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協同組合報vol.93
2010年12月号

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トピックス リポート

予算合宿から藤田先生の講演を紹介

「免疫をつける生活」きれい社会の落とし穴

〜アトピーからがんまで〜

藤田紘一郎 先生(人間総合科学大学教授、東京医科歯科大学名誉教授)

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 12月11日(土)、12日(日)の2日間にわたって、協同組合医療と福祉は「2011年度予算合宿」をクロス・ウェーブ府中で開催しました。本間章東京勤医会理事長が挨拶に立ったあと、「さなだ虫」で有名な藤田紘一郎先生が講演をされ、その超おもしろメディカルなお話は会場を何度も笑いの渦に巻き込みました。これは、“柔軟な心と体”で予算討議に入れるようにという先生の“粋な計らい”だったのかもしれません。

 今回は、藤田先生の講演を要約して紹介します。

 私はインターン時代から、民医連の鬼子母神病院で土日の当直のアルバイトをしておりまして、そのときに一緒に働いていたのが斉藤和子さん(東京勤医会前看護部長)でした。そのご縁で、お声をかけていただいた次第です。私は、さなだ虫をお腹の中に飼って「キヨミちゃん」と名づけているようなヘンな男です(笑)。気軽に聞いていただきたいと思います。

回虫がアレルギーを抑える?

 私は東京医科歯科大学で整形外科医をめざしていました。それがなぜ寄生虫学を専門にするようになったかといいますと、このとおり体が大きいもので大学では柔道部のキャプテンをしておりまして、たまたま熱帯病の調査団の団長先生とトイレで会ったのがウンの尽きで(笑)……。「柔道部員から熱帯病の調査団の荷物持ちを出せないか」と言われました。それで、荷物持ちとして参加したのが縁でした。団長先生は「藤田は不器用だから整形外科の医者にはなれない。回虫がいいだろう」ということで、寄生虫学、微生物学の研究をすることになりました。

 熱帯病の研究で、インドネシアのカリマンタン島という島に6ヵ月滞在しました。ウンチが流れているような汚い川で、子どもたちは平気で遊んでいました。子どもたちは元気で、アトピー性皮膚炎、花粉症、気管支喘息などのアレルギー疾患は全くありませんでした。なぜなのか、というのが研究テーマになりました。

 アレルギー疾患は「奇妙な病気」といわれています。なぜなら、45年前の日本には全くなかった病気だからです。それが今では「国民病」といわれるまでに増えています。私たちはこれまでの研究で、アレルギー病は、回虫や細菌、ウイルスなどの微生物とつきあっていると発症しにくくなるということを明らかにしました。

 皆さんは回虫を知っていますか? お腹の中に回虫がいるなんて野蛮だと思われるかもしれませんが、私とか本間理事長はそうは思いません。小さい頃、全員が回虫を持っていたからです。

 私は三重県多気郡明星村という田舎で育ちました。月に1回、回虫の駆虫デーというのがあって、用務員室の大きな鍋で、海人草(カイニンソウ)をグツグツ煮ます。臭くて、苦いですよ。それを飲むと、すぐに副作用が出て、目の前が真っ黄色になります。翌朝、回虫が出るので、その回虫を洗って学校に持っていきます。長さを測って、一番長いと一等賞をもらえました(笑)。当時、吉田茂総理大臣が、回虫を多く出した人には褒美を与えるという政策を作りました。だから、あっという間に日本から回虫がいなくなりました。

 当時、私たちは、スギ花粉で真っ黄色になりながら杉鉄砲で遊んでいました。でも、誰ひとり花粉症になりませんでした。

 私は三重県多気郡明星村の経験と、カリマンタン島の経験から、回虫がアレルギーを抑えるのではないかと思ったのです。

寄生虫とヒトとの共生の妙

 犬の心臓には、フィラリアという寄生虫がいます。今は野犬の5〜10%ぐらいが持っているだけですが、30年ぐらい前まではほとんどの野犬が持っていました。私は東京大学の大学院を経て、順天堂大学疫学部の助教授になりました。心臓外科の先生が野犬の心臓を使って実験をしていましたから、私はフィラリアをもらって、アレルギーを抑える物質を取り出そうと思いました。この虫を洗って干してハサミで切って、すりこぎですって、という実験を繰り返しました。大変でした。若い研究員を誘っても、誰も手伝ってくれません。教授にも「こんなつまらない研究ではなく、もっと高度な医学的な研究をしろ」と言われました。でも、絶対に寄生虫の中にはアレルギーを抑える物質があると思っていましたから、一人で研究を続けました。

 そしてついに、その物質を見つけました。寄生虫のウンチなどの排泄物の中には分子量約2万のたんぱく質があって、これが人の体の中に入るとアレルギーを抑えることがわかったのです。

