原田あきら：12.3.21 予算特別委員会意見開陳

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12.3.21 予算特別委員会意見開陳

＜区民生活の実態を直視すべき＞

　日本共産党杉並区議団を代表して平成２４年度各会計予算、及び関連議案に対する意見開陳を行います。
　予算を編成する上で今一番重要なことは区民がどういう状況にあるのかを見極めることです。党区議団は予算特別委員会においてまず、２０１１年度の所得割納税義務者数、税額を示して質疑を展開しました。そこには中所得者層、高額所得者層ともに、納税者数、税額を３年連続で減らしている実態が確認されました。これは杉並の税収を支える中心点が下降シフトをしていることを表しています。当該年度のより深刻な問題は、そうした下降シフトする中間所得者層の受け皿となって、この間増加を続けていた年収４００万円ほどの家庭…いってみれば中間所得者としてギリギリのラインの人達が、いよいよその数を減らし始めたことです。中間所得者層の下降シフトもいよいよ底が抜け始め、さらに下の所得に落ちこんでいっている。経済不況に加えて、相次ぐ増税、国民負担増の政策がいよいよ高額所得者層も巻き込んでの貧困シフトを始めているのです。この上に消費税を増税し、各種保険料などの負担増を押し付ければ、日本の経済がどうなっていくのか、こうした資料から明らかです。この２０年あまり行われてきた大企業や高額所得者優遇政治と一方での庶民負担増は、経済を活性化させるどころか消費を冷え込ませ、更なる経済不況を呼び起こしてきたのです。区長は所信表明でも、代表質問における党区議団の質問においても消費税に対する姿勢を曖昧なものにとどめました。国民の生活実態を詳しく把握できるのは自治体です。その自治体がこうした区民の実態を国に訴え、こんなときに増税はおかしいとハッキリ言うべきです。今、自治体の責務として鋭く問われているのではありませんか。
　区長の所信表明や区長部局の答弁を見るにつけ、聞くにつけ、区民の切実な生活実態が見えていないことがよくわかりました。家計の事情で働かねばならず、子どもをどうしても保育園に入れなくてはならない母親。ところが入園させることができず、泣きながら窓口で訴えているシーンをこの間どれだけ見たことか。この十数年にわたって認可保育園がろくに整備されず、全国に誇ったはずの杉並の保育は他に誇れるようなものではなくなってしまいました。区内のある高齢夫妻は長寿の母の介護に付きっきりでした。母の死から間もなく、介護で腰を悪くした妻まで後を追うように亡くなりました。夫は家の中は地獄だったと語っていました。比較的裕福な家庭でしたが、社会的な支援が整っていないためにお金の有る無しに関わらず、いつでもどこでも地獄となりうる杉並区の介護の実態があります。この男性は私に語りました。「これまで杉並区で生きてきて、しっかり税金も払ってきた。私の税金を区は何に使ってきたんだ？」と。こういう声は少なくありません。多くの区民が支えてきたはずの杉並区の税収をこの間の区は何に使ってきたのか、真剣に問われねばなりません。
　少し区政を振り返ることになりますが、山田前区政は借金をゼロにすると言い張り、区民の税金をそのパフォーマンスにつぎ込みました。将来の区民が負担すべき建設債を、この十年あまりの区民に前倒しで支払わせ、学校でも福祉施設でも建設の際、一括で当時の区民に支払わせたのです。本来なら福祉施設等の建設費はあえて起債をするなどし、支払いを世代間で分散させます。一括で支払う分、当然、保育や介護、障がい者施策などにまわすお金が不足してきたのがこの十数年です。
　こうした山田前区政をどう転換し、そして何よりも十数年にわたる保育や介護など諸施策への弊害をどう払拭するか、改善させるかが田中区政に問われてきたのでした。

＜財政運営のあり方＞

　田中区長は減税自治体構想を凍結し、ボトムアップの政治方針を打ち出すなど重要な区政の転換が行われました。我が党区議団との懇談では、認可保育園の重要性を示唆するなど期待感は高まりました。本議会でもそうした姿勢は維持され、
「困った人がいれば借金をしてでも助けるのが自治体の仕事」
「自治体の本旨は区民福祉の向上であって財政運営が先に立つわけではない」
などの答弁が続きました。こうした方針にたいしては、党区議団は大いにエールを送りたいと思います。
　しかし、問題はこうした発言にみあう区政運営になっているかどうかです。まさに財政指標が区民福祉の向上の上におかれきた区政運営を払拭しているかが問われます。
　そこで総合計画に明記された財政運営の５つのルールをみると、そのトップに「経常収支比率８０％以内」が掲げられています。放漫財政でないかどうかを計る指標のように言われていますが、山田前区政においては福祉施策を圧縮する一つの道具として使われてきた財政指標です。都市部においては道路の舗装や、保育、介護等のインフラが地方と比べて整っているため、必然と経常経費は高くなります。結果、経常収支比率も高く出るのが当然です。減税自治体構想が亡くなった今でも経常収支比率にこだわるのは、極めて大きな区民ニーズである福祉施策や教育環境の整備をおざなりに、区長肝入りの新規事業の乱発、あるいは巨額の基金積立とそのはけ口となる大規模公共事業につながるのではないか…この危惧を抱くのは党区議団だけではないはずです。経常収支比率などの財政指標に固執せず、本会議での区長の答弁通り、区民が困っているところに手を差し伸べることを最優先にする財政運営に切り替えるべきです。そのことこそが区内の内需を拡大し、地域経済を活性化させる要になるのだと指摘します。

