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協同組合報vol.46

トピックス 記念講演Part2

なぜ今、メタボリックシンドロームなのか?

神戸医療生活協同組合 神戸協同病院 院長 上田 耕蔵
社会福祉法人 駒どり 理事長

写真 上田先生は、昨年12月に行われた協同組合医療と福祉の2007年度予算検討合宿において、膨大な資料をもとに記念講演を二つ行ってくださり、大変好評でした。その一つ「少子高齢社会と介護保険の行く末」は前月号でお届けしましたので、今月号は二つ目の「なぜ今、メタボリックシンドロームなのか?」を要約してお届けします。

生活習慣病の原因と予防

●生活習慣病って?
 まず生活習慣病についてですが、その予防は3段階で行われます。1次予防は動脈硬化のリスクファクター(危険因子)を見つけて改善する。喫煙・運動・栄養・アルコール・ストレスなどについて見直す。2次予防は動脈硬化の基礎疾患(高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満)の早期発見、早期治療を行う。3次予防は不幸にも心脳血管に障害が起こり脳卒中や心筋梗塞になっても治療、リハビリを行う。
 動脈硬化性疾患(瑞カ活習慣病)の原因の2分の1〜3分の2は悪いライフスタイルにあると考えられます。そのため動脈硬化の基礎疾患や脳卒中、心筋梗塞は「生活習慣病」と言われるようになりました。

●各危険因子と死亡との関係
 生活習慣病の予防はライフスタイルの問題点を一つひとつ改善していくことですが、凡人にはこれがなかなか難しい。そこで、わかりやすく効率的なスクリーニング法(あるいはスローガン法)が提唱されてきました。「血液ドロドロ」とか「出っ腹」とか。皆さんもそう言われると、思い当たるでしょう(笑)。
 生活習慣病の効率的スクリーニング方法を開発する前に、どの生活習慣や動脈硬化の基礎疾患が全ての死亡(全死亡)や動脈硬化の死亡(心血管死)にどのくらい影響しているかを知る必要があります。住民に対する前向きコホート調査を行うと、(1)個人に対して各危険因子がどのくらい死亡率を増やしているか(死亡率相対リスク)、(2)各危険因子が国民の全死亡の何%を占めているか(人口寄与率)を求めることができます。しかし、タバコついては人口寄与率はよく求められていますが、全ての危険因子を網羅した研究は手間が大変なのであまり行われていません。

●茨城県の疫学調査
 そうした中で、茨城県保健福祉部保健予防課の行った疫学調査はすごいです。インターネットで公開されています。県内住民約9万8000人に1988〜1999年までの約10年間をフォローして、生活習慣等と疾患・死亡率との関連を研究したものです。
 この調査による死亡率相対リスクの結果は、
(1)高コレステロールと肥満は相対死亡リスクが全くなかった。これはもう有名な話で、高コレステロールがリスクになるのは心筋梗塞だけであって、他の病気はむしろ高コレステロールのほうが脳卒中を減らしたりします。それから、肥満も全然リスクになっていません。リスクは肥満に伴って増える高血圧、糖尿病によるもので、脂肪自体のリスクはBMI30以下ではほとんどありません。
 しかし、この研究結果の文章の中には、高コレステロールと肥満はリスクにならないとは一言も書いてありません。厚労省に怒られたらアカンから書いてないだけです(笑)。
(2)高血圧、高血糖の相対リスクは約1・4倍だった。
(3)最も高いリスクは喫煙であり、約2・0だった。
 全死亡に対する各リスク因子の寄与率を出しますと、男性では喫煙が最も多くて24%、高血圧11%、高血糖3%でした。女性は喫煙3%、高血圧7%、高血糖4%と推計されました。喫煙の死因に占める割合(ことに男性)が大きいのがわかります。
 一番リスクの高いのが喫煙、次が高血圧、高血糖となります。つまり、肥満になると高血圧や高血糖に影響しますが、肥満そのものでリスクが上がるわけではないということです。

●死亡の高リスクは?
 この茨城県の分析では、喫煙、高血圧、高血糖の3項目しか求めていませんので、それに、やせ、肥満、アルコール、ストレスをそれぞれインターネットで公開されている厚労省などのデータに基づいて計算しなおしてみました。
 その結果は図1のようになります。男性で10%以上の高リスクとなっているのは、(1)喫煙、(2)運動不足、(3)ストレス、です。女性は(1)運動不足、(2)ストレス、です。
 では、メタボリックシンドロームはどこにポイントをおいているかというと、この5%〜7%のところにおいている。その前に喫煙を何とかせえや、と言いたいのですが。

