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協同組合報vol.39

トピックス 困難なときこそ、自分たちの使命を再確認しよう
みさと協立病院 精神科科長 田井 健

自分たちの存在意義

 ――東京民医連総会の2日目の全体会で、分散会座長からの指名で先生が発言されたと伺いました。どんな内容のお話だったのでしょうか?

★今回の診療報酬改定で、医療が大変厳しい状況に置かれています。特に、差額ベッド代をとらず、患者さん・利用者さんの立場に立った医療を実践しようとしている私たち民医連のようなところほど厳しく、病院職員も「やっていけるのだろうか」という不安を抱えています。民医連の医療自体が、これまでの意識のままでは成り立たないような時代になってきていると感じています。
 こういう困難なときこそ、自分たちはこんなに大変な思いをしながら何をやろうしているのか、ということを考えないといけないと強く思ったのです。誰のために、何を、誰と組んで、やろうとしているのか。自分たちのやっていることを振り返り、自分たちの存在意義を確認する中で、これからの展望も開けてくるのではないか、と。それで「無差別・平等の地域医療を」ということで発言しました。
 民医連医療の本質は、医療を通して人権を守り、いのちが大切にされることをめざした地域運動だと考えます。誰もが大切にされる社会をつくろうという目的、思いがある。今、地域医療を謳う医療機関はたくさんあります。それこそ大学病院や、それに匹敵するような大規模臨床研修病院でも言っています。そこでは幅広い診療科をそろえて救急の患者さんを診て「地域に頼りにされている病院です」と言っているのですが、私たちの掲げる地域医療というのはそれだけではなく、もっと奥が深いはずです。
民医連が実践していることは、まず「立場」にこだわる。誰もが大切にされる、ということに意地を通し「最も困難な状況に置かれた人」の立場に立とうとする。そして、私たちのほうから地域の中に入っていって、地域の人たちの健康づくりにもかかわる。気になる患者さんがいれば、頼まれもしないのに押しかけて相談にのる。制度でおかしいことがあったら、地域の人たちと一緒に行政への働きかけもする。地域づくり、安心して暮らせるまちづくりを含めて地域医療なのです。
 今、「小さな政府」「市場原理・競争原理」「自己責任」をキーワードとした新自由主義政策が推し進められ、格差社会が出現してきています。民医連の中でも「選ばれる医療機関になろう」と言っている人もいますが、私たちは、選ばれる医療機関というより、選びたくても選べない人たちのためにあるはず。選べない人たちのための「無差別・平等の地域医療」を掲げた医療機関が民医連なのです。その存在意義をもう一度確認する必要があると思います。
 そして、このような地域医療は、私たちだけではできません。共同組織の人たちと協力し、他の医療機関や福祉団体とも連携してネットワークを広げ、地域の持つ力を引き出す中でできることです。
 そういう民医連の役割・使命を再確認していくことが、困難に立ち向かっていくための職員集団づくりにも役立つでしょうし、また実習に来る学生さんにもそういう話をしていくことが大切だと思うのです。

自殺者8年連続3万人台の日本

★格差社会は病気の人や障害者をおいてけぼりにします。健康だと思っている人にも精神的なストレスがかかって、うつ病になる人や自殺者が増えています。警察庁のまとめによると、自殺者は98年以降8年連続で3万人台を記録しました。

 ――自殺問題は本当に深刻です。かつて「交通戦争」と呼ばれた交通事故ですが、05年の自殺者数は交通事故死者数の4倍以上です。自殺の原因は「健康問題」が46%、次いで「経済・生活問題」が24%を占めており、その背景に格差拡大が指摘されています。特に今回のまとめでは、20〜30代の自殺者が増えているのが特徴だと出ていました。

★厚生労働省の統計によると、05年の総死亡者の死因の第1位はがんですが、20代と30代では自殺が最も多いのです。競争社会の中で疲弊して、生きづらさを感じているのだと思います。
 阪神淡路大震災の犠牲者が約6000人。そうすると自殺者3万人は、単純計算で阪神淡路大震災が年5回発生している事態です。先の国会で「自殺対策基本法」が成立しました。「個人の問題」として片付けられてきた自殺が「社会の問題」と認識され、対策がとられようとしている点は評価できますが、今の社会のありようにメスが入らなければ、小手先の対策で終わってしまうでしょう。
 たとえば自殺の原因がうつ状態だとすると、なぜ、うつ状態になったかまで突き止めないと、対策は立てられません。私どもの病院に来られる方の中には、過酷な労働環境の中でうつであることを隠して働き続け、ひどくなってから受診する方もいます。「こんなになるまで職場でどのように過ごしていたのか、職場環境はどのようになっているのか」と暗然とします。うつを隠すのは、「あいつは駄目なやつだ」というレッテルを貼られ、職場にいづらくなるからでしょう。職場の中に「疲れた」と言えない雰囲気があるのです。根本には、企業戦士として非人間的に働くことを良しとする経済軍国主義が、新自由主義社会の中で先鋭化している事態があると考えます。

