
開設に向けて奔走の日々
久しぶりの事業所訪問は7月2日にオープンしたばかりの「けやき天王台薬局」だ。JR常磐線天王台駅から徒歩3分、東京勤医会・あびこ診療所と駐車場をはさんで隣接する。
「あそこが空いたよ!」。今年の春のある日、「あびこ医療と健康友の会」の会員が耳寄りな情報を持ち込んできた。天王台駅前に薬局を開きたい――(株)外苑企画商事と「友の会」の役員は条件に合う場所を探し続けてきたが、なかなか見つからなかったのだ。
「ここは願ってもない立地条件でした。ビルの1階だし、公道に面していることという法的な条件にも合うし、あびこ診療所をはじめ地域医療機関からの処方箋を受け入れやすい場所です」と荒井雄二事務長は話す。
ビルのオーナーはあびこ診療所の患者さんでもあり、話がとんとん拍子に進んだ。4月に契約をかわし、5月の連休明けに内装工事着工、6月10日に引渡しを受け、7月2日開設と決まった。
ここでちょっと待った! 「引渡しからオープンまで20日しかないよ! こんな日程でよくオープンできたな」と気づいた人は何人いるだろうか。薬局を開設するには驚くほど様々な許可を取らなければならないため、通常は1ヶ月半ぐらい見るそうだ。7ページのファイルの写真を見てほしい。開設に向けて作成した申請書類の数々だ。これら膨大な申請書を保健所、県、社会保険事務局などに提出し、一つひとつ許可をもらい、ようやく開設の運びとなる。

荒井事務長 |

秋元薬局長 |
それにしても、なぜそんなタイトな日程にしたのだろうか。「場所探しで長い時間がかかりましたから、見つかったなら1日も早くオープンしたいとなったんです」。こうして開設業務の経験をもつ、わかば薬局の事務長でもある荒井さんが事務長を兼務し、諸々の申請手続きを担当することになった。
「各役所への届出で奔走する日々でした」と荒井事務長が言うように、6月10日に引渡しを受けると、翌11日、柏保健所に薬局開設許可申請書を提出。許可証が出るまでに通常は半月ぐらいかかるそうだが、5月の段階で保健所に足しげく通い、「この日に許可申請を出すので、検査をすぐにしてほしい」と頼んでおいたという。この事前の根回しのおかげで保健所の現場検査が13日、許可が下りたのが18日、申請からわずか1週間だった。
続いて翌19日、千葉社会保険事務局に保険医療機関指定申請を提出。同時進行で、生活保護、障害者、被爆者、労災などの医療機関指定の申請も行った。「事前に書類をそろえて、許可が下りたら間髪を入れずに次の申請書を提出するという作業を繰り返して、何とか間に合わせることができました」。荒井事務長はホッとした表情を見せた。

待合室にて。左から荒井事務長、秋元薬局長、山室薬剤師、原薬剤師(関口薬剤師は本日お休み)。上の掛時計は「友の会」からの贈り物 |
気軽に相談できる薬局に
荒井事務長が外で飛び回っているとき、秋元泰子薬局長は内部の準備に追われていた。スタッフは秋元薬局長(常勤)と薬剤師3人(非常勤)だ。新松戸にある「ひいらぎ薬局」に交替で研修に行き、調剤の基本ルールなどを学んだ。また、医療機関にカルテがあるように、薬局では「薬歴」を作成する。何の病気でどんな薬を飲んでいるか、副作用の有無などを記入し、これに基づいて服薬指導を行い、治療に役立てる。けやき天王台薬局では薬歴をパソコンで管理する電子薬歴を導入した。
こうして迎えたオープン。薬歴を作成するには、患者さんとのコミュニケーションが非常に大事になる。というのも、唯一の情報源である処方箋に書かれているのは薬のことだけで、病名すら書かれていないからだ。「ですから、患者さんとお話しし、病気のこと、生活のこと、副作用の有無など様々な情報を聞き取っていくことが大切なんです。私が診療所の薬剤師だったときももちろん聞き取りはしていましたが、薬歴としてきちんと作成するのは初めてです。しかもパソコンに入力するのも慣れていないので、モタモタ、アタフタ。毎日が“サプライズ!”でした」と秋元薬局長。

数々の請求書類をはさんだ分厚いファイル |
さらに、大変さを加速させる事態があった。調剤コンピュータが外苑企画で初めて導入するメーカーのものだったため、わからないことを他の薬局に聞くこともできなかったのだ。秋元薬局長は開設して2週間ぐらいはコンピュータが夢にまで出てきたそうだ。
「それでも、あびこ診療所や近隣の医療機関の患者さんがほとんどで、顔見知りの方が多く、私たちがまごついても怒り出す方は一人もいませんでした。恵まれた開設で、本当に感謝感謝です」
あたふたする中でも、薬局のメリットを発揮する場面もあった。あびこ診療所の処方箋を持ってきたある患者さんに「他のお薬を飲んでいますか?」と尋ねたところ、「そうそう、耳鼻科にかかっていて薬が出ています」との返事。医師には伝え忘れていたという。すぐに医師に連絡を入れ、薬が変更になった。「薬の飲み合わせのチェックも私たちの重要な仕事です。他の薬を飲んでいることを医師に伝えていない患者さんもおられます。私たちももっと会話力を磨いて、薬のことなら何でも気軽に相談していただける薬局をめざしていきたいと思います」と秋元薬局長は話す。

薬局氷河時代、気持ちを引き締めて
7ページのスタッフ4人が並んでいる写真を見てほしい。上にかかっている掛時計は「友の会」からの贈り物だ。「共同組織の方々が『地域の薬局』という意識で盛り立ててくれているのを痛切に感じます。地域の皆さんの期待に応え、求められる薬局になっていくにはどうしたらいいか、これからが正念場です」。開設から1ヶ月半が過ぎ、秋元薬局長と荒井事務長は次を見据える。
荒井事務長の説明によると、厚労省は医療費削減のために医薬分業をすすめてきたが、その思惑が外れて、薬局を外に出したら全体としてむしろお金がかかるようになってきた。それでまた戻そうかという動きもあるそうだ。

玄関の大きな窓ガラスから明るい日差しが差し込む。前方左に常磐線の電車が見える |
「来年4月の診療報酬改定で日本の総医療費を2000億円減らしたいと厚労省は言っています。その財源をどこから持ってくるか、薬局からとなる可能性が高い。さらに来年は後期高齢者医療制度が始まり、高齢者がますます受診しにくくなります。薬局では後期高齢者の薬代を“丸め”にするんじゃないかという危惧もあります。そうなると、薬局経営はさらに厳しくなって、薬局氷河時代と言っても過言ではない状況になります。この大変な時期に開設したわけですから、本当に気持ちを引き締めてかからなければいけません」
患者数は現在、あびこ診療所を中心に1日35名前後だ。他の医療機関からの処方箋も増やしていかなければ、生き残っていけない。つくばエキスプレス周辺とは違って、このあたりは開発がストップした地域でもあり、急激な人口増加も見込めない。半面、落ち着いた地域ともいえるから、「あの薬局は親切で、信頼できる」という口コミが大きな力となる。患者さんから信頼される薬局をめざして、けやき天王台薬局の挑戦が始まった。