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協同組合報vol.165
2016年12月号

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トピックス 寄稿

虫歯はなぜ痛むの?

代々木歯科 歯科技工士 保坂 亜麗

こんな経験はありませんか?

 「虫歯治療で神経を取った歯なのに、また突然痛み出した」「前歯の歯茎が腫れて痛い」「歯が浮いたような感じがする」「食べ物を前歯で強く噛んだら歯の痛みに悩まされるようになった」などの歯の痛みや症状に悩まされる方は、外来の患者さんの主訴として少なくありません。その痛みの正体は、歯槽膿瘍かもしれません。

歯の構造の話

 はじめに、歯の構造について説明します(図1)。歯の組織は、硬い組織(硬組織)と神経や血管などの柔らかい組織(軟組織)に分けられます。

 この硬組織には、エナメル質、象牙質、セメント質があり、軟組織には、神経や血管の豊富な歯髄があります。この歯髄を守るように、歯髄の周囲を硬組織が覆っています。特に、咬む部分であるエナメル質は、最も硬い人間の組織です(象牙質は骨と同等の硬さです)。

 そして、歯は構造的に歯冠と歯根に分けることができます。歯冠はエナメル質に覆われた歯茎(歯肉)より、露出している部分です。歯根は歯槽骨といわれる顎の骨に植わっている部位です。歯根の歯槽骨寄りの先端部を根尖といい、この根尖には、根尖孔という非常に小さな穴が複数あいています。この根尖孔は、歯髄が生きていくために、必要な血液を歯髄に供給します。歯根と歯槽骨は、直接接触しているのではなく、歯根膜によって接合されています。また、歯髄が内包されている空間を歯髄腔や根管といいます。

図1 歯の構造

虫歯はなぜ痛むの?

 図2のように、虫歯はミュータンス菌などの細菌の作る酸によって、歯の表面を溶かすことで、歯冠の表面を覆うエナメル質が溶けて穴があき、その穴の中で細菌が増殖し、次の象牙質にも穴をあけます。

 象牙質はエナメル質より柔らかいので、エナメル質より早く進行します。そして、最後に歯髄にまで達します。エナメル質には、痛みなどの情報を伝える神経がありませんので、エナメル質内の虫歯では痛みは感じません。象牙質表層でもまだ痛みを感じませんが、虫歯が深層の歯髄近くまで進行すると、冷水にしみるような症状が発生します。

 ついに、歯髄まで虫歯が達すると、皆さんがご存知のような、激烈な痛みが生じます。歯髄内にミュータンス菌などの細菌が侵入すると、免疫細胞との壮絶な戦いになります。この状態を、歯髄でおこる炎症なので、歯髄炎といいます。

 歯髄炎の状態になると、細菌に負けないように、根尖孔を通って歯髄にどんどん血液(栄養)が送られます。しかし、歯髄の栄養供給部は根尖孔しかないため、栄養不足に陥り、根管内すべての歯髄が死んでしまいます(歯髄壊死)。そして、歯髄壊死になると、痛みを伝える神経もなくなるので、一次的に痛みは治まります。しかし、細菌たちの進行は、終わってはいません。歯髄炎を放置しているとどんどんと進行していき、歯槽膿瘍、歯根肉芽腫(にくがしゅ)、歯根嚢胞(のうほう)といった病気に繋がっていきます。

図2 虫歯の進行

歯槽膿瘍って?

 歯髄炎が進行すると根管内全体に炎症が広がり、歯髄が死滅し腐敗します。腐敗した歯髄からは炎症を起こす成分(起炎物質)が発生します。この起炎物質が、歯根の先端にある根尖孔から押し出されることにより、炎症が歯根膜、歯槽骨へと広がり、根尖周囲に免疫細胞が集まってきます。その後、根尖周囲に充血、腫脹、発赤が発生します。

 炎症が長引くと、免疫細胞である白血球の死骸である、膿が溜まって痛みの発生や、免疫の影響で根尖周囲の歯槽骨が吸収され歯茎近くまで空洞を作ると歯茎の腫れ、歯が浮いたような違和感などの症状が現れます。さらに、これを放置していると、歯がぐらついてきたり、頬が腫れたりしてくることがあります。

歯根肉芽腫や歯根嚢胞って?

