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協同組合報vol.45

トピックス 記念講演

少子高齢社会と介護保険の行く末

神戸医療生活協同組合 神戸協同病院 院長 上田 耕蔵
社会福祉法人 駒どり 理事長

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 12月16(土)〜17日(日)の2日間にわたって晴海グランドホテルを会場に医療法人財団東京勤労者医療会の2007年度予算検討合宿が行われました。初日の16日午後4時からは(株)外苑企画商事も合流して上田耕蔵先生の記念講演が開かれ、その軽妙な語り口に会場はたびたび笑い声に包まれ、示唆に富むだけでなく日頃の疲れを吹き飛ばしてくれる楽しい講演となりました。
 先生は「少子高齢社会と介護保険の行く末」と「なぜ今メタボリックシンドロームなのか?」の二つの演題を、膨大な資料をもとに2時間半にわたって講演してくださいました。紙面の関係上、今回は前者を要約してお届けします。

日本の高齢化と社会保障

●平均寿命と健康寿命
 日本人の平均寿命が世界一であることは、皆さんご存知です。では、男女ともでしょうか? 女性は21年連続世界一ですが、男性は2004年の2位から05年は4位に後退しました。中年の自殺増がひびいているようです。
 ところで、WHOは「健康寿命」という概念を提案しました。これは病気や怪我で健康が損なわれる期間を平均寿命から差し引いたもので、平均でどの年齢まで健康に暮らしていけるかを示しています。この健康寿命でも日本は世界一です。
 アメリカは先進国にもかかわらず、平均寿命だけでなく、健康寿命も短い。下位には中近東やアフリカ南部の国が多く、最下位はアフリカのシエラレオネで、平均寿命は34・3歳、健康寿命は25・9歳という短さです。また、アフガニスタンの男性の不健康期間は人生の24%を占めており、じつに厳しい。発展途上国で最も健康を蝕む社会的原因は戦争です。

●高齢者数の推移
 日本は高齢化率でも世界一で、05年の65歳以上の人口割合は21・0%に達しました。第2位はイタリアで、20・0%。日本は世界で最も進んだ「少子高齢国」となりました。1950年代は高齢者になってから亡くなる人は全体の3分の1でしたが、70年代以降は3分の2に増えました。経済力の発展につれ、大半の人が高齢者になれるようになったわけです。昔は「みたいときに親はなし」、今は「みたくなくても親はいる」(笑)。
 2050年までの高齢者数の推移を見ると、2020年までは高齢者は増え続けますが、それ以降は一定になります(図1)。しかし、2025年には後期高齢者(75歳〜84歳)のほうが増えますので、要介護者数は2025年にピークを迎えます。したがって社会保障制度は2025年が勝負どころとなります。

図1

 では、高齢者一人を何人で支えているか。1950年は高齢者一人当たり労働人口10人で支えていました。ところが、2000年は3・6人、2025年は1・9人と、さらに厳しくなります。社会保障費用はますます増加していくことになるわけです。厚労省の社会保障給付見通しによると、2025年の総額は152兆円となります。これは2002年の推計より24兆円減らした数字ですが、その大半は年金部分の削減(20兆円)で、あとは医療、介護など福祉の削減によるものです。

要援護高齢者の特徴

●介護保険は女性のためにある?!
 ここでは介護保険対象者を「要援護者」と称することにします。2001年の国民生活基礎調査では、要援護者のうち、男性は32・9%、女性は67・1%。女性は男性の約2倍です。女性は男性より約7歳長生きなので、その分、要援護者になる人が増えるわけです。
 男性のピークは75〜80歳、女性は80〜85歳です。これを実数で見ると、40〜70歳代までの要援護者は男女ほぼ同じですが、後期高齢者になると、まあ女の人の多いこと!(笑) 男性の2〜3倍占めるようになる。介護保険は主に後期高齢者が利用すると言われていますが、主な利用者は女性ということです。女性のために介護保険はある!(笑)
 では、どんな病気で要援護になるのか、男女差はあるのか。男性は脳卒中が43%、女性は20%です。女性のほうが要援護者の人数が多いですから、これを総数100%で計算しなおすと、男女比はなくなり、全体の28%が脳卒中となります。しかし、そのほかの疾患では圧倒的に女性が多くなります。目立つのは認知症、転倒骨折、関節疾患、衰弱などです。

