9月29日(土)の午後、「病院医療が危ない! 都市部に求められる地域医療を考えるシンポジウム」が新宿・紀伊國屋ホールで開かれ、総勢408人が参加、4時間にわたる中身の濃いシンポジウムとなりました。主催は「都市部に求められる地域医療を考えるシンポジウム実行委員会」、大山美宏・川崎協同病院院長が代表を務めました。
第1部は、4人のシンポジストとコーディネーターからの問題提起です。それぞれに今の日本の医療の問題点を抉り出し、事態打開策を提示するという手応えのある内容でした。要約して紹介します。
安藤高朗氏(医療法人社団永生会 理事長)
慢性期医療の問題点と将来
今、何が問題になっているか。国は療養病床の削減を打ち出し、現在の38万床(医療25万床、介護13万床)のうち介護療養病床は廃止、医療療養病床を15万床に削減する計画だ。本当に非常識だ。
このままでは大量の医療難民・介護難民が出る。それを防ぐにはどうすればいいか。
(1)医療療養の病床を拡大する。
医療療養が15万床では圧倒的に足りない。普通どこの国でも急性期病院があって、その数よりも慢性期が多くて、そのあとに介護施設がある。20万床以上にして、医療区分1の中で医療必要度の高い人を医療区分2にして、そこに吸収する。
(2)国のいう転換型老健施設などの医療機能を高める。
夜間、看護師が一人もいない老健施設が20%もある。医師や看護師の人数を増やす。それから、外部からの往診や訪問看護を受けやすくする。
(3)国は「医療機能強化型老健施設」と言っているので、そうするためには、看護師は最低でも6対1、ヘルパー4対1は必要だと考えている。医師は1人と言っているが、最低2人は必要だと思っている。
都市部の病院では医療が崩壊している。全日本病院協会で病院の経営実態調査を行ったところ、東京では61%の病院が赤字。おととしは47%、ものすごい勢いで赤字が増えている。
私は東京都の地域ケア整備構想の委員会にも出ているが、東京都の場合は他と違って療養病床が少ない。東京都が国に要望した。「このままではいい介護サービス、医療サービスが提供できない。介護報酬を16%アップしてほしい」と。私たちはとうに言っているが、とうとう都も心配し始めた。それほど医療崩壊、介護崩壊はすさまじい。
鈴木 厚(川崎市立井田病院 地域医療部長)
日本の医療を崩壊させてはいけない
日本の医療がおかしくなっていることは誰でも知っている。では、どうしておかしくなったのか。いろいろな議論があるが、ポイントは一つ。政府が国民の健康にお金を払いたくない、このひとことだ。解決策は簡単、医療費にお金をかければいい。
一般会計歳入について説明するシンポジストの鈴木厚氏
なぜ国は医療費を減らしたいのか。国の借金800兆円、地方の借金200兆円、計約1000兆円の借金がある。現在の国民医療費は31兆円、このままでは2025年には65兆円になる。医療制度改革を行えば56兆円に抑制できる。これが国の言い分だが、なぜ65兆円ではいけないのか。
日本の公共事業費は、サミットの日本以外の国を全部合わせた公共事業費よりも多い。日本は社会保障国ではなく、「社会舗装国」である(笑)。
アメリカでは1日入院して243万円、日本は1週間の入院医療費37万8000円(保険会社AIU調べ)。日本の医療費は非常に安い。どちらの医療がいいか、よく考えていただきたい。WHOは「日本の医療は世界最高」と言っている。
医療はサービス業ではないと思う。国民の生命と健康を守る「安全保障」だ。ここをだめにしてしまったら、日本はつぶれてしまう。医療は命の「安全保障」であって、経済などと連動して論じるべきでない。「安全保障」という価値のあるものにはお金をかけなければいけない。
石川広己(医療法人千葉県勤労者医療協会 理事長)
地域医療の現場からみる医療崩壊――特に医師不足の現実
日本の医療現場の実態をみると、まず人口千人あたりの医師数比較では、一人あたりGDP(国内総生産)が平均以上の国の中で最下位。OECD平均で3・1人、日本は2人。絶対的不足だ。
また、医事関係訴訟が増加している。10年間で1・7倍。私たちがびっくりしたのは、福島県立大野病院産婦人科医の逮捕だった。これをきっかけに大学病院が派遣している産科医師を引き上げるという事態が全国で起き、産科閉鎖の病院が出てきている。小児科を標榜する施設は10年間で6%減少、分娩実施施設は10年間で27%減少した。
全国医師数(医師免許取得者)は27万人、うち勤務医数は17万人。
医療費/GDPの国際比較では、日本は17位。先進国の中で最下位。
千葉県の医師数は惨憺たるもので、人口10万対比で、全国平均は201人、千葉は146人しかいない。全国で45位、46位は茨城、47位は埼玉。千葉より悪いところがあることに驚く。
勤務医の労働時間は平均70時間を超える。なぜ勤務医労働が厳しくなったのか。医療・医学の高度化細分化、医療安全・医療事故に対しての対応の増大、事務処理の増大と煩雑化、医療費抑制政策の拡大、などがあげられる。全国で勤務医不足によって地域医療が崩壊するところが出てきている。それを防ぐには、研修の充実、システムづくりが必要だ。千葉県では千葉県医師会・千葉大学・千葉県が協力して「NPO千葉医師研修支援ネットワーク」を設立した。
また地域医療崩壊を防ぐ取り組みとして、医師会と病院間の連携で小児救急二次ネットの継続を可能にした事例もある。根本的な問題としての低医療費政策を転換させる運動を展開しつつ、当面可能な緊急的な対策を打ち出すことも必要だ。
