これは今年4月26日の衆議院厚生労働委員会において、鈴木篤東京勤医会理事長が全日本民医連副会長として参考人陳述したときの内容です。全文を紹介します。
1、「憲法25条の精神」はどこへ?
全日本民医連の鈴木篤と申します。私は、元来外科医ですが、病院管理者を経て、現在、診療所を中心に、在宅医療にも携わっている臨床医です。その臨床の現場からみて、今回の乱暴な医療制度改革に、強い憤りをもって反対の意見を述べさせてもらいます。
まず、総論的に疑問を呈します。
第一に、この度の「医療制度改革」関連の法案は、すべて公的医療費、すなわち医療給付費の削減を目的にしています。医療改革を論じるなら、本来、「最適な医療」を効率よく提供するための論議をすべきです。ひたすら公的医療費の給付範囲の縮小や削減に向かうことは、それを越える医療は、私的医療保険でおぎなわせ、公私二階建ての医療制度を描いているとしか思えません。私的医療保険に入れない人々は、次第に医療からの制限・排除を受けることになりかねません。「混合診療」(注1)を一層拡大し、国民皆保険制度が実質的に崩れていくことになります。
昨年暮、日本医師会をはじめ38医療団体が取り組んだ、「混合診療に反対し、国民皆保険制度の堅持を求める署名運動」で、1ヶ月余で1700万筆もの署名が集まりました。これは、国民皆保険制度の堅持を、国民の大多数が求めていることの証明であると私は思います。
第二に、今回の医療制度改革案は、個人から保険者まで、自己責任論で貫かれていることが特徴と思います。70歳以上にまで2割から3割の自己負担を求め、長期入院の食費・居住費を全額自己負担にし、患者負担の月額上限の引き上げなど、高齢者にまで個人の自己責任を拡大させています。
ただそれだけではありません。世代間の自己責任を制度化するのが75歳以上の「高齢者医療制度」(注2)です。自治体への自己責任を制度化するのが「都道府県医療費適正化計画」(注3)です。日本の社会保障制度は、憲法25条に裏付けられた国や企業主の責任、そして国民健康保険のような相互扶助の精神で成り立ってきました。しかし、自己責任論の先には、国の責任放棄と弱者の切り捨ての論理がまかり通ることになり、所得格差が健康格差につながることが危惧されます。
第三に、今回ほど「はしご外し」の制度変更がこれまであったでしょうか。介護療養病床の突然の廃止や、急性期病院や紹介加算の廃止など、それまで多くの費用をかけて施設改造したり、医療連携を作るなどの努力をしてきたものを、論議もなしに廃止するなど、これほど医療機関を足蹴にした政策変更はありません。国を信じたあなたが馬鹿よ、それも自己責任のうちよ、とでも言うのでしょうか。
「混合診療」(注1)
従来、「混合診療」(保険診療と保険外診療の併用)は禁止されてきた。支払い能力の格差が医療内容の格差をもたらし、保険診療の水準が低く固定されるからである。しかし今回案は、「保険外併用療養費の創設」として、「評価療養」(保険適用するか評価中)と「選定療養」(差額ベッドなど)を、保険との併用として制度化しようとしている。
「高齢者医療制度」(注2)
「75歳以上が対象の新保険を創設し、全員から保険料を徴収するという負担増の改悪です。〜新たな保険料徴収となる後期高齢者は250万人、保険料は平均で年間7.2万円(月額6000円)と試算されています」(第37回総会決定)。保険料徴収は、市町村が行い、介護保険と同様、個人単位で年金からされる。
「都道府県医療費適正化計画」(注3)
都道府県ごとに、糖尿病など生活習慣病の25%削減、平均在院日数の短縮(全国平均と最短の差を半分に)、在宅看取り率・病床転換数などの目標設定を作らせる。保険も自力で運営させる。
2、行き場のない高齢者が多数生まれる
では、このような総論から出てきた今回の制度改革案の具体的内容の中で、最大の焦点となっている慢性期病棟の問題に触れたいと思います。
「30年前に、老人医療費無料化で生まれた社会的入院の解消」と盛んにマスコミも持ち上げていますが、療養病床の大幅削減のために、診療報酬の点数を大幅に下げ、経営的に療養病床を維持できない状況をつくることは、どのような事態を生むのでしょうか。
第一に、療養病床の運営を困難にすることは、急速に、高齢者の「社会的強制退院」を引き起こし、行き場のない高齢者が多数生まれることが予想されます。なぜなら、今日の社会情勢の変化により、急速に独居老人や老人世帯が増えてきており、虚弱高齢者を受け入れる基盤が縮小しているからです。
65歳以上の者が世帯主の家族で、一人暮らしまたは夫婦のみ、という割合が、2004年には一人暮らし14・7%、夫婦のみ36%、合計50・7%と、約半数が独居か老老世帯になっているのが実情です。1世帯の構成員は全国平均でも2・5人になっているのです。そうなると、在宅では終末期が無理な事例が多くなってきます。また、そのようなケースを在宅で看取ろうとすると、逆に医療費が高くなってきます。今日、在宅で看取ることのできる家庭は、むしろ一緒に住まわれている家族を持つ恵まれた方々になっているのです。
