すべての労働者に1,000円以上の最低賃金を保障せよ

――《試算》・最低賃金アップが「日本経済の健全な発展」をもたらす――

2007年2月26日
労働運動総合研究所
代表理事 牧野富夫
研究員  木地孝之

1)

 わが国の法定最低賃金は低すぎる。地域別最低賃金は47都道府県ごとに決定され、全国平均は時間額673円である。最も高い東京でも719円、最も低い青森、岩手、秋田、沖縄では610円にとどまる。世界の大半の国では最低賃金は全国一律制度として設定され、フランスやイギリスなど先進国の多くは1,000円以上の水準を設定している。日本とならんで最低賃金の低さが際立っていたアメリカも近々870円程度に引き上げる動きだ。今や日本の最低賃金の突出した低さが、国際的に際立っている。この事実は、「国がワーキングプアの存在を容認している」ことを意味する。ただちに「1,000円以上」に引き上げるべきだ。


2)


 最低賃金法(第1条)は、「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と定めている。平均673円という極度に低い最低賃金は、法の第1の目的である「労働条件の改善」に役立たないばかりか、賃金抑制のための「重し」の役割さえ果たしている。また、これでは「労働力の質的向上」や「事業の公正競争の確保」にもならず、「国民経済の健全な発展」にも寄与できない。逆に、極度に低い最低賃金が「内需低迷」を招き、「不安定な日本経済」の要因となっている。最低賃金の「改善効果」が低所得層の「需要喚起」において絶大であることを、とくに強調したい。


3)


 経済財政諮問会議の民間議員である丹羽宇一郎氏(伊藤忠会長)も、日本の最低賃金は「完全に低い」と認めている(07年2月25日のNHKテレビの日曜討論)。ただし、一挙に1,000円レベルに引き上げると「中小企業が困る」という論法だ。これは大企業・財界の「共通の論法」であり、そのホンネは、大企業の「下請支配等による中小企業の低賃金利用のうまみ≠ェ減るので困る」、という点にある。
 大企業と政府のさまざまな「中小企業いじめ」を軽減すれば、1,000円余りの最低賃金が中小企業の経営を圧迫するようなことはない。最低賃金のアップは中小企業も含めた「国民経済の健全な発展」に寄与するのだ。


4)


 以上のごとき状況にかんがみ、われわれ労働運動総合研究所は、労働組合等の「時間額1,000円以上の最低賃金」要求を支持し、その実現は「労働条件の改善」にとどまらず、「国民経済の健全な発展」に寄与すること(つまり最低賃金アップの「経済波及効果」)を、別掲の《試算》で提示するものである。

以 上

最低賃金引き上げの経済波及効果について

2007年2月26日
労働運動総合研究所

○厚労省の『賃金構造基本統計調査(2003年)』の対象労働者(回収ベースで2,800万人)を前提に、最低賃金を全国一律で1,000円へと引き上げることによる経済波及効果について産業連関表を利用して試算した。約700万人の労働者の賃金が総額年間2兆1,857億円増加し、それに伴って消費支出が1兆3,230億円増加、各産業の生産を誘発して国内生産額を2兆6,424億円拡大し、GDPを0.27%押し上げる効果をもつことがわかった。

○仮に高所得者層が、上記の賃金増分と同額の追加収入を得たとしても、消費支出は7,545億円増にとどまり、低所得者層の賃金引き上げをした方が消費により多くのお金が回ることもわかった。また、低所得者層の消費増の波及効果は、中小企業関連の産業分野により多くあらわれることがわかった。

○試算から、次のような政策的示唆を得た。すなわち、最低賃金引き上げによる中小企業の生産コスト増を心配する声があるが、それによる消費需要増の成果を受け取るのは主に中小企業である。中小企業はワーキングプア根絶の社会的意義をふまえ、積極経営の立場に立ち、当面の苦しさはあったとしても、最賃引上げに賛同することによって、その果実を受け取ることができる。さらに労働者と力をあわせ、単価引上げや取引慣行の改善、中小企業支援策などを大企業と政府に対し、要求していくべきである。