図1 全死亡に対する各リスク因子の寄与率
図1

メタボリックシンドロームの概念と問題点

●メタボリックシンドロームって?
 いよいよメタボリックシンドロームに入ります。これはどういう病気なのか。動脈硬化の基礎疾患である肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などは互いに重複して出現することがわかってきました。また、複数の疾患が重なったほうが心筋梗塞や脳卒中を起こしやすいこともわかってきました。
 そのために、これらの疾患には共通の原因(インスリン抵抗性)があると考えられるようになった。あるいは蓄積された内臓脂肪が主因とも言われるようになりました。これは日本の松澤氏が唱えたもので、「内臓脂肪症候群」と呼びました。その他にも「死の四重奏」「シンドロームX」などとも呼ばれてきましたが、1999年にWHOによって「メタボリックシンドローム」という名前に統一されました。
 では、肥満の中で、どういうタイプがメタボリックシンドロームを起こしやすいのか。肥満には下半身肥満と腹に脂肪が付く上半身肥満があります。問題なのは上半身肥満です。上半身肥満はさらに、皮下脂肪型と内臓脂肪型に分かれ、内臓に脂肪が多いタイプが高血圧、糖尿病、高脂血症を合併しやすく、動脈硬化が進みやすい。これが「メタボリックシンドローム」と呼ばれるものです(図2)。

図2 肥満の型
図2

●診断基準
 メタボリックシンドロームの診断基準は世界各国で違いがあります。日本では2005年4月に日本内科学会などが診断基準を発表しました。それは2段階からなっており、まず内臓脂肪の蓄積があることです。ウエスト回りで測定して、男性は85cm以上、女性は90cm以上です。その上で、高血圧、糖尿病、高脂血症の三つのうち二つの疾患があれば、メタボリックシンドロームと診断します。
 日本でメタボリックシンドロームの該当者はどのくらいいるか。2004年の厚労省の調査では強く疑われる人が940万人、予備軍が1020万人、合わせて1960万人としました。40〜74歳で見ると、男性の2人に1人、女性の5人に1人が強く疑われる群および予備軍と考えられました。えらく大きな数字をあげたものです。

●なぜ今メタボリックなの?
 最初の問題は、「内蔵脂肪症候群」という日本の学会が作った言葉があるのに、なぜメタボリックシンドロームという言葉を採用したのか。これに対する回答は、もし自分がこの病気になった場合、どちらの病名で呼んでもらいたいかを考えたらわかります(笑)。内臓脂肪はわかりやすいけれども、イメージが暗い。あるいは「後ろめたい」気分になる。いじめをうけるかもしれない(笑)。
 一方、メタボリックシンドロームは明るい。高尚なイメージさえも醸し出してくれる(爆笑)。国民の間に関心をもってもらって広めていくには、内臓脂肪ではなく、メタボリックなんです。抽象的だけど、キャッチコピーとしてはいい。
 二つ目の問題。なぜ腹囲を使って、体格指数(BMI)を用いなかったか。これは簡単です。BMIは計算が大変、腹囲のほうが簡単に測定できるからです。それから、腹囲のほうが原因である「内臓脂肪」を示すことができる。さらに、病気を「見える」かたちにすることができる。BMIでは何だかわからないけれど、「出っ腹」といえば誰でもわかる(笑)。他国の診断基準でBMIを使っているのはWHOだけです。

●疫学上の問題点
 メタボリックシンドロームには疫学上の問題点があります。
(1) 男性は腹囲85cm以上の中に肥満でない人が43%も含まれてしまう。男性は腹囲85cm以上の人は51・9%と半数以上が該当しますが、BMIで見ると、腹囲85cm以上の中に肥満でない人が43%も含まれてしまいます。女性は腹囲90cm以上の人は18・9%と約2割、腹囲90cm以上の中に肥満でない人が25%しか含まれません。
(2)2006年8月NEJMで報告された韓国の大規模調査では、BMI25以上では増えてくる高血圧、糖尿病による分だけ死亡リスクが上昇しましたが、BMI30以上ではじめて肥満(脂肪)そのもののリスクが加重しました。
 BMI23〜25は死亡率が一番低いのに、なぜメタボリックシンドロームでひっかけるのか。小太りの夫が帰宅すると、妻が「あなたはメタボリックなんだから、食事は少なめに、お酒は1合までよ」などと言われて、命を縮められている(笑)。
 また高血圧、糖尿病のうち肥満者が占める割合は男性約半分、女性5〜6割です。約半分は肥満ではない人たちです。つまり、メタボリックシンドロームで括られると、肥満でない高血圧、糖尿病が軽視される可能性があるということです。
(3)茨城県データで計算すると、メタボリックシンドロームは全死因の4%しかカバーしていない。全死因の第1位である喫煙24%よりもかなり低い値です。
(4)さらに日本では、メタボリックシンドロームの正確な疫学調査はまだ行われていません。結果を見ずに見切り発車しているわけです。

