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協同組合報vol.174
2017年11月号

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トピックス 寄稿

介入に拒否的な高齢夫婦の支援から見えた地域ネットワークの重要性

流山市中部地域包括支援センター センター長(主任介護支援専門員)伊江 さおり

はじめに

  皆さんは地域包括支援センターをご存知でしょうか。

 地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、3職種(保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員等)のチームアプローチにより、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設です(介護保険法第115条の46第1項)。主な業務は、介護予防支援及び包括的支援事業((1)介護予防ケアマネジメント業務、(2)総合相談支援業務、(3)権利擁護業務、(4)包括的・継続的ケアマネジメント支援業務)で、制度横断的な連携ネットワークを構築して支援を展開することが求められています。

 当センターは千葉県流山市中部地域を担当圏域とし、2006年より市から受託しています。流山市の人口は2017年4月1日現在182,126人、高齢化率24.0%、つくばエクスプレスの開通に伴い、ベットタウンとして人口増加率が県内で最も高い市になっています。私たちの担当圏域は、地区別の高齢化率が6%から45%と大きな差が特徴となっています。現在6名の職員で、年間約1万件の相談を受けています。

 今回、これまでに構築した地域のネットワークが個別支援に活きた事例から、真の地域包括ケアとは何かを職員が考える機会となりましたので、それを紹介させていただきます。

事例紹介

 A夫婦(夫90歳、妻88歳)。子どもなし。夫は高血圧、腎機能低下により、6年前から尿バルンカテーテルを留置し、難聴があります。妻は4年前に屋外で転倒したことを機に家に閉じこもりがちとなり、認知症の疑いがあります。妻も難聴です。かかりつけ医はありません。

 夫が家事一切を行っていましたが、X年1月頃より労作時の息切れが悪化、外出時の転倒も増えて度々救急病院に搬送されていました。A夫婦が住む地区は住民による見守りパトロールが活発に行われている地区で近所の不安も多く、自治会長や民生委員、搬送先のMSW(医療ソーシャルワーカー)から当センターへ情報提供を受けていましたが、元々付き合いは希薄で拒否的な様子が続き、月1、2回程度の安否確認に留まっていました。

支援経過

◆警察から支援要請の連絡

 X年9月某日の夜間、夫が買い物に出て路上で倒れ、住民の通報によりC病院に搬送されました。入院指示が出るも拒否、妻が要介護状態であり自宅も不衛生であることを理由に、翌朝警察から支援要請の連絡が入りました。帰宅した夫が、家に入れない場面を心配した隣人から自治会長へ相談した情報、病院からの情報も確認した上で、市の職員と同行訪問しました。

 部屋は長期間ごみ出しができていなかったと思われ、足の踏み場もなく虫が飛び交っていました。本人たちの困りごと(足の踏み場がなく移動に不便だ、買い物が大変だ)に対し強く説得をして、即介護認定の申請を行うこととなりました。 

◆何度も拒まれながらも関わり続けて

 その後数日間は毎日訪問し、受診やサービス導入に向けて調整を図りましたが、元々人とのかかわりが苦手なA夫婦は何度も拒むことがありました。その間は地域包括支援センターの職員が窓口となり、本人の戸惑う気持ちに徹底的に寄り添いながら信頼関係構築に努めました。往診医、訪問看護、ケアマネジャー、ヘルパー、宅食サービス等全ての関係者は、何度も拒まれながらも絶妙なバランスで関わりを持ち続けてくれました。また、地域の方は心配しながらも温かく見守ってくれました。

 関わる全員がA夫婦の「人となり」を理解し受け入れ、柔軟に対応してくれたことが支援介入に大きく影響したと思われます。

 それでも妻の受診には約1ヵ月を要しましたが、最低限の安全確保と本人のQOL、まわりが考えるQOLのすり合わせを続けながら在宅生活を続けました。

◆これからの生活を関係者と共に考える

 X年11月、妻の食欲低下、ADL低下により関係者は在宅生活限界と判断しました。夫の疲労も顕著であったため、二人の休息を目的としてショートステイ利用を決めることができました。安心した環境に身を置いたA夫婦は徐々に気持ちが穏やかになり、これからの生活を関係者と共に考えて後見人を申し立て、有料老人ホームへの入居を決めることができました。

図3 2017年度の中部コミュニティ会議
図3 2017年度の中部コミュニティ会議
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図4 地域の見える化資料の一部
図4 地域の見える化資料の一部
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高齢化率や介護認定率、認知症高齢者自立度、健診受診率や相談内容、活動の傾向などから地区の特性と取り組み課題を抽出しています。

