頼もしい地域のケアマネの力
みさと協立病院 2南病棟 稲垣洋子
Aさんは、どう接したらよいかまったくわからない患者さんでした。50代前半の全盲の男性で、8月の猛暑の中、脱水で入院されました。
●コミュニケーションがとれない
体が硬く、二人がかりで車いすからベッドへ寝かせます。声をかけてもまったく返事はなく、グーッと腕に力を入れてしまって血圧が測れないことから、意識レベルが落ちているわけではないことがわかりました。全身に力が入っているのです。
乳児期の栄養失調が原因で18歳で完全に失明。2年前に脱水で他の病院に入院したときからおむつになった、と母親は言います。「家でも、こっちの話していることはわかっているけれど返事はしない。勝手がわかっているから、伝って歩くし、ご飯も自分で食べる。おむつは自分でできないので私が取り替えている。ここ最近起きられなくなって自分では食べられなくなった。お風呂は介護の人に入れてもらっている」
やせているとはいえ長身のAさんと70代の小柄な母親を交互に見くらべながら話を聞きました。介護保険で、ベッドとマット、月3回の訪問入浴と訪問看護のサービスを受けておられ、ショートステイはAさんが嫌がるからとの理由で最近は利用されていません。
コミュニケーションはとれないままでしたが、数日の補液で脱水は改善し、介助すれば食事も摂れるようになってきました。医師から退院の話があり、いったんは家族の方も了承されました。
●部屋の外からそっと見守ると……
その後、訪問看護ステーションの看護師から電話が入りました。「Aさんの家族から、自分で動けない、食べられない状態で帰されても困ると苦情が来ている。実際、母親一人で介護をし、サービスの利用を勧めても父親が断ってしまっている。本人も緊張が強くて、長くかかわっている私たちに対しても固まってしまうし、話もできない。話を聞いた限りでは現状では退院は無理と思う」とのことでした。
いつ訪室しても、じっと仰向けに寝ておられ、車いすへの移乗も二人がかりのAさんを見ると、たしかに「これで家に帰してよいのだろうか」という不安はありました。チームで話し合いを行い、「点滴がよくはずれているから、見てないところでは動いていると思う」「浣腸の後、見に行ったらズボンがあがっていた」「いろいろ話しかけたら小声で『うるさい』って言ったよ」などの情報が出てきました。
入院中は緊張が強くて動かないと仮定し、車いすに乗せ、食事のセッティングだけをやって、声をかけて部屋を出てみることにしました。部屋の外からそっと見守っていると、手探りで上手に食べていました。食後は、誘導のみでベッドへ戻ることもできました。
●大切なケアマネとの協力
退院は1週間延期しました。両親は、自力で食べられることがわかると退院を了承してくださいました。ただ母親の介護負担の軽減のために何かできないかと、訪問看護師に電話で相談すると、ケアマネと病院へ様子を見に行こうと話していたとのことで、すぐに来院してくださいました。
入院中の経過を説明すると、ケアマネは、「じつは私も彼が家の中を歩いているところを見たことがないんです。今日の話を聞いて、やっと彼がどのくらい動けるのかわかりました。今までは、息子の世話は母ちゃんがやるもんだと、なかなかサービスを入れられなかったんです。いいですよ、帰してください。今回の入院が切り口になってご両親も変わるかもしれない」と頼もしい言葉が返ってきました。それを聞いて私は安心しました。「大変ですね」と言うと、「地域には、介護サービスを受けたがらない人はまだまだいっぱいいますよ」との返事でした。
介護分野の取り組みを強めるには、「民医連だけでなく地域のケアマネさんとの協力も欠かせない」と、がんばっているケアマネさんの頼もしさを実感した1日でした。