 歯根肉芽腫や歯根嚢胞は虫歯や歯周病などと違い、あまりよく聞いたことがない用語だと思います。どちらも歯科領域では多い疾患であり、歯槽膿瘍が進行した病態です。歯根肉芽腫も歯根嚢胞も慢性炎症状態であり、激しい痛みがなくなり、自覚症状も乏しいことがあるのでとても厄介な病気です。何が厄介かというと、歯髄炎や歯槽膿瘍のような痛みがなく、痛みがないからといって治ったわけではなく、静かに炎症を進行させているからです。

 歯根肉芽腫は、人体の免疫反応として歯槽膿瘍を排除しようとして、肉芽組織が歯槽膿瘍の周りに増殖した結果発生します。そして、次第に肉芽組織にも膿が溜まっていき、その外側には上皮が増殖してきて、上皮が膿ごと肉芽組織を包んでしまいます。これを歯根嚢胞といいます。

 つまり、虫歯から歯槽膿瘍になり、歯槽膿瘍から歯根肉芽腫、歯根嚢胞となっていくのです。ひどいときには、骨をも欠落させてしまい歯肉にも広がってしまいます。歯肉の上から触ると、腫れた状態を確認できることもあります。レントゲンで患部を撮影してみると、歯根膿瘍は、根尖の先に黒い影のようなもので映し出されます。一方、歯槽膿瘍の段階では、はっきりしない曖昧な形で映し出されます。ちなみに根尖の先に生じる歯槽膿瘍や歯根肉芽腫、歯根嚢胞などの病変を慢性根尖性歯周炎=根尖病変といいます(図3)。

図3 根尖病変

外からの強い刺激でも発症することがあります

 根尖病変は、強い刺激を受けることで発症することもあります。スポーツなどの最中に他人の頭や額にぶつけたり、硬いステーキを噛んだりなどの刺激を受けても発症します。

 歯髄は、根尖の毛細血管から酸素や栄養の供給を受けています。しかし歯が強い刺激を受けると、そのショックで根尖の毛細血管が破断してしまいます。毛細血管が破断してしまうと、歯髄は酸素や栄養の補給を受けることができなくなります。その結果、歯髄が死滅し起炎物質となり炎症を引き起こし、根尖、歯根膜、歯槽骨へ炎症が広がり、歯槽膿瘍から歯根肉芽種、そして歯根嚢胞へと進展してしまいます。

治療方法は?

 根尖病変の治療法には、非外科的な感染根管治療や、外科的な歯根端切除術があります。

 感染根管治療は、歯髄が入っていた根管の中の膿や細菌など汚いものを全て取り除いて、無菌状態にした上で、薬やセメントなどを詰めて密閉し、細菌の住処を無くしてしまう方法です(図4)。

 まず、細菌によって汚染された根管の内側を歯科用やすりなどでこすり落としたり、洗い流したりしてきれいにします。次に消毒した上で、根管に薬などを詰め込む根管充填を行って密閉します。一般的に、前歯と小臼歯の根管は、1〜2本、大臼歯の根管は1〜4本といわれます。しかし、患者さんごとに根管の数は異なります。加えて途中で分岐していたり、湾曲していたり複雑な構造をしているのが根管です。一つでも見逃すと、再発を招いてしまいます。そのため、すべての根管を据えて、根管内全体をきれいにすることが求められます。

 感染根管治療が成功して治癒に向かうと、レントゲンで映し出される病変部の黒い影が徐々に薄くなっていきます(図5)。歯槽膿瘍や歯根肉芽腫の段階ならば、感染根管治療で治せる可能性が大きいといえます。

 あるいは、歯根嚢胞の段階まで進んでしまった症例でも、まだ上皮が成熟していないものであれば、感染根管治療で治せる可能性があります。しかし、歯根嚢胞まで進行し、上皮に完全に覆われてしまうと、非常に治りにくい状態となります。そうした症例に対しては、歯根端切除術という外科的手術で治すのが一般的です(図6)。

図4 根尖病変のレントゲン像

図5 根尖病変の治癒

図6 歯根端切除術

歯根端切除術は

 歯茎側から溜まった膿を取り除き、嚢胞と一塊として歯根を切除する方法です。歯根端切除術を行ったほうがいい場合は、何度根管治療を行っても膿が取れず治らない、歯根の形態が複雑な場合などです。歯根端切除術の方法は歯茎に麻酔をして、歯茎を切り膿がたまっている根尖部を切除します。カットした歯根の先端の形態を整えて根管内に薬を詰め、細菌が繁殖しないように密閉します。そうすることで歯根の中に細菌が残っていても、薬で密閉してしまったので細菌は出てくることができず、炎症が広がらないということです。

 その後、切開した箇所を縫い合わせます。術後は麻酔が切れるまで食事を控える、傷口に刺激を与えないなどの注意が必要です。 

最後に

 歯髄炎、歯槽膿瘍、歯根肉芽腫、歯根嚢胞、根尖病変は絶対に放置してはいけません。根尖部には、目に見えないくらい細い神経の枝が伸びています。放置したままでいると、その細い神経から再発してしまう恐れがあります。歯根端切除術では、そのような細菌に感染している恐れのある歯根を切除して薬を詰めます。最近では、歯科用のCTや、手術用顕微鏡なども普及し始めていますから、少しでも痛いな、腫れている感じがするなと思ったら、歯医者さんに行って相談してみてください。

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