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協同組合法vol.36

前立腺がんと東葛病院における前立腺がん検診
東葛病院泌尿器科科長 小澤 雅史

病院独自で検診を始めて10年

 ――今日は小澤先生に、前立腺がんについてお聞きしたいと思います。東葛病院では毎年前立腺がん検診を行っているそうですね。

★はい。東葛病院では、流山市の基本検診と同時に受診できる形で、50歳以上を対象に希望者(自費)に前立腺がん検診を行ってきました。病院の健康管理センターから基本検診のお誘いの葉書を出しますが、そこに前立腺がん検診の項目を追加してお知らせしています。
 病院独自で前立腺がん検診を始めて10年になります。きっかけは、東葛病院の泌尿器科は群馬大学の泌尿器科から医師が派遣されてきているわけですが、群大泌尿器科は日本で最初といっていいほど早くから前立腺がん検診に取り組んできています。その影響もあって、群馬県ではかなり以前から全県で自治体検診と一緒に前立腺がん検診を行っています。私も群大から派遣されてきて、今年で7年目になります。

 ――なぜ、独自で検診を行っているのですか?

★前立腺がん検診は、女性の乳がん、子宮がんとは違い、自治体がん検診に組み込まれていないのが現状なのです。
 初期の段階ではほとんど自覚症状がない前立腺がんを早期に見つけるには、血液で調べるPSA検査が有効です。PSA(Prostate Specific Antigen 前立腺特異抗原)は、正常の前立腺細胞からも分泌されるものですが、前立腺がんでは大量に放出されるため、血液中のPSA値は上昇します。これにより、PSA値が高ければ前立腺がんがある可能性が高いといえます。
 このPSA単独による検診が可能となり、自治体あるいは病院による独自の前立腺がん検診が広がりつつあります。しかしながら、東葛地域では、病院独自で検診をやっている所は東葛病院だけです。
 東葛病院で検査を受ける方は年間300名弱、規模としてはさほど大きくはありませんが、毎年、前立腺がんが見つかる方が受診者の1・5%前後です。自治体がん検診に含まれる他のがんの発見率は0・1〜0・2%ですので、実に10倍の高い確率といえます。ちなみに、他のがんの発見率0・1〜0・2%というのは、50〜54歳の前立腺がんの発見率とほぼ同じです。
 東葛病院では毎年2週間ぐらいの期間をかけて実施しています。今年は2月13日から27日にわたって行い、3月14日に受診者に対する結果報告会を開催しました。
 検査を受けた方は277名、うち前立腺がんの疑いのある方20名(7・2%)で、現在、泌尿器科で2次検診中です。

前立腺がんとは?

 ――前立腺がんという病名は最近よく耳にするようになりましたが、そもそも前立腺とはどんな臓器ですか?

★泌尿器科が扱う臓器は、尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)と男性性器(精巣、前立腺)です。前立腺は膀胱の下、尿道を取り囲む位置にあり、クルミ大で、精子の運動を助ける前立腺液を分泌します。また、膀胱の出口と尿道を開閉して排尿を調節しています。
 「最近よく耳にするようになった」と感じるのは、有名人が前立腺がんで亡くなったり、公表したりするようになったことによる影響が大きいです。特に天皇に前立腺がんが見つかり、前立腺全摘除術を受けられたと公表されてからは、非常に関心が高まり、東葛病院でも03年の受診者が293名と、02年の139名から150名以上も増えました。
 歌手の三波春夫も前立腺がんで亡くなり、遺族が前立腺がんを広めるための財団を設立しました。
 しかしながら、関心というものは続かないものらしく、03年には急増した受診者も04年は170名と低迷、05年は東葛病院地域健康管理室の事前広報も強化され、受診者が330名に増えました。

 ――前立腺がんというのは、どんながんですか?

★がんの説明に入る前に、前立腺の病気について少し説明しましょう。よく知られているのが前立腺肥大症ですね。これは前立腺が尿道を取り囲む内腺(移行域)から発生する良性の病気ですから、進行して前立腺がんになることはありません。前立腺肥大症は、尿道を圧迫するため、頻尿や排尿困難などの症状が出やすくなります。
 一方、前立腺がんは、前立腺の外側部分(辺縁域)から発生する悪性の病気で、早期にはほとんど無症状です。がんが進行するにつれて前立腺肥大症と同じような排尿症状が出てきます。さらに進行すると、骨やリンパ節に転移します。
 では、前立腺がんはどうやって確定するのか。PSA値が4ng/ml以上で前立腺がんが疑われたら、2次検診では、泌尿器科医が肛門から指を入れて前立腺に硬いところがないか調べる直腸診と肛門から超音波で前立腺の形や大きさを調べる経直腸的超音波検査を行います。この3つの検査で前立腺がんの可能性が高い場合、細い針を使って前立腺の組織の一部を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる前立腺針生検を行い、確定診断をつけます。
 前立腺がんは、高齢になるほど罹患率が高くなる、典型的な“高齢者がん”です。アメリカでは、罹患率は第1位、死亡率は肺がんに次いで第2位です。日本では罹患率は第6位ながらも、男性がんの中で将来の死亡率の増加比率が最も高く、2000年の実施値に対して、2015年には2倍以上になると予測されています。早期発見、早期治療に努め、死亡率が上がらないようにしていきたいものです。