【問題設定】

(1)今の企業業績は過去最高水準だが、内需低迷で輸出頼みの危弱な経済となっている。生産力は強化されたものの「その商品を誰が買うのか」、すなわち国内の消費購買力引上げが経済政策上の重要課題となっている。 

(2)一方、貧困の拡大に歯止めをかけることは社会政策として急務の課題である。小泉構造改革路線の成長戦略は、いざなぎ景気をこえる“長期の好況”のもとで貧困と格差を拡大し、働いても生活できないワーキングプアを生み出した。事態解消のため、いま最低限おこなうべきことは最低賃金の引上げである。

(3)労働者に保障すべき「最低の生計費」については、生活保護基準や独自の試算など諸説あるが、単身者で年間200〜240万円は必要といわれている。つまり最低限の生活を保障しうるギリギリの水準として、時間額1,000円は必要である。時間額1,000円は、フルタイマーの年間平均労働時間である2,000時間を働いて、やっと200万円に手のとどく水準である。

(4)最低賃金を1,000円に引き上げることは、決してわが国経済にマイナスの影響を及ぼすものではない。今回、当研究所は、最低賃金引き上げによって生産コストがどの程度増加するかを試算し、それが経済に及ぼす効果を「産業連関表」を使って分析した。

【試算結果】

1.試算の前提

(1)最低賃金引き上げで全労働者の時間当り賃金を1,000円以上へと引き上げた場合の経済波及効果を試算した。

(2)時間当たり賃金の分布データは、労働政策研究・研修機構の『日本における最低賃金の経済分析』(2005年11月8日)を利用した。これは厚生労働省『賃金構造基本統計調査2003年』を特別集計・分析したものである。対象労働者は民間・事業所規模4人以下と公務を除いており、復元したサンプルサイズで2,800万人弱である。

(3)賃金増分が消費をどの程度増加させ、どのような費目に回るか(限界消費性向)については、総務省の『全国消費実態調査報告』(2004年)を利用した。ここで言う「低所得者層」とは年収200万円未満(月の勤め先収入の平均145,383円)から200〜250万円(同186,778円)の層、「高所得者層」とは、年収1,500〜2,000万円(同925,383円)から2,000万円以上(同1,159,876円)の層を指し、限界消費性向は、それぞれが下位から上位へ移った場合の、費目別に見た支出増である。

(4)パート労働者の労働時間および日数については、1日6時間×1月20日×12ヶ月=年間1,440時間と仮定した。これは、多くのパート労働者が、課税および社会保険料の負担を免れるために、年間収入が103万円を超えないように働いているからである(年間1,030,000円÷全国平均最低賃金673円=1,530時間=12ヶ月×20日×6.37時間)。

2.結 論

(1)厚労省『賃金構造基本統計調査』データをもとに、最低賃金を時給1,000円に引き上げた効果をみると、パート374万人、一般労働者309万人の賃金が改善される。賃金上昇月額は全国平均でパート2.5万円弱、一般労働者2.9万円弱。日本全体の賃金総額増分は2兆1857億円となるが、この額は平成17年の賃金・俸給総計(225.3兆円)の1%弱にすぎず、国内生産額(939.7兆円、GDPベースでは506.8兆円)のわずか0.26%(GDPベースでも0.43%)である。企業の直接的なコスト増はこの程度であり、国内物価への影響も波及効果を含めても0.5%程度と推測される。なお、国際競争力の低下を心配する向きがあるが、物価上昇は為替レートの変化で調整されるはずだから問題にする必要はない。

(2)購買力引上げを考える場合、優先すべきは低所得者層である。低所得者層は、賃金引上げに伴う実収入増加分の74.6%(消費支出増/実収入増)を消費するのに対し、高所得者層は25.4%を消費するに過ぎないからである。
最低賃金を1,000円に引き上げた場合、賃金支払い総額は年間2兆1,857億円増加し、それに伴って消費支出が1兆3,230億円増加するが、高所得者層の収入を同額増やしたとしても消費支出は7,545億円増加するに過ぎない。

