1998年、それまで「坂根・根本・○○」と個人名を連結していた事務所名を「協働」に変更した。この名称は、スペイン・モンドラゴンの「協同労働」という実践からとった。当時の坂根さんの思いは1冊の本にこう書かれている。民医連職員と共にモンドラゴンを取材してまとめた『共生社会と協同労働――スペイン非営利協同の実験』(石塚秀雄・坂根利幸監修、2000年)である。坂根さんにとっては3度目となるモンドラゴン訪問だった(その後2005年に4回目の取材に出かけた)。 <我が住む世界は、巨大独占資本に凌駕され、新興電脳資本に食べ尽くされてしまうのか。それとも少しでも「人間らしく」その尊厳を護りつつ生きていける世界があるのであろうか。 その解答を見出すべく、この30年間探し続けている自分がいる。人間を疎外し、労働を差別し孤立化させる「資本の論理」が支配する世界にはあまり深入りせずに、「人が人を思い」、「労働の尊厳を大切にし」、「差別のない」、「心と想い」をかきたてられる世界へ、いつの間にか引き寄せられている自分がいる。今風に言えば、「非営利・協同」の世界だった。(略)……バスク・モンドラゴン協同組合群は、私にとっては、「働く」ということへの認識理解の革命をもたらした」 「協働」という名称に込められた思いが伝わってくる。 「協働」のスタッフに目を移すと、スタッフたちはクライアントの方たちと協力共同して働くとともに、スタッフ間の協力共同も大事にする。特に資格をめざす事務局員へのサポートは惜しまない。簿記学校に通う場合は費用の大半を事務所で負担するし、公認会計士を受験する人には、常勤であっても毎日出社しなくていい体制をつくる。坂根さんの一文にある「労働の尊厳を大切にし、人が人を思う働き方」を少しでも実践しようと努力しているのだ。 ●「非営利・協同」をどう発展させていくか
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モンドラゴンの本部建物正面
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坂根さんは、頼まれれば、労使の団交に出席して説明することもあるという。避けたいのが普通だろうが、坂根さんは「揉め事」の中に躊躇なく飛び込み、解決策を探る。「そんなに嫌じゃないんだよ、揉める青春だったから」と笑う。「父親の影響ではない」と言い切るが、お父上は労働組合の闘士で、60年安保のときの総評の法対部長だったそうだ。
「思春期の頃はそういう環境が嫌でね。自分で大事にしているのは、大学1年の頃のあの感覚だね」
「あの感覚」とは、早稲田大学の授業料値上げ反対闘争にあけくれた時期の感覚のことだ。「行列のできる法律相談所」でおなじみの弁護士の丸山和也氏、『突破者』の作家、宮崎学氏とは同級生で、3人で早稲田の学生運動に没入していた時期があったそうだ。
「でも、活動家になりたかったわけじゃない。いろいろな理由があって、2年が終わると休学して簿記学校に通いました。闘士にはならなかったけれど、その当時の時代の空気が自身の生き方に影響していることは確かです」
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モンドラゴン本部内で説明を受けているところ
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今、医療法人、公益法人、生協法人など「非営利・協同」の組織の法律がどんどん変わってきている。また去年は保険業法が改悪され、それまでは「特定」として除外されていた共済が行政指導の対象とされ、存続できない事態が生まれている。民医連の共済も例外ではない。
「これは、アメリカの金融資本が『共済をつぶせ』と言っているためです。共済をつぶして保険商品を売り込みたいわけです。農協共済、全労災など大きな共済を民間の生保・損保と同じ位置にするのがねらいです。こうして保険や金融機関から巨大なマネーを集めて市場で使おうというわけです。共済問題でうちは今大変です」
こうしてますますマネー経済は加速し、富の集中が進み、格差社会が広がるという構図だ。先日のNHKの「クローズアップ現代」は「アメリカのワーキングプア」を取り上げ、アメリカの所得上位者5%がアメリカの富のじつに6割を独占していると報じた。日本も確実にそこに向かっている。
その対抗軸としての「非営利・協同」をどう発展させていくか。「協働」に求められる役割はますます大きくなっている。
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