協同組合医療と福祉 ゆたかな医療・介護・福祉をこのまちに medical&welfare
HOME BACK

協同組合報vol.181
2018年4月号

前号へ    次号へ

vol.181トップ|トピックス|インフォメーション1インフォメーション2診療所待合室のあったかスポット看護 NOW!

トピックス 講演

観察福祉という実践力

〜アセスメントに求められる観察視点の養い方〜

城西国際大学 福祉総合学部 福祉総合学科 准教授 篠﨑 良勝

 3月10日、東京勤医会東京さくら福祉会主催の介護職研修会が行われ、公開講座で篠﨑良勝さんが「その人らしい支援をするために求められる観察視点の養い方」について話されました。主に介護専門職向けの講義でしたが、「その人らしい支援」という点では日常生活でもヒントになることがたくさんありました。その内容を要約して紹介します。

はじめに

写真 篠﨑です。今日は2時間30分という長丁場の講義ですが、よろしくお願いいたします。私は城西国際大学で社会福祉士、介護福祉士など福祉職をめざす学生たちと関わっています。今日のテーマは「観察福祉という実践力」としました。「観察福祉」という言葉は存在しません。私の造語ですが、みなさんの観察はおそらく福祉というものにつながっていくんだろうということで、観察をして福祉を実践していく力を養っていただきたいと思って今日のテーマにしました。

 明日は3月11日、大震災から7年目になります。私が観察福祉ということを考える契機になったのが3.11でした。それで、まず震災のことからお話ししたいと思います。当時、私は八戸学院大学で教えていたのですが、八戸市は津波による被害を受け、私も2日間でしたが避難所での生活を経験しました。被害が甚大だった福島県、宮城県、岩手県と比較すれば、青森県の被害の範囲は少なかったのですが、津波によって自宅が倒壊したり、床上浸水したりして避難所生活を余儀なくされた方がおおぜいいました。

 その後、私は岩手県釜石市での支援要請を受け、活動に参加させていただき、生活を支えるスペシャリスト、つまり、介護福祉職の重要性を目の当たりにしました。震災直後に聞いたのは、「心が萎えてしまった」という言葉でした。ガソリン、お米、トイレットペーパー、粉ミルクなどの生活物資はもちろん早急に必要ですが、被災者が同じくらい欲しかったのは、心への寄り添いでした。「どうしましたか」と声をかけて、共感してくれる。時には見守り、時には声かけをし、時には介助をし、そして時には買い物・洗濯・掃除などの生活支援をする。それらを臨機応変に行えるのが介護福祉職の人たちでした。つまり、介護福祉職には「救民(困っている人を助けること)」という役割が明確にあるのです。このことを私は被災地で確信し、そこから見えてきたもの、気づいたことから研究を続けています。

 ですので、今日はまず3.11の映像を見ていただくことから始めたいと思います。(映像:津波による被害の状況、亡くなった人々の生前の人となりを綴った「岩手日報」の記事『忘れない』からの抜粋、避難所で支援活動をする介護福祉職の人たちの様子、など) 

今日の学習計画(シラバス)

講義をする篠崎さん(会場・勤医会東葛看護専門学校講堂)
「講義をする篠崎さん(会場・勤医会東葛看護専門学校講堂)

 では、本題に入ります。今日は到達目標を3つ設定しました。

1 自らの力で観察視野を拡げる手法を少し習得できる。

2 観察の構成要素を少し理解することができる。

3 ICF(国際生活機能分類)という存在の抵抗感を少し軽減することができる。

 みなさんもお気づきでしょうが、3つとも「少し」を入れています。少しは何かを習得できて、少しは何かを理解できて、少しは何かを軽減できるのではないかという思いを込めました。この3つの到達目標は最終的に何をねらっているのかというと、福祉職のみなさんは、目の前の人(利用者)を何とかしたいという気持ちを常に持っているはずです。食事介助、入浴、排せつ、コミュニケーション、さまざまなことに対して目の前の人を「何とかしたい(助けたい・支えたい)」という思いと、みなさんが持っている専門性を丁寧に重ね合わせると、その人(利用者)に合った支援にぐっと近づくことができる。それをねらっています。

T 観察って?

