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協同組合報vol.178
2018年1月号

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トピックス 講演

「日本の安全」と「憲法」を考える

代々木総合法律事務所 弁護士 林 治(はやし おさむ)

 1月13日〜14日、事業協同組合医療と福祉の「2018年度予算合宿」がクロス・ウェーブ府中で行われました。初日の講演で弁護士の林治さんが「憲法を改正すれば日本は安全になるのか」と、憲法と今の情勢との関係をわかりやすく話されました。その内容を要約して紹介します。

はじめに

写真 私は2007年に弁護士になり、代々木総合法律事務所に就職し、以来、同事務所で弁護士活動をしています。生活保護など生活に困っている方の相談にのることが多いです。今日は憲法の話をしますが、安倍政権になってから、軍事費がぐーんと増えています。一方で、社会保障費はどんどん削られています。生活保護費では、2013年から段階的に670億円削られてきて、去年、さらに160億円削られることになりました。

 去年11月、トランプさんが来日して米国製防衛装備品の大量購入を要求したわけですが、その後日本はなんと、新型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の導入を閣議決定しました。日本全土を防衛するには2基必要だと。1基700億円から800億円もするんですよ。無茶苦茶ですよね。こういう話をすると、怒りのほうが先に来てしまいますので、冷静になって(笑)本題に入りたいと思います。

そもそも憲法って何?

1.一般の法律とどこが違うの?

 憲法というと法律の王様のように思われるかもしれませんが、憲法は一般の法律とは次元が違います。一般の法律には、皆さんもご存知のように民法や刑法、医師法、道路交通法などいろいろあります。たとえば医師法では、医師免許がない者は医療行為をしてはいけないと定められていて、違反すると罰則を受ける。国民は法律に従わなければいけません。では、その法律がどこで決められるかというと国会です。多数の国民によって選ばれた国会議員が多数決によって法律を決めるわけですから、その地域や時代の多数の意見が法律には反映されています。ですから、多数の意見に従って法律を守りましょうということになるわけです。

 では、多数意見は常に正しいでしょうか。ノーです。人間は過ちを犯すということが歴史的にも証明されています。情報操作をされたり、雰囲気に流されたり、目の前の利益に惑わされてしまったりする。たとえば、ドイツのナチス党は選挙によって多数を得て、合法的に第1党になりました。戦前の日本では、大本営発表を信じた国民が多数いました。イラク戦争に突入したアメリカは、イラクには大量破壊兵器があって、今つぶさないとその大量破壊兵器によって攻撃される、9.11を起こしたアルカイダとフセイン政権はつながっていると言って戦争を始めました。それを承認したのはアメリカの議会です。ところが、あとで調べてみると、イラクに大量破壊兵器なんてどこにもなかった。アルカイダとのつながりを示す資料も一切出てきていません。

 このように、多数で選んだものは何でも正しいというのはとても危険なことです。そこで、憲法の必要性が出てくるわけです。憲法に「これはしてはいけない」と書かれていることは、たとえ多数意思でもやってはいけませんよと。そうしないと、国民がとんでもない方向に行ってしまう危険があります。つまり、多数意見や時の支配者によっても奪えないような国民の権利や自由を守る手立てをする。これを定めているのが憲法なのです。

2.立憲主義

 立憲主義というのは、憲法によって権力行使に歯止めをかけるという考え方です。これは、元々は、国王が持っていた絶対的な専制政治に歯止めをかけるために生まれたものです。今の民主主義の社会では、多数者の権力行使に歯止めをかけるという意味に変わってきていて、特に、少数者の権利や自由を守るという機能を持っています。

 1789年のフランス人権宣言16条に「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法をもつものではない」と、立憲主義的意味の憲法のことが書かれています。1789年は日本では江戸時代です。この時代にこういう人権宣言をつくったなんて、すごいなと思います。

3.憲法と法律の違い

 これまでの話で、憲法と法律の違いがおわかりいただけたと思います。法律は国家が国民を縛るものです。憲法は国民の権利や自由を守るために多数者の横暴を許さない、国民が国家に対して「私の権利や自由を侵害するな」と命じているものです。憲法によって国家権力が縛られている。つまり、法律と憲法では、矢印の向きが正反対だということです。

4.憲法を守らなければいけないのは誰?