●メタボリックシンドロームとして取り組むメリットは何か
(1)「高コレステロールは基本的には治療する必要はない」ということがより浸透していく。
(2) 増加し続ける男性肥満への先手を打つ。
(3) メタボリックを通じて国民に生活習慣の大事さを伝える。腹部内臓肥満の原因である過食・運動不足を改善するきっかけになる。ことに運動の重要性を伝える。
 以上のような意味では、たしかに意義はあります。

●海外の肥満
 過去20年間で世界の肥満率は3倍以上に増えました。WHOによると世界で現在、3億人以上が肥満となっています。先進国だけでなく発展途上国の人々にも肥満が蔓延(全世界の約3分の1)しています。WHOは肥満を流行病(epidemic)と表現しています。
 アメリカは先進国で最も肥満の多い国で、その比率はハンパではありません。2003年で肥満比率(BMI30以上)は30・6%、過体重(BMI25〜30)は35・1%でした。日本、韓国の肥満比率(BMI30以上)2〜3%と比較すると、その異常さがよくわかります(図3)。
 子どもの肥満も問題で、世界各地、ことに発展途上国で増えています。WHOは5〜7歳児の約10%は過体重か肥満であると報告しています。子どもの糖尿病の発症も増えています。
 そもそも肥満の定義は世界と日本では違います。日本ではBMI25以上を肥満と定義しており、25以上で計算すると、肥満率は約30%ですが、世界的にはBMI30以上であり、肥満率は約36%です。ですから、メタボリックシンドロームは本来、肥満が大流行している西欧や発展途上国に当てはまる概念なのです。

図3

●メタボリックの背景に何がある?
 こうして見てくると、なぜ今メタボリックなのか、どうも納得がいかない。誰かが何かを企んでいるのではないか(笑)。考えられるのは、
(1) 医療費削減のテコにする。厚労省は生活習慣病患者・予備群を2015年までに25%減少の目標を掲げました。総医療費に対する生活習慣病(がんを含む)が占める割合を30%と推定しているので、総医療費に対し30%×25%=7・5%の削減となる。生活習慣の改善が疾患予防に最も効果がありますが、これは容易ではない。結局のところは保険者に特定健診「など」を通じて医療費削減の動機づけをしたいのかもしれません。
(2) 新しい労働市場の創設。官僚は介護市場に続いて運動市場(トレーナー)を拡大したいと考えているのではないか。
(3) 本命は薬剤メーカーの仕掛けと思われる。高コレステロール血症が見直されつつあるのを受けて、新しい病気の創設が必要となった。メタボリックは生活改善を謳っていますが、保健指導体制は不十分ですので、結局早期薬剤使用となるでしょう。
(4) たばこ産業は国民の関心がメタボリックにそらされることを期待しているだろう(笑)。

●特定健診とは?
 いよいよ佳境に入ります(笑)。厚労省は老人保健法の改正により、健康診査などの保健事業の実施主体を自治体から保険者に変えます。保険者はメタボリックシンドロームに着目した保健指導を行うことになります。これは08年度より40歳以上の加入者に対し実施されます。健診医療機関は院内の全面禁煙と生活指導体制(アウトソーシング可)を整える必要があるわけです。
 では、特定健診の問題点は何か。
(1) 健診を保険者へ義務づけた。自治体の責任放棄である。
(2) 保険給付とされず。保健福祉事業のまま実施。
(3) 健診保健指導により病気と死亡率が減るかについては実証されていない。
(4) 保険者の保健指導が不十分ならペナルティが課せられる。健診の実施と成果の達成状況により後期高齢者支援金が110/100の範囲で増額される。

●健診・保健指導で本当に医療費は削減できる?
 厚労省は健診・保健指導によって医療費が抑制できるとしています。その根拠は財団法人医療経済研究機構による「政府管掌健保における医療費等に関する調査研究報告」から引用しています。これによると、BMI、血圧、脂質、代謝系(血糖など)の検査値で異常が四つ以上ある人はない人と比較して10年後の医療費が3・2倍高かった。健診早期発見→保健指導で予防ができたら、その分医療費は削減できるとしたわけです。
 健診の異常項目が多い人は10年後の医療費が多くなることは、そんなん当たり前やわ(笑)。それと保健指導で異常項目(病気)を減らして医療費を削減できるかどうかは別次元の問題です。もし保健指導で病気が減り長生きできた場合、中期的な医療費は減らせても長くなった後期高齢者の期間で病気が増える。一生涯でみると、医療費は減らないと言われています。米国の有力シンクタンク「RAND研究所」の報告の序文で「高齢者の健康状態の改善は医療費の削減ではなく増加をもたらすだろう」(笑)と結論づけています。

●では我々はどうしたらいい?
 厚労省はメタボリックを動かしてしまいました。であるならば、国民に運動を含めた生活指導の重要性を伝えるために、特定健診にとりくもう。これが結論です。(笑)(拍手)



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