医療事故がおきた場合の損害を小さくし、発生頻度を低下させる、リスク管理について、情報技術の面から解説しました。
情報が正しく評価されず、相手に伝わらないことが、事故の原因としてよく指摘されます。学校教育で十分訓練を受けてこなかった文章作成技術を中心に具体的な対策を紹介してきました。
事故防止の課題は、個人の知識不足や不注意で片付けられることではなくシステムの問題です。最後に、そのことを紹介します。
● 防壁には穴がある
多段階の防壁を準備していても、たまたま複数のミスが重なって事故は発生します。スライスしたスイスチーズの穴を使って説明する、事故分析のモデルが有名です。
安全にするためには、各段階の対策が独立していては効果が乏しくなります。適切な情報の伝達が大切です。ところが、最近では薬害イレッサの場合のように、発売前から患者に対してインターネットで情報を流し「夢の新薬」という宣伝をおこなうなど、防壁に穴を空ける行為が増えています。
● 再発防止に役立つ真相解明を
医療被害者は「五つの願い」(原状回復、真相究明、反省謝罪、再発防止、損害賠償)をもっています。事故が起きたとき説明が不足していると、意図的に隠しているのではないかと思われます。被害を受けた方への情報提供は、最優先の課題です。
医療機関のミスに対してマスメディアや行政の対応は、責任者を明らかにして罰しようとする方向に向かいます。このため、被害者への説明が後回しになりがちです。
被害者の願いにかなう恒久的な対策は、事故が起きた組織的原因を明らかにし、再発を防ぐ情報を社会に対して提供することです。
薬害肝炎では、和解後に検証会議がもたれています。1980年代中頃にフィブリノゲンによるC型肝炎患者が急増した時期があります。問題の主因が、製造方法の変更によるものか、原料血の汚染が進んだためか。また、医療従事者は急増している肝炎患者発生を、見過ごしていたのはなぜか。裁判では解明されなかった課題が、たくさん残されています。
● 二次被害者を出さない
被害者に対して謝罪しない、情報を隠すなど初期対応を誤ると、長く続く訴訟につながります。被害者家族や、関わった職員に大きな負担をかけるとともに、真相解明が遅れます。
失敗は誰でも起こすものですが、それに気づくのも、回復することも専門職の重要な役割です。私たちはその力を持っています。自信を持って取り組みましょう。
この連載では、リスクを減らす対応策の基本部分を紹介できました。1年間、ご愛読ありがとうございました。
● 参考書
1. おとなの小論文教室。、山田 ズーニー、河出文庫(2009.2)¥588
2. 回復力 失敗からの復活、畑村 洋太郎、講談社現代新書(2009.1)¥756
● 参考サイト
1. 第5章 安全管理のための方策
http://www.niph.go.jp/entrance/pdf_file/chapter5.pdf
2. ☆ JST失敗知識データベース ☆ 科学技術分野の 事故や 失敗の 知識と 教訓
http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search
3. 薬害肝炎 書庫:薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会
http://www.gaiki.net/yakugai/hc/#gov
● 画像を利用させていただいたサイト
1. フリーイラスト素材
http://www.htmq.com/sozai/index.shtml
2. 牛飼いとアイコンの部屋
http://www.ushikai.com/
● 「リスクを減らす情報技術」まとめページ
http://www.gaiki.net/lib/2008/08b06saf0.html