協同組合医療と福祉 ゆたかな医療・介護・福祉をこのまちに medical&welfare
HOME BACK

協同組合報vol.182
2018年5月号

 これまで「看護NOW」(12頁)のページでは、民医連看護ならではの取り組みと喜びや苦労、また、情勢との関わりなど、多彩な発信を行ってきました。看護だけでなく、介護や事務からも同じように民医連として発信することがあるはずとアドバイスを受け、「事務NOW」、「介護NOW」を発信することにしました。今月号は「事務NOW」「看護NOW」のダブル掲載です。今後は、看護、介護、事務それぞれを順に掲載していく予定です。

南京虫の発生は自己責任か

〜民医連事務としての視点をもって〜

おおくぼ戸山診療所 事務長 澤田 和恵

●歌舞伎町の寝床

多国籍タウンの大久保通り
多国籍タウンの大久保通り
戸山ハイツ
戸山ハイツ

 おおくぼ戸山診療所は2002年に開設しました。「歌舞伎町の寝床」と呼ばれる大久保地域にあり、また診療圏には巨大団地である戸山ハイツをかかえ、高齢者の独り暮らしは25%に及びます。外国籍の他マイノリティの人々が多く住み、格差や貧困が拡がる中で、民医連の医療・介護・保健予防活動、社会運動を進める使命をもった診療所です。

●南京虫の発生

南京虫。成虫は約7ミリと意外に大きい
南京虫。成虫は約7ミリと意外に大きい

 老朽化のため立ち退きを迫られていた在宅患者のOさん(生活保護世帯、息子と同居)の自宅に南京虫(トコジラミ)が発生しました。福祉事務所の対応は、南京虫の駆除は素人には困難であるにもかかわらず、自分で駆除するか自費で専門業者へ依頼(15万円程度)するようにとのことでした。福祉事務所は、駆除も転居も進まない状況に息子を呼びつけ、虐待だと責めるのみで、支援はしませんでした。Oさんは、デイサービスも利用できず、体力の低下や認知症の進行が心配されたため、介護施設への入所を検討しましたが、虫を理由に断られました。やむなく代々木病院に入院をしました。

●聞いてないよ!

 入院後に息子は、自分の顔もわからなくなった母親を見て、「退院させたい。なぜ入院しているのかわからない」と、そもそも入院の理由について認識していませんでした。息子との窓口は、ケアマネジャー(民医連外)が行政と相談しながら担当していましたが、当事者抜きで進めていたことがわかり、これを機に、診療所が積極的にコーディネートすることにしました。

 息子を含む関係者を一堂に集めたカンファレンスで、自宅退院の条件として、デイサービスに行けるように南京虫を駆除することを確認しました。しかし、退院を確認したにもかかわらず、ケアマネジャーは車椅子と手すりを引き上げることと、自分も今後は関われない旨を告げ退席しました。

●事務長、行政にモノ申す

 介護保険の利用の中止は、行政主導で行われたことがわかり、これから在宅生活になるにもかかわらず介護保険の利用ができないことに、地域包括支援センターに対して、事務長としてケアマネジャーの必要性を訴えました。特に今回のケースは、ソーシャルワークが必要であるため、民医連事業所のソーシャルワーカーが担当することを伝えました。ケアマネジャーの交代後、それまでまったく進まなかった住居の問題も一気に進み、まもなく引っ越しも完了するでしょう。

●人権を守るアンテナ

 今回の事例は、行政が南京虫の駆除及び転居を自己責任として責めたことによって悪化した状況を、診療所として当事者を前面に据え、人権を守る視点を貫くことで得られた結果です。事務職員も診療チームの一員として患者さんの暮らしを守る視点をもって、積極的に参加することが大切です。事務長として、診療所の方針を明確に打ち出すことの必要性を考えさせられた事例でした。

Copyright(c)2003 medical & welfare All rights reserved.