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協同組合報vol.63
2008年6月号

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vol.63トップ|トピックス|第8期 役員名簿 (2008年5月26日)リスクを減らす情報技術読者のたよりから介護の現場から看護 NOW!

トピックス インタビュー

生活と密着した医療の大切さ

〜在宅療養支援診療所の2年をふりかえって

東葛病院付属診療所 副所長 在宅担当 戸倉 直実

がん患者の看取りが飛躍的に増えた

 ――東葛病院付属診療所(以下、付属診)が在宅療養支援診療所としての活動を始めて、この4月で丸2年がたちました。今日は2年間をふりかえって、それ以前と何がどう変わったかをお聞きしたいと思います。まず、訪問診療を受けておられる患者さんはどのくらいで、どんな病気の方が多いでしょうか。

写真
患者さんの話に耳を傾ける戸倉医師

★管理患者さんは約200人です。診療内容は、がん、脳血管障害、認知症、神経難病、心不全、呼吸不全などです。在宅でどんな医療を行っているかを表にしましたので、それをご覧ください。

1998年10月〜
 2002年8月までの3年11ヵ月 5人
2006年度1年間 28人
2007年度1年間 31人

 ――この2年間で何が変わりましたか?

★ひとことで言うと、在宅医療が手厚くなったこと。それから、がん患者さんの看取りが飛躍的に増えたことです。数字で比較してみると、一目瞭然です。

 じつは当初は1ケタ台を予測していましたが、在宅療養支援診療所を開始すると一挙に30人前後に増え、正直、びっくりでした。紹介元の内訳を見ると、2007年度は、がんセンター東病院が5人、慈恵会柏病院が4人、その他の病院が6人、東葛病院が16人となっています。がんセンター東病院などからの紹介が急増しているのが特徴です。また、東葛病院からも、在宅へ帰ることをあきらめていた人が、やれるかもしれないということで増えてきています。

 なぜ、がん患者さんの看取りが増えたのか。これには二つの要因があって、一つは、がんセンターのような大きな病院ががん患者さんを在宅誘導し始めた時期と、支援診療所開設の時期が重なったことです。もう一つは、やっぱり安心して自宅で過ごせるようなサービスを提供できるようになったことだと思います。

 今日は、在宅での看取りを中心にお話ししたいと思っています。

表 在宅での診療内容
   
(管理患者210人、5月末日現在。重複あり)

人工呼吸器 2人
酸素療法 14人
高カロリー輸液 2人
胃ろう 20人
導尿カテーテル 27人
緩和ケア 9人
訪問看護利用数 123人

それぞれの“生”の物語

 ――末期のがん患者さんというと、どうしても壮絶な最後を想像してしまうのですが、今は違ってきているのでしょうか?

★自宅では患者さんは病棟より落ち着きます。さらに、緩和ケアという医療技術が進歩してきて、モルヒネなどのオピオイドを使うことで、治らなくても苦痛がないようにすることができるようになりました。薬を工夫したり、看護・介護のケアを手厚くしたりすることで、在宅の不安を軽減しています。

 今日の午前中に訪問した方は、「様子がおかしい」と訪問看護師から連絡が入って伺いました。痰が詰まって苦しそうでしたが、取ったら楽になったようでした。末期になってモルヒネが飲めなくなったら、パッチを貼る方法があります。それを使って苦痛を取り除いていますので、ご本人は「快適です。マル!」とかおっしゃって(笑)。「絶好調!」とおっしゃって亡くなった方もいます。

 ――がん末期の患者さんが「快適」「絶好調」とは驚きですね。

★なんてありがたいことだろうと、逆にこちらが励まされます。ほかにもいくつも名言があります。奥さんに身体を拭いてもらって、「至福のときだった」とおっしゃった方もいました。やはり、亡くなる直前の言葉でした。

 それから、最後にやりたいことは何か、それぞれみんな違います。一人ひとりに物語があるんですね。私が最初に付属診で看取った患者さんの話ですが、退院前に「自宅に帰りたいのはどうしてですか?」と聞いたら、「鯉がいるんだよ」と。可愛がっていた池の鯉を最後に見たいと言うんです。家に帰っても、池の鯉を覗き込む体力は残っていませんでしたので、家族がアミに鯉を入れて持ち上げて見せてあげました。

 また、進行性胃がんで51歳という若さで亡くなった男性は、実は、後で本をいただいて知ったのですが、自宅で緩和ケアを行いつつ、“最後の生”を本に残そうと決め、亡くなる直前まで書き続けました。亡くなる9日前に、こんなことを書いています。

 「今日から風になる練習を始めた。練習と言っても、習字みたいな事をしているだけだ。風になりたいと紙に書くだけだ。

 ただ書く。これが何とも良い。それだけ。……(略)

 “風になれますよう”にと念じて書く。そして、その行為じたいが気分が良いのである。」

 一言一言が胸にしみます。この方は、訪問診療があるおかげで自宅で暮らせると、本の中で感謝の気持ちを表してくださっています。

東葛病院効果

★この2年間に自宅で看取った方は78人になります。このうち、がんの看取りが59人と最も多いのですが、がん以外の看取りも確実に増えてきています。

 先日、がんセンターの先生が声をかけてくださって、ある雑誌の座談会に参加しました。柏保健所圏内で、がんセンターを中心に在宅緩和ケアの勉強会をこの2年ほどやってきて、その成果をということで座談会が企画されたようです。

