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協同組合報vol.52

トピックス 寄稿

後期高齢者医療制度って?

全日本民医連 相野谷安孝

 後期高齢者医療制度が2008年4月からはじまります。2006年の医療制度改革関連法の一つとして、成立したものですが、多くの人がその中身を知りません。いったいどんな制度なのか、一緒に見ていきましょう。

75歳以上は強制加入

 後期高齢者医療制度は、75歳以上の人が、全員強制的に加入させられる医療保険制度です。いま加入している国民健康保険、共済(組合)健保等から抜け、後期高齢者医療制度に加入させられます(生活保護受給者をのぞく)。障害者や寝たきりの人、人工透析患者は65歳以上から対象になります。

 この新しい制度の目的は、(1)高齢者から確実に、より多くの保険料をとる、(2)高齢者の医療を制限して、入院や長期療養を困難にする、(3)保険料が払えなければ、保険証も奪う、というものです。所得が低く病気が多いハイリスクな後期高齢者だけを集め、他の医療保険から切り離すことで、今後医療費が上がれば、保険料の値上げか医療水準(診療報酬)の引き下げかの二者択一を迫るひどい制度なのです。

 現在、75歳以上の後期高齢者は1300万人といわれています。今年から退職のはじまった団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、2500万人になると予測されています。ほぼ倍の人口になるのです。いまの75歳以上の方が使う医療費は10兆円強、人口が倍近くなれば将来の医療費は、倍以上にふくらむはずです。そこで、75歳以上人口がふくらんでも、医療費は増やさない仕組みをつくる。これが後期高齢者医療制度のねらいです。

保険料を年金から天引き

 まず、これまで支払っていた国保や健保の保険料に替わって、新たに後期高齢者医療保険料を徴収されます。厚生労働省の試算では保険料は、年金収入が年間208万円の人を基準に月平均6200円(年7万4400円)です。保険料は県ごとに決められるため、高齢者医療費の高い福岡県などでは2割増しの試算が出されています。しかも将来、高齢者がふえるにつれて保険料が自動的にあがるしくみで、2015年には、月平均7000円になると見込まれています。

 さらに、保険料の徴収方法が世帯ごとから個人ごとへ変わるため、これまで保険料負担がなかった被扶養者(家族)からも保険料を徴収することになります。1300万人の後期高齢者のうち被扶養者は200万人。「扶養家族で、息子の健康保険に入っている」という人も保険料をとられることになります。

 夫76歳で健康保険本人、妻は74歳で被扶養者というような場合、夫は後期高齢者医療制度、被扶養者だった妻は75歳未満のため、国保に加入することになり、国保の保険料を支払わなければなりません。

 さらに月1万5000円以上の年金受給者は、保険料が年金から天引きされます。すでに天引きされている介護保険料とあわせれば月1万円以上、引かれることになります。減免制度もありますが、天引きは自動的なのに、減免は都道府県ごとにつくられる単一の「広域連合」に申請しなければなりません。

 広域連合には一般財源がなく、自治体の一般財源から減免に当てることも禁止されます。その上、広域連合で独自の減免制度をつくって赤字が出た場合、国の交付金が減らされるペナルティまであります。そして広域連合の会議は半年に1日程度。国保料値下げなどの住民の声が伝わらないことが危惧されます。

 今回の制度導入にあわせ、65歳〜74歳の年金生活者も国保料が年金から天引きになります。この天引きによって、「分納誓約」や「納付猶予」の相談もできなくなります。一方的な天引きは、生きることのできない高齢者を多数生み出すことになります。

 また、70歳〜74歳の患者負担(窓口負担)も1割から2割に、「現役並み所得者」は3割になります。

「包括払い」で医療を制限

 次に問題なのが、厚労省は診療報酬の「包括払い」を検討し、高齢者の医療を制限しようとしていることです。診療報酬とは病院や診療所などでおこなう医療や検査、投薬などに対する医療保険上の支払い額です。「何をやっても同じ額」というのが包括払い。病院や診療所からすれば検査や手当などをやればやるほど赤字になるしくみ。「病院に来ないでくれ」と断わられる可能性が高まります。

 とくに入院医療は深刻になりそうです。長期にわたる治療が必要な慢性疾患患者は、高齢者に多い。しかしその高齢者が「包括払い」になれば、病院から敬遠されかねません。入院患者も病院から追い出さることにつながります。2005年、「終末期の適切な評価」とは何かと聞かれて厚労省の医療課長は「家で死ねっていうこと」「病院に連れてくるな」と語っています。入院患者を追い出せば、医療費は安くすむはずだという考えが現れています。

 全国腎臓病患者協議会は、高齢者の透析の受け入れ先がなくなり、透析医療が危機に陥るのでないかと懸念を強めています。透析患者にとって透析は命綱です。将来、後期高齢者の医療費がふくらんでくれば、75歳以上は、透析を制限する、インシュリンの注射もほどほどにということになりかねません。