考察

◆孤立しがちな方への支援は

 この事例を通して見えたのは、個別支援の按配と日頃から行うネットワークづくりの重要性です。

 A夫婦のように人と関わりを持ちたがらない方は、自らSOSを出さず孤立していることが少なくありません。また、いざ支援介入の段階になっても人との関係構築にストレスを感じるため、長期間を要します。このようなケースに関わり始める時、限られた初期情報の中で、対象者に与える第一印象に配慮しつつ短時間で状況確認や課題整理をするスキルが求められます。専門的かつ総合的な判断でタイミングを図ります。

 これは、地域包括支援センターのチームアプローチが生かされる部分で、私たちは常にケースを検討しながら対応を重ねていきます。そして、関連機関との連携も、情報共有と支援バランスのタイミングを見て迅速に行います。今回は、ポイント的、短期的な関わりであっても各専門職の力が十分に発揮できた連携事例となりました。 

◆地域と専門職を繋ぐ『中部コミュニティ会議』

 この背景には、日頃から行っているネットワークづくりがあると思われます。

 一つはA夫婦が住む地区との関係づくりで、年間を通して介護予防教室や認知症サポーター養成講座、見守り活動の懇談会、介護者の会など協力した活動が数多くあります。また、民生委員と定期的に「気になるケース」を共有し、いざという時に備えています。

 二つ目は、地域と専門職を繋ぐために行う『中部コミュニティ会議』です(図3)。国が示す「地域ケア会議」と「第2層協議体」をイメージして2013年度から続けており、地域で活動する専門職の実践的連携力の向上と、地域と専門職がより良く繋がることを目的に、毎月開催しています。参加者は、自治体関連課職員、自治会長、民生委員、医療介護専門機関、高齢者に関わるNPO等です。

図1 会議で配布しているさまざまな資料
図1 会議で配布しているさまざまな資料
中部コミュニティ会議。在宅医療・終末期について、地域と専門職が一緒に学習。活発な意見が出されました。
中部コミュニティ会議。在宅医療・終末期について、地域と専門職が一緒に学習。活発な意見が出されました。

 先に述べたように、担当する圏域は地区の特徴に大きく差がある地域のため、小学校区毎の会議を定例開催し、地域課題に焦点を当てた検討の場としています。そのために職員は、日常的に地域資源情報の整理や個別ケースから傾向を掴むことに努め、地域の見える化に努力をしています(図4)。実際に住む方から現状を聞き取れる大事な機会でもあり、データと現実の違いに戸惑うこともありますが、生きた地域情報から見えてくる課題についてタイムリーに多職種多機関が意見交換をする本当に貴重な場となっています(図1、写真)。

 毎月の会議から見えてきた課題に対して、大きなテーマで年2回、圏域全体会も行っています(写真)。また、会議開催だけで終わらないよう地域ネットワークづくりのPDCAサイクルを実現させるために、会議の振り返りや次期プランを市の職員や地域の有識者に協力いただき行っています(図2)。私たちが主催で行っていますが、地域の方々や関連機関の協力が無くては続けていくことができない取り組みです。他の地域で同じことを試みてもうまく続かないこともあると聞き、今まで地域との関係構築を丁寧に続けてくださった先輩職員の方々に改めて感謝しています。まだまだ整備された取り組みではありませんが、続ける必要性は大きいと思います。

中部コミュニティ会議。在宅医療・終末期について、地域と専門職が一緒に学習。活発な意見が出されました。 中部コミュニティ会議。在宅医療・終末期について、地域と専門職が一緒に学習。活発な意見が出されました。
図2 地区別の計画書
図2 地区別の計画書
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おわりに

地域の介護サービス事業者と開催したフェアは、住民の方に大好評でした。 写真
写真
地域の介護サービス事業者と開催したフェアは、住民の方に大好評でした。

 A夫婦の事例のように、さまざまな場所で活躍する専門職が、自分の領域から少し目や手を伸ばして繋がり合うことが、これからの地域包括ケアには大切だと感じています。地域包括支援センターの多面的な業務をする中で、まず地域に根差すことの大切さも実感しました。専門職と地域が『つながり合う・関わり合う』ための潤滑油になるべく私たちは日々奮闘しています。

 目前の事例を見ると、認知症による運転や行方不明、介護による家庭崩壊、孤立化、経済的困窮、介護負担による虐待等、深刻な問題は山積みです。個別性を持ち丁寧に対応しながら広い視野を持つこと、多角的に捉えるバランス能力を高めるチームアプローチを積み重ねていきます。

 また、現在支援を必要としない方や地域全体に対してできることは何か。『地域を知り、地域を伝え、地域をつくるために動くこと』だと考えて、中部コミュニティ会議を柱に制度横断的な取り組みを行っています。11月は「医療介護フェア」を開催しました(写真)。「地域づくりって面白い!」という気持ちを地域に関わる皆で感じる醍醐味を、さらに味わい広げられる活動を積み重ね、中部地域包括ケアを構築していきたいと考えています。

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