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協同組合報vol.38

事業所を訪ねる(37)
(株)東京医療問題研究所 西荻みなみ薬局

薬害根絶に向けて、私たちは何をすべきか


「選ばれる薬局」に

 JR西荻窪駅の南口を出て、西荻みなみ薬局めざして神明通りに入る。と、やけに薬局の看板が目に飛び込んでくる。薬局を探しているせいで、看板が特別に目に入るのだろうか。

 「いえいえ、ここは本当に多いんですよ。私たちは神明通りを別名“薬局通り”と呼んでいるほどです」と遠藤みゑ子薬局長は言う。500mほどの通りに薬局が7件もあるというのだから、看板が目に付くはずだ。「これだけ薬局があって、どこも親切で良い薬局をめざしています。ですから私たちは“選ばれる薬局”になるために日々努力をしています。といっても、他の薬局とも薬の貸し借りをしたりして、仲良く付き合っていますよ。“選ばれる”のは仕事の中身で、ね」と薬局長。

 西荻みなみ薬局は1998年4月に開局した。処方箋枚数は月平均900〜1000枚、前月号で紹介したやまと花公園薬局と同規模の小規模薬局だ。スタッフは常勤薬剤師が3人、週1日のパート薬剤師が1人、他に訪問の範囲が広いために運転手が週に1回入る。

 医療制度の改悪、薬価の引き下げで、現場は今非常に厳しいが、製薬会社は依然儲けている。「日本ではローカルドラッグといって日本でしか許可されていない薬が6〜7割を占めていると言われています。例えばノイキノンという強心剤がそうです。一方、ジェネリックは、欧米では半分くらい占めていますが、日本では3割以下です」

 こういう状況の中で日本ではサリドマイド、スモン、エイズ、ヤコブ、肝炎と薬害が繰り返され、薬剤師は「いつ加害者になるかわからない」と危機感をつのらせている。東医研では、できるだけ多くの薬剤師に薬害裁判を傍聴してもらい、被害者の生の声を聞き、薬害を出さないために薬剤師は何をしたらいいのかを考えるきっかけにしている。

心が痛い!

 今年4月11日、東京での薬害肝炎裁判が開かれ、原告本人尋問が行われた。民医連から15人が傍聴に参加、遠藤薬局長もその中にいた。この日は年代の異なる3人の女性の原告が証言台に立ち、苦しみを訴えた。

 肝炎に対する差別があるため、東京の被害者は全員匿名で提訴している。原告番号3番さんは20代の女性で、新生児メレナ(ビタミンK欠乏による消化管出血)になり、そのときの輸血が原因でC型肝炎に感染した。恋愛などとうてい考えられず、交際を申し込まれても、「他に付き合っている人がいるから」と嘘をついて断っているという。

 原告番号5番さんは1980年代後半に双子を出産。止血剤で使われた血液製剤フィビリノゲンで感染した。原告番号10番さんは51歳のときに子宮筋腫の手術を受け、そのときの輸血によって感染した。

 感染経緯はそれぞれ違うが、片時も苦しみから逃れられない悲痛さは同じだ。肝機能が悪化すると極端に疲れやすくなり、日常の生活を送れないばかりか入退院を繰り返す人も多い。加えてインターフェロン治療による副作用、肝硬変、肝がんに移行する可能性が高いという将来への不安……。「人生をあきらめろ」と病魔がささやく。それに負けまいと、原告たちは裁判に立ち上がったのだ。

 「原告の方の苦しみは本当に人事ではありません。被告の製薬会社は責任を認めず、医療機関のせいにするような答弁もありました」と薬局長は憤る。彼女は「薬剤師はいつ薬害の加害者になるかわからない」という責任を痛切に感じる一方で、被害者の一歩手前まで行った経験があるという。

 長男を出産するとき、出血多量で輸血が必要と言われた。「2時間後に施行というとき、自分の意思で断りました。肝臓の患者会を担当していたとき、輸血後の肝炎で苦しんでいた患者さんから教えられていたおかげなんです」。薬局長は患者さんによって救われた。

