最期の願い
野田南部訪問看護ステーションそよかぜ 川口 亜美
最近の訪問看護ステーションで特徴的に目立っていることは、がん末期の患者さんが最期を少しの間でも自宅で迎えられるようにと、できるだけ早く退院されるケースが多いことです。全ての治療はやり尽した、病院ではもう何もすることがない、と。このような患者さんには、とにかく早く訪問看護を導入し状態を把握し、必要なことは? 何を一番望んでいるのか?を見極める必要があるということを強く感じる日々です。
●大病院からの依頼
先日、大病院のソーシャルワーカーから依頼の電話がありました。61歳の女性Mさん、県営住宅の4階に住んでいらっしゃる方で通院も困難。できれば今後は往診し訪問看護に来てもらい家で最期を迎えたいと考えておられる方です。病名は悪性リンパ腫。病状はターミナル期。すでに自宅に帰っておられ、介護者は自宅での介護に不安を抱いておられ、ご本人も食欲不振と浮腫があり、病状観察でよいので訪問看護を始めてほしいとのことでした。3日後近医へ入院する予定がありますが、それは在宅調整準備のためと言われていました。手配は病院のソーシャルワーカーがしてくださっていました。
●Mさんとの出会いと別れ
依頼のあった日にMさんのお宅に電話し、「明日、契約と訪問看護を同時に開始しましょう」と説明しました。ご自宅へ伺うと、一緒に住んでおられる31歳になる娘さんが母親をとても大事にしていらっしゃる様子がわかりました。夫と娘との3人暮らし。二人とも、日中は仕事をしており、夫は周3回の勤務で、誰もいない時に何かあったら不安だ、とご本人とご家族が言われました。
契約初日、Mさんの体を見せていただきましたが、左肩〜上肢はひどい浮腫で、左胸にはすでに腫瘤が皮膚まで突出し、いつ替えたのかわからないようなガーゼが当たっていました。腫瘤を保護するために、元気な時に使っていた腹巻を胸に巻いておられました。自分なりに考えて手当てをされていたようです。「Mさんの今一番望むことは何ですか?」と尋ねると、「お風呂が大好きだけどシャワーしか入っていなかった。最近は体も拭いてない。肩と手のだるいのもとれて気持ちいいし、できればお風呂に入りたい」とのことでした。
体力的には、ふらつきながら介助でやっとトイレに行けるような状況で、疲れきってしまい、尿がやっとで、便は出せるような状態ではありません。それでもオムツを使わないで、頑張ってトイレ歩行をされていました。ポータブルトイレを使わせてあげたい、気軽に借りられる制度にしたい、と強く思いました。そして念願である入浴を早く叶えてあげたい……。
介護保険の申請は済んでいましたが、市からの調査はまだで、入院中に来てもらうとのことでした。初回日と次の日と2回訪問し保清・マッサージを行った時は涙を流して喜ばれていました。そして創の処置、排便対応を行い、3日目近医に入院されました。「ぜひ、帰ってきたら入浴しましょうね。また訪問に来ますので、帰られるのを待っています」と約束し、私はMさんの自宅を後にしました。
入院中も夫と話し、「市から調査に来ました。ご飯が食べられないので、今は点滴を受けています」とのことでした。病院で息を引き取られた、とお話を聞いたのは、それから3日後のことでした。私は悔しく残念な気持ちで一杯でした。
●私達ができることは?
介護保険は今、要支援〜要介護1の方までしか介護用品のレンタル使用はできません。Mさんのような方は、今歩けても明日歩くことができなくなることが予測されます。病状が急変するからです。市からの調査を早めに、と配慮してくれたりしますが、私はこう思います。がん末期や進行性の難病の方などは安心して早く自宅に帰れるよう、介護保険がスムーズに使えるような制度に変更、または柔軟な運用や対応ができるよう求めていきたい、と。実際に介護保険を申請していても使用しないで亡くなってしまった人が何人いることか。
この現実を行政に訴え働きかける取り組みが必要と痛切に感じます。患者さんの最期の願いを叶えるために。
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