 憲法を守る義務を負っているのは、国家権力です。資料に憲法全文をつけましたので、憲法99条を読んでみましょう。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 国家権力を実際に行使するのは公務員ですから、公務員は憲法を守りなさいと書いてあります。国民は憲法を尊重しなさいなんてことは一言も書いてありません。

 今度は憲法13条を読んでみましょう。

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 13条には、個人が尊重されるように、尊厳をもって生きられるように、最大の尊重をもって政治をしなさいと書かれています。憲法の一番のキモはこの13条の「個人の尊厳」なんです。平和主義というのも、個人の尊厳を守るための前提です。上から爆弾が降ってくるような、いつ死ぬかわからないようなところで個人の尊厳なんてありえません。

 憲法は権力を縛るものであり、そのキモは13条である。ここだけはぜひ覚えておいてください。 

憲法改正にノリノリの安倍首相の思惑

写真 安倍さんは、昨年5月の憲法記念日に「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と発言しました。そして12月20日、自民党は「憲法改正に関する論点とりまとめ」という短い文章を出しました。そこには4つのことが書かれています。

(1) 自衛隊の明記、(2)緊急事態条項、(3)教育充実、(4)(参議院選挙区の)合区解消

 (1)については、「9条1項、2項を維持して自衛隊を明記する」という意見と、「9条2項を削除して自衛隊を明記する」という意見を併記しています。

 自民党、あるいは安倍首相はなぜ憲法を改正したいのか。さきほども言ったように、憲法は国家権力を縛るものですから、縛られている権力のほうが改正したいとはどういうことか。縛られている手を、もっと強く縛ってくれということか、緩めてくれということか。マゾでないかぎり、「緩めて」のほうでしょう。権力の縛りを緩めたらどうなるか。国民の権利や自由、個人の尊厳は制約されることになるでしょう。権力側から出てくる憲法改正論は、かなりヤバいと思って間違いありません。

自衛隊は憲法に違反しているの?

1.自衛隊は「戦力」では?

 では、自衛隊とはどういうものか。憲法9条を読んでみましょう。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 自衛隊は、2項の「陸海空軍その他の戦力」にあたるんじゃないの? という疑問が生じます。政府は、自衛隊は戦力ではないと言っています。その理屈は、国際法上、どの国にも自衛権は認められている、「自衛のための必要最小限度の実力」は憲法上持てるんだと。その「必要最小限度の実力」が自衛隊であるから、合憲である、というのが政府の説明です。

 交戦権の否認の理屈はこうです。交戦権とは、戦争当事国に認められた権利です。たとえば、敵の兵士を殺す、敵の軍事施設を攻撃するなどの権利が交戦権です。政府は、「自衛権の行使としての自衛隊の行為は、あくまで自衛のための実力行使であり憲法で禁じられた交戦権ではない」と言っています。つまり、自衛権のための実力行使は交戦権に当たらない、だから合憲であると。ただし、政府の説明では、合憲となる「必要最小限度の実力」と、違憲となる「戦力」との境は曖昧ですから、この説明では十分ではないという議論はあります。

 自衛隊違憲論は憲法学者の中ではかなり有力です。ただ、こういう講演で「自衛隊を今すぐなくしてほしいと思う方は手を上げてください」と言うと、手を上げる人はあまりいません。「自衛隊はあってもいいんじゃない?」と思っている人はやっぱり多いです。一方、「自衛隊が外国に行って戦闘行為を行うことについてはどう思いますか」と聞くと、「それはちょっと」となります。自衛隊の存在自体は肯定的にとらえていても、外に出てドンパチやることに対しては反対だという人が多いような気がします。

2.自衛隊が合憲ならば

 政府の説明によれば、自衛隊は合憲ですから、ならば別に憲法改正をしなくてもいいのでは、と思いませんか。これまでの政府の説明によれば、日本が攻められたときには自衛隊によって反撃できる、これを個別的自衛権といいますが、これはできると。ここで問題になるのが、2015年の戦争法(安全保障法)です。これによって集団的自衛権を認めるということになったわけです。集団的自衛権というのは、日本以外の国、想定されているのはアメリカですが、アメリカが攻撃されたときに一緒になって戦うというものですから、自衛隊は合憲であるという憲法学者の中でも、集団的自衛権までは認めませんよと言う人が大半です。

憲法改正で日本は安全に!?

