スタート1ヵ月
緩和ケアチームがご自宅を訪問
【大葉】代々木病院5階の内科一般病棟を障害者施設病棟(以下、障害者病棟)に転換して、今日(8月7日現在)で1ヵ月と8日がたちました。まず1ヵ月たっての感想をお願いします。
【井口】障害者病棟は、回復期リハビリテーション病棟では受け入れにくかった透析患者さんの脳卒中後の管理ということでリハビリテーション(以下、リハビリ)を目的にした入院にも対応できるというのが一つの柱です。実際に稼動してみると、次から次へと透析患者さんが転院してきて、ぞくぞくと集まってきました。現在、11人の新たな透析患者さんが入院しています。
レベルとしては車椅子に乗りながらの方がほとんどで、全介助というほど重くはないですが、シャントが詰まったとか、血圧の管理だとか多様な注意が必要です。
それから、ターミナル期の緩和ケアの方、神経難病の方、骨折後の障害を持つ方がいらっしゃいます。
【大葉】当初予想していたとおりの患者層の方が入院していらっしゃるということですね。
【井口】ええ。開始前はリハビリがメインの病棟なのかなと思っていましたが、想像以上に医療度が高いです。リハビリをしながら、身体介護をしながら、医療的ケアも適切に行う、そこが難しい点だなと思います。3階の一般病棟と4階の回復期リハビリ病棟をミックスした病棟という印象です。
井口さん
【大葉】なるほど。では矢野さん、感想をお願いします。
【矢野】私は入職して以降、療養病棟、障害者病棟、回復期リハビリ病棟と経験してきましたが、井口師長がおっしゃるように、今回の障害者病棟は医療度が全然違います。
まず点滴の患者さんがたくさんいらっしゃいます。それから、起こしていいのか、いけないのかの判断が私たちにはできないような患者さんがたくさんいらっしゃるので、介護福祉士は全体的に不安を抱えながら、行動すべてにおいて看護師さんに「こうしていいですか」と確認を取りながらやっています。本当はもっといろいろな関わりを持たなければいけないとは思います。今の業務は、入浴介助が多いのが現実です。それでもスタートしたときよりもお風呂がスムーズに進むようになりました。看護師さんも一緒に関わってくれて、お互いにギクシャクしていた動きが少しずつスムーズになってきたかなと思っています。
他に集団リクリエーションとか、患者さんを離床してあげられる時間とか、ただ起こすだけではだめなので、何をしてあげたらいいのかなというのを課題として仕事をしています。
【大葉】そこらへんは、障害者病棟という方針の成否にかかわる大事なことですね。
印象に残っている患者さん
【大葉】印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
矢野さん
【井口】何人かいますが、そのひとりはターミナル期の女性の方です。最期が6月と言われ、7月と言われ、8月に突入した方です。彼女は「早く死にたい」と言いながら毎日を過ごしています。「彼女に何ができるか」と病棟のチームや緩和ケアチームで話し合いました。天気の良い日には車椅子でいっしょに外に出かけたり、コーヒーとかアイスがお好きなので、「食べたい」と望まれると、すぐに準備に走ったり、窓から風が入ると「生きている感じがする」とおっしゃるので、クーラーのきいた部屋の窓をときどきあけて風を入れたり。そんなささいなことを大切にしています。先日は、病院の屋上から皆で花火大会を見たんですよ。
【矢野】医療度が高いと、関われるところがまだ少なくて、表情を見て声をかけるとか、それぐらいしかまだ関われていないです。でも、リハビリが進んで、車椅子にやっと座っていた方が立てるようになったとか、一人でトイレに歩いていき、自分でパンツを下ろして用が足せるようになったとか、そういう方を見ると、自分も関われたように思います。ADL(日常生活動作)が目に見えて良くなっていく方を見ていると介護福祉士としては印象に残るんです。
【大葉】入退院の管理はどうですか?
