2009年7月27日

東北で働く単身者に保障されるべき最低生計費はいくらか

生活実態調査、持ち物財調査、物価調査に基づく、最低生計費試算

全国労働組合総連合(全労連)
全労連東北地方協議会
労働運動総合研究所(労働総研)
監修責任者
佛教大学教授 金澤誠一


1.調査と試算の実施概要

(1) 全労連と全労連東北地方協議会(青森労連、いわて労連、秋田県労連、山形県労連、福島県労連、宮城県労連)と労働総研は、共同して「東北地方における最低生計費試算」を行なった。佛教大学の金澤誠一教授の指導・監修のもと、2009年5月7日から6月10日にかけて「持ち物財調査」と「生活実態調査」、「価格調査」を実施。中間集約の結果から、最低賃金制度でDランクとされる4県(青森、秋田、岩手、山形)の若年単身世帯を取り出し、分析にもとづいて東北地方の男性若年単身労働者世帯の「最低生計費」を試算した。試算にあたっては「健康で文化的な最低限度の生活=人間らしい生活」を保障しうるものとした(試算の考え方と方法の詳細は「報告書」を参照)。

(2) 有効に回収された調査票は、全1528ケースで回収率は25%。最低賃金Dランクの青森、秋田、山形、岩手の4県は1009ケースで、うち、20歳代と30歳代の若年単身世帯は162ケース。男女別内訳は男性65ケース、女性97ケースである。

(3) 今回の試算の目的は、最低賃金制度でDランクとされる地方で暮らす若年単身労働者世帯の「最低生計費」の水準を明らかにし、それを昨年発表した首都圏の結果と比較することにある。そこで、首都圏モデルと同様、設定は25歳単身男性労働者とし、岩手県北上市の郊外に居住し市内に通勤するものとした。選定の根拠は、北上市は、人口約9万の地方都市であり、生活保護3級地−1の地域に属し、最低賃金制度Dクラスの典型的都市と考えたからである。こうした設定から、試算結果は東北の他の小都市にも通用するものと考えている(補足説明は後述)。

2.試算の結果

(1) 25歳の単身男性労働者の最低生計費は、月額231,421円(税等込み)となった。内訳は、消費支出が171,818円、税・社会保険料の非消費支出が42,603円、貯金など予備費が17,000円。年額にして2,777,052円である。

(2) この生計費でまかなわれる生活の内容は、以下のようなものである。
・25平方メートルの1Kのアパートに住み、家賃は駐車場代込みで30,000円。39万円の中古車を所有し、通勤に使用している。冷蔵庫、炊飯器、電子レンジ、洗濯機、エアコンなど基本的な家財道具は、量販店で低価格でそろえた。娯楽用の耐久財としてテレビとパソコンを所持。光熱水道費は月額9,017円。
・朝食はパンと牛乳もしくはコーヒー。昼は500円の弁当。夕食は主に自炊(500円程度)。そのほか、月3回、友人と会食(1回2500円)をしている。
・背広は3着(16200円)を着まわし、ワイシャツは5枚(1970円)、靴は2足(5880円)。カジュアルな服はジーンズ等(1980円)3本、Tシャツ5枚(480円)等。
・月の小遣いは6000円。休日は家にいることが多い。上記の友人との会食以外の娯楽・レジャーは月2回、映画とショッピングなど(1回2000円)。1泊の旅行をする機会は、年に2回(1回30000円)。日帰りの旅行は年2回(1回5000円)。

3.試算結果からいえること

(1) 東北Dランク地方の必要最低時給は1,332円。今の最賃は低すぎる。
 現行の今回の試算の最低生計費(税込み)月額231,421円を、賃金収入で得るとすれば、時給換算で1,332円必要ということになる(同種の計算をする場合に厚労省が使う法定労働時間上限の月173.8時間で計算)。ところが、今の最賃額は、青森630円、岩手628円、秋田629円、山形629円。Cランクの福島でも641円、宮城も653円と、試算された最低生計費水準の時給には遠く及ばない。つまり、今の最賃は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する水準には程遠いといえる。

