コミュニケーション的成果って?
やまと花公園薬局という可愛らしい名前は、隣の公園名から頂戴したものだ。名前のとおり、薬局の入っている建物も思わず「かっわいー!」と言いたくなるようなこじんまりとした1戸建てだ。延べ面積28・78平方メートル、調剤室は12・84平方メートルしかないが、狭い空間を上手に工夫しているせいか、すっきりして見える(写真)。1998年12月1日に開局した。
処方箋枚数は月平均1100枚、全国平均を少し下回る程度の小規模薬局だという。対応する医療機関は、やまと診療所からの処方箋が88%、他の医療機関からのものが12%。スタッフは薬局長と常勤の薬剤師が1人、パートの薬剤師が3人という構成だ。
「ここの特徴は何だと思いますか」と尋ねると、矢野隆薬局長は「そうですねぇ……」と少し思案したあと、「患者さんとのコミュニケーションの取り方を重視していて、その成果が出てきている点が一番の特徴かもしれません。うちの薬剤師は癒し系なんですよ」と言う。コミュニケーション的成果って何? 癒し系薬剤師ってどういうこと? がぜん興味がわいてきた。
前月号の青葉調剤薬局の紹介でも書いたように、東医研の薬局では、薬が有効で安全に使われるために、患者さんから服薬状況、効果などをきちんと聞き取り、カルテに書くという作業を重視している。ところが、去年4月に個人情報保護法が施行されて以降、患者さんから情報を聞くことに二の足を踏むようなケースがいくつかあったという。
「『血圧はどうですか』とか『前回コレステロールが高かったですが、今回は下がりましたか』などといった少し踏み込んだ質問もするんですが、患者さんの中には『薬剤師がなんでそんなことまで聞くんだ』『それは個人情報じゃないの』と反発する方もいるんです。医師ならともかく薬剤師に答える必要があるの?という気持ちがあって、さらに個人情報保護法が施行されてからは、より厳しい目で見られるようになりました」
薬が適正に使われるための努力をすることが薬剤師の使命であり、そのための情報収集なのだが、理解されにくい面もあるようだ。
「コミュニケーション研修」を会社に提案
一方、薬剤師の聞き方にも問題がある、と矢野薬局長は常々感じていたそうだ。他の薬局だったが、彼はこんな場面に出くわしたことがある。薬剤師が血圧などの情報を聞こうとした矢先、患者さんが「いくらですか」と聞いてきた。そのとき、その薬剤師は、「会計は少し待ってください」というつもりだったのだろう、左手の手のひらを前に突き出してストップのジェスチャーをしたのだ。そして自分の聞きたいことを聞いたあとで、会計をした。
「悪気はなかったのでしょうが、いくら患者さんのために聞くことなんだからと言っても、これではちょっと自分本位過ぎます。普通はここまで極端なことはしませんが、それにしても私たちはこっちのペースであまりにも無造作に情報を聞きだそうとしているのではないだろうか。そう強く感じましたので、会社に『コミュニケーション研修をやりたい』と提案したんです」
薬剤師のコミュニケーション能力を高めることは東医研全体の問題でもあったため、東医研ではさっそく準備に入り、去年、管理者を対象に数回にわたってコミュニケーション研修講座を開いた。
では質問。「いくらですか」と患者さんに聞かれた場合、薬剤師は聞きたい情報を聞くのをやめて会計をしたほうがいいのだろうか?