(3)また、消費される商品(財・サービス)も高所得者層と低所得者層とでは傾向が異なる。上記のように、そもそも消費支出の増加額そのものが、高所得者層より低所得者層の方が大きいのだが、これを商品(財・サービス)別に見ると、特に高所得者層より低所得者層の方が消費支出が大きいのは、中小・零細企業が多い農業、食料、繊維、および自動車、教育・研究、対企業サービスであり、逆に高所得者層の消費支出の方が低所得者層より大きいのは、大企業が多い民生用電気機器、その他輸送機械(自転車、ヨットなど)、土木建設(住宅補修、庭造りなど)および郵便・通信である。つまり、低所得者層の収入増は、主として中小企業分野の需要を拡大するのに対し、高所得者層の収入増は、主として大企業分野の需要を拡大することになる。

(4)ある製品に対する需要増は、まず、その製品を生産している企業の生産を拡大するが、それだけにとどまるのではない。例えば、自動車に対する需要増は、まず、自動車産業の生産を拡大するが、次の段階では、その生産に必要な原材料やサービスの購入を通じて、様々な企業の生産を拡大する(自動車の生産→タイヤの生産→合成ゴムの生産→エチレンの生産→ナフサの生産→原油の輸入といった具合である)。産業連関分析は、ある需要(収入増に伴う消費需要)の増加が、究極的に見て、国内の、どの産業の生産を、どれだけ拡大するかを計測するものである。

(5)それでは、最低賃金を時給1,000円にすることによって増加する1兆3,234億円の消費需要は、どの産業の生産をどれだけ増やすか。45部門に統合した平成12年(2000年)の産業連関表を利用して計算すると、まず、トータルとしての国内生産額は2兆6,424億円拡大するとの結論が得られた。当初需要に対する倍率は2.00倍になる。この国内生産額をGDP(国内総生産)に換算すると1兆3,517億円になり、今回使用した産業連関表の対象年次である2000年のGDPの0.270%に相当する(2005年のGDPでは、0.267%に相当する)。
つまり、最低賃金の時給1,000円への引き上げは、日本経済全体への影響として、GDPを0.27%程度引き上げる力を持っている。景気が回復したといっても、当面期待できる日本経済の成長率は2%台だから、0.27%の上積みは、かなり大きいといえる。

(6)ちなみに、高所得者層の収入を同額増やした場合の効果を計算してみると、同額の賃上げ(または、減税等による収入増)によって増加する消費需要7,545億円は、究極的に見て国内生産額を1兆6,100億円誘発することになる。当初需要に対する倍率は2.13倍であり、1単位の需要が誘発する国内生産額は、低所得者層の需要より高所得者層の需要の方が大きい。しかし、そもそも収入増が消費需要にまわる割合が低いから、誘発される国内生産額の大きさは、低所得者層の1/1.6にすぎない。

(7)さらに、低所得者層の消費需要と高所得者層の消費需要では、究極的に見た各部門別の生産額(生産誘発額)がどのように異なるかを比較してみる。低所得者層の需要によって誘発される国内生産額の方が高所得者層のそれより3倍以上大きい部門は、農業、漁業、飲料・たばこ、化学肥料・農薬、皮革・同製品、ガス・水道・熱供給および、教育・研究であり、ほとんどが農林漁業と中小企業の分野である。

(8)以上の結果から、高所得者層に金をまわすより、低所得者層にまわすほうが内需を高め、しかも地場産業など、地域の中小企業関連分野により効果があるといえる。
 最低賃金引き上げによる中小企業の生産コスト増を心配する声があるが、それに伴う消費需要の成果を受け取るのは、主に中小企業である。「売り上げを伸ばして収益を増やす」という、積極経営の立場に立つなら、当面の苦しさはあったとしても、むしろ最低賃金の引上げを積極的に推進し、同時に、労働者と力をあわせて、大企業に取引単価の引上げなどを要求していくべきである。

*この試算をもって、雇用労働者全体(約5,300万人)の経済波及効果の推計を行うことは、『賃金構造基本統計調査』の制約(民間事業所4人以下除外等)があり困難だが、あえて行うとすれば影響労働者数を約1.9倍(1,330万人)し、その波及を試算することになる。

