8月15日の終戦記念日に、東葛看護専門学校講堂で東京勤医会主催による医療安全学習会を開催しました。勤医会から総勢121名の参加がありました。
講師は全日本民医連副会長で福岡医療団理事長の小西恭司先生で、「医療安全の現状」をテーマとしました。というのは、昨年、東葛病院で行った医療安全学習会で、講師を依頼した勝村久司さん(高校教師、家族が枚方市民病院の陣痛促進剤により被害を受けられ、その後、医療事故防止の市民運動に関わられ、現在、中医協の委員などさまざまな医療事故防止活動をされています)の講演がきっかけでした。
勝村さんは、2004年に起きた福島県立大野病院の医療事故で、主治医が警察に医師法21条違反および業務上過失致死で逮捕された件について、「この医師の逮捕は当然である」と言われました。
大野病院の医療事故は出産時の帝王切開の際、主治医はおかれた条件下で適切な対処を行ったにもかかわらず、患者さんが出血性ショックで死亡されました。私たち医療者は、これまでにはなかった警察による有無を言わせぬ突然の医師逮捕と、それによってたいへんな影響があったことを、当然であるとはとうてい思うことはできませんでした。
産婦人科では産科継続が困難になる開業医や中規模の病院が続発しています。外科など侵襲的医療をおこなう科でも志望する医師が大きく減少しています。現在大きな社会問題になっています。
そのため今回、全日本民医連の医療安全を推進する医療部長の小西先生の立場から、医療事故対応を含めた医療安全の現状についての講演をお願いしました。
再発防止活動を展開
以下、講演内容を要約して紹介します。
1999年に、横浜市立病院の手術患者誤認、都立広尾病院の誤注射などの医療事故がおきました。全日本民医連は医療活動委員長会議で、以下の医療安全に関する提案を行いました。
(1) 患者の安全と人権を守る
(2) インフォームド・コンセント重視、共同の営みの推進
(3) 民主的集団医療の実践
(4) マニュアルの励行と不断の見直し
(5) 全国的な医療安全モニター制度設置 など
これまでの医療事故は犯人探しと個人責任追及→処罰が行われていましたが、これからは事故の総合分析を公開し、教訓の共有、再発防止策の立案、実施を行う。その中で個人責任を問うものに変わってきています。
この間、たとえばKCL(塩化カリウム)誤注射事故が発生した際には、全日本民医連として緊急に全国の病院・診療所での緊急安全点検を実施して再発防止活動を展開しました。
このKCL誤注射医療事故は、点滴を実施している途中で、カリウムが低値の患者さんへの治療として塩化カリウム製剤をあとから点滴に混ぜるのですが、このとき誤って静脈に注射すると患者さんがたいへん危険な状態になり、死亡されることもあります。
マスコミによりKCL誤注射による事故が報告され、民医連の病院でも患者さんが死亡される医療事故がおきました。全日本民医連では安全対策として、点滴途中から塩化カリウム製剤を点滴に混注することを禁止しました。東葛病院では、安全対策として薬剤師が塩化カリウム製剤を点滴に混注したものしか使用しないとしました。
同様の医療事故はオーストラリアでも発生しました。オーストラリアでは、誤注射した医療者の個人責任を追及するのではなく、第三者機関への届け出をおこなって、注射器のデザインやその存在が問われたとのことです。
犯人探しではなく、医療の安全性・質向上のための取り組みを
全日本民医連ではさらに、全国の医療安全交流集会を3度、顧問弁護士との交流会を2度開催するなど、さまざまな医療安全に関する取り組みをおこなってきました。顧問弁護士とは日常的に緊密な協力関係を築くことや、医師法21条に基づく警察への届出は個別事例ごとに総合的、集団的に判断するべきであると確認しています。
また前記の全国的な大掛かりな取り組み以外にも、全国をブロック別に分けて、北海道・東北ブロック、関東甲信越ブロック、東海ブロック、中四国ブロック、九州沖縄ブロックの地域協議会レベルでの安全交流会や県連レベルの医療安全の取り組みも進められています。
医師法21条とは異常死体の届出についての法律ですが、医療事故そのものを想定した法律ではなく、異常死について医学界、法曹界ではコンセンサスが得られておらず、グレーゾーンが多いため、医療現場では混乱が続いています。
いずれにしろ、届出をうけた警察の取調べは原因究明・再発防止のためではなく、犯人はだれかをつくりあげるために行われます。医療不信の増大や医療事故被害者の救済が進みにくい現状ですが、全日本民医連では医療の安全性・質向上のために、次のような取り組みをすすめています。
・医療事故の際に医師をはじめとする医療従事者の個人責任を追及したり犯人探しをして処罰することではなく、原因究明を行い、正しい再発防止策を講じること。ただし個人責任の免罪ではなく、その中でリピーター対策を行うこと。
・公的医療費抑制政策を打ち破る国民的運動を旺盛に行うこと。(低医療費政策を行ってきたイギリスは医療荒廃がすすんだため、いまはEU並みの医療費増大政策に転換した。)
・被害者を救済する制度を策定すること。そのためには公正中立な第三者機関を設置することを求めて運動しています。
参加者からは「小西先生の講演は深い内容でした。この間民医連で取り組んできたことを捉えることができ、たいへん勉強になりました」「医師として医療行為ができなくなる。やっていられない。医療の担い手がいなくなるのではないか」「命を預かる仕事で責任が課せられていることを再確認させられた。それだけ責任が課せられている職業だと思いましたが、逮捕されなくてもいいんじゃないかと思いました。命を救うために最善をつくしたのに残念です」「医師のありよう、限界をふまえて逮捕ですむ問題ではない。第三者機関がどうしても必要です」などの声が寄せられました。