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協同組合報vol.59

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トピックス インタビュー

「禁煙外来」「喫煙防止出前健康教室」の取り組み

〜「吸わされている」人生のデメリットを伝えることから〜

東葛病院 呼吸器科 星野 啓一

初診3ヵ月後の禁煙持続は7割

 ――2006年7月から禁煙治療の保険適用が開始され、タバコをやめたい人がかかりやすくなりました。先生は東葛病院付属診療所で「禁煙外来」を担当しながら、小・中学校に出向いて「喫煙防止出前健康教室」をやるなど市民活動もやっておられるそうですね。今日はそれらの取り組みをお聞きするとともに、日本のタバコの現状、禁煙対策などについてもお聞きしたいと思います。

写真 まず「禁煙外来」ですが、保険適用になってから患者さんは増えましたか?

★私は2000年から自費での禁煙外来をやってきて、5年間で約100人の患者さんをみてきました。保険適用になっての1年のみで170人ぐらいいらっしゃっていますので、ぐんと増えました。

 ――具体的にどういう治療をするのでしょうか?

★治療期間は12週間で、来ていただくのは、まず初回があって、2週間後、4週間後、8週間後、12週間後の5回です。最初の8週間はニコチンを皮膚から補う薬を使い、その量を徐々に減らしていきます。初診3ヵ月後の禁煙持続は約7割ですので、諸家の報告と比べてもいい成績をだせていると思います。

 ただし、本当の勝負は外来受診が終わった後だと実感しています。特に日本は、タバコが間単に買えますから、禁煙がしにくい。外国のほうが禁煙しやすいです。

 ――私の友人も禁煙外来にかかったのですが、9ヵ月で失敗しました。

★人に言われてシブシブやってきた方、家族の中に吸う人がいる方は中断しやすいです。ニコチンはモルヒネと同じくらいの依存性を持つ物質です。しかし、吸う本人はそうは思っておらず、嗜好とか趣味として受け止めている点がやっかいなところです。悲しいとき辛いときにタバコを吸う。反対に楽しかったり気分が高揚したときにもタバコを吸う。こうした記憶がタバコとともにある。ですから、年齢が行けば行くほど心理依存が強くなって、やめにくくなります。依存症の治療はカウンセリングを主体にすることが重要で、私は単なる知識の伝達ではなく、「吸わされている」人生のデメリットをお伝えし、患者さんに寄り添いながら心理サポートをするよう心がけています。

 身体依存に関しては、パッチを使えばスッとやめられますから、若い人のほうがやめやすいです。しかし、今の保険適用は「1日禁煙本数×禁煙年数(ブリンクマン指数)が200以上の人」という規定があり、一番治療を受けていただきたい未成年や20歳代の人は保険が効かないことになっています。このブリンクマン指数は発癌リスクの数字であり、禁煙開始の基準となっていることは明らかに不適当ですが、保険診療の決まりとしてはやむを得ません。依存症の治療は早いに越したことはありませんので、保険適用にならない方でも、自費での治療をお勧めしています。

禁煙対策がとびぬけて低い日本

 ――「日本は禁煙が難しい国」というお話ですが、なぜでしょう?

★2005年に「タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約」(FCTC)という国際条約が発効し、日本も批准しています。WHOは「予防可能な最大の疾病原因が喫煙」と規定しており(図1)、世界各国で本格的な禁煙対策がとられています。あの中国ですら、オリンピックを控えて公共機関の敷地内禁煙に前向きになっています。日本は対策がとびぬけて低い国で、先進国の中では最低です。

 たとえば、タバコの路上自販機があるのは日本とドイツだけで、ドイツでは、コンドームのように道端のひっそりした所に置かれています。その他の国でも自販機はありますが、パブなど大人しか入れない場所に置いてあって、路上自販機は禁止されています。日本だけが広告塔代わりに堂々と置かれ、しかも小学生でも買える300円という安い値段で売っているのです。

 なぜ規制が難しいのか。日本では、財務省がタバコの管轄をしている点があります。他の国では健康福祉分野の省が管轄していますので、スパッと規制できる。日本も厚労省は規制をかけたいのですが、財務省側で「税源をどうする」という話になってしまいます。健康福祉の視点では規制されて当然なのですが、外交や予算と同じような、政治家を使った圧力団体同士の政治問題になっているのが日本の特徴です。

 1箱300円のうち170円が税金です。規制のための一番いい方法は税金を300%にして、1箱1000円ぐらいにすることです。外国はそういう方法で、その税金を医療費に回したりしています。これが一番いい方法だということはWHOも認めていますが、日本はJT側のロビー活動が活発で、議員にもお金をばら撒いていますので、それができないのです。

 喫煙者も「半分以上は税金だ。国に貢献している」という理屈を言います。では本当に貢献しているのか。1999年、経済学者が試算した統計によると、タバコ関連の経済メリットは、税金が1兆9000億円、JT関連の経済メリットと合わせると2兆9000億円になります。一方、タバコが原因で体を壊した人の医療費は3兆2000億円。医療費だけでマイナスです。さらに肺がんなどで60歳前に死亡すれば、納めるべき税金で損をするし、残された子どもたちも生活支援が必要になり、そういうコストが2兆円。休業補償などと合わせると、トータルで5兆4000億円の社会的コストがかかるそうです。

 これは国の損で、個人で損をするのはタバコ代で、年間11万円(300円×365日)ですね。

 ――公共の場の敷地内禁煙が増えていますが、東葛病院はどうなっていますか?