以上

表1 時給千円未満の労働者数、千円以上にあげた場合の賃金増額
地域 地域別
最賃額
時給1,000
円未満の
パート労働
者数(人)
時給1,000
円未満の
一般労働
者数(人)
賃金増額(円/月) 最賃1,000円に引上げた場合
の賃金増加総額(億円)*1
パートの最
賃1,000円
以上にした
場合(円/月)
一般労働
者最賃
1,000円以
上にした場合
パート 一般 合計
北海道 644 190,422 209,298 32,353 31,528 739.3 791.8 1,531.1
青森 610 36,455 86,054 31,554 37,196 138.0 384.1 522.1
岩手 610 40,133 87,117 32,807 34,968 158.0 365.6 523.6
宮城 628 67,064 80,481 27,551 29,371 221.7 283.7 505.4
秋田 610 31,206 59,274 30,729 33,004 115.1 234.8 349.8
山形 613 25,453 67,606 28,858 30,599 88.1 248.2 336.4
福島 618 56,775 82,859 30,935 31,172 210.8 309.9 520.7
茨城 655 85,973 52,763 24,579 26,385 253.6 167.1 420.6
栃木 657 68,795 57,193 25,650 27,527 211.7 188.9 400.7
群馬 654 57,796 42,841 24,560 25,112 170.3 129.1 299.4
埼玉 687 268,392 74,051 22,734 25,309 732.2 224.9 957.1
千葉 687 181,132 58,907 20,486 25,486 445.3 180.2 625.4
東京 719 328,332 152,318 16,878 26,730 665.0 488.6 1,153.6
神奈川 717 256,167 62,407 19,242 24,900 591.5 186.5 778.0
山梨 655 20,849 16,354 23,038 26,517 57.6 52.0 109.7
長野 655 56,790 61,581 23,641 27,274 161.1 201.5 362.7
新潟 648 64,064 107,222 26,322 28,471 202.4 366.3 568.7
富山 652 25,886 38,008 23,627 24,294 73.4 110.8 184.2
石川 652 31,493 41,207 24,828 27,620 93.8 136.6 230.4
福井 649 22,210 28,146 23,604 25,849 62.9 87.3 150.2
岐阜 675 79,512 59,210 25,116 25,948 239.6 184.4 424.0
静岡 682 127,592 98,462 23,899 25,066 365.9 296.2 662.1
愛知 694 272,228 131,645 22,528 23,451 735.9 370.5 1,106.4
三重 675 59,225 40,833 22,524 31,111 160.1 152.4 312.5
滋賀 662 35,063 22,733 22,318 25,554 93.9 69.7 163.6
京都 686 55,638 32,793 20,881 27,586 139.4 108.6 248.0
大阪 712 201,435 134,959 21,174 24,241 511.8 392.6 904.4
兵庫 683 139,999 91,532 21,836 26,391 366.8 289.9 656.7
奈良 656 39,373 16,931 25,773 30,039 121.8 61.0 182.8
和歌山 652 21,652 19,347 25,758 28,581 66.9 66.4 133.3
鳥取 614 16,514 25,723 26,088 26,972 51.7 83.3 135.0
島根 614 21,064 31,031 29,393 29,685 74.3 110.5 184.8
岡山 648 54,361 58,119 27,045 27,195 176.4 189.7 366.1
広島 654 103,211 79,911 27,386 26,860 339.2 257.6 596.8
山口 646 52,549 51,988 32,273 27,479 203.5 171.4 374.9
徳島 617 11,981 18,638 26,490 28,966 38.1 64.8 102.9
香川 629 29,386 34,711 26,549 26,469 93.6 110.3 203.9
愛媛 616 42,441 46,763 30,297 27,811 154.3 156.1 310.4
高知 615 13,149 24,227 30,797 30,081 48.6 87.5 136.0
福岡 652 173,900 161,503 29,945 27,262 624.9 528.4 1,153.3
佐賀 611 35,205 41,513 32,935 30,682 139.1 152.8 292.0
長崎 611 39,730 68,320 33,169 34,486 158.1 282.7 440.9
熊本 612 53,801 74,099 33,162 32,517 214.1 289.1 503.2
大分 613 21,668 52,615 34,314 36,111 89.2 228.0 317.2
宮崎 611 32,446 63,293 33,827 34,876 131.7 264.9 396.6
鹿児島 611 51,402 80,209 34,708 32,295 214.1 310.8 524.9
沖縄 610 41,586 66,927 38,177 37,840 190.5 303.9 494.4
全国計 673 3,741,498 3,093,722 24,802 28,879 11,135.7 10,721.1 21,856.8
〔資料出所〕「平成18年版賃金構造基本統計調査」、厚生労働省。
※1 賃金増加総額=該当者1人平均賃金増加額×対象労働者数
年間労働時間数は、一般最賃は〔1日8時間×1月22日×12ヶ月=2,112時間〕、
パートは、〔1日6時間×1月20日×ヶ月=1,440時間〕と仮定。


