民医連の存在意義が鮮明に
千坂さん
【千坂】この3月6日〜8日、全日本民医連第38回定期総会が開催され、総勢606人の代議員が参加、活発な議論が行われました。その総会で、鈴木勤医会理事長が全日本民医連の会長に、私が事務局次長に、高田さんが薬剤師の理事に選出されました。今日は、今回の総会を振り返って、率直に語り合いたいと思います。私のほうで進行役を努めさせていただきます。
それではまず、総会の感想からお願いします。
【高田】前総会からこの2年、民医連が大きく情勢を切り開いてきたことが実感できる総会でした。前回の総会は暗かったんですよ。小泉政権時代で、医療改悪がどんどん進められて、こっちも情勢負けしているところもあったりして。
今回は、医療崩壊の問題や医師不足の問題でも、民医連が告発し運動を喚起し、世論を大きく動かしてきました。それがマスコミにも相当取り上げられ、議案にも書かれていますが、「貧困や格差の問題に迫ろうとすると、必ず民医連に突き当たる」とマスコミ関係者が言うほどになっています。
【鈴木】今、参加者の膨大な感想文を読んでいるところです。運動への確信と同時に、改めて「民医連の理念と存在意義」を考える「歴史的総会」だった、という感想が多かったですね。
民医連の出番が質的にも量的にも、新たな段階に高まったことへの自信ですね。と同時に、何が課題か、今の時代における民医連の果たすべき役割が、改めて浮き彫りになったと思います。
【高田】たしかに運動は前進してきていますが、医療崩壊は加速度的に進んでいることが、総会の全体会の場でも分散会の場でも次々に出されました。救急車のたらいまわしについては、「受け入れ拒否ではなく、不能というべき状況だ」と、深刻な実態が報告されました。また、格差社会と絶対的貧困がここまで進んでいるのかと、胸が痛くなる報告もありました。「いのちの平等」という理念をどうすれば実現できるか。民医連の存在意義が鮮明になった総会でした。
大きな議論になった室料差額徴収問題
鈴木さん
【千坂】総会では、室料差額徴収の問題が大きな議論になりました。愛知の南医療生協は新病院建設にあたり、個室を増やして療養環境をあげ、差額を取ることを決定しました。他にも差額を検討している生協法人が何ヵ所かあります。南医療生協の院長が、なぜ差額を取るに至ったかを「組合員・住民の要求、期待である」と、だから生協としてはやむを得ないと訴えました。「無差別平等」という民医連の理念が、今、室料差額問題で揺れています。
それに対して、いろいろな人が発言しましたが、印象的だったのは、南医療生協で20年近く働いて、現在は県連で仕事をしている代議員の発言でした。南医療生協では10人の医師がやめることになり、うち4人は初期研修を終えた3年目の医師だそうです。その代議員は「差額を取らず、本当に困った人達にも平等に医療をやるのが民医連だと訴えて参加してきた医師に対して、これから民医連の存在意義をどう訴えればいいのか」と声をつまらせながら訴え、会場はしーんと静まりました。
【高田】北海道勤医協の看護師さんの話も印象的でした。室料差額を取っている病院が嫌になって退職し、民医連の中途採用に応募してきた看護師さんが何人かいるそうです。
【千坂】室料差額をもらっている患者さんの病室の前に行くと、自然に居住まいを正して笑顔をつくっている自分がいると。差額をもらっている人もいない人も、医療は平等なんだと思っていても、知らず知らずのうちに差額をもらっている患者さんを優先する自分がいて、そういう自分がたまらなく嫌だ。それで差額を取らない民医連で働きたいと思ったということでした。
【鈴木】差額を取らないというのは民医連の理念のシンボルであって、それが患者さんの民医連に対する信頼になっているわけです。今回は南医療生協にも何度も発言していただき、賛成・反対、オープンに議論できました。それが、「民医連の懐の深さを感じた」という感想の多さにつながっています。
【千坂】スローガンに「まっすぐな人権意識を持ち」と書かれていて、最初にこれを読んだときには言葉が浮く感じがしました。でも、室料差額問題の議論を経て、ゴチャゴチャ言ってないで、まっすぐに直球で行こうよと、そういう気持ちになりましたね。
【鈴木】「まっすぐ」には、愚直でいい、背筋を伸ばして、正面から行こうという意味を込めました。
長い闘いと機敏な対応と
高田さん