図1、T cell dependent IgE Production

 では、どうやって抑えているのか。免疫反応はマクロファージ、T細胞、B細胞の三つの細胞でなされています(図1)。たとえば、はしかのウイルスが体の中に入ってくると、マクロファージがはしかのウイルスを食べる。その情報が抗原提示細胞MHC ClassIIとTCRを介してT細胞に伝わります。さらに、CD40タンパク質とくっついて、入ってきたはしかのウイルスの情報をB細胞に伝えます。すると、B細胞ははしかに対するIgG抗体を作ります。スギ花粉の場合は、スギ花粉が入ってくると、その情報がB細胞に伝わって、B細胞はスギ花粉に対するIgE抗体を作ります。だから花粉症になるわけです。

 私は花粉症になりません。なぜかというと、私のお腹の中にはさなだ虫のキヨミちゃんがいるからです。キヨミちゃんが私のお腹の中でウンチ、おしっこをする。その中の2万のたんぱく質が私のCD40と結合します。そうすると、私がスギ花粉を吸っても、その情報がブロックされて、私のB細胞はスギ花粉に対する抗体を作りません。だから、花粉症にならないんです。

 キヨミちゃんは5代目のさなだ虫です。私のマクロファージはキヨミちゃんの情報をB細胞に伝えて、B細胞はキヨミちゃんを排除する抗体を作ろうとする。ところが、キヨミちゃんは私のお腹の中にいたいから、ウンチの中に2万のたんぱく質を排泄します。そうすると、キヨミちゃんを排除する抗体を作りたいんだけど、作れない。だから、キヨミちゃんはぬくぬくと私のお腹の中にいることができる。寄生虫とヒトとの共生の妙です。

夢の薬誕生?

 ところが、この考え方は、日本の医学界では全く理解されず、無視されました。虫を研究していますので、ムシされた(笑)のかもしれません。私は医学部の教授をやめて、コメディアンになろうかと考え(笑)、書いたのが、超おもしろメディカルエッセイの『笑うカイチュウ−寄生虫博士奮闘記』です。この本は講談社出版文化賞の科学出版賞を受賞しました。私の作戦は大成功で、医学界からは無視されましたが、一般の方々は大変気に入ってくださり、「回虫は気持ちの悪い虫だけど、アレルギーを抑えているらしい」と知られるようになりました。

図2、寄生虫感染がアレルギー反応を抑える機序

 一度アトピーになると、なかなか治りません。花粉症も喘息もそうです。アレルギー反応というのは、肥満細胞が破れて、ヒスタミン、セロトニンが出て反応が起こる状態をいいます(図2)。この肥満細胞はどこにでもあります。鼻の粘膜の肥満細胞が破れてヒスタミン、セロトニンが出ると、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりが起こる。皮下の肥満細胞が破れてヒスタミン、セロトニンが出ると、アトピーになります。いったんアトピーになると、皮下の肥満細胞が破れ続けます。それを治す薬としては、出てきたヒスタミンを中和する抗ヒスタミン剤しかありません。

 私は、寄生虫の2万のたんぱく質を使って、遺伝子組み換えの方法で薬を作ることに成功しました。その薬を使うと、肥満細胞を破れなくすることができるのです。アトピーや喘息を一発で治す薬を手に入れたわけです。

 ネズミで薬の実験をしました。ネズミをアトピーにする一番簡単な方法は、ストレスを与えることです。ストレスを与えると免疫が落ちて、自然にアトピーになります。私は、ネズミがエサを食べようとすると電流を流すという嫌らしい方法で、ストレスを与え続け、アトピーにしました。

 そのネズミに薬を1回注射しました。すると、きれいに治りました。たった1回ですよ。これは世界的な発見、ひょっとしたらノーベル賞かと思いましたが、だめでした。アトピーは一発で治しましたが、免疫のバランスを失ってがんになりやすいことがわかったのです。

自然治癒力の大切さ

図3、免疫反応はTh-1とTh-2という2種類の機構で成り立っている

 免疫反応はTh-1とTh-2という2種類の機構で成り立っています(図3)。皆さんの体の中には毎日3000〜5000個のがん細胞ができています。でも、がんにならないのは、Th-1がインターフェロンやNK(ナチュラルキラー)細胞を出して、出てくるがん細胞をやっつけているからです。精神的なストレスががんになりやすいのは、Th-1が減ってがん細胞を見逃すからです。

 Th-1を大きくする条件は、70%が腸内細菌の力です。ですから、腸内細菌のエサである穀類、野菜、豆類、果物、発酵食品などを毎日バランスよく食べることが大事なのです。あとの30%は気持ちの問題です。笑う、生きがいをもつ、世の中にいいことをする、人と対話する、などです。今、東大の脳研究の先生と共同研究を行っていますが、笑いはNK細胞を増やして免疫力を高めることがわかってきました。可笑しくなくても無理して笑った顔をつくっても、脳が勘違いしてNK細胞を出します。ですから、私の話が面白くなくても、無理して笑ってほしいです(笑)。