(1)観察を知る

 「観察」が今回の大きなテーマです。観察は私たちの普段の生活の中にもありますし、小学校の頃はアサガオの観察、メダカの観察などをやりました。人間観察などという言葉もあります。あそこに段差がある、といったふうに私たちはさまざまな観察をして事実を知ります。つまり、観察というのはあくまで事実を知ろうとするため、状況を知ろうとするためのものであるはずですが、悲しいかな、介護の分野では「介護の基本は観察(・確認)である。介護は、観察(・確認)に始まり、観察(・確認)に終わる」という言葉がまだ使われています。「観察(・確認)で終わり」ではないのです。

 では観察って何でしょうか。実習指導者は「Aさんは観察がいい」「Mさんは観察が悪い」という言い方をしますが、じゃあどこがいいんですか、どこが悪いんですかと。指導者によって学生の評価がまちまちになってしまうことが多々あります。感覚で言っているにすぎないわけで、これでは公平な評価とは言えません。ですから、「観察を知る」ということを徹底的にやっていきたいと思います。 

(2)観察の大前提は尊厳

 観察とは、物事の真の姿を間違いなく理解するために見ることです。この部屋の温度は何度だろうと思ったら、真の姿を知るために温度計を見ます。観察・確認の第一の目的は事実の把握です。事実がわかったら、そのあと、支援計画とか、リスク回避のために何をしたらいいのかとかが出てくる。「観察視点がいいよね」と実習指導者が褒める場合、おそらく事実の把握を褒めているわけではありません。要は、記録の書き方が上手だ、介護の実践までのプランニングがうまいということで、プロセスを見ているというより結果を見ているのに近いわけです。

 観察・確認の第一の目的は事実の把握であるということ。それを私なりの言葉で言うと、ちょっと堅苦しいですが、「尊厳という大気で人を包み、生活者がありのままに表現できるよう、実践知により全力で関与する心構え」ということです。つまり、観察の大前提は尊厳なのです。尊厳のない観察はいじめ、時には虐待につながる。つまり、尊厳を基盤にした観察でなければならないということです。

U 観察の演習からみるあなたの観察力

 それでは、事例から観察の演習をやってみましょう。

〈事例:ごみ出し支援〉

 介護福祉士のあなたは、1週間前から民間派遣会社“ラフナビ”の介護職派遣に登録しています。今日、3月10日(土)の10:30にラフナビからメールで以下の連絡がありました。

◆明日(3月11日・日曜)AM8:00〜AM8:30、千葉県流山市中102-1(電話04-7159-〇〇〇〇)に住む篠﨑孝子さんの「家庭のごみ出し支援」をお願いします。

【訪問先の利用者情報】

@ 73歳

A 女性

B 要支援1

C 一人暮らし(夫は昨年他界)

D 持ち家(1Fに住居)

E 自力歩行は可能

F 易疲労感有

G 月・木は不燃物も回収有

※@〜G以外の情報は当日ご利用者に確認してください。

 こういう状態で派遣会社からごみ出し支援の連絡が来るわけです。みなさんは専門職ですので、これだけの情報があれば楽勝ととるか、これでは不十分なので、会社に情報をしっかりとってから行こうと思うか。どちらでしょうか。

(1)観察を学ぶためのトレーニング@

 これから演習をやっていただきます。篠﨑孝子は私の母親の実名です。住所と電話番号は東葛病院を使わせてもらいました。情報については、支援相手の情報量が多いほど、その人らしい支援が可能になります。逆に言えば、情報量が少ないほど、その人らしい支援は困難になるということです。だからこそ、介護職の方は、実践前も実践中も実践後も「観察・確認」をしているわけです。観察・確認をすると事実がわかる。事実がわかって情報量が多くなることで、その人らしい支援により近づくわけです。この実践こそ、みなさんが持っている「観察という福祉の力」なのです。

 この「観察という福祉の力」に気づくために、いくつかやっていただきます。まず、気づくために何が必要か。以下にあげてみました。

@ 観察視点を挙げるトレーニング(演習)を繰り返し行う。

⇒繰り返し行う必要があります。生活支援技術を学校で学んだり研修で学んだりしていると思いますが、1回で「そうか」とわかる人はそうはいません。

A 観察視点があるから事実がわかることに気づく。

B 事実がわかるから支援内容が決定されることに気づく。

C この@〜Bのプロセスを丁寧に学ぶことこそ、観察という福祉の力を可視化することになる。

D そして、あなたの観察視点の構成要素を分析すると、いくつかの要素にまとめることができる(理論化)。

E 理論化できる観察は、専門教育であり専門職性となる。

 それでは、資料の練習@に、篠﨑孝子さんのごみ出し支援で、あなたが確認したい観察・確認項目を思いつくかぎり書き出してみましょう(図1)。時間は3分、実践前、実践中、実践後のどこのことでもかまいません。例として「ごみ袋は破れていないか」と書いておきました。

はい、3分たちました。書き出した観察項目を一人1つずつあげてみてください。

(会場から一人ずつ発言)