東京民医連のある法人では、30年余、「その人らしく」を目標に、訪問看護・在宅医療に積極的に挑戦し、家での看取りを推し進めてきました。1994年からは厚生省のモデル事業として、24時間巡回型在宅ケアに取り組み、現在も、赤字を覚悟で看護師とヘルパーがペアで深夜巡回しています。そのように在宅ケアに取り組んでいても、どうしても必要となってきたのが、療養病床であり、リハビリ施設だったため、昨年、療養病床を含むリハビリテーション病院を発足させました。
集合住宅に一人で住む高齢者が多い、都会における療養病床の役割、限界過疎地(注4)に住む高齢者世帯までをケアする、地方病院の療養病床の役割など、各地の療養病床が果たしている役割をもっと正確に分析すべきと思います。聞き古した平均化した数字だけを操る論議から、脱皮をお願いします。
第二に、これまで急性期加算などを目標に、急性期病院の在院日数短縮の受け皿になっていたのは、回復期リハであり、療養病床でもありました。療養病床の縮小は、平均在院日数短縮を迫られる急性期病院の後方機能を低下させることになります。また、退院を迫られて苦しむのは、高齢者自身とその家族です。今日、高齢患者を抱えたご家族の共通の悩みが、病院から退院を迫られても行くところがない、という訴えです。ここにおられる政治家の皆さんも、実は支援者から、どうにかしてくれ、という話が一杯きているのではないでしょうか。(「そうだ」の声有り)
「限界過疎地」(注4)
人口が減少して過疎が進行する状態を過疎化といい、過疎化が進行して、コミュニテイーとしての機能を失った地域を限界過疎地と言う。神奈川県と大阪を除く全都道府県に、過疎地域として指定された市町村が存在する。
3、このままでは地域医療が崩壊する!
第三に、療養病棟の医療区分に対応した病棟入院料や加算が、この7月から廃止されるというのに、医療区分の設定が曖昧でした。やっと出てきたものは、結局、重度の肢体不自由者、重度の意識障害者などでも、発熱などがなければ、医療区分1のままであることが判りました。つまり、胃ろうで栄養補給しているような方でも、熱や嘔吐がなければ、医療区分1、介護に人手がかかるADL区分3の方も、医療区分1であれば、極めて低い点数です。
全日本民医連が、全国の病院に、療養病床削減に反対する全国278もの病院から、悲痛な叫びともいう声が多数寄せられています。生の声を聞いてください。
実名の許可を得た富山のつざわ津田病院、「あまりにも行政のご都合主義で、保険料減らしに目がいきすぎだ。老人難民をどうするのか!! 行き場のない老人や家庭・家族が看護・介護ができなくて入院しているのに……。病床の認可の時に規制して今度は転換させるのは病院の経営が成り立たなくなってしまう」
東京A病院、「療養病床は、最近、政府の政策として制定されたばかりであり、朝令暮改も甚だしく、これに振り回された患者及び病院は大変困惑しています。介護は自宅でということでしょうが、自宅で療養介護できないので病院や施設に入らざるを得ないこれらの患者が、まさに難民になることは目に見えます。もっと長期的な視点で政策を決めるべきです」
私は、1998年、「地域医療支援病院」の創設時にも、地域の中小病院こそ在宅療養支援の基本をなす、と論文(注5)にも書きました。多くの地域の中小病院は、ケアミックスでその地域の医療需要に応えてきました。そのような地域病院が、今回のような乱暴なやり方で経営が立ち行かなくなり、地域医療が崩壊していくことに、私は強い危惧を抱くものです。
「論文」(注5)
「病院」医学書院1998年57巻10号、特集:地域医療支援病院をこう考える・望まれる中小病院を重視した地域医療支援網。
4、安全・安心の医療提供体制の確立こそ
療養病床問題を中心に述べましたが、診療報酬に関しては、リハビリの回数制限など多くの問題が多々あります。国民の求めているのは安全・安心の医療提供体制の確立です。その基本となるのが、医師・看護師その他の医療スタッフです。
今回の診療報酬で、7:1という基準ができました。これまでより厚い看護体制に診療報酬がついてことは評価できますが、現実にこの基準に届くのは、ごく限られた病院です。また、絶対的看護師の不足があり、これも地域により状況が異なり、全国平均では語られないものがあります。私どもは、7:1看護を病棟単位で求める団体署名でも多くの賛同をいただいています。病院の淘汰を前提にした看護師計画ではなく、絶対的な看護師養成が必要と思います。
急性期病棟の看護師の労働過重とともに、勤務医が疲弊しています。産科・小児科医になろうとする若手医師は、ますます少なくなり、残された医師には労働が過重になります。資料でも、小児科医の労働実態を示しましたが、小児科医のストレスは、単に労働時間だけの問題ではなく、小児科の診療報酬の点数が低く抑えられていて、病院経営上のプレシャーがかかっているという報告もありました。
最後に、日本医師会が示した「改革と推進のビジョン」から、現状分析の資料をつけさせてもらいました。国民医療費、高齢者の医療費は、この数年横ばいになっています。厚労省の推計だけが一人歩きしないよう、また、関係各氏が、今日の医療現場や介護の現場の実態を把握し、将来に禍根を残さない制度改革を提言されるよう御願い申し上げます。そのためには、今国会での医療制度改革案の一時撤回を求め、私の意見とさせていただきます。
|