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協同組合法vol.35

事業所を訪ねる(34)
医療法人社団 健友会 川島診療所

なんでも来い!


中野区南部の診療所

 川島診療所は中野区南部に1950年に開設された、歴史のある診療所だ。診療所ができる前は、はるばる十貫坂を越えて城西診療所に通わなければならなかった。南部に診療所がほしい!――この強い願いが実を結んだ。

 開設時の名称は「働く人の診療所」。「労働者のために!」という思いが直球ずばりの名前に込められていて小気味いい。しかしながら、「労働者しか相手にしないのか」などという批判が出たのだろう、2年後に川島通りの名前をとって川島診療所と改称された。現在の鉄筋4階建てに新装されたのは1971年である。

 この地域の特徴を聞くと、「まずこれを見てください」と、澤田玲所長が気さくに4階の窓をあけてくれた。暮れなずむ街並みの向こうに新宿新都心の摩天楼が見える。「新宿はすぐそばなんですが、電車だと乗り継ぎになって不便なので、この辺の人は新宿には歩いて行きます」。都心に近くて遠い。それがこの地域の特徴の一つだ。古くからの住人も多く、縁側から出入りするといった下町気質がまだ残っているそうだ。いきおい高齢者の比率が高く、生活保護受給者や在日朝鮮人も多く住んでいるという。

小さなことを流さない

 川島診療所には内科、外科、整形外科、胃腸科、循環器科があり、エコーや胃カメラなど検査も充実していて、昨年から経鼻内視鏡も導入した。3階に川島診療所歯科があるのも大きな特徴だ。1980年に開設され、医科と連携をとりながらの歯科往診も長年やってきている。

 所長は診療所の特徴をこう説明する。「他と比べて特に装備が重いわけではありません。違うのは経鼻内視鏡ぐらいかな。ここの特徴と言えることは、できるだけしっかりした全身管理をしようというところで方向性が共有できている。この辺はしっかりしていると思います」

 患者さんの全身管理をしていく。これはどこの診療所でも聞く話だが、それを丁寧にきちんと実践していくのは簡単なことではない。特にこの地域ではそれが非常に難しかったと冨田たみ子看護師長は話す。「この地域の患者さんは遠慮なんかしない人が多く、薬だけもらえばいい、それも自分の言う薬を出しなさいみたいなすごい人もいて、検査もなかなか受けてもらえないような状態だったんです。そこを所長が来てから、時間をかけて丁寧に説明して納得してもらって、という医療を一貫してやってきました。そういう中で、患者さん自身がだんだん意識してくれるようになって、そうですねぇ、ここ2年ぐらいからでしょうか、検査もきちんと受けてもらえるようになってきました」

 全身管理をきちんとやるためには、定期的な検査、中断チェックなどのフォローが欠かせない。診療所では独自のグッズを作っている。たとえば、紙で作った「棒」(写真)。そこに「1月フォロー」などと書いてカルテにはさみ、誰が見ても一目瞭然のシステムを作っているのだ。中断患者さんのカルテには赤い棒をはさむ。

 「チェックが終了しないかぎり、その棒は抜かないので、漏れがなくフォローできるんです。こういうフォローの仕方は別に珍しいことではありませんが、きめの細かな入れ方をしているという点ではかなりいい線をいっているのではないでしょうか」と看護師長。

 日常の診療の中で、日々、自分たちで考えて工夫する。棒1本は小さな存在だが、小さなことを流さない。それが大事であることを川島診療所の職員たちは知っているようだ。

「とにかく楽しく、明るくやろうよ」

 医療情勢が厳しいからこそ、「初心に帰ろう」という気持ちが強いと所長は語る。「初心に帰るということは、どれだけ地域に目を向け、責任を持てるかということです。地域の核になれるような役割を果たそう、そのためにもたくさんの人に来てもらって、健康管理に責任をもっていく。健診にも力を入れていく。そしてさらに、なんでもかんでも、とにかく診療所に相談してみようという身近さですね。そういう雰囲気をつくりたい」

 「なんでも相談」ができるためには雰囲気が明るくなければいけないし、実際に受けた相談に答えられるだけの力量もつけなければいけない、と所長は言う。「『とにかく楽しく、明るくやろうよ』と言ってるんです。雰囲気は明るいと思いますよ


 去年の夏、川島商店街の夜祭りが開かれた。当初は、血圧測定とシークヮーサージュースを販売する程度の簡単なものを考えていたのだが、診療が終わったあと、若い職員が“