前立腺がんの治療方法

 ――前立腺がんの治療にはどんな方法がありますか?

★大きく分けると、前立腺全摘除、ホルモン療法、放射線療法の3つがあります。東葛病院では放射線治療はできませんので、必要な方は紹介しています。それぞれの治療方法を簡単に説明しましょう。

全摘除……前立腺を全摘して根治をめざす方法です。しかし、手術でがんを取りきれたつもりでも、その後の検査でPSA値がまた上がってきて再発することもあります。

ホルモン療法……男性ホルモンを抑える薬や、前立腺への働きをブロックする薬など、薬によってがんの勢いを抑え、がんが広がらないようにする方法です。薬ですので、前立腺がんにも効きますし、転移したとしても、全身のがんにも効果が期待できます。

放射線療法……手術ができないような方や手術をしたくない方で、ホルモン療法だけでは抑えられないだろうと判断した場合に、放射線療法を追加する場合が多いです。日本ではホルモン療法と併用するのが一般的です。前立腺がんは骨に転移しやすいので、骨の転移部に放射線療法を追加することもあります。

 どの治療を選択するかという場合、日本ではホルモン療法を選択する人が7〜8割と非常に高く、手術単独、放射線単独というのはほんのわずかです。これは日本特有の傾向といえます。一方、アメリカでは、全摘か放射線治療を選択する人が多く、ホルモン療法は半分以下です。転移があって全身治療が必要という人がホルモン療法をやるというのがアメリカ的です。

 ――前立腺がんというと、命にすぐに別状はないがんという認識があるのですが。

★たしかに前立腺がんはゆっくり育つのが基本です。しかし、50代と若くして見つかるタチの悪い場合もあって、2年も持たないうちに亡くなるケースもあります。見つかった時点で骨やリンパ節に転移しているのです。ただし、一般的にはゆっくり経過しますので、前立腺がんで亡くなるのではなく、前立腺がんの治療を続けながら他の病気で亡くなるというケースが多いです。
 ゆっくり進むのが特徴ですから、若い人は早く見つける必要がありますが、年齢によってPSAの基準値を変えています。たとえば80代の人に、余命には影響しないだろうという小さながんを見つけてもあまり意味がありませんので、無理やり見つけない、もう少し大きくなってから見つけても大丈夫だろうという意味で、PSA値を年齢によって変えているわけです。
 一応、治療のめやすとしては、平均余命が10年あるかないかが1つのポイントになります。手術をするかしないかという治療の選択も70代前半か後半かで分かれます。

 ――年代的には?

★基本的には50代以降ですね。ただし、父親や兄弟に前立腺がんの方がいらっしゃるような場合は、40代から検査をすすめますが、一般的には、「50歳になったらPSA検査をしましょう」と言っています。
 高齢化に伴って前立腺がんも見つかるようになり、前立腺がんで亡くなる人も増えてきています。PSA値は他のがんにはない非常に優れた腫瘍マーカーですので、50代になったら定期的に検査することをおすすめします。

【表1】年齢別がん検出率

年齢(歳) 症例数 がん症例 検出率(%)
49〜59 14 5 35.7
60〜69 82 26 31.7
70〜79 109 59 54.1
80〜87 15 12 80.0
220 102 46.4

【表2】PSA値別がん検出率

PSA(ng/ml) 症例数 がん症例 検出率(%)
〜4 6 0 0
4〜10 115 38 33.0
10〜20 50 22 44.0
20〜50 20 14 70.0
50〜 29 28 96.6
220 102 46.4
※表1、表2は、東葛病院泌尿器科における前立腺針生検のがん発見率を2002〜2005年にわたって集計したものです。がん発見率は220例中102例(46.4%)で、検診受診者が多いPSA4〜10 ng/mlでは115例中38例(33.0%)、PSA10〜20 ng/mlで50例中22例(44.0%)でした。また、年齢別では、60歳代で82例中26例(31.7%)、70歳代で109例中59例(54.1%)でした。



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