＜良好な住宅都市としてのまちづくりとは何か＞

　その点で区のまちづくりの在り方についても触れたいと思います。
　基本構想の議論にもなりますが、区長はかねてから荻窪駅の開発について言及してきました。区立施設の再編整備も含めて国から部長級、都から課長級に職員を受け入れ「都市再生担当部」を創設。基本構想審議会には各地の大規模開発に多く携わってきた伊藤滋氏を迎えました。荻窪駅の南北分断の解消ということについては否定するものではありませんが、それとて他の課題が多く残された杉並区のまちづくりにおいて最優先される課題なのか、地域住民は言うまでもなく多くの区民のコンセンサスを得なければなりません。いわんや、それを口実に大規模開発ということになれば、莫大な税金投入が必要となり、重大な問題です。区長は荻窪をよく吉祥寺や中野に負けない街にするとか、富裕層の消費が区内に落ちていないどと答弁しますが、駅前開発によって落ちるような消費は本当に杉並区を活性化することができるのでしょうか。区内を血液のようにめぐる消費とは、区民が経営する商店や中小建設業者を利用する一般的な消費生活を行う区民の消費です。こうした消費は地域をくまなく巡り、雇用を維持し、ひいては地域行事、治安維持などを支え、駅中のビルのテナントに落ちる消費とは違い、お金には換算できない効果を区政にもたらしています。中小企業振興センターや産業振興審議会はそうした点で活躍することを期待します。「にぎわいのあるまちづくり」というものを考えたとき、駅前に固執する区長の姿勢を根本的に改めねばならないのではないと指摘するものです。
　区は、区立施設を国・都の機関も一体的に再編整備し、効率化、重層化を目指すとしていますが、それが本当に区民にとって、区政にとってあるべきまちづくりの方向性なのでしょうか。私達は駅前だけでなく、地域ごとに充実した教育や福祉施設が整備される方向性こそ、区が長年かけて目指すべき姿だと考えます。駅前の立派な施設より、区民が求めているのは、待機児がおらず、１歳からでも入れる、兄弟も一緒に入れられる保育園、介護でいえば両親の最後を「ありがとう」と感謝しながら暮らすことのできる地域密着の施策、障がいを持ったとしても生きがいとやりがいを持って暮らすことのできる障がい者施設などではないでしょうか。これこそ、「良好な住宅都市杉並」のブランド力を形作るものです。その観点で本予算案を見ると、たしかに認可保育園の増設、特養ホームの建設などが盛り込まれています。しかし、全体として積極性の足りなさを指摘せざるを得ません。総合計画でも認可保育園は３年間で４園にとどまり、待機児ゼロを目標とするにはあまりに計画不足です。特養ホームも１０年間で１０００床という目標はこれまでの区政からすれば大きな転換ですがやはり規模が不足しています。障がい者施策ではとくに積極性が見られません。１０年という計画であれば親亡き後の障がい者施策にも一定の展望を示してほしいし、切実に求められているショートステイやヘルパーの充実が課題であるはずですが、本予算案でも基本構想、総合計画でも記述の弱いのが特徴です。
　しかも、こうした福祉施設の用地確保についてはさらに不明朗な答弁が続きました。なかにはまるで学校の統廃合こそが、保育や介護施設建設の用地になりえるかのような議論が展開。これは到底認められません。区民に対し、福祉のニーズと教育環境を天秤にかけさせるような政治手法はとるべきでないと厳しく批判するものです。
　福祉のまちづくりにおいては、国公有地の活用を進めるべきです。例えば阿佐ヶ谷北３丁目にあった公有地は２０００㎡弱という、福祉施設を建設するには恵まれた土地でした。こうした広い国公有地は住宅地である杉並区ではなかなか出てこない土地であり、一度宅地化されれば２度と戻らない貴重な土地です。区がこうしたチャンスを数々と無にしてきたのは、小中学校などの統廃合による跡地利用ばかりが視野を占め、適切な国公有地の活用、取得が方針化されていないためです。その点でも将来に向けたまちづくりの絵というものが描けているのか問われるところです。
　区立施設の再編整備についてあらためて指摘します。杉並区の先輩方が多くの苦難を乗り越え整備されてきた福祉や教育の施設は、すでに数十年にわたる建設費の支払いも終え、完全に区民の財産となっています。さらなる区施設の充実を目指すことが可能な今、逆に施設の統廃合をするのはおかしな話です。施設白書に示された改修に必要な２８００億円という費用は、３０年間の長いスパンであり、今すぐに必要となる費用ではありません。さらにはそれを利用する数十年の区民が平等に支払いをするよう起債をたてることによって、決して区政を揺るがす異常な出費とはなりません。むしろ、改築改修をすることによって地域住民の福祉にかなうと共に、区内建設産業に仕事を増やし、地域経済の活性化にもつながります。この予算特別委員会でも大きな話題となり、数々の答弁もありました区立施設の再編整備について、また今後１０年のまちづくりのあり方について抜本的に区の考え方を転換されることを強く求めるものです。
　東電グランドの取得は区民にとって貴重な財産の取得になったと党区議団は評価するものです。住宅街における恵まれた環境を確保し、今後のスポーツ振興など区民サービスの向上にも十分寄与するものです。早急に区民利用の計画をつくり、その財産を区民に享受されるよう努めることを要望します。
　防災については３.５倍の予算配置を評価するものの、耐震補強、備蓄品の拡充、避難所の運営計画や訓練など依然として強化が求められる状態にあることは他会派の委員の質疑でも指摘されています。災害が起きた後は自助、共助が重要になることは理解できます。だからこそ、そうした区民の自助、共助が強化されるよう公助の役割をしっかりと震災前に整えておかねばなりません。大地震が目前に迫っているという非常な緊張感をもって取り組むという姿勢は評価できます。国や都の防災計画の変更を待つまでもなく、震度７クラスに備えた防災体制を前倒しで行っていくことを求めます。その点でも財政指標の縛りに引きづられ、今必要な防災対策がおろそかにならないよう求めるものです。
　放射能対策についても一言付したいと思います。大人の３倍といわれる子どもの放射能感受性について区の姿勢が曖昧です。不安の解消という答弁が目立ちますが、まさに目の前にある放射能の除去という立場に立たねばなりません。専門の課をつくったことは重要であり評価するものですが、それが区民の不安解消を押し付ける機関となってはなりません。いまだに存在する区内のミニホットスポットの除染にたいし、区民の要望に応える機関となることを求めます。

