが、この額は1999〜2009年の内部留保増加分の19.5%にすぎず、企業がその気になれば十分に可能である。

【試算結果】
 試算結果の具体的内容は以下の表の通り。

(注)産業連関表は、企業間および企業と家計や外国との間の財・サービスの取引を一覧表にまとめたものであり、需要の変化がもたらす国内生産活動を、産業間の生産波及効果を含めて、詳細な分類ごとに計測することが出来る。たとえば、自動車に対する需要が増加すると、自動車の生産→タイヤの生産→合成ゴムの生産→エチレンの生産→原油の輸入といった具合に、次々と関連産業の生産が誘発される。産業関連分析によって、ある需要(ここでは賃金引き上げ、労働条件改善、雇用増などに伴う消費需要)の増加が、国内のどの産業の生産をどれだけ拡大するかを計測することができる。

労働総研提言「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵――企業の社会的責任を問う」全文(pdf)