●収入の多い少ないで要援護率は変わる?
 要介護を起こす疾患はグループ分けできます。厚労省は、脳卒中、廃用性症候群、認知症の三つに分けて対策するとしています。要援護の原因疾患を減らすためにはこの三つを減らせばよいということです。(1)脳卒中を減らすためには、若い頃から生活習慣の改善が必要である。(2)廃用性症候群を減らすためには、骨量、運動機能の維持や生きがい対策が必要である。運動習慣をつけようとしても後期高齢者になってからでは遅すぎる。(3)認知症を減らすためには、運動などの生活習慣の改善と、若い頃からの趣味や社会的つながりを大事にした暮らし方をすること。
 理屈はそうですが、実際にはことはそう簡単ではありません。年取ってから社会的つながりを持てと言ってもほとんど無理な話だし、予防給付の筋トレは利用者が少ないようですが、「筋肉がついた!」と喜ぶ人は元々運動好きで元気な人であって、元気な人をさらに元気にしてどないすんねん!(笑)
 脳卒中を減らせば廃用性症候群が「私の出番」と出てくるし、廃用性症候群を減らすと、今度は認知症が出てくる。ほとんど対策はなし(笑)。
 では、収入の多い少ないで要援護率は変わるかどうか。これは変わるんですね。日本福祉大学の近藤克則先生の研究チームは所得階層別に高齢者の要援護率を調査しました。近藤先生は『健康格差社会』という本を書いた人です。調査の結果、収入ゼロの人の要援護率は17・4%であり、収入に比例して要援護率は下がり、200万円以上では3・7%でした。ゼロと最高では5倍もの格差があったんです。近藤先生は、100万円所得が少ないことは、おおむね5歳分の老化に相当する、と指摘しています。
 なぜこういうことが起きるのでしょうか。低所得者は喫煙、飲酒、一人暮らしなどの危険因子をより多く保有していて、死亡率、疾患罹患率が高い。それから、生き甲斐や社会的サポートが弱いと廃用性症候群や認知症に陥りやすい。「格差社会」は要援護率にも影響する、深刻な問題なのです。

厚労省の介護保険改革の行く末

●超高齢社会の負担が急増
 介護保険の矛盾が拡大していますが、これに対して厚労省の改革は財源削減を第1課題にしていることは、皆さんよくよくおわかりです。介護保険を取り巻く制約を考えると、大きく四つあげられます。(1)日本では住宅が福祉として位置づけられていない。施設自体が少ないうえに、高齢者住宅が全然整備されていない。しかも施設を病院に肩代わりさせてきた。ここが一番の矛盾点です。
(2)財源の制約が大きい。財務省の圧力が大きい。一方、国民は大きな負担は望んでいないように見える。
(3)年金制度はむちゃくちゃ不均等である。厚生年金は高レベル、国民年金は低レベル、しかも国民年金の納付率は年々下がっている。
(4)日本は世界一の高齢化進展国で、社会保障の負担が増加。
 では、日本の社会保障の負担はどのくらいなのか。日本の国民負担率[租税負担率(国税と地方税)+社会保障負担率(医療保険と年金保険]は、2006年で43・9%。各国の国民負担率を比較すると(図2)、日本はスウェーデン、フランスに遠く及ばないものの、ドイツ、イギリスよりも少ない。アメリカはもっと少ないですが、公的医療保険がなくて高い民間保険に加入していますので、アメリカ国民の負担率はもっと高いです。日本は毎年30兆円もの国債を発行し続けていますので、その負担を抱えたうえに超高齢社会の負担が急増しつつあるわけです。

図2

●介護保険改革が進むとどうなる?
 厚労省は介護保険改革の基本的視座として3点あげています。(1)明るく活力のある超高齢社会、(2)制度の持続性、(3)社会保障の総合化。このうち最大のポイントは「制度の持続性」です。最近厚労省は「ほどほど」の社会保障をめざそうという言い方をしています。
 具体的な介護保険改革は、(1)費用の削減。これを徹底的にやっています。その一つは、軽度と重度の二つに分け、軽度者は認定しにくくして、かつサービス価格を制限する。ザービスを定額にして事業者にダンピングを強いる。厚労省官僚はじつに商売上手です。
 二つ目は、サービスの改善。小規模多機能型居宅介護、高齢者専用住宅の拡大、施設でのユニット型個室の推進、施設での看取りなどです。居住系の整備が進むでしょうが、国はお金を出さない、民間でやれということなので、お金のない人は多床室特養になることが予測されます。
 介護保険改革が進んだら、どんな矛盾が拡大するか。施設入居者は2極分化すると思います。新型は厚生年金層、旧型は国民年金層。施設は重度化し、見取りが増える。施設の建設抑制のため住宅系が増える。しかし、高齢者住宅は財源難の国がどこまで整備するかわかりません。住宅系の問題は、必要数建設されない、終の棲家にはならない、寝たきりなど重度になると施設へ転居となる、などです。
 さらに、低所得、中度障害者の行き場がなくなり、介護難民が増えるでしょう。療養型、病院にあふれてくる可能性が高いです。しかし、病院系も削減されているので、病院と施設と本人家族との間で押し合いになる。それから、少子化のため、介護スタッフ不足から外国人の採用が本格化するでしょう。
 要援護者のピークは2025年に来ます。それまで20年あります。まだ遅くはありません。介護福祉にもっと取り組みましょう。低所得者向けのケアつき住宅が最も求められています。
 貴法人の活躍を期待します。(拍手)



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