 なぜ付属診が選ばれたかというと、流山市でこの2年間に在宅で亡くなる患者さんが急増していると、それはなぜかと調べたら、東葛病院効果だということがわかったそうで、それで選ばれたようです。

 千葉県全域で、年間40人以上を在宅で看取っている在宅支援診療所は4件、30〜39人が3件、うちはトップテンの中に入っています。座談会で教えられて初めて知って、「あらまあ」と(笑)。“断らない”を基本にして夢中でやってきたら、こうなったということでしょうね。

24時間ケアは連携の力で

 ――在宅支援診療所は24時間ケアを行っているわけですが、その具体的な内容を教えてください。

★夜間は当番の医師と看護師が1個ずつケータイを持って、その番号を家族にお知らせしています。昼間は付属診に連絡をもらい、事務職員と看護師が待機しています。

 在宅支援診療所を開始した当初は、ケータイにひんぱんにかかってくるのではないかと思いましたが、予想外に少なくて、1日に1、2件、多くて数件です。これは、一つには、事前に対応できていることが大きいですね。たとえば、死亡直前の状況についても、「2、3日中にこういう状態になって亡くなると思います」ということを家族に教えます。そうすると、「聞いていた通りになりました」と、動揺が少なくてすみます。さらに、最後のほうはほとんど毎日、誰かが訪問していますし。

 もう一つは、訪問看護ステーションの24時間ケアの存在です。市内で24時間ケアをやっているのは勤医会だけで、他は採算が取れないことと病棟の看護師不足で撤退してしまいました。

 付属診では訪問診療の範囲を地域で決めています。流山市全域と、江戸川、運河、国道6号と16号に囲まれた地域で、この地域内に「たんぽぽ」「江戸川台」「柏豊四季」「なのはな」と4ヵ所の勤医会のステーションがあります。「様子がおかしい」と電話が入ったら、訪問看護師さんが昼間のうちに訪問してケアしておきます。そうすると、夜の対応が少なくてすむわけです。

 さらに、予想外の急変ということがありますから、緊急時にすぐに受け入れてもらえる病院があるかどうかが重要な点です。うちの場合は東葛病院がありますから、安心できます。

 それが今年の冬、救急車がたらい回しになるほど、どの病院も混んだ時期があり、東葛病院も満床が続きました。このときは本当に苦しかったです。毎日訪問診療で点滴をして、ベッドがあくのを待ちましたが、3日とか1週間とか待たなければいけない。すぐに入院できる病院があるということがどんなにありがたいことか、身にしみました。

外科、精神科の医師も参加

 ――訪問診療は毎日でしょうか?

★月曜から金曜まで水曜日の午後以外は午前・午後とも毎日です。2台の往診車を使って同時に出かけていきます。水曜日の午後はカンファレンス時間にして、3人の訪問看護師と一緒に情報交換をすることにしています。訪問時間中は専任の事務職員が電話対応しています。

 医師は総数9人が半日ずつ交代で担当します。内科のほかに外科や精神科の医師も入っていて、これがまた大きなメリットになっています。たとえば、がんの手術をした外科の医師が在宅でもみるというふうに。精神科の医師は、死とどう向き合うかというがん末期の患者さんの精神面を支えてくれています。内科、外科、精神科、私がリハビリと、それぞれ専門の医師がチームを組んでいるわけです。

“街角を病棟に”の発想で

 ――この2年間で、患者さんも増えて、看取りも多くなって、医師体制も充実してきているということですね。

★ええ。私はよく、「うちの病院は院外ベッドが200床あるのと同じですよ」と言っています。それも、自由に病床数が変えられるベッドですよと。つまり、“街角を病棟に”という発想ですね。

 とはいえ、介護の現実は非常に厳しいです。いったん自宅に帰ったものの、介護者が介護を続けられなくなってまた入院、というケースもあります。介護者が入院する場合もあります。それを「介護破綻」と呼んでいますが、こうした介護破綻が起きないようにするには、北欧並みの福祉サービスが必要です。しかし北欧でさえ、在宅の介護費用が膨らみすぎて、グループホームなどの施設ケアを見直す方向になってきています。

 一時的に自宅に帰ることは誰でもできます。でも末期になると、とくにがんの場合は、最後にぐっと介護量が増える時期が1週間ぐらいあります。そのとき家族に無理をさせないように、介護に手がかかるようになったときに入れるホスピスとか、グループホームとかがあれば、もっと快適な最後がおくれると思います。そういうものを作れたらいいなと考え始めているところです。

 医師1年目に代々木病院で訪問診療研修を始めて、早24年もたちました。当時、新米の私につきっきりで訪問を支えてくれた看護師さん、いろいろ教えてくださった患者さんとご家族がいたことに感謝します。在宅医療を原点に、生活と密着した医療の大切さを忘れてはならないと考えています。

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