＜国、および都の動きにあまりにも無抵抗すぎる＞

　次に国や都の動きにたいする区の姿勢について言及したいと思います。率直に言って、国や都の悪政にたいして区があまりに無抵抗すぎると言わざるを得ません。
例えば、子ども子育て新システムは我が党区議団だけでなく他会派からも苦言が呈されるほど保守革新問わずに批判の多い施策です。保育に対する行政の責務を回避して営利企業にまかせ、金のあるなしで保育の質が決まるという恐ろしい内容で、美辞麗句に飾られた言葉に含まれた重大問題を見抜かねばなりません。しかし、杉並区は強い批判を浴びている子供園化を強引に進めており、良好な住宅都市としての一つの価値を形成してきた幼児教育や保育施策に傷をつけています。
　障がい者施策では自立支援法の改定を受け、区独自に実施してきた負担上限月額の設定による軽減策が２３年度末で廃止となります。自立支援法に代わる新法制定の動きが急速に後退するなか、これまで全都に誇った杉並の障がい者施策をまた削る行為であり、区内障がい者団体の方々と共に国に対して敢然と異議を唱える姿勢が必要です。
　外環道は地下４０ｍの大深度地下方式にたいする問題を指摘されているなか、さらに地上部にあたる外環其の２まで一気に計画が進行しようとしています。こうした国や都の姿勢に杉並区という基礎自治体から果敢に異議を唱えてこそ、区長のまちづくりにたいする信頼が生まれるというものです。委員会で航空写真も示して質疑に臨みましたが、まさに自然と人が長い時間をかけて織りなしたみどりの住宅環境たる善福寺地域を踏みつけにする計画であり、圧倒的な住民の反対の声を国や都に届けるべきです。
　小中一貫教育も国の主導する動きの一つです。多くの自治体では統廃合とセットであり、杉並区でも同様です。そこに教育環境の整備という本来の目的は見当たらず、中止すべきです。これを全国に先駆けて食らいつき、何の検証もなく施設一体型にまで踏み込もうとしています。教育改革というのなら、早急な３０人学級を国や都に呼びかけると同時に、杉並区として率先して中学生の３０人程度学級に人員を配置すべきです。
　さらには都区財政調整制度の「臨時的措置」といって交付金削減にたいしても無批判に受け入れてきたことが党区議団の質疑で明らかにされました。この数年間、都区財調の交付金が削減されてきた背景に、実は区長会自らがわざわざ厳しい財政状況を勘案して交付金削減に理解を表明してきた経緯が語られました。これは財調制度の根幹にかかわる重大問題であり、即刻元に戻すよう求めるべきであります。都は現在、強引な築地市場の移転、八ツ場ダム事業の再開など相も変わらず大型公共事業に予算配置を行っている状況です。これでどうして厳しい財政状況を勘案して区長会自らが交付金を自粛してきたのか。まったく理解できません。オリンピック事業や外環道建設にまで熱意を見せる都にたいして、そんなことをやっている場合ではないとなぜ言えないのか、ここにも国や都に無批判な区の姿勢が見てとれます。これは田中区長に限らず、山田前区長の時代もそうだったわけですが、いよいよ区民の生活実態を直視し、必要な財源である交付金を元に戻すよう、都に求めるべきです。