【千坂】総会では民医連の新綱領草案が提案されました。草案自体の議論はあまりなされませんでしたが、室料差額問題が綱領の中身にも踏み込んでいく議論になったと思います。
【鈴木】民医連は約半世紀ぶりに綱領改定に挑もうとしています。これから皆さんに十分議論していただきたいのですが、この字はどうか、この言葉はどうかという表現だけの議論で終わるのではなく、歴史、思想、もっと言えば医療を含めた文化の問題として議論していただきたい。なぜ今、綱領を変えるのか。古くなったからという意見もあるし、変える必要はないという意見もあります。議論すること自体に意味があるのであって、いわば一大教育運動、後継者育成運動であり、次世代への精神の引渡しであると位置づけています。差額問題と同様、オープンな議論をしていきたいと思っています。
【千坂】民医連は理念をもった事業体であるとともに、時代に切り込んでいく様々な運動の担い手になっています。例えば、リハビリ180日打ち切り反対運動でも、勤医会のリハビリ部門の職員が縁の下で運動を支えました。
【鈴木】それによって、脳梗塞でリハビリ中の多田富雄さんが「命の叫びを聞け」と反対運動の先駆けになり、世論を大きく動かしました。
【高田】薬害肝炎も民医連が初期から運動に携わってきました。民医連の薬剤師さんも頑張ってきました。その中心の一人が外苑企画商事の藤竿薬剤師です。
【鈴木】民医連の運動には2通りありますね。一つは、リハビリや薬害肝炎のように、情勢を適確に判断して機敏に対応する。もう一つは、被爆者医療や水俣、大気汚染など、長い経過で一貫して取り組んでいく。長い長い闘いと機敏な対応の二つが重なりあって共鳴しあうことで、民医連は力を持つ団体になってきたんだと思います。
課題と抱負
【千坂】それでは最後に、今後2年間の課題と抱負をお願いします。
【高田】薬学部が6年生になり、2010年、11年は卒業生が出ません。大きな転換点にあって、薬剤職をどう育てていくか。その点をきちんとやっていかなければと思っています。
それから、薬害の問題では医薬品の規制緩和、新薬の迅速承認の法改悪、制度改悪が進んでいます。この間、イレッサ、タミフルも問題になっていて、薬害を根絶するというところでは、状況はじつは悪くなっています。アメリカの製薬メーカーなどは膨大な資金力をバックにロビー活動をやり、医療界や学会、患者団体を取り込みながら、新薬を開発し、すさまじい収益をあげています。民医連といえども製薬会社に取り込まれる危険性が大いにあるわけで、襟を正しつつ、「国民の側に立って薬を見る」という民医連にしかできない視点をさらに強めて、医薬品の評価や副作用モニターなど様々な運動を進めていきたいと思います。
【千坂】今、三つの内部問題があるといわれています。医師・看護師の養成問題、経営問題、室料差額問題です。経営面で見ると、東京民医連は全国の中で最も悪い水準です。東京は診療所が100ヵ所以上で、全国が500ヵ所ですから5分の1を占めます。職員は1割以上になります。首都圏で三つの内部問題を抱える中で、民医連が未来につながっていくように頑張らなければと思っています。
私が東京や全日本でやる意味があるとすれば、東葛病院と旧勤医会代々木病院との合同を経験し、「民医連は一つ」ということを実感しているからだろうと思います。経営が大変だ、人の養成も大変だ、じゃあ協力してやろうといったときに、みんな総論は賛成なんです。でも、各論に入ると、「医師養成はやっぱり独自にやりたい」となる。勤医会は合同を契機に「開放系」にする努力をし、理事の半分は他法人の経験者です。その反対に、民医連や他法人にも積極的に人が出て、交流の中で新しい智恵や知識を得る努力をしています。この困難に向かっていくとき、「民医連は一つ」という発想が重要ではないかと思います。
【鈴木】民医連の役割がずいぶん拡がってきましたが、まだまだの感が否めません。宮城の坂総合病院は、民医連で初めて地域医療支援病院になりましたが、医師会の理事にさせてもらえないそうです。医療界全体をもっともっと拡げていかなければいけません。さらに、今回の総会で「医療・介護再生プラン」を提案しましたが、医療界だけでなく、患者さん・住民と一緒になって、医療の公共性、公益性を守っていこうと。その大同団結をつくる上で、民医連の出番があると思います。
最後に、勤医会から全日本の理事に何人も出ることになりましたが、全国、東京、法人とが一体になって前に進めていかなければいけないということで、ご理解をいただきたいと思います。