整形外科って、どんな科?
――早川先生は今年4月、整形外科の研修を終えて東葛病院に戻ってこられました。東葛病院初の常勤の整形外科医師が誕生したわけですが、そもそも先生はどうして整形外科医になられたのですか?
★元々は脳神経外科を志望していたのですが、脳神経外科をやっていくのは大変なんです。地域の需要もさほどないし、診療体制が厚くないと難しい科ですから。それで脳神経外科は断念し、近い科である整形外科にしました。
東京勤医会に入職し、研修として最初に内科をやるのが普通ですので、4年半ほど内科と麻酔科をやりました。その後、東葛病院では整形外科の研修ができませんので、整形外科学会の研修指定施設ということで、最初は立川相互病院で、次にみさと健和病院に移り、全部で6年間研修を受けて、戻ってきました。
――整形外科というのはしょっちゅう耳にする科ですが、具体的にはどんなことをやる科ですか?
★時代とともに守備範囲が変わってきている科です。昔多かったのはカリエスです。昔はカリエスと、小児の変形を扱う領域と、戦争で怪我をした人の手当をする軍陣外科が主な内容でした。
その後、19世紀終わりにエックス線が発明され、画像診断の進歩によって領域が広がってきました。今は、内科が臓器別に分かれているように、整形外科も以下のようにいくつか専門が分かれています。
(1)怪我を扱う災害外科、(2)小児整形外科、(3)脊椎外科、(4)関節外科、(5)手の外科、(6)足の外科、(7)スポーツ整形外科。このほかに、多くはありませんが、悪性腫瘍を扱う骨軟部腫瘍外科というのもあります。
整形外科は内臓以外の、首から下全部を扱っていますので、内科に匹敵するぐらい領域が広いのです。私が主にやっているのは関節外科ですが、研修では一通りやることになっています。最低でも災害外科、怪我については整形外科医としての素養としてやれるようにということでトレーニングを受けます。それプラス、それぞれの専門が上積みされることになります。
増えている関節リウマチ
――先生のご専門は関節外科ということですが、それはどんな科ですか?
★関節外科もまたいくつかに分かれています。スポーツによる怪我や障害を扱うスポーツ整形外科と、関節リウマチや変形性関節症、人工関節を扱う関節外科です。また、部位ごとにも分かれていて、肩・肘・手・股・膝・足それぞれの専門家がいます。
「外科」となっていますが、手術になる患者さんは意外に少なく、多くが手術をしない治療法でやっていきます。外来の患者さんでもっとも多いのは腰痛、膝痛、肩痛です。腰痛は二足歩行の人間の宿命であり、必然的に患者さんも多くなります。腰が悪いと、姿勢のバランスを膝や股関節で取ろうとしますので、膝、股関節なども痛めることになります。
関節が悪くなるもう一つの理由は高齢化です。人間の関節の耐久年数は、100年は持たないといわれています。ですから、長生きすれば多かれ少なかれ関節は壊れやすくなり、痛みが出てしまいます。
――私の友人が関節リウマチと診断され、一時は身動きできないほど状態が悪化して、仕事を辞めざるをえなくなり、現在、身体障害者手帳2級です。リウマチは女性に多いといわれていますが。
★9対1から8対2ぐらいの割合で女性に多い病気で、女性50人に一人、有病率2%といわれています。なぜ女性に多いかはまだわかっていません。リウマチ患者は日本で約100万人いるといわれています。
――そんなにいるとは知りませんでした!