表2  勤労者世帯の収入と支出−低所得者層と高所得者層の比較−
低所得者層 (A)から(B)へ移行することによる 高所得者層 (C)から(D)へ移行することによる
年収200万円未満(A) 年収200〜250万円(B) 増加額(円) 増加率(%) 年収1,500〜2,000万円 (C) 年収2,000万円以上 (D) 増加額(円) 増加率(%)
収入 実収入
178,524
212,088
33,564
1.188
1,006,942
1,325,904
318,962
1.317
 勤め先収入
145,383
186,778
41,395
1.285
925,383
1,159,876
234,493
1.253
 兼業・内職収入
337
326
-11
0.967
7,632
27,543
19,911
3.609
 本業以外の収入
2,739
2,360
-379
0.862
16,673
44,589
27,916
2.674
 財産収入・社会保障給付等
18,933
18,246
-687
0.964
35,781
56,313
20,532
1.574
 特別収入
11,132
4,378
-6,754
0.393
21,473
37,582
16,109
1.750
実収入以外の収入 *1
177,582
206,494
28,912
1.163
744,138
855,903
111,765
1.150
支出 実支出
179,531
212,261
32,730
1.182
771,905
939,749
167,844
1.217
 消費支出
163,790
188,845
25,055
1.153
567,107
648,052
80,945
1.143
 非消費支出
15,741
23,416
7,675
1.488
204,797
291,697
86,900
1.424
  直接税
2,849
4,515
1,666
1.585
102,470
179,962
77,492
1.756
  社会保険料
12,757
18,772
6,015
1.472
102,074
111,537
9,463
1.093
  その他
135
130
-5
0.963
253
198
-55
0.783
実支出以外の支出 *1
177,944
205,362
27,418
1.154
972,054
1,229,796
257,742
1.265
繰越金-繰入金
-1,369
959
2,328
-0.701
7,123
12,262
5,139
1.721
参考 可処分所得 ※2
162,783
188,672
25,889
1.159
802,145
1,034,207
232,062
1.289
平均消費性向(%) ※3
100.6
100.1
70.7
62.7
勤め先収入の増加、1円あたり消費支出増加額 消費支出増加額 (25,055円)/勤め先収入増加額 (41,395円)=0.6053円 消費支出増加額 (80,945円)/勤め先収入増加額 (234,493円)=0.3452円
※1  「実収入以外の収入」とは、預貯金引出、保険取金、有価証券売却など。「実支出以外の支出」は、預貯金、保険掛金、有価証券購入など。
※2  「可処分所得」=(実収入-非消費支出)
※3  平均消費性向=(消費支出/可処分所得)
〔資料出所〕平成16年「全国消費実態調査報告」(家計収支編)、総務省。


表3 最低賃金を1,000円に引き上げた場合の消費支出増加額
総賃金増加額 (表1による) 2兆1,857億円
消費支出増加額 2兆1,857億円×0.6053=1兆3,230億円
(高所得者層の総賃金を同額増やした場合) 2兆1,857億円×0.3452=7,545億円
〔資料出所〕表1および表2。