(2) 東北と首都圏とで若年単身者の最低生計費に差はない。最賃の地域格差はなくすべき。
 これを首都圏モデルと比較するとどうか。さいたま市在住で都心部勤務の25歳男性の最低生計費(税込)は月233,801円、時給1,345円。東北は月額2,380円、時給13円下回るにすぎない。

(3) 東北と首都圏の生活の中身には違いがある。
 第1に、住居費の違いである。首都圏では住居費(54,167円)が東北より24,167 円高い。家賃の違いだけでなく、東北では共益費や更新料がない場合が多い。第2に、交通費の違いである。東北では自動車が必需品である。したがって、自動車購入費と維持費の合計である交通費(32,542円)が、首都圏より23,469円多くかかる。第3に、気候の違いにより光熱・水道費(9,017円)も2,465円上回る。こうした違いにもかかわらず、最低生計費の合計は、費目ごとの増減が相殺されて、ほぼ同水準ということができる。

(4) 最低生計費と生活保護基準との比較−3級地の生活保護は低すぎる−
 試算結果を生活保護基準と比較するとどうか。北上市のような地方小都市は3級地−1にランクされる。日常生活費のうち、個人単位で消費される衣食などの生活扶助費第1類(20歳〜40歳)は33,020円。世帯単位に消費される光熱・水道費などの生活扶助費第2類は単身の場合、35,610円である。賃貸アパートに住む場合の住宅扶助は特別基準で25,000円。暖房費である冬季加算(11月から3月まで)は月14,280円。期末一時扶助費(12月)は11,630円。生活扶助額と住宅扶助額、冬季加算と期末一時扶助費の月割り分を合計すると月100,549円となる。また、生活保護では、勤労している場合、勤労必要経費の控除が認められる。その額は収入10万円程度で月33,220円。つまり、若年単身労働者のための生活保護基準は、勤労控除を加えて133,769円ということになる。
 生活保護基準と、試算された「最低生計費」とを比較するには、生活保護受給世帯に免除されている税金や社会保険料、NHK受信料、現物支給される医療扶助相当額、通勤費や労働組合費を「最低生計費」から差し引いた額で比較するのが妥当である。「最低生計費」からこれらを差し引いた額を「保護基準相当額」とすると、当該モデルの生活保護制度による保護基準133,769円を1.0倍とした場合、算定された「最低生計費」の保護基準相当額は165,286円で1.24倍となる。首都圏の場合の生活保護費は、試算した最低生計費とほぼ均衡していた(1.02倍)が、3級地−1の生活保護費は、生活の質を保障する面からみて低すぎるといえる。

4.若干の補足説明

○北上市モデルを東北の他の小都市でも活用することについて
 今回の試算では、東北Dランク各県間の最低生計費には大きな差はないことを前提としているが、このことは公的な制度の基準においても同様となっている。表は、岩手県を基準として、各県の生活保護基準(県都)と最賃額を比較したものである。
 最賃についてみると、東北Dランク各県は、横並びで、東北Cランクの宮城、福島各県では4%、2%とやや上回っている。これを首都圏Aランクと比較すると、15%から22%も上回っている。
 同様の傾向は、生活保護基準においてもみられる。(級地別の生活基準の比較については別紙参照)

生活保護 指数 最低賃金 指数
青 森 143,488 102 630 100
岩 手 140,855 100 628 100
宮 城 149,338 106 653 104
秋 田 143,488 102 629 100
山 形 140,855 100 629 100
福 島 138,348 98 641 102
埼 玉 161,200 114 722 115
千 葉 154,257 110 723 115
東 京 167,770 119 766 122
神奈川 167,770 119 766 122

最低生計費 若年単身世帯 総括表

最低生計費 若年単身世帯 総括表