★昔はヒトケタ少なかったんです。なぜかというと、昔はすぐに診断をつけないで様子を見て、関節が壊れ始めてようやく治療を始めるという治療法だったからです。今は疑わしい人も治療を始めますので、それで数が増えているということもあります。
そもそもどうしてリウマチになるのか、原因はまだ突き止められていません。いろいろな薬が出てきて関節の炎症は止めることができるようになってきましたが、リウマチは関節が壊れるだけではないのです。関節の炎症の影響を受けて、関節周囲の骨が弱くなって壊れてきます。それを止めることは残念ながらまだできません。
さらに、関節の炎症は抑えられても、寿命は伸びていません。特に血管が詰まるなど血管の合併症で突然亡くなる方がけっこう多いのです。
なぜ血管が詰まるのか。膠原病の「こうげん」の由来はコラーゲンから来ており、コラーゲンのある所が炎症を起こす病気という意味です。コラーゲンは体の組織同士をくっつける成分で、体内いたるところにありますから、どこで炎症を起こしてもおかしくないわけです。リウマチの合併症で間質性肺炎を起こしたり、腎臓に炎症を起こしたりと、関節以外でも症状が出ます。そこもまだクリアできていません。
このように、リウマチは関節の炎症を抑えればおしまいというわけではなく、痛み以外の合併症の管理をきちんとやる必要があるのです。しかも、防ぎ切れない部分がまだまだいっぱいある。そこが難しい点であり、大きな課題です。
人工関節手術で人生が変わる!
――先生が今、もっとも興味をもってやっておられるのは何でしょうか?
★人工関節の手術です。昔は変形性関節症よりもリウマチで人工関節手術を受ける方のほうが多かったのですが、今は変形性関節症のほうが増えています。
私が手術をした肘、股、膝の術前と術後の写真をお見せしましょう。いずれも私が撮影したものです。手術によってそれぞれ痛みが軽減され、股関節や膝関節の手術では歩きやすくなりますし、肘関節では肘の可動域が広がり、具体的には「お釣りをもらうときに手のひらが上を向くようになる」「手が届いて髪の毛を洗えるようになる」「箸が使いやすくなる」などとなります。
――友人の母親が78歳で膝の人工関節手術を受け、「歩きやすくなったし、痛みがなくなって、こんなに幸せなことはない」と喜んでいます。手術は高齢でもできますか?
★昔は80歳では「歳だからあきらめなさい」というのが普通でしたが、今は医学の進歩によって、年齢で治療の線を引くことはありません。例えば大腿骨頚部骨折の方は年間約10万人といわれますが、平均年齢は80歳前後です。私が担当した手術で最高齢は、東葛病院で94歳、みさと健和病院で98歳です。
人工関節手術では90歳が最高齢です。90歳であと5年生きるとしたら、痛みを抱えて生きるよりも痛くない5年のほうがいいという判断です。年齢で「できる・できない」の線を引くのではなく、手術によってどれだけ楽になるかということと、手術の危険性とのバランスで決めます。そういう意味では、整形外科は高齢社会の影響が一番顕著な科だと思います。
リウマチの痛みは実に辛いもので、「出産の痛みより何倍も痛い」と言う方もいます。昼も夜も関係なく痛みが続く方もいます。痛いと痛み止めを使いますが、痛み止めをいつまで飲み続けるのかということもじつは大きな問題です。副作用として、胃潰瘍や胃腸の出血、腎臓を傷めるなどの症状が出るからです。
欧米では痛み止めの副作用で命を落とすことが問題になっており、痛み止めを使うようになったら、早い時期に手術を検討するという方針もとられています。日本の何倍も早く手術をします。要は痛み止めを使わないですむようになるということが大事なのです。
これからやっていきたいこと
――手術は月に何件ぐらいやっていらっしゃいますか?
★1ヵ月平均16件ぐらいです。骨折が圧倒的に多く5割を占め、人工関節が2割、脊椎の手術が1割です。最近増えているのは、糖尿病や閉塞性動脈硬化症などによる足の壊疽での切断という方で、1割弱が足の切断の手術です。
東葛病院の整形外科は私が常勤で、あとは東大の先生に日替わりで来ていただき、診療体制をつくっています。病棟もあります。私が戻ってきてからは、関節の手術を始めるようになりました。
――これからどんなことをやりたいですか?
★今やっていることと変わりませんが、人工関節の治療の数を増やしていって、いい結果を出して患者さんに喜んでもらえればと思っています。
また、高齢者の骨折は年々増加しており、骨折がADLを低下させ、さらに全身状態を悪くし、骨折の部位によっては「寿命が縮む」ものもあります。手術をすることで、早く体を動かせるようになるチャンスが広がるため、可能な範囲で骨折の手術も手掛けていきたいです。