 もう一つのTh-2は、アレルギーを抑える免疫細胞です。Th-1とTh-2がバランスよく保たれているところへ、私の作った薬を注射すると、Th-2が大きくなってアトピーを一発で治しましたが、思いもよらないことが起きました。免疫細胞がバランスを失ってTh-1が小さくなり、がん細胞を見逃したのです。

 私の研究は、西洋医学の限界を示しました。アレルギー性疾患やがんのように、免疫のバランスの病気は西洋医学では治せません。今、日本の死因の1位はがんで、二人に一人はがんで亡くなっています。並んでおられる皆さんのどちらかが、がんになる(笑)。ですから、こうした免疫のバランスの病気には東洋医学的な発想が必要であり、その中心が「自然治癒力」という考え方です。

 地球上に生命体が誕生してから38億年。人類の誕生から約600万年。ワクチンが発見されて、たかだか100年です。何十億年と生き続けてこられたのは、自然の中からもらっている力のおかげです。しかしながら、私たちが作ってきた文明社会は、自然治癒力を落とす方向へ落とす方向へと向かっています。

「キレイ社会」の落とし穴

 アレルギー反応は、寄生虫ばかりでなく、細菌やウイルスなどの微生物が抑制しているということもわかってきました。皮膚には皮膚常在菌がいて、皮膚を守っています。それを私たちは、抗菌グッズなどを使っていじめています。きれいにすることは悪いことではありませんが、洗いすぎると、皮膚常在菌を洗い流し、皮脂をとって、ドライスキンやアトピー性皮膚炎の原因になるのです。

 「タモリ式入浴法」というのが話題になっています。タモリさんはお風呂に入ってもつかるだけ、毎日石鹸で洗わないそうです。65歳ですが、肌はツルツル、髪の毛はフサフサです。石鹸で洗うと、皮膚常在菌の90%は流れてしまいます。残った10%の常在菌が元に戻るにはどのくらい時間がかかるか調べました。若い人は12時間で元に戻ります。ですから、1日1回お風呂に入って石鹸で洗ってもOKです。でも、私の場合は20時間かかりました。ですから、石鹸で洗うのは2日に1回にしています。

 また、腸には100兆個の菌がいて、ビタミンを作り、食べ物の消化吸収を助け、幸せ物質を脳に送り、そして免疫を守っています。しかしながら、腸内細菌の数は戦前の3分の1ぐらいに減っています。

 また、日本ではうつが増えています。脳の中のセロトニンが減ると、うつになるわけですが、腸内細菌がいないと、幸せ物質が脳に行かず、セロトニンが減ります。日本の自殺者数は世界でトップクラスです。自殺者が一番少ないのはメキシコです。なぜなのか。メキシコは世界で最も多く食物繊維をとっている国です。食物繊維は腸内細菌のエサとなります。腸内細菌が元気に働いていると幸せ物質が脳に運ばれて、うつになりにくくなります。

 私たちの体を構成している細胞は1万年前と全く同じです。免疫システムも1万年前と同じです。人間は、ジャングルや草原をきれいな環境に変えてきました。これから先も私たち人間は、よりきれいな、より快適な環境をつくっていくでしょう。でも、落とし穴があります。「キレイ社会」の落し穴です。

文明社会で健康に生きるには

図4、寄生虫とアレルギー疾患の年代順の比較

 スギ花粉症の初めての症例は1963年、日光市の患者さんです。図4をごらんください。寄生虫、結核が10%を切った1965年頃から、それに反比例してアレルギー疾患が増え続けています。

 私たちがこの文明社会で健康に生きるためには、1万年前と同じ行動を、どこかでとらなければいけないのです。これをお伝えして、私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

【予算合宿の日程】
<11日>
14:00 全体会開始
  挨拶 本間章東京勤医会理事長
  講演 藤田紘一郎医師
    「免疫をつける生活」きれい社会の落とし穴
15:10 各法人予算大綱報告及びOBC会計機報告
  ・健友会 飛岡専務
  ・勤医会 加藤専務
  ・会計機・4月OBC導入報告 斉藤経理部長
16:40 講演 社会保険労務士 窪田道夫氏
    「職場の人事・労務のトラブル事例」
17:40 報告 下正宗東葛病院院長
    「東京民医連の医師養成」
18:10 終了
18:30 夕食交流会

<12日>
  8:30 分散会開始
10:45 終了
11:00 講演 公認会計士 根本守氏
    「民医連での経営改善の特徴点」
11:30 まとめ 健友会 飛岡専務
11:45 修了

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