★禁煙外来の保険診療施設は敷地内の禁煙が条件になっていますので、付属診療所の敷地内は禁煙ですが、病院自体はまだなっていません。私は呼吸器科医として肺がんの診断も行っていますが、肺がんはタバコが原因でなる方がほとんどです。苦しむ方たちを見るにつけ、タバコの害を思わないわけにはいきません。

子どもたちに禁煙教育を

 ――先生のやっておられる「喫煙防止出前健康教室」というのはどういうものですか?

★千葉県健康福祉部が、私も参加している「タバコ問題を考える会・千葉」に委託し、県の事業として県下の小中高で実施されたものです。図2で示したように、喫煙者の9割は未成年のときに喫煙を開始しています。しかし学校では、覚せい剤やドラッグについての教育はされますが、禁煙教育はほとんどされていません。しかも家庭では、生まれたときから両親や祖父が吸っていることが多く、身近にタバコがある環境が普通ですから、子どもたちにタバコは害だという認識がほとんどありません。出前教室でタバコの本当の姿を話し、「自分の体を大事にしよう」とか、「人にも害を及ぼす」といった情報をきちんと伝えると、子どもたちは素直に理解してくれます。

 ある小学5年生の子どもたちの感想をいくつか紹介しましょう。

  • 私はふだんからタバコのにおいをかいでいます。でも、においがきらいで、よく頭がいたくなります。そんなタバコの話を聞いて、タバコは吸いたくないと思っていたけど、もっと吸いたくなくなりました。しかも、吸っている本人より周りにいる人の方が害があることを知って、私の家族に「吸わないで」と言おうと思いました。
  • タバコは病気のもとなのに、なぜ世の中にあるのか。なぜつくられるのか、不思議に思いました。

 「タバコはなぜ世の中にあるのか」という疑問は素直な疑問だと思います。タバコ産業が今ターゲットにしているのは、間違いなく未成年です。セーラム、キャメルなどを製造するRJレイノルズタバコの内部文書にはこう書かれていました。「数々の研究により14歳から20歳の層は簡単にタバコ喫煙を始める秘密の消費市場であり、この年代にタバコを売り込めば、簡単に大儲けができる」

一番いいのは国が規制すること

 ――先生ご自身はタバコを吸った経験はありますか?

★大学時代に吸っていました。医学部の高学年になり、薬物依存の講義を受け、タバコにそれを感じる機会があったことから、やめる機会を得ました。喫煙者の気持ちはわかるつもりです。さらには、医師として病気になってから治療しても遅いものと感じています。病気の「治療」だけでなく、「予防」も追求しなければという想いで、禁煙外来をやったり市民活動をやったりしています。

 ――タバコの値段を上げるという対策のほかに有効な対策は?

★医療保険を例にとれば、タバコを吸う人のほうが間違いなく疾病発症率は高いのですが、今は非喫煙者と同じ保険料ですね。非喫煙者の契約者が、喫煙者のリスク分まで保険料を負担している実態を知り、保険会社もリスクを反映して、喫煙者の掛け金を高くするとか場合によっては加入できないようにすれば、喫煙率は確実に下がると思います。欧米では実際にそうなってきています。今言ったことは、現実に国民健康保険で起きていることなのですがね。

 ブータンでは、国全体でタバコを禁止しました。ブータンはGDP(国内総生産)は低いですが、国民の幸福度は高い国です。「健康に暮らしたいならタバコはやめよう」という本質を考える力が働いたのだろうと思います。

 一番いいのは国が規制することです。欧米では、公共空間、ホテルのロビー、レストランは禁煙です。アジアでも、公共空間は禁煙の国が増えています。海外に行くと、こんなに快適だと実感します。反面、外国から日本に来た人には、分煙の不完全なレストランで食事をし、それをなんとも思っていない(ように見える)国民に驚かれるのではないでしょうか。

 車椅子や点滴をしながら喫煙する患者さん、不整脈や潰瘍を持ちながら喫煙する職員を目にします。医療職として、足元の病院という職場からきちんと対応する(具体的には敷地内禁煙)時代に来ているのではないかと感じています。

【参考資料】
 
『禁煙医療のための基礎知識』、神奈川県内科医学会 (編集)、中和印刷(2006)


禁煙外来で成功しました

東葛病院付属診療所 事務 目崎節夫

写真 喫煙歴は長いんですよ。10代後半から43歳まで25年以上、1日1箱ペースで毎日吸っていました。もっぱらセブンスターで、肺にクッと来る刺激がたまりませんでした。本数を減らしたことはあったんですが、禁煙をやったことは一度もありませんでした。

 なぜやめようと決心したかというと、去年の春、ぜんそくのような症状が出て、呼吸が苦しくなったからです。呼吸器科の星野先生に受診したところ、「タバコを吸っている限り治らない」と言われ、それで禁煙外来を受診する決心をしました。保険適応になったことも大きかったですね。

 最初の1週間は「吸いたいなぁ」と思いました。でも、通院中はニコチンの濃度を測る呼気検査があって、1本吸っても出ますし、それに呼吸苦が続いていて、タバコを吸ってもおいしくないことがわかっていましたから。そうこうするうちに禁煙2ヵ月目に入った頃から呼吸苦がなくなり、禁煙外来3ヵ月が終わってもタバコを吸わない日々が続いています。なぜこんなに簡単にやめられたんだろう……自分でも不思議でしょうがないんですが、ひょっとすると、「自分はやめられない」と思い込み、惰性で吸っていただけかもしれません。

 禁煙外来のおかげでタバコの害が実感として理解できた今、もうタバコには手を出さないつもりです。

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