「そうですね、いったん会計をして、おつりを渡すときに『ところで血圧はいくつでしたか』と聞くというふうに、患者さんのリズムに合わせてこちらのアプローチを変えればいいわけです」と矢野薬局長は答える。つまり、機械的で硬い質問ではなく、患者さんが話しやすいようなコミュニケーション的流れを薬剤師が工夫するということなのだ。
こうしたアプローチの工夫によって、やまと花公園薬局では「なんでそういうことを聞くんだ」と反発されることがなくなってきたそうだ。「うちのスタッフは穏やかに話しながら、引くときには引き、聞かなければいけないことについては踏み込んでいきます。私自身、スタッフから学ぶことが多いんですよ」
薬剤師の訪問活動
東医研では15年ほど前から在宅患者さんの訪問活動(正式には「在宅患者訪問薬剤管理指導」)にも力を入れてきた。薬剤師の訪問とはどういうもので、どんな意味があるのか、やまと花公園薬局の訪問活動を通して紹介したい。
やまと花公園薬局の訪問患者さんは現在18人(介護保険対応15人、医療保険対応3人)、訪問回数は月平均35回だ。以前は患者さんが40人ぐらいいて、訪問回数も80回と多かったのだが、中野区以外の施設に入所したり亡くなったりしてだんだん減ってきた。
訪問の場合、患者さん一人ひとりの「在宅患者訪問リスト」(写真)を作成しており、それを持って自転車で行く。地域的には中野区大和町地域が中心だが、要請があれば遠い所にも出かけていく。最近まで、片道25分かけて、練馬区に近い中野区上鷺宮まで行っていた。また、缶入りの栄養剤など重いものを運ばなければいけない患者さんもいる。やまと花公園薬局では隔週に1回、東医研を退職した元専務に運転をお願いし、車で配達している。
では訪問の目的は何だろう。
「服用コンプライアンスと言いますが、処方された薬剤を指示に従ってきちんと服用できているかどうかを確認する。これが一番の目的です。医師の前では『ちゃんと飲んでます』と話している方でも、実際にお宅にうかがうと、飲み忘れがあったり、飲み方を自己流に変更したりしている方がけっこう多いんです」
自己流というのはたとえばこうだ。A子さんには朝昼晩と1日3回、食後に服用する薬が処方されている。お宅にうかがってみると、「私は朝ごはんを食べないから、朝は飲まないんだよ。だって食事をしてからでないと飲んじゃいけないんでしょ。先生には内緒だけどね」と言う。
「食後服用」と書かれていると、食べなければ飲んではいけないと考える。自己流かもしれないが、これってけっこう誰でも考える一般的な自己流だ。確信犯だが、罪悪感はない。考えてみると、処方された通りにきちんと薬を服用するということは案外難しい。
訪問すると、その人の生活が見える。本当のことが見える。
「A子さんは、朝は食べないという生活をしています。それに対してどういう対応をしたら有効な医療になるのかを考える必要があります」と矢野薬局長は話す。「処方通りに服用していただくことが前提であり、それをどうやったらできるようになるか、患者さんと一緒に考えます。それでも無理な場合は、医師に報告し、処方の変更を提案するという場合もあります」
薬剤師の訪問はなかなか奥が深そうだ。
さらに、副作用的兆候がないかチェックすることも大事な訪問目的だという。
患者さんに寄り添って
薬剤師の訪問は実はまだあまり知られていないため、苦労もあるようだ。訪問が必要かどうかは往診の医師が決め、それに従って訪問するわけだが、初めての場合には、患者さんが意味をよくつかめず、玄関先で薬を受け取り、お金を払っておしまい、というケースもあるという。
訪問加算は月のうち1回目が500円、2回目以降は300円、これが薬代に加算される。
「薬剤師のほうでは技術料と考えているんですが、患者さんのほうでは配達料(笑)と思っているということもあります。ズレを感じることもありますが、2、3回行くうちに関係ができてきて、薬以外の話でも盛り上がったりするようになります」
患者さんの生活の場に入っていく訪問は、患者さんとの信頼関係を深める意味でもやりがいのある仕事だ。しかし、独居で痴呆のある患者さんの場合はコンプライアンスを保つのが非常に難しいという。ヘルパーさんと連絡をとり、ヘルパーさんの行く時間だけで飲める処方にできないかといった検討をすることもある。
「100点は望めなくても、70点は行けるような提案をするんですが、ご家族やヘルパーさんがどのくらい関わっているかに左右されますから、限界がある場合もあります」
それでもスタッフたちは、患者さんが入院したと聞けばお見舞いに行ったりして、患者さんに寄り添う。訪問でとことん話し相手になっていくと、薬以外の相談ごとを持ちかけられることもある。こうした優しさがやまと花公園薬局の最大の特徴なのかもしれない。
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