 薬害をなくすために活動を続けている「薬害根絶のための東京民医連薬剤師の会」では、薬害裁判傍聴のたびに報告集をまとめている。4月11日の報告集に載った一人の薬剤師はこう感想を書いている。

 《今まで大学の授業でもしばしば薬害については学んできたし、それに関するビデオや症例をいくつも見ていた。それらはどこか自分からは遠く、そういう害を及ぼす可能性のある『薬』というものに自分が関わるという恐れはあったものの、実際にその被害にあった人のことを真剣に考えたことは少なかったように思う。

 今回、薬害の裁判を初めて傍聴し、一番驚いたのは、肝炎という薬害が被害者の日常に及ぼした影響の大きさである。被害者の方は毎日、様々な不安や不信感を抱きながら暮らしていた。将来の不安、治療に対する不安、薬や医療全般への不信感。(中略)

 未来を奪われた被害者たちの訴えが悲痛で、心が痛かった。早く判決が出て、それによって被害者の心が少しでも軽くなれば、と思う》

 6月21日、全国の肝炎被害者が固唾を飲んで見守る中、初めての判決が大阪地裁で下される。西荻みなみ薬局のスタッフは祈るような気持ちで原告勝訴の報を待ち望んでいる。

物語(ナラティブ)にもとづく医療を

 被害者の人生を狂わせてしまう薬害。その薬害をなくすために、薬剤師は何をすべきか。遠藤薬局長は、DI(ドラッグ・インフォメーション)担当の大原佐知子薬剤師、TDM(治療薬物モニタリング)担当の岡本陽美薬剤師とともに、「3人で話し合う時間がなかなか取れないのが悩みですが、そういう中でも、情報を共有し、共感しながら進めていきたい」と話す。

 日常の対応の中で、医療の安全性、患者さんが主体の医療をどう追求するか。去年の東医研主催のコミュニケーション講座で、そこが重要という認識がさらに深まったという。

 「患者さんがどんなことでも聞きやすい『空間』をいかにつくるか、『be withの空間』をつくる技術がいかに大事かを学びました。でも、そのときは『そうそう』と納得しても、日常の業務に追われると、つい忘れたり我流になってしまったりしがちです。常に意識して患者さんが話しやすい空間をつくっていきたいと思います」

 ここで薬局長は1冊の本を見せてくれた。『難病の人と医療従事者――物語(ナラティブ)による状態調査から見えてきたもの』という本だ。健友会では「難病患者さんの状態調査実行委員会」(実行委員長・伊藤浩一中野共立診療所所長)を立ち上げ、去年、その活動をこの本にまとめたのだという。そこにはこう記されている。

 《状態調査は、話し手がいちばん聴いてほしいことや最も求めていることを話し合いのなかから洞察する調査です。話し手の人生に寄り添って対話するもので、調査する側にとって必要なことを一方的に聞き出す調査ではありません》

 《本来の臨床医学は、悩み、苦しみ、たたかう人間をこそ中心にとらえるべきであり、そのためには、狭い意味での病歴を、さらに掘り下げて一人ひとりの患者の物語にする必要がある(略)》

 「物語にもとづく医療(ナラティブ・ベイスド・メディスン=NBM)」という言葉を知って、薬局長は「とても印象深かった。NBMもEBMと同様に、日常業務活動に活かしていかなくては、と思いました」と話す。

 EBM(エヴィデンス・ベイスド・メディスン)とは「根拠に基づく医療」の意味で、ここで言う根拠というのは科学的知見のことであり、「多くの患者における治療結果を統計的に分析して、効果や副作用を調べること」をいう。従来の医療はえてして医師の経験などをもとに根拠なく行われてきたという反省に立っている。

 NBMは、病気の経験を含めて患者さん自身が語るライフストーリーを共感を込めて理解し、患者さん主体の医療を行うことだ。これは何も特殊なことではなく、民医連が主張してきたことでもある。

 「しかし、『患者の立場に立つ医療』と言葉で掲げても、じゃあ実際にはどうなの? 忙しさに流されていない? と、自分も含めて再点検する必要があると思うんです。患者さんの物語(ナラティブ)に共感し理解し、患者さんから学ぶという姿勢を常に持ち続けたいですね」と薬局長は話している。



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