 年齢で医療に差別を持ち込む制度は、世界にも例がありません。

社会保障が低所得者を排除

 さらに問題は、国保では70歳以上には禁止されてきた資格証明書が発行されるようになることです。1年間保険料を滞納すれば、資格証明書や短期保険証が発行されます。月1万5000円以上の年金受給者は、年金から天引きです。したがって、滞納しようがありません。滞納が生まれるのは、1万5000円未満のわずかな年金受給者です。低所得者ほど医療を受ける権利が奪われることになるのです。

 資格証明書を発行されると、保険が効かなくなり、いったん全額自費で払う必要があります。病気で医療機関にかかる→医療費がかかって保険料が払えない→資格書を出されてさらに医療が遠のく、という悪循環を生みます。社会保障制度が低所得者を排除するのです。

 昨年12月3日放映のNHKスペシャル「もう医者にかかれない」でも、厚労省の国保を担当する課長補佐が「負担した人にだけ給付がある」「一銭も払えない人は対象にしていない」などと豪語しましたが、これと同じことが高齢者に持ち込まれようとしています。お金が社会保障への「参加費用」だということです。

制度の「持続可能性」のねらい

 高齢者の単身世帯では収入200万円以下が7割、250万円以下が8割です。女性の単身者はいっそう低く、後期高齢者医療制度は生活を破壊しかねません。所得の再分配を目的とする社会保障制度が、逆に貧困を生むことになります。

 こんな本末転倒な制度をなぜ導入するのか。国の医療費負担を減らし、企業の医療費負担も減らすことに最大のねらいがあります。

 政府は、1980年代の「臨調行革」の時代から一貫して、「社会保障に国のお金を使わない」政策をすすめてきました。83年から老人医療費を有料化し、翌84年には、健保本人の1割負担を強行しました。さらに国民健康保険の国庫負担を総医療費の45%から38・5%に引下げました。97年には健康保険本人の患者負担を1割から2割に、04年には「国保も3割だから」と3割にしました。高齢者医療も02年には、定額制から定率制にしました。

 財界も03年には経団連が「活力と魅力溢れる日本をめざして」を発表。社会保険料負担は「本来、個人が全額負担するところを事業主が肩代わりするもの」で、本来は全額個人が負担すべきだといいきりました。

 一方で、政府は社会保障制度をなくしたいと思っているわけではありません。政府は、「高齢者社会を迎え、社会保障財政はたいへんだ。だから持続可能な制度にするために、国民に負担をお願いするんだ」といいつづけてきましたが、実際はお金をとることは熱心なのに、国民への給付にはあまり関心がないのです。そのホンネは『消えた年金』問題に見事に現れました。

 国が本当に関心を持っているのはお金を取り続ける制度を「持続」させることです。

“コスト意識”で世代間の対立をあおる政府

 これまでの医療改悪で用いられたのが「高齢者が医療費を使うから、国や医療保険の財政がたいへん」などの、世代間の対立をあおる方法です。後期高齢者医療制度でも「現役」世代は、自分が加入する医療保険に入る保険料と、高齢者医療制度に支出される保険料が明記されます。たとえば給与明細に表示され、「こんなに高齢者にお金を使っているのか」という“コスト意識”をあおるのです。

 しかし対立をあおる方法は限界にきています。政府は「医療機関は儲けすぎているから、医療保険財政がたいへんだ」と国民の不信感をあおることで診療報酬を削った結果、医師の労働はいっそう過酷となり、産科や小児科が地域から消える“医療崩壊”を招きました。高齢者の負担を増やしても、「現役」世代にとって高齢者は将来の我が身です。

 結局、小泉・安倍政権とつづく社会保障改悪が浮き彫りにしたのは、国や大企業の負担だけが軽くなったという現実。「福祉のため」の消費税は、法人税の軽減などに消えただけでした。医療・介護から「軽症」「軽度」を排除するという考えも持ち込まれ、療養病床の削減(38万床から15万床に)、リハビリの日数制限、介護保険の軽度者からの車いすやベッドのとりあげなどがおこなわれました(06年)。そしていま、かぜなどの「軽い」病気を、医療保険からはずすことも検討されています。

断固、中止・撤回を迫ろう

 全日本民医連は、後期高齢者医療制度の中止・撤回を求めて4月20日、声明を発表しました。「医療をお金のある人が買える『商品』にしてはならない」と訴えています。世界的に見ても少ない医療費への国庫負担を引き上げることこそ必要です。昨年通された医療改革関連法案でも、国の医療費8兆円削減が目的ですが、企業の公的負担は先進諸国の中でも低く、これをヨーロッパ並みにするだけで止めることができます。

 まだまだ知られていない後期高齢者制度を伝えることが大事です。対立ではなく手をとりあって、いっしょに社会を変え、この国の「病」をただすことが必要です。



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