写真1.安倍首相の改憲のネタ本

 安倍首相の9条改正には、実はネタ本があります。「明日への選択」(2016年9月号)という雑誌で、伊藤哲夫という人がこう書いています。「憲法9条に3項を加え、『但し前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない』といった規定を入れる」

 安倍さんはこれに乗っかったんです。オリジナルではありません。伊藤氏は、「日本会議」の常務理事です。「日本会議」というのは、憲法改正を求め、日本の侵略戦争を否定し、選択的夫婦別姓に反対する右翼の政治団体です。

2.自衛隊をただ書くだけなら

 現状の自衛隊をただ書くだけなら、別に3項を加えてもいいんじゃない? と言う人もいます。「国のために命をささげる自衛官が違憲の存在だと言われないようにするため」「自衛官が誇りと自信をもって活動できるようにするため」という意見もあります。純粋な情緒論ですね。これに対して、早稲田大学教授の長谷部恭男氏は、「現状を追認するだけなら、これが実現したからといって日本の安全保障がより堅固になり、日本がより安全になるということはないはず」と言っています。長谷部さんは戦争法が議論になったときに、国会の憲法審査会に呼ばれた3人の学者の1人で、自民党の推薦で呼ばれた方です。なぜ選ばれたかというと、自衛隊は合憲だと言っている方だからです。その長谷部さんが、集団的自衛権は違憲であると国会で発言しました。

 さらに、自衛隊を書くだけで、今の自衛隊は変えないのかというと、そうではないと思います。今の自衛隊は任務が大きく拡大し、装備も攻撃的なものになっていて、現状でも、「必要最小限度の実力」を超えているのではないかという疑問があります。専守防衛というだけでなく、相手を攻撃するような戦力になっているのです。

 自衛隊はこの間、海外派兵をずいぶん行っています。しかし、海外でも、戦闘地域には行けないという憲法上の制約があります。それが憲法で自衛隊を認めたら、もっと攻撃的な装備も買えますし、現状追認どころか、地球の裏側にも戦力を行使できるようになります。3項を加えると、2項はなきに等しいものになってしまいます。

3.中国や北朝鮮の脅威は?

 そうは言っても、中国や北朝鮮の脅威があるじゃないですか、どうするんですか、と言う人がいます。だけど、そもそも中国や北朝鮮が日本に攻めてくるかと言ったら、蓋然性は低いです。

 そもそも強大な軍事力があれば安全なのか。今でも日本は、世界で有数の軍事大国です。ある調査では、2015年度の世界の軍事費ランキングで日本は8位です。その前後を見ると、6位フランス、7位イギリス、9位韓国、10位ドイツです。統計の取り方はいろいろありますが、どの統計を見ても、日本は10位以内に入っています。

 北朝鮮の矛先は、最大の軍事大国アメリカに向けられています。そうすると、アメリカ以上の軍事大国にならないと、北朝鮮の脅威から逃れられないということになります。「抑止力」とよく言われますが、これは脅し合戦であって、際限のない軍拡競争をもたらします。

 北朝鮮の脅威についてですが、北朝鮮のミサイルは発射から約10分で東京に到達すると言われています。ですから、どんなにいい装備をしたとしても、10分で何ができるの?ということです。迎撃ミサイルも100発100中ではないし、そもそも迎撃ミサイルの破片が落ちてくる。北朝鮮のミサイルと迎撃ミサイル、2発分の破片が落っこちてくる(笑)。大変なことになります。

4.テロの脅威はどうするの?

 そうは言っても、テロの脅威もあるし、改憲は必要なんじゃない? と言う人もいますが、強大な軍隊を持つイギリス、フランス、アメリカでもテロは発生しています。「サリン事件は自衛隊が憲法に明記されていなかったから起きた」などと言う人はいません。自衛隊を憲法に明記しても、テロは防げません。むしろ、世界中の紛争に自衛隊が出ていくことで、日本人が反感を買ってテロの危険が増すということも考えられます。テロを防ぐには、その原因となる貧困や格差、不平等、社会不安などを除くことこそが肝心です。これは時間がかかることですから、本腰を入れた地道な取り組みが必要なのです。

おわりに

 自衛隊を明記することで、むしろマイナスになることのほうが多いと思います。一つだけ言うと、災害救助の機能が縮小するのではないか。というのも、自衛隊の任務が海外に広がっていけば、いざ災害救助が必要になったとき、精鋭部隊は海外に行っていて、残っているのは老人ばかり(笑)、なんてことにもなりかねないからです。

 政府が挙げている改憲の理由は全く理由になりません。それどころか、憲法9条があるからこそ、自衛隊員が海外に行ってドンパチやることもなく、その報復として日本でテロが起きることもなかったのです。ですから、日本の安全を守りたいのであれば、改憲ではなく、9条を生かすような政治を行うことがもっとも重要なのです。これで終わります。ありがとうございました。(拍手)

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