共同生活の「集団の力」で
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| 尾藤施設長 |
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| 桜丘ケアセンター内の4事業所の責任者たち(左から「東京さくら福祉会」常務・渡邉さん、「在宅支援相談室桜丘」責任者・原さん、「デイサービスセンターさくら草」責任者・松岡さん、「グループホームさくらの家」施設長・尾藤さん、「ヘルパーステーションさくら」所長・彦坂さん) |
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| 買い物 |
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| 食事づくり |
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| 今日の昼食は流しそうめん |
世田谷区桜丘に3階建ての「桜丘ケアセンター」がオープンしたのは2005年10月、ちょうど1年になる。このケアセンターは多様な福祉サービスを総合的に提供する複合施設であり、1階には「デイサービスセンターさくら草」、「ヘルパーステーションさくら」、ケアプランの作成やサービス事業者の紹介などを行う「在宅支援相談室 桜丘」の3事業所が事業を展開しており、2階と3階が「認知症高齢者グループホーム さくらの家」だ。今回はグループホームを紹介しよう。
そもそもグループホームとは、認知症の方が専門的な知識・技術を持ったスタッフの援助を受けて共同生活を送る場だ。あくまでも「生活の場」であり、少人数であること、家庭的な環境の中で一人ひとりの「その人らしさ」が大事にされるのが特徴だ。さらに、協力して家事を行うなどして「集団の力」を身につけることで症状の進行を緩やかにするというねらいもある。
「さくらの家」ではワンフロア9人ずつ、計18人が暮らしている。入居条件は、認知症があり、介護度が要支援2以上、一定自分の身の回りのことができ、他の入居者と一緒の暮らしができる方である。
利用料は介護保険料1割自己負担分も含めて約13万5000円と、利用しやすい料金設定にしている。同じ世田谷区のグループホームでは20万円ぐらいかかるという。
では、「集団の力」とは具体的にはどういうものか。「さくらの家」の施設長で、ケアセンター長でもある尾藤文江さんはこう説明する。
「たとえ認知症になっても人は人との関わりの中で生きていきたいと思っています。人との関係の中で大事なことは相手を思いやることです。一緒に生活する中で、困っている人を自然に手助けするようになります。たとえば、最高齢は96歳の女性ですが、その方が薬を飲むのを、食事のときにいつも隣に座る方が手伝います。粉薬がうまく口に入らないとき、袋をトントンと叩いてあげるんです。それから、脳梗塞の後遺症で手の動きが不自由な方の着替えを手伝ってあげる方もいます」
入所者は全員認知症があり、夕食後2時間ぐらいして「今日の夕ご飯は何を食べましたか」と聞いても答えられる人は少ない。すぐに忘れるため、同じことを繰り返し聞いたり訴えたりするのも日常茶飯事だ。家庭で徘徊したり暴れたりして、「これ以上介護は無理」と追い詰められていた家族もいる。それがここに来て、生活が落ち着いてくると、相手を気遣うことができるようになるという。
「感情は豊かでデリケートです。かえって普通の人よりデリケートかもしれません」。社会福祉法人の立ち上げ、ケアセンターの建設に奮闘してきた渡邉史朗さん(現・東京さくら福祉会常務)はそう話す。薬の袋をトントンと叩く。手の不自由な人のボタンをかけてやる。そういう日常の小さな一つひとつの行為、人を思いやる気持ちの一つひとつが人との関係の中で生まれ、その人間関係の中で認知症の症状が緩やかになったり改善されたりするそうだ。
暮らし方は人それぞれ
グループホームは「その人らしく生活する」ことを支える場であり、そのためにスタッフたちは懸命だ。
