男性DV避難所対応からふりかえる
代々木病院 総看護師長 内野陵子
7月24日の夕方、当院に長く通院されているTさん(80代)が「妻にたたかれた」と一人で来院されました。
右膝内出血、左上肢内出血・腫脹・変色、右背部擦過傷、のため即入院となり娘さんへ連絡。翌日、妻が来院され「病院は夫を隠している。会わせてほしい」と興奮。大声で院内を歩きまわり職員に被害が及びそうになったため、医事課職員や事務長が妻の後について様子を見、少し落ち着いたところで、地域連携室の職員が日常の会話を行いながら帰宅を促してゆきました。
● 認知症の妻の暴力、
避難の手立てと妻への対応は?
Tさんはレントゲン室に行っていたため、妻に会わせないようにとの配慮から、帰室を中止し、担当医、病棟看護師長、総看護師長、事務長がレントゲン室でTさんに今後の希望を聞き取りました。Tさんは「避難したい」と話され、認知症のある妻は、今までも暴力は時々あったが今回は特にひどく、妻への恐怖が強いことを訴えられました。役所へ相談することを了解していただき、ひとまず健診のドック部屋へ避難していただきました。
私が役所へ連絡すると、「女性のDV避難シェルターはあるが、男性のDVに関するものはない」とのことで、東京都の相談所を紹介されました。しかし、そこは男性の相談日が決められていることと、日中は連絡がつかないため、再度役所に連絡しましたが対応は同じだったため、区議会議員に相談しました。
その後、役所の高齢福祉課介護予防係の保健師が駆けつけ、本人を交え今後の手立てを検討。介護保険の対象にならないこと、避難の手立てや妻への対応などを確認しましたが、すぐ避難できる場所がないため、26日に探すことになりました。妻の暴力から守るため25日は病棟ではなく、健診の入院ドック部屋で過ごしてもらい、3階病棟看護師が様子を見ながら避難入院までの対応を行いました。翌日、区の保健師の努力で無事避難場所を見つけてもらい、移ることができました。
しかし、数日後外出先で転倒し、K病院で縫合してもらいましたが、避難場所へ戻ることを嫌がり、娘さんとともに代々木病院へ入院したいと戻ってこられました。
● 役所と連携をとりつつ、
見守りながら外来で対応
Tさんと娘さんは義理の関係にあり、娘さんは母が重度の認知症ということはわかってはいますが、問題がおきると施設入所を考え、症状が落ち着くと入所を拒否されてしまいます。
Tさんの希望で現在は自宅で過ごしておられます。Tさんが避難所として入ったところは、日雇いの人たちが泊まったりする簡易宿泊所のため「長くいるのはつらい」と感じたとのことでした。保健師の方はこのあと長期入所できるところを検討してくださいましたが、本人が納得されなかったため入所は見送りました。今後の対応など当院と確認しあいました。
妻は重度の認知症があり、役所の保健師たちは、病院受診や施設入所を今後も検討し対応されていますが、本人の拒否が強く実現できずにいます。
Tさんは今も時々妻の暴力を受けていますが、妻は代々木病院と荒川の自宅とを行き来していらっしゃいます。夫婦は常時一緒に生活しているわけではないため、通院しながら生活を送っています。外来看護師たちは役所との連携があり、どういう対応をするかの確認ができているため、見守りながら外来で対応しています。
● 男性へのDVは盲点、
緊急対応システムを
今回の対応の過程で、外来カルテを改めて振り返ってみました。
カルテには数年前から時々“転倒してぶつけた”とか“転んだ“などの記載がありました。Tさんは受診のときはいつも静かに本を読みながら待ち時間をすごしておられたため、外来の看護師たちはそのこととDVを関連付けて対応するまでには至っていませんでした。
老人への虐待や女性のDVは社会的に問題視されているため、職員も意識していますが、夫へのDVは盲点でした。さらに今回の経過の中で、地域の方たちの中ではTさんご夫婦の問題はかなり知られていましたが、個人情報の問題や隣近所の付き合い方の問題もあり、対応の仕方に苦慮していたようです。
また、DV対策の多くは女性が多いためなのか、女性の対応システムは進んでいますが、男性の場合の対応が少ないということを知りおどろきでした。
しかし、避難場所を探せばよいということではなく、役所保健師など地域の人々と連携し、どういう方法で本人の希望にこたえるのか、また、緊急対応の手立てを確認してゆくことで、職員も安心して患者さんを見守ってゆくことができることを今回学ぶことができました。