表4 最低賃金改善の生産波及効果
最低賃金の引き上げにより、低所得者層の生活を改善した場合と
高所得者層の収入を一層増やした場合の生産波及効果の比較
部門コードおよび部門名 部門別生産誘発額(億円) 生産誘発
額の差
最低賃金を千
円に引上げた
場合(A)
高所得者層の
収入を同額増
やした場合(B)
(A/B)
1 農業 1,349.4 329.8 4.09
2 林業 18.7 23.0 0.81
3 漁業 338.7 59.1 5.73
4 石炭・原油・天然ガス 3.8 1.9 1.96
5 その他の鉱業 17.2 12.0 1.43
6 食料品(含:飼料) 2,235.7 840.9 2.66
7 飲料・たばこ 579.5 69.0 8.40
8 繊維製品 1,809.7 1,038.5 1.74
9 木材・木製品・家具・装備品 164.2 242.6 0.68
10 パルプ・紙・紙製品 616.7 484.1 1.27
11 新聞・印刷・出版 442.6 236.0 1.88
12 化学肥料・農薬 37.3 11.4 3.26
13 化学中間製品 448.5 260.6 1.72
14 化学最終製品 466.7 244.6 1.91
15 石油・石炭製品 308.8 190.0 1.63
16 ゴム・プラスチック製品 371.0 228.2 1.63
17 皮革・同製品 112.9 23.3 4.85
18 窯業・土石製品 83.5 68.3 1.22
19 鉄鋼・同製品 222.2 174.3 1.27
20 非鉄金属・同製品 85.6 61.0 1.40
21 金属製品 133.8 117.3 1.14
22 特殊産業機械 14.2 8.2 1.74
23 その他の一般機械 87.4 72.8 1.20
24 民生用電気機器 35.4 197.7 0.18
25 その他の電気機械 203.7 168.2 1.21
26 自動車 1,724.1 995.8 1.73
27 その他の輸送機械 -8.4 28.4 -0.30
28 精密機械 161.6 71.6 2.26
29 その他の製造工業製品 602.5 337.5 1.79
30 建築 252.1 432.9 0.58
31 土木建設 0.0 0.0
32 電力 776.2 328.9 2.36
33 ガス・水道・熱供給 397.3 74.0 5.37
34 下水道・廃棄物処理 135.5 60.0 2.26
35 商業 1,195.3 785.8 1.52
36 金融・保険・不動産 1,758.2 1,131.0 1.55
37 運輸 1,352.7 1,036.4 1.31
38 郵便・通信 313.2 396.6 0.79
39 対企業サービス 2,305.0 1,308.6 1.76
40 公務 188.9 234.5 0.81
41 教育・研究 1,361.7 9.0 151.73
42 医療・保健 252.2 187.6 1.34
43 その他のサービス 1,386.3 1,206.4 1.15
44 分類不明 1,613.3 2,002.8 0.81
45 家計外消費支出 469.5 309.7 1.52
合計 26,424.6 16,100.6 1.64
〔資料出所〕「平成12年産業連関表」(労働総研木地)により計算。


<補足> 低所得者層の教育研究費増分が高所得者層のそれより151.73倍多くなる理由
低所得者層 高所得者層 高所得者層
/低所得者層
(C/A)
年収200万円
未満(A)
年収200〜
250万円(B)
(B-A) 年収1,500〜
2,000万円(C)
年収2,000万
円以上(D)
(D-C)
消費支出 163,790 188,845 25,055 567,107 648,052 80,945 3
 教育・研究 5,537 7,631 2,094 33,892 30,899 -2,993 6
  授業料等 4,399 6,384 1,985 27,364 26,085 -1,279 6
  教科書・学習参考教材 102 123 21 561 348 -213 6
  補習教育 1,036 1,124 88 5,967 4,466 -1,501 6
消費支出全体の大きさは、高所得者層が低所得者層の3.46倍であるが、教育・研究費は6.22倍である。そして、この年の調査では、年収1,500〜2,000万円より2,000万円以上の方が少ない(限界消費性向ではマイナス)。
つまり、この層では、教育・研究費を日常的に必要かつ十分に支出しており、収入が増えてもそれ以上増やす必要がない。
これに対して、低所得者層は、消費支出の増加率(188,845 / 163,790 = 1.153)以上に教育・研究費を増やしている(7,631 / 5,537 = 1.378)。
限界消費性向では、高所得者層の教育・研究費はマイナスであるから、自部門だけではなく他の部門にもマイナスの生産を誘発している。しかし、他の部門からのプラスの誘発を受けて、表4では、かろうじて9億円のプラスになっているのである。