【矢野】回復期リハビリ病棟と比べると、回転が早いですね。
【大葉】回転という点でも3階と4階を足して2で割ったようなところがあります。平均在院日数は40〜50日弱、一般病棟から比べれば長いですが、回復期リハのテンポから考えると短いですね。
求められる新しい役割
【大葉】私たちのようなコンセプトを持つ障害者病棟は都内ではまだ少ないですから、ある意味、先行事例、フロンティアなわけです。看護師さんも介護福祉士さんも新しい病棟で新しい役割が求められていると思いますが、その点で今考えていることは何でしょうか。矢野さんは、手が出せない部分があるとおっしゃっていましたが。
【矢野】点滴の方が多くて、声をかけても反応が少なかったり、こちらの医療の知識がうすいためにどう接していいかわからなくて、対応に苦慮することがあります。そういうことが残念だなと思っていて、医療の知識を踏まえたうえで自分ができることをもう少し見つけたいなと。
今はまだ看護師の仕事、介護福祉士の仕事と二つにパカッと割れてしまっているような気がしますので、お互いが近寄って相談できるような環境ができたらなと思います。
【大葉】そこをもう少し具体的に掘り下げると…。
【矢野】たとえば、退院に向けての関わりが少ないです。在宅に戻るのであれば、もう少し介護福祉士の目線で「こうしたらいいんじゃないか」と看護師さんと相談できるといいかなと。それから、患者さんの体を起こしてあげて、少しでも体力をつけてあげるとか。訓練室でのリハビリは短時間なので、その継続として、病棟での生活リハビリに関わっていくことが大事な課題だと思います。手先を動かすとか、一緒に歩くとか、そういうことをできる時間を生み出せればいいなと思っています。
司会の大葉さん
【大葉】私たちが想定した以上にリハビリのニーズを持つ患者さんが多くて、十分な対応ができていない部分もあります。だからこそ、生活の場面でのリハビリの視点では、介護福祉士さんの役割は非常に大きく、それが期待されているのが障害者病棟です。
【井口】リハ室では歩行訓練をしていても、病棟では車椅子でトイレにお連れしたりで、リハ室と同じレベルで動いていない部分があるんです。カンファレンスの中で「歩行訓練をしています」となったら、「じゃあ病棟ではトイレまで歩いていいですね」と、看護師の側からもっとリハビリを発信できるようになれるといいなと思います。
【大葉】看護と介護の関係をもう少しつっこむと、介護のほうは医療的な観点をもう少し深めたいと。そういう意味でも、介護福祉士さんが看護記録、医師記録を見る習慣をどうつくるか、カルテにどう参加するかが重要ではないかと思っています。逆に、「生活」についての専門性の高い介護福祉士の記録物を看護師は見ているのだろうか。今、記録は別々になっているのでしょうか?
【矢野】いえ、もともと介護福祉士には記録物がないんです。4階の回復期リハでは多少やっていましたが、今はそのノートも廃止になりました。
【井口】どういう記録にするのか、介護福祉士がどう記録に参加するかは大切な課題ですね。
【大葉】介護福祉士さんはチームの中でもっと強い集団になるべきだと思うんですが。
【井口】私もそう思います。看護師は強いからね(笑)。助手さんがいたときは後片付けやら物品の請求やらを全部やってくれていて、それが当たり前だったものだから、助手さんのやってくれていた仕事を介護福祉士さんがカバーしてくれるような感覚の看護師もいます。そういう点でも、まだ対等になれていないと感じます。
【大葉】介護福祉士さんの専門性をチームの中で認め合うことが大事なんでしょうね。
【矢野】障害者病棟では介護福祉士は5人、看護師さんは20人、集団が小さいとどうしても…。
【井口】怖くて言えないでしょう?
屋上から神宮花火大会を楽しむ
【矢野】あっ、いえ…(笑)。まだ1ヵ月ちょっとで、お互いに相手がどんな人か探っているような状況で、意見はまだ言えないです。
【井口】早く対等な関係になりたいですね。
課題も見えてきた
【大葉】それ以外の課題としてはどのようなものがありますか。
【井口】カンファレンスの持ち方が難しいかなと。なにせリハビリの方が35人もいますから、カンファレンスというより情報交換の場になってしまっていて、「この方にどうしようか」という討議は必ずしも深めた内容になっていません。カンファレンスの持ち方をどういうふうにしたらいいか、課題です。
【大葉】カンファレンスには介護福祉士さんは参加しているんですか。
【矢野】しようという努力はしている最中ですが、お風呂の介助に多くの時間をあてなくてはいけない状況があって、できるかぎり参加するという目標です。
【大葉】経営面では、6月を境に入院の収益がアップするモードに入りました。これは障害者病棟を導入した効果です。経営的にも貢献しているわけですが、今後は満床率をどう高めるかという点も大切です。その点でのご苦労は?
【井口】今はどっと退院して、どっと入院してという状態ですので、もう少しうまく入退院の管理を調整していければと思っています。
【大葉】。1ヵ月実践してみて、到達点もはっきりしてきましたし、課題も少しずつ見えてきました。引き続き代々木病院が地域の患者さんに信頼されるよう、在宅医療に貢献するとともに、病棟医療でも頑張っていきたいと思います。今日はありがとうございました。