ある日の入浴の時間、こんなことが起きた。一番風呂を好むAさんがその日は入りたくないと言うので、Bさんに声をかけた。Bさんはお風呂の道具を持って風呂場に行きかけたが、また戻ってきて、何かモグモグ言っている。脳血管障害のあるBさんは会話がうまくできないのだ。何を言いたいのだろうとスタッフがそばに寄ると、Aさんを指さして何か言っている。もしかしてAさんに「お風呂をお先にいただきます」と言いたいのだろうか。そう考えたスタッフはその旨を話すと、Bさんはうなずいた。
そこでスタッフはAさんに「Bさんが『お先にお風呂をいただきます』とおっしゃっていますが、いいですか?」と声をかけた。「ああ、いいですよ。どうぞ」と言うAさんの声を聞き、Bさんは安心して風呂場に向かった。尾藤さんはこう話す。
「表現はできないけれど、一番風呂が好きなAさんを差し置いて自分が入ってもいいのか、という思いがBさんにはあったんです。それを汲み取ってあげることが介護の技術であり、専門性です」
「お風呂をお先に」と言いたいという細やかな気遣いを見せるBさんはご家族と暮らしているときには不穏状態や徘徊があって、ご家族はクタクタだった。しかし最近のBさんは、自宅へ外出、外泊しても、すぐ「さくらの家」にもう帰りたいといって家族を困らせているようだ。認知症の人は、「またこんなことをして!」と頭ごなしに言われると、かえって不穏が増幅する場合がある。うまく表現できない人の思いや感情をどこまで汲み取ることができるか。そこがサポートの難しさであり、また仕事のやりがいでもある。Bさんはここで暮らすようになって、徘徊がなくなった。
とはいえ、失敗もある。朝、新聞を取りに行くことを2、3人で決めてやっているのだが、ある朝、2階のCさんはたまたま3階の分まで持ってきてしまった。それをCさんが3階に届けに行ったとき、スタッフから「3階の分は取らないでください」と注意された。3階でも新聞を取りに行く役割の人がいるためだった。それで「僕はもう新聞を取りに行かない」となってしまったのだ。普通ならば簡単に解決できることも、うまく表現できないために誤解が生まれる場合がある。「傷つけられたという感情は残ります。一人ひとりの生活をサポートするというのは本当に大変です」と尾藤さん。
さらに難しいのは、暮らし方は人それぞれということだ。じっとしていられない性分の人がいて、食事が終わるとすぐに片付け出す。食後は少しゆっくりしてから片付けたいと思う人には目障りだから、「ちょっとそんなにすぐに動かないでよ!」となる。
「小さないざこざはしょっちゅうです。どこまでスタッフが入って、どう調整していくか。その微妙さが難しいところです」と尾藤さん。認知症があって、共同生活で、個別性も大事に……ここの仕事の大変さの一端を垣間見たような気がした。
「さくらの家」の1日
ここで「さくらの家」の1日を紹介しよう。
朝は自分の好きな時間に起きる。8時過ぎに朝食。パンの人、ご飯の人さまざまだ。3度の食事の支度、後片付けはできるだけ自分たちでやる。食事が終わったら掃除と洗濯にかかる。自分で洗濯する人もいるし、カゴがいっぱいになったところでスタッフが洗濯機のスィッチを入れ、「洗濯ができましたよ」と声をかける場合もある。干すことができる人は自分で干し、洗濯物を伸ばすのが精一杯という人は伸ばし専門にやる。食事づくりも掃除も洗濯も自分のできることは自分でやりながら、協力し合う。
朝の仕事が終わると、メニュー会議だ。「これがまた大変なんです」と尾藤さん。スタッフが「お昼は何にしましょうか」と水を向けても、なかなか決まらないこともある。
「押し付けても誘導してもいけないというのがサポートの基本ですので、残っている材料を見せたり、料理の本を見せたり、折込チラシを見せて『今日はこれが安いようですよ』と参考にしてもらったり。誰かが『今日は焼きそばが食べたい』と言い出し、簡単に決まることもありますが、『何でもいい』となったときは時間がかかります」と尾藤さん。
メニューが決まったら2、3人で買い物に行き、帰ってきて昼食づくり。「男の手料理」という日もあり、料理をする姿を初めて目にした家族は驚くそうだ。