泉 美貴(東京医科大学病理診断学講座 講師)
女性医師の高い離職率を考える
女性医師がやめていることが医師不足の原因の一つにもなっている。女性がどのくらいやめているかは、どこにも調査がない。科研費をいただいて、去年から調査している。
私の勤務する東京医大は女性理事ゼロ、主任教授もゼロ、助教授が一人だけ。これは東京医大に限ったことではない。これで公平といえるのか。人間は少しでも望みがあると頑張るが、ゼロでは頑張れない。ゼロでも頑張れというのは何を求めているのか。「下働きの間はやめないでくれ。上には絶対に上げないが」(笑)ということか。
なぜ女性医師はやめるのか。やめた人にインタビューした。一人はつわりがひどく、休みが多くなった。ある日、医局長と教授に「みんなに迷惑をかけているね。やめたらどうだね」と言われた。もう一人は、ゼロ歳と1歳の乳飲み子がいて、当直は困難だった。医局長の男性に「他の女性が君のことを悪く言っているよ」と言われ、それが気になりだした。結婚しない女性に悪いとか、他の頑張っている女性に悪いとか。
今後どうしたらいいか。やめなくてもすむ職場にすることが最も大切だと思う。そのためには、(1)医者の数を増やす。(2)産後は同じ地位に戻れること。(3)産休を取ることが昇進に不利にならないこと。(4)将来像を考える機会がもてること。(5)やめなくてもいい職場を選ぶ。最近は「女性医師にやさしい病院評価」というものも出ていて、女性が「選ぶ」時代がやってきている。
それから女性の側から労働条件を交渉することも大事だ。何も交渉せずにポッとやめるから、「女はこれだから」と言われる。どうしたらいいかを周囲の人や上司と話し合うことが大切だ。
コーディネーターよりの問題提起
日野秀逸(東北大学経済学部 教授)
改革の展望
4人のシンポジストの問題提起から、医療崩壊は「過剰」ではなく「不足」が原因なのだと確認できた。
では改革の展望は? 社会保険としての健康保険・医療保険の再生から始めるのが筋だと思う。社会保険は社会保障を進めるための手段だ。
・「財源がない」に対する反論
法人税の推移を見ると、1984年は43・3%、その後、法人税が劇的に優遇され、99年には30%にまで引き下げられた。高額所得者の所得税も、84年に70%、99年には37%にまで引き下げられた。この分、税収が減っている。89年に消費税が導入され、06年までの累計は175兆円、一方、法人税の減収累計は160兆円、ほぼ同じ金額。何のことはない、法人税減額分を消費税で穴埋めしたことになる。
不公平税制の是正について、公認会計士と税理士の研究会が毎年詳細な計算をしている。それによると、(1)不公平税制の是正で21兆円の財源ができる。(2)補助金など使い道の是正で20兆円。(3)さらに日本企業が社会保険料負担をヨーロッパ大陸諸国並みにすると、14兆円の財源。(1)+(2)+(3)=55兆円の財源ができる。
・「国の借金」論
小泉政権の5年間で最も財政赤字が増加、170兆円増大した。構造改革の小泉が赤字国債をばらまいた。最近10年間の各部門の所得と税収の変化を見ると、大企業の経常利益は2倍、大企業の役員報酬も2倍、企業の株式配当は3倍に増えた。一方、中小企業の役員報酬は15%減、企業の従業員給与は10%減。「大企業栄えて、中小企業・労働者泣く」という構図だ。笑った人から税を取るというのが近代の税制のルール。それをやらなかったから、赤字国債を出し続けている。
財政赤字をどう捉えるか。政府のバランスシートを見ると(図)、資産が933兆円、負債が886兆円、正味資産が47兆円。たしかに借金はしたが、借金以上に資産がある。これは私が勝手に作ったものではなく、内閣府の資料。借金があって担保がなければ、国としての破綻だが、日本はほぼ健全である。計画的、長期的にバランスを改善すればいいことで、だからこそ、政府も慌てなければ、財務省も日銀も慌てていない。医療の財源を要求する根拠は十分ある。安心して声をあげていただきたい。
●道理はある。運動の力で実現しよう!
第II部の「全体討論」では、紙面の関係で詳細は割愛しますが、300床規模の地域の中核病院に勤務する医師がどんどん退職していく茨城の現実、救急医療の崩壊が始まっている東京の実態、産科診療が中止され「お産難民」が発生している神奈川の事態が報告され、医療崩壊のすさまじさが改めて浮き彫りになりました。
日野氏はまとめで、「『不足を転じて充足をめざす』という運動を成功させる条件はある。まず道理はある。医療は人間が社会で生きていくのに必要な必要経費であって無駄金ではない。財政の裏づけもある。では事態を打開する主体的な力量はあるか。ある。道理があることを運動の力で実現するというのはまっとうな筋道。日本の戦後の医療もそうやって前進してきた」と力強く結びました。
シンポジウムに参加して
健友会事務局 大山津草
改めて医療の崩壊のすさまじさを実感した。地方で、大都会のど真ん中で想像を絶する瀕死の医療が目の前で拡がっている。「ここまでしたのは誰だ!」という憤りと、「どうするんだ!」といういらだち。政府・財界の非道な企てに、対応に次ぐ対応で押され気味であった現状への悔しさ。しかし、参加者の発言には「このままにはおかないぞ」という必死の思いと、その思いを共有できる限り国民の命を守る使命のもとに多くの医療関係者、国民が結集できるという確信を感じた。