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協同組合報vol.113
2012年8月号

インフォメーション2

薬害をなくすために

外苑企画商事 藤竿伊知郎


 今年も猛暑の中、薬害根絶を訴え行動する「薬害根絶デー」が開催されました。昨年も訴えてきた、薬害イレッサ訴訟の早期解決と、第三者監視組織の実現、抗がん剤の副作用被害救済制度創設は、先送りになりました。

 薬害をなくすために何が必要なのか、改めて考えてみましょう。

1. 薬害とは何か

サリドマイド被害者・増山さんの訴え
サリドマイド被害者・増山さんの訴え

 医薬品に副作用はつきものですが、薬害は許容できない健康被害を、大規模に発生させた事故です。開発・販売承認・臨床使用のどこかで担当者がミスを犯した個人責任ではなく、システムとしての責任が問われています。

 薬害被害者が望むことは、医療過誤被害者と同じように、1)原状回復、2)真相究明、3)反省謝罪、4)再発防止、5)損害賠償です。

 日本では、被害者が団結し、真相解明と再発防止のために薬事制度の変革を勝ち取ってきました。

・サリドマイド → 1967年薬務局長通知(承認制度全般、副作用モニター、薬効再評価制度)
・スモン → 1979年薬事法の大改正(緊急命令、承認取消権限、副作用被害救済基金法)
・薬害エイズ → 1997年 組織改編(規制と産業振興の分離、危機管理体制整備)
・薬害ヤコブ → 2004年(生物由来に医薬品救済制度、薬害教育)
・薬害C型肝炎 → 検証再発防止委員会「最終提言」に基づく改革

2. なぜ薬害が起きるのか

薬害根絶デーで配布したうちわ
薬害根絶デーで配布したうちわ

 薬害事件の教訓として次の点が指摘されています。企業や国など、組織としての対応が問題になっています。

1)危険情報の軽視
 開発の時点で気づいていた重大な副作用を、注意して使えば大丈夫として、医療現場に伝えない。

2)適応の拡大、拡販
 臨床試験で有用性が認められた範囲を超えて拡販する。

3)発売中止・回収の遅れ
 問題とわかった後も、売り続ける。間違いを認めない。

3. イレッサに見る新しい問題点

 イレッサでは、安全性情報の伝達と販売方法が問われています。

 発売当時、医師が注意しようにも、重大な副作用はないとする情報があふれていました。

 「Medical Tribune」2001年10月25日号で、近畿大学医学部第4内科中川和彦らは次のように語っています。

 「副作用では皮疹が非常に多く現れると言われていますが、その他、何か注意すべき副作用はみられますか。」

 「その他の副作用としては、頻度はそれほど高くはないのですが、下痢と肝機能障害が挙げられます。ただし、投与をある程度中止すれば非常に速やかに改善しますので、臨床上あまり問題にはならないと思います。」

 この記事で、間質性肺炎にはまったく触れていません。また、このページのスポンサーはアストラゼネカ社でした。

 一方で、承認審査の内容を示す2002年5月9日付の「審査報告書」が公開されたのは、緊急安全性情報が出た10月以降です。5月24日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、委員が問題点を指摘した議事録が公開されたのは、2003年です。

 審査の中で見つかった問題点が、臨床の場に伝わっていませんでした。

 肺がん治療を行ってきた大学病院医師は「当初、イレッサの副作用については全く深刻に考えていなかった。大問題になって認識を改めた」(2011年12月7日 読売新聞)と語っています。

 医療用医薬品を消費者に向けて広告宣伝することは薬事法で禁止されていますが、イレッサの発売前、マスコミ報道がその代わりを果たしました。

 「Astounded(仰天した)、Amazing(驚くべきこと)。先月、米臨床がん学会で発表された、がん新薬に対する専門家たちのコメントだ。

 脚光を浴びているのは『分子標的薬』と呼ばれる一群の薬。現在の抗がん剤は、がんを殺傷する一方、正常細胞にも大きな障害を与える。がん細胞の特定の場所(分子)を狙い撃ちするのが分子標的薬。ピンポイント爆撃のようなものである。」(読売新聞、2002年6月3日)

 アストラゼネカ社は2002年1月から、インターネットで「肺がん情報提供のホームページ エルねっと」を運用しています。この中でイレッサに関する情報提供を消費者向けにおこないました。

 新規成分医薬品の使用に慎重であった医療機関でも、患者の要望を受けて、早期に使用をせざるを得ませんでした。

4. 薬害防止に向けて

 薬害イレッサの裁判で国と企業は、医師が「イレッサの副作用として生ずる間質性肺炎が症例によっては致死的となり得ることを容易に認識することができたし,認識すべきであった」と責任転嫁の主張をしています。高等裁判所がその主張を認めたことから、最高裁で争っています。

 声を上げていかないと、医療機関の注意責任にされる状況です。

 緊急安全性情報が出た後、副作用死が減っていることでわかるように、臨床現場に具体的な安全性情報を提供させることが重要です。

 また、新薬に対する患者さんの期待に対し、冷静に対応することも求められています。

 薬害イレッサは、新薬による健康被害の防止に関する課題を示しています。被害の実態に学び、薬害を防止するシステム作りを検討していきましょう。

【参考資料】

薬害って何だろう?-薬害を考えるにあたって- 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakugai/

薬害根絶デー 書庫
http://www.gaiki.net/yakugai/ykd/index.html

集団訴訟になった主な事件(訴訟の時期)
・サリドマイド (1963〜1974)

 妊娠中に服用した睡眠薬で、手足や耳に奇形をもった子どもが生まれた。被害児は世界で数千人、日本約千人。日本では、レンツ博士の警告後も、販売を9カ月間継続。

・スモン (1971〜1979)
 下肢の麻痺や視力障害などの末梢神経障害が多発。70年に殺菌剤キノホルムが原因と判明。被害者約12,000人。1935年には副作用の警告があったのに、安全な整腸剤として大量販売した。

・薬害エイズ (1989〜1996)
 エイズウイルスにより汚染された血液凝固因子製剤により血友病患者約1,800人が感染した。アメリカでは安全な加熱製剤が83年に実用化。日本では85年まで危険な製剤が使用された。

・薬害ヤコブ (1996〜2002)
 脳外科手術に使用したヒト乾燥硬膜がプリオンで汚染。100人以上がヤコブ病を発症して死亡。アメリカでは87年に輸入を禁止。日本での使用禁止は10年遅れの97年。

・薬害肝炎 (2002〜2008)
 C肝炎ウイルスに汚染された血液凝固因子製剤を投与されたことで、少なくとも1万人以上が感染。2008年に救済法成立、国・製薬企業と基本合意。提訴者は2千人。

・薬害イレッサ (2004〜)
 「副作用のない夢の新薬」として世界で初めて日本で承認された肺がん治療薬イレッサによって、間質性肺炎など重篤な副作用を発症。800人以上の死者がでている。

・タミフル (2007〜)
 インフルエンザ治療薬タミフルによる副作用が多発。企業の報告でも異常行動186人、転落26人、死者数70人。

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