・分別ができているか

・自宅に入れるのか

・ごみ置き場までの距離や道筋

・要支援1、杖は必要か

・ごみ捨て場まで歩いていけるか

・身体機能の点で、自分で物を持てるか

・日曜日にごみを出してもいいのか

・ごみを自分でまとめられるか

 ありがとうございました。3分間で10項目以上書いた方はいらっしゃいますか? はい、13個、その後ろの方は11個だそうです。

 ここでちょっと考えてみてください。観察項目をたくさん挙げれば挙げるほどすごいのでしょうか。8個よりも11個のほうが優れているのでしょうか。どう思われますか。

 ここで私が言いたいのは、数だけではないということです。つまり、観察項目を挙げるだけでは、構成要素というものは見えてきません。たとえば、さきほどみなさんから「ごみを自分でまとめることができるか」という観察視点が出されました。「ごみ置き場までの距離や道筋」という観察視点も出されました。両方とも観察という意味では同じですが、質は違います。見ている領域が違う。つまり、構成要素が違うわけです。この構成要素は、ただ数を挙げていくだけでは見えてきません。専門職の方はやはり、観察とは何かを知ったうえで観察を行うことが必要です。

図1
図1

(2)観察視を学ぶためのトレーニングA

 では次に、みなさんが書き出した観察項目と他の人の観察項目を比べてみましょう。図2を見てください。これは私が6年前に、250人ぐらいの介護職の方に対して「ごみ出しのときの観察視点」ということでアンケートをとった結果です。それをまとめて39項目挙げています。たとえば、「生ごみの水分は新聞紙などで取り除かれている状態か」「部屋中に生ごみ等のごみの臭いはないか」「利用者はごみの臭いを気にしているか」「ごみ箱に汁などの液体がついていないか」「介護職のごみのまとめ方を利用者はどのように思っているか(持ちやすい・重い)」「利用者は一人でごみをまとめることができるか」「ごみの量(数)や重さ」「ごみ置き場までの距離や道路状況」「使われずに処分されている食材の量」など、さまざまな項目が挙がっています。

 それでは次のトレーニングです。この39項目の中で、みなさんが書き出した項目と、書き出していなくてもこの観察視点は常日頃やっているよというところにマル印を付けてください。 

 はい、終わります。では〇の数を教えてください。

 (会場の発言から)

 ・最初に挙げた項目は5個、今回つけた〇は13個です。

 ・最初は4個で、今回は11個です。

 ・最初は9個で、今回は26個です。

 ・最初は8個で、今回は15個です。 

 ありがとうございました。さて、私が意図していることは見えてきましたか。なぜ最初に挙げた項目の数と今回の〇の数を聞いたか。要は、無意識のうちにやっていることが多いということです。それをこの図に書き込むと、「これ、私やっている」と項目が増えてくる。自分の中では意識していなかった観察視点が、やっているよねということで、最初に挙げた数よりも上回るわけです。

 〇を付けるということは、無意識だったものを可視化していくということ。ごみ出し一つをとってみても、観察視点はたくさんあるということを理解していただきたくて、数を挙げていただきました。

図2
図2

V 観察の中核的構成要素

(1)P.E.I.P.(ペイプ)って?

 観察にはいくつかの要素があります。私は学生の授業で、P.E.I.P.(ペイプ)というものを使わせていただいています(図3)。

@ 個人的要素 Personality

A 環境的要素 Environment

B 自立的要素 Independence

C 身体的要素 Physical

 この4つの頭文字をとってP.E.I.P.(ペイプ)と呼んでいます。これを観察・確認視点の中核的構成要素群と言います。何をお伝えしたいかというと、みなさんが見ている観察視点は、大きく分ければこの4つに必ず入ります。

 さきほど挙げていただいた観察項目をP.E.I.P.で分けてみると、構成要素のどこか1ヵ所だけ見ている場合もあれば、まんべんなく見ている場合もあります。「篠﨑孝子さんはごみ袋を持てるのだろうか」「易疲労感があると書いてあるけれども、何か疾患があるのかな」「そもそも篠﨑さんは他人にごみを捨ててもらうことをどう思っているのだろう」……こういうことを一つひとつ見ていくことによって、観察が成り立ち、そこからわかった事実で初めてその人に合った支援の仕方が見えてくる。つまり、観察・確認の中心主題に着目し、その中心主題の要素ごとに分類したものがP.E.I.P.です。

 中心主題とは、みなさんが優先して把握しようとする事実や状況です。たとえば、排せつ介助のとき、「トイレの手すりにゆるみはないか?」。介護職の方は当然のように無意識のうちに見ているという方が多いと思います。ですが、ゆるみがあったら転倒してしまうということを見るということではなく、あくまでも観察視点は事実を知ることです。転倒したら骨折してしまうというのは、ゆるんでいるかどうかがはっきりわかったときです。ここでの第一の目的は「手すりのゆるみの有無」、これが中心主題です。ゆるみがあるという事実がわかったら、ではどんなリスクがあるか、転倒の危険があるとなるわけです。

図3、図4

(2)たかがごみ出し?