午後は散歩に行ったり、ラジオ体操をしたり、のんびりした時間を過ごしたりする。気候のいい季節にはお弁当を持って、近くの公園まで散歩に行ってそこで食べることもある。そして、今度は夕食のメニュー会議。「きのうはお魚だったから、今日はお肉にしようか」から始まって、どんな肉料理にするかをみんなで決める。「毎日メニュー会議でいやになっちゃう」という声もあるが、食べることは生活の基本中の基本だ。会議の持ち方の工夫は必要だが、食事づくりを投げ出すわけにはいかない。渡邉さんはこう話す。
「その人らしく暮らせるように援助するといっても、1日中部屋に閉じこもってテレビを見ているのが好きなんだと言う利用者さんの言葉を鵜呑みにして、そうさせることが『その人らしさ』を支えることではないはずです。テレビ漬けになっていれば、認知症はどんどん進みます。家事をやる中で自分の役割をもち、責任も果たす。そうするうちに自分の居場所ができてきて、楽しいという気持ちも生まれる。そこを大事にしたいと思っているんです」
夕食をとり、後片付けが済んだあとはそれぞれ自由な時間を過ごす。リビングで一緒にテレビを見る人もいる。
あくまで生活の場であるため、行事は季節ごとを目安に計画している。今年の春はお花見、夏は浜松町からお台場まで屋形船に乗った。お誕生日会は毎月やっている。
地域への支援をもっと強めたい
24時間紙おむつをしていた利用者さんが「さくらの家」の住人になってスタッフから定期的に声をかけられ、トイレができるようになっておむつをはずすことができた人もいる。スタッフたちはこの1年の手ごたえを実感している。
一方で、労働の厳しさを実感した1年でもあった。早番、日勤、遅番、夜勤、夜勤明けの5つの体制を、1ユニット常勤スタッフ5人(施設長含めず)、非常勤スタッフ5人、計10人で回しているが、夜勤や土日に入れる非常勤が少なく、常勤が土日に出勤している。夜勤回数は月平均7回だ。
「夜勤一人4回に持っていきたい。夜勤できる人が7人いればそれができるんですが、そこがなかなか。しかも、スタッフが安定しないのが悩みです。人材を安定させ、夜勤回数を減らすことが課題ですね」と渡邉さん。
日本の介護現場では今、人材流出が続き、離職率は22・6%(NHKの報道より)という驚くべき数字になっている。人材不足は質の低下を招きかねない。こうした現実の中で「さくらの家」は人材を安定させ、より質の高いサポートを提供しようと、日夜努力を重ねている。
「地域で安心して住み続けられるには、複数のサポート体制が必要です。ここの強みは一つの建物で複数の事業をやっていることです。さらに農大通り診療所、すずらん訪問看護ステーションとの医療連携もしながら、身近である町会の方々も含めて、地域への支援をもっと強めていきたいと思っています」
渡邉さんと尾藤さんはそう語った。らお台場まで屋形船に乗った。お誕生日会は毎月やっている。
地域への支援をもっと強めたい
24時間紙おむつをしていた利用者さんが「さくらの家」の住人になってスタッフから定期的に声をかけられ、トイレができるようになっておむつをはずすことができた人もいる。スタッフたちはこの1年の手ごたえを実感している。
一方で、労働の厳しさを実感した1年でもあった。早番、日勤、遅番、夜勤、夜勤明けの5つの体制を、1ユニット常勤スタッフ5人(施設長含めず)、非常勤スタッフ5人、計10人で回しているが、夜勤や土日に入れる非常勤が少なく、常勤が土日に出勤している。夜勤回数は月平均7回だ。
「夜勤一人4回に持っていきたい。夜勤できる人が7人いればそれができるんですが、そこがなかなか。しかも、スタッフが安定しないのが悩みです。人材を安定させ、夜勤回数を減らすことが課題ですね」と渡邉さん。
日本の介護現場では今、人材流出が続き、離職率は22・6%(NHKの報道より)という驚くべき数字になっている。人材不足は質の低下を招きかねない。こうした現実の中で「さくらの家」は人材を安定させ、より質の高いサポートを提供しようと、日夜努力を重ねている。
「地域で安心して住み続けられるには、複数のサポート体制が必要です。ここの強みは一つの建物で複数の事業をやっていることです。さらに農大通り診療所、すずらん訪問看護ステーションとの医療連携もしながら、身近である町会の方々も含めて、地域への支援をもっと強めていきたいと思っています」
渡邉さんと尾藤さんはそう語った。
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