長く続いた収容主義

★厚生労働省の統計によると、うつ病、統合失調症などを精神障害と括れば、受療率は精神障害が高血圧性疾患に次いで第2位です。統合失調症の有病率は100人に1人と言われます。うつ病は、100人に15人くらいの割合の人が生涯のうちで経験していると言われます。それくらい、ありふれた病気です。
 ところが、精神疾患の患者さんは長い間、差別され続けてきました。日本は明治維新以降、富国強兵を唱え、戦後もそれまでの侵略戦争を反省しないまま経済的侵略戦争へと突き進み、いつも健康で強い人間が企業戦士として求められ、そうなれない精神疾患患者さんや障害者は社会から隔離されてきました。ひどい人権侵害がずっと続いてきたのです。
 世界的には、1960年代以降、精神障害者も地域で暮らしながら治療を続けていくということが主流になっていました。ところが日本では、ずっと収容主義、入院中心主義がまかりとおり、その影響は今も続いています。他の先進国との乖離は、ハンセン氏病の隔離政策と同根の問題です。

 ――なぜ日本では収容主義がずっと続いたのでしょうか

★島国のムラ文化、とでもいうような、身内を大切にする集団主義と、よそ者に対する差別と排除の意識があるからでしょう。元々文化として持っていた「身内による支配」「他者の差別と排除」という暴力に対する反省の機会が、第2次大戦の敗戦であったのですがそれが生かされなかった。誰も、行われたひどい暴力の責任を取ろうとしなかった。結果、「世間に役立たないと判断された人間の排除」という暴力が容認され続けた。
 精神科には精神科特例というものがあり、精神科病院の病棟は一般病床に比べて、医師もスタッフも少なくていいようになっています。一般病床の場合は患者さん16人に対して医師一人の配置が義務づけられていますが、精神科の場合は48人に対して一人でいいのです。何故かと言えば、精神科の入院患者さんは、国の政策として、治療ではなく収容に力点が置かれているからです。人との関わりによる治療でなく、隔離と収容。それでも仕方がないんだという理屈が通ってきました。医療費もそのほうが安上がりです。社会の偏見、国の責任の放棄、医療従事者の怠惰、そうしたものが全部患者さんにしわ寄せされる。
 もちろん、現実はきれいごとだけでは済みません。でも、本来あるべき像を見失わず、それこそ泥臭く地域医療を実践していくことが大切だと考えます。

さまざまなサポートシステムをどうつくっていくか

 ――みさと協立病院精神科は民医連医療機関としてどんな役割を担っていますか?

★関東甲信越地域で常勤の精神科医が配属されている県連は東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、新潟、石川と七つありますが、精神科病棟を持つのは群馬民医連利根中央病院とみさと協立病院の二つだけです。首都圏で精神科専門研修を行っているのはみさと協立病院のみです。民医連の中でも精神科のある病院はまだまだ少ないのです。地域医療といった場合、本来は精神科部門が深く関わらざるを得ないのが当然なのですが、民医連の中でもそういう視点はまだ弱いと思います。
 こうした中で、みさと協立病院精神科の役割として、機能的には精神科研修センターとしての位置づけがあります。精神科医や精神科スタッフを養成し、各地に送り出す。
 空間的には、埼玉県南部の地域医療機関としての役割があります。みさと協立病院精神科は「急性期開放医療」の理念を高く掲げ実践してきましたが、一方で入院治療に力点が置かれ、理念の逆立ちとも言える事態から、空きベッドがあっても急性期症状のある患者さんが入院できないという状況が生まれ、経営面でも赤字構造が続いていました。
 2000年頃からみんなで議論を重ね、医療・経営構造の転換をはかり、もっと地域で生活している患者さんを応援していこうと決意を固めました。
 外来では、精神科を初めて受診する患者さんは診察に時間をかける必要があることもあって、予約制にしています。初めての方でも急に具合が悪くなって予約外で来られる場合がけっこうあるのですが、構造転換以前は断っていました。それを、予約外で来る患者さんも可能な限り対応する仕組みにしました。病棟でも、予約入院以外は受けない形でしたが、構造転換以後、ベッドに空きがあれば入院の必要のある方は積極的に受けていこうと。地域で暮らす患者さんにとって使いやすい病院になるように転換してきたわけです。患者さんにとってどうか、という視点が強まり、職員の意識も変わってきました。
 とはいえ、転換はまだ道半ばです。診療報酬改定だけでなく、今年4月に障害者自立支援法が施行され、患者さんに大きな影響が出てきています。「応益負担」という障害者支援に相容れない論理を持つ法律を正す働きかけを続ける、地域に出て行く、最も困難な状況に置かれた人の立場に立ち、誰もが暮らしやすい街づくりを考えていく。そういったことをもっと追求していきたいと思います。

 ――地域でのネットワークは?

★友の会活動が活性化されつつあり、今年に入り地域懇談会も連続して開かれています。友の会と連携し、まずもっと地域に根ざしていきたい。他のグループとのネットワークとしては、地域の福祉団体であるみさと福祉会が力強い活動をしており、そことも連携して、地域で暮らす患者さんをサポートしています。その他、外部医療機関ともつながり、合同のカンファレンスや交流会を開くといったことができるとよいとも考えていますが、そこまではなかなかできずにいます。
 法人内では、三郷駅前にメンタルクリニックみさと、新松戸駅前に新松戸メンタルクリニックがあり、三郷・東葛地域の法人内訪問看護ステーションも精神科患者さんへの訪問看護を積極的に行っています。
 地域には、精神的なトラブルを抱え悩んでいる人は大勢います。例えば厚生労働省の調査では、家族の介護をしている人でうつ状態と判断される人は4割もいることがわかりました。精神障害者の地域生活支援の他にも、子育ての悩み、虐待事例、ひきこもり、アルコールやギャンブルへの依存、仕事への依存、過酷な労働環境など、地域の中で放置されていると考えられる精神科的な問題はたくさんあります。さまざまなサポートシステムをどうつくっていくか。私たちのやるべきことは山積しています。



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