＜「協働」理念問題＞

　区がよく口にする「協働」理念というものについても触れたいと思います。
　区長はセシオン杉並事件というものについて、所管からしっかりと聞かされているのでしょうか。２年前の９月議会で突然２０名程の女性達が「助けてほしい」と議会になだれ込んできました。彼女達はセシオン杉並で長らく働いてきた職員さん達で、なんと２ヶ月半にわたって受託業者である東宝クリーンサービスから賃金未払いの末、経営破たんで逃げられようとしているというのです。区民施設の顔といえるセシオン杉並での事件です。彼女らは職場を放棄することなく、「区民にとって大事な施設であり、私達も区の職員の一員だから」と経営破たんまで職務を遂行していたのです。そうした区民の良心を逆手にとって、「業務の履行には問題はなかったので区としての責任はない」と突き放し、なんの監督責任も認めようとしなかったのです。区はその後、様々な施策を講じて同じことが起こらないようにしたと言っていましたが、昨年には井草区民センターで不当不採用事件が起こりました。ここでも区は区の監督責任を認めませんでしたが、このほど東京都労委の調停で業者側が問題性を認め、不採用にした職員の復職を認め、５０万円の解決金を払う和解が成立したのです。区の民間委託における監督責任にやはり問題があったことを示しています。ここで組合まで作って頑張った女性達もみな区民であり、単なるアルバイトではなく、まさに区の信頼に関わる重大な仕事と認識して働いてきたと自負されています。けれども数年おきに受託業者だけがかわり、その業者が引き起こす問題について区は見て見ぬふり…このような区民への裏切りを働いておきながらの「協働」という言葉に何の説得力があるでしょうか。こうした事件にたいして反省もないまま、「区民との協働」がうたわれれば、それは逆に行政責任の回避を意味した言葉とみなされて当前ではありませんか。私達は民間活力をすべて反対するわけではありませんが、区民は区の手足ではありません。真に「区民との協働」を形作るためにも、まともに行われていないこれまでの民間委託やそれに関わる事件の総括を行うことを求めるものです。
　以上、大きく柱にまとめて本予算案、及びそれに関わって基本構想や総合計画についても意見を述べて参りました。山田前区政下の異常な施策を払拭するいくつかの前進面を評価できますが、全体として切迫した区民生活のニーズに応える予算案になっていません。前区政から続く新自由主義的な財政運営や施策、それに加えて開発型区政運営へ傾斜する危惧を払拭できない実態、あるいは国や都の悪政にたいする無批判、無抵抗な姿勢が、区民生活に重大な影響を与えていることに無関心な区の姿勢…こうした問題点を指摘し、本予算案については反対とします。　

＜反核平和問題について＞

　最後に平和問題について要望を述べておきたいと思います。区長は早くから脱原発の考えを議会で述べ、このほど電力購入の自由化にも踏み込む姿勢を見せたことは歓迎したいと思います。昨年の第４回定例議会段階で脱原発に言及したのは７自治体首長であり、その一人が田中区長です。この際、２３区自治体に先駆けて脱原発自治体宣言とそれに見合った施策の構築、再生可能エネルギーの推進を国に求める東京の運動のイニシアチブを握ってはどうか、提案します。
　また、杉並が平和の伝統を受け継ぐ、原水爆禁止署名運動発祥の地の首長として、区長自ら原水爆禁止署名に署名するとともに、平和市長会議への参加によって全国を励まし、ひいては核兵器廃絶条約を実現する交渉にむけて、国内の運動の先頭に立つことを求めます。
　結びにあたりまして、予算特別委員会に際し、多くの資料作成にあたっていただいた職員のみなさんに感謝を申し上げ、日本共産党杉並区議団の意見開陳を終わらせていただきます。

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