 では、「手すりのゆるみの有無」はP.E.I.P.ではどこに分類したらいいでしょうか。そう、環境的要素ですね。こうして4つの領域に分類して見ていくことで、観察を学ぶトレーニングになります。その人(利用者)を広くとらえるには、観察項目を挙げるだけではなく、観察の構成要素を知っておく必要があるということです。これをやることで、観察の奥行というものがわかってきます。

 整理してみると、観察はまず事実の把握です。ですが、事実を把握するときに観察だけすればいいのかというと、そうではない。観察にはいくつかの領域があって、私たちはそこをまんべんなく見ていかなければ情報は多くならないし、その人らしい支援にはなりません。その人の好きな食べ物や好きなドラマを知っていても、その人の病気や自立度を知らなければちゃんとした支援はできません。それは、さきほどのごみ出しも同じです。「たかがごみ出し、介護職に金を払ってやることではないだろう。金がないんだから」と、もしかすると国はそんな考えをしているのかもしれません。しかし、ごみ出し一つから、その人らしい支援へと広げていくことができるのです。

(3)P.E.I.P.を意識して分類してみよう

 では、みなさんが書き出した観察項目をP.E.I.P.を意識して分類してみましょう。たとえば、「ごみの分類ができているか」はどこに当てはまるでしょうか。(会場から「自立」の声) そうです、自立ですね。「指定のごみ袋はあるかどうか」は? (「環境」) そうです、環境に入ります。

 さきほど会場から出されました「どこまでごみを出せば大丈夫か」、これはどこに分類されますか。(会場無言)

 たしかにこれは、ごみ置き場までの距離を言っているのか、ごみの範囲を言っているのか、わかりにくいですね。観察項目を挙げるだけなら、楽なんですが、これをP.E.I.P.に分類しようとすると、わかりにくくなる。これは何を意味するかというと、観察視点を挙げたけれど、他人にも同じように伝わっているかというと、伝わらないということです。たとえば、実習指導者が「どこまでごみを出せば大丈夫か確認した?」と聞きます。学生は「確認しました、篠﨑さんは1つでいいと言っていました」。話が食い違って、実習指導者は「そういうことじゃないでしょ」と言い、観察視点が悪いという評価になる。ですから、さきほどからお話ししているように、観察視点の基準を作っておくことが重要なのです。これは上司と部下の受け取り方の齟齬をなくすという点でも重要だと思います。

W P.E.I.P.とICFとの連動

 みなさんは「P.E.I.P.は少し理解できたけれど、どこにつながっていくの?」という疑問を持たれるかもしれませんので、最後に、「ICF」との連動というお話をしたいと思います。ICF(国際生活機能分類)とは、人間の「生活機能」と「障害」を判断するための「分類」の方法を示したものです(図4)。人間の生活を障害の有無だけでなく、活動や参加の状況、周囲の環境など広い視点から理解し、サポートにつなげることを目的としています。

 このICFについては、学んで知っているという方も多いと思います。簡単に言うと、ICFは「事実を整理する棚」です。P.E.I.P.は「観察視点を整理する棚」です。ICFに抵抗感のある学生もいますので、あえて言いますが、この2つは連動しています。

 図3と図4を重ねてみてください。重なりましたね。観察の棚と事実の棚は連動するのが当たり前で、別々になってしまってはいけません。学校の授業でもICFから、事実が重要ですよと教えます。ICFを知るためには観察が必要ですよと教えます。ですが、観察をきちんと教えないから、観察がぐちゃぐちゃになり、ICFに苦手意識を持ってしまうのです。

 観察がしっかりしていれば、事実整理が楽になります。ICFへの抵抗感を少しでも軽減できるよう、今日のテーマである「観察」というものをしっかり知っていただきたいと思います。

おわりに

 家族介護には「福祉」という言葉は続きませんが、みなさんが実践している介護は「介護福祉」と表現されているように「福祉」という言葉が続きます。これは、みなさんの実践する介護は、「介護を通して相手の福祉(幸せ)を実現する」ものだからです。

 今回の研修を通して、介護福祉とは、丁寧な観察から始まっているということをもう一度意識していただきたいと思います。今まで無意識・瞬間的にしていた観察の専門性は上手に伝えられてきませんでした。そこで、今回の研修では観察の構成要素としてP.E.I.P.を紹介しました。このP.E.I.P.を意識することで、丁寧な介護福祉の実践が観察から始まっていることを「少し」でも理解していただけたら幸いです。

 これで終わります。長時間、ありがとうございました。(拍手)

Copyright(c)2003 medical & welfare All rights reserved.