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協同組合報vol.39

事業所を訪ねる(38)
(株)東京医療問題研究所 わかば薬局

患者さんに満足してもらえる薬局に


薬をきちんと飲むことの大変さ

 高血圧と診断され、1日1錠の薬が処方されたとする。朝食のあとに1錠の薬を飲む。たったこれだけのことなのだが、毎日きちんと服用するのは予想以上に難しい。

 1錠の薬を飲まなかったために、重大事を招くこともある。「よその病院で実際にあった話です」と柏原健薬剤師がこんな話をしてくれた。

 ある高齢の男性が心不全で入院し、利尿剤の薬が出た。朝1回飲む。入院中は看護師が渡してきちんと飲んでいた。退院となり、薬をもらって自宅に帰った。ところが、1週間で再入院となってしまったという。

 「入院中は薬を渡されるから飲めていただけで、実際には飲む習慣はついていなかったんです。しかも、その男性は一人暮らしで軽度の認知症があったようで、自分で薬を飲むということができにくい状態だったようです」と柏原さんは説明する。

 もしこの男性に薬剤師の訪問がなされ、自宅での生活状況を薬剤師が把握し、服用できるような工夫をしたなら、再入院は回避できたかもしれない。薬をきちんと飲むということはそれほど重要なことなのだ。

 以前にも紹介したが、東医研では在宅患者さんの訪問活動に力を入れてきており、わかば薬局でも現在11人の方を訪問している。

 「一人暮らしか、ご家族がいるか。歩けるか。認知症があるかどうか、あるならどの程度か。ヘルパーさんは入っているか、など、患者さんの生活や条件は一人ひとり違います。それを一人ひとり把握し、どうやったらきちんと薬を飲んでもらえるか個別に考え、調剤の仕方を変えていく。それによって治療効果を高めていくのが訪問活動です」と中島良和薬局長は話す。

在宅カンファレンスを定期的に開いて

 病気を抱え、体の不自由な高齢者が地域で暮らすためには、医師、訪問看護師、ヘルパーなどさまざまなサポートが必要であり、さらに、サポートする側の連携も欠かせない。中野区弥生町のこの地域では、川島診療所を中心に、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、わかば薬局が連携をとり、在宅カンファレンスを定期的に開いている。薬局長は語る。

 「在宅で暮らす患者さんは個別にいろいろな状況や困難を抱えています。どういう治療がベストか、みんなで話し合い、情報を共有し、より良い医療をチームで提供していくためにはカンファレンスは非常に大事です」

 この地域では在宅カンファレンスと通常の外来患者さんのカンファレンスを月に1回ずつ開いているという。在宅カンファレンスをきちんと定期的に開いている点がここの特徴の一つである。

明るい薬局に変身

 わかば薬局は1987年11月に川島診療所の隣に開局、来年は20周年を迎える。処方箋枚数は月平均950枚、川島診療所が隣にあり、そこからの処方箋が8割を占める。スタッフは、来年定年を迎えるベテランの薬局長と若手の柏原薬剤師が常勤で、あとパートの薬剤師二人が交代で支える。

 20年といえば、室内も相当汚れてくる。古くて暗い薬局から明るい薬局に変身しようとリニューアルに踏み切った。といっても、大がかりなものではなく、照明を新しくして増やし、壁紙と床を張替えただけなのだが、「清潔で明るくなったね」「広くなったみたい」と患者さんから好評だ。女性の患者さんたちは「明るいとシワが目立っちゃうよ」と冗談半分、本気半分で笑って言うほど明るくなった。

 近くの川島商店街には「昔ながらの元気な川島商店街」という看板が随所にかかっている(写真)。このキャッチフレーズの通り、この地域は空襲で焼け残った地域で、古くからの住人が多く、下町気質が色濃く残っている。柏原さんが商店街を歩くと、「よお、お兄ちゃん」と寅さんのような声がかかるそうだ。わかば薬局がある柳通りには「川島地蔵尊」が大切に祭られている。

 この柳通りは古い良さを持つ一方で、人通りは少なくなってきている。処方箋をいかに確保するかが焦眉の課題でもある。

患者さんの心にアプローチ

 薬局長は鍼灸師の資格を持ち、東洋医学的な視点も持っている。そのせいというわけでもないのだろうが、時々含蓄のある表現をする。たとえば、「ほんわかとした温かさを大事にしている」と言う。

 「薬剤師は調剤師ではないはずだし、薬局はただの薬の受け渡し所であってはいけないと思います。患者さんが『自分をきちんと受け止めてもらえた』と感じる。そういう患者さんの精神的な満足を心がけているんです」

 だが、満足というのは主観的なものだ。患者さんが満足したかどうかをどこで判断するのだろう。

 「患者さんの態度でわかるんですよ。満足すれば帰るときのあいさつが丁寧になり、『ありがとう』と感謝の言葉をおっしゃる方もいます。言葉がなくても、帰り際に見せる表情でわかります」と薬局長。薬局に求められている薬の安全性、正確性に患者さんの満足をプラスするというわけだ。

 「私たちはサービス業であることを自覚して、患者さん一人ひとりの心にアプローチする努力をする必要があります。患者さん一人ひとりときちんとコミュニケーションし、要求をつかみ、それに合わせた対応をし、納得して気持ちよく帰ってもらうことが大事なんです」と薬局長は話す。患者さん主体の医療は対話と信頼関係の中で育まれるのだ。

 「一番大変なのは、患者さんが何を要求しているかをつかむことです」と柏原さんは続ける。関係のない世間話を長々としたあとで、患者さんが最後に大事なことを話し出すことも多いという。

 「それをいかに聞き取るか、です。漠然と間口を広げて『今日はいかがですか』と聞いても、『別に変わりないです』と言われて終わりです。患者さんの言いたいことを聞き出す面白みが最近わかりかけてきました」

 医療は患者さんと医療従事者の共同作業であり、それを可能にするのがコミュニケーションの力であるということが二人の話でわかったような気がした。



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