ある同年代の女性患者さんとの出来事
みさと協立病院 精神科病棟 沢田良江
【患者さんプロフィール】
Aさん 女性 40代
病名:統合失調症
ある朝、私はいつものように出勤しました。その日、一番最初に挨拶したのがAさんでした。
「おはようございます。昨日は眠れました? 一昨日は眠れなかったみたいだから」
「はい、眠れました」
こんなたわいもない日常会話が、Aさんの怒りの炎をメラメラさせているとは微塵も感じずに、私はいつも通り仕事に励んでいました。
●「きちんと仕事してよね!」
お昼の下膳をしているときに事件は起きました。Aさんは下膳車の脇のソファーに座っていました。そして、私が通るなりプイッと、まるで子どもがソッポを向くかのように、顔を背け足早に病室へと戻っていきました。Aさんを怒らせているなんて全く感じなかった私は、とりあえずAさんを追いかけました。
「どうかしました?」
「別に…」
明らかに、目つきはきつく、ムッとした感じがガンガン伝わってきます。
「何かありました? 機嫌が悪そうだから…」
「何かあったじゃないわよ! あなた、私のこと寝てないって言ったよね、私はちゃんと寝てるから! カルテ見てんの?」
「一昨日は、私が夜勤をしていて、夜中ずっと○○さんと話していたから、昨日は眠れたのかなって思って…」
「眠・れ・て・ま・す・! きちんと仕事してよね! 私は高い入院費払ってんだから! あなたの給料も私たちが出しているんだからさ!」
「………。気にさわることを言ってしまってごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないわよ! 出て行って!!」
私は気落ちした反面、「なんでそんなことを言われなきゃいけないの?!」とムカムカした思いでナースルームに戻り、リーダーに報告しました。リーダーは、その日のうちにAさんと話し、Aさんの気持ちを受け止めるとともに、暴言については、謝罪するように伝えました。そして、私も交じり三人で話し合いました。Aさんは、家族間でうまくいっていないこと・自分が仕事をしていないこと・スタッフの働く姿が羨ましかったことなど、辛い胸の内を話してくれ、そして暴言についてはきちんと謝罪してくれました。
●病気を受け入れられずに苦しんで
少し前に、母親とAさんと主治医との面接がありました。内容は以前から提案のあった『自立』について。このことについて、Aさんは「自信がない。病気は12年も経つのに治らない。入院は無駄。別に死んでもいい。生まれなければよかった…。自立はしません。産んだ人の責任でしょう。どこも痛くないのに、どこが病気なの?」と、自立に向けての一人暮らし(グループホーム)の話は進みませんでした。
40代半ばの壮年期の後期を迎え、一般的には、仕事の成就・家庭形成と人生の中で大きく変化をしていく時期です。しかし、Aさんは30代で病気を発症し、なかなか病気を受け入れられないまま現在に至っています。両親はどんどん老い、ますます自分自身にプレッシャーがかかってきています。専門学校を卒業後、約10年間保母をしていた経験もまた、焦りとなってAさんは苦しんでいるのでしょう。
●Aさんらしい自立を応援
私自身10年前、自暴自棄になったときがあります。先行きの不安で、周囲を困らせ、かなりの迷惑をかけました。しかし、周囲の支えで乗り越えることができました。人生の大きな転機を迎えるうえで、ひとりで乗り越えられる人は少ないと感じます。そのときは必ず周囲の誰かの支えが力を与えてくれます。例えば、適切な助言であったり、辛さをただ聴いてくれたり、何か訳のわからない怒りの感情を黙って受け止めてくれたり…。
事情は違いますが、Aさんは、あの時の自分のように、暗いトンネルを一人さまよっているのかもしれません。
この先、病気を受け入れ、Aさんらしく自立ができるように、チームで応援していきたいと思います。精神疾患を抱え、社会での生活はかなりの困難があると思いますが、周囲の理解とAさんの力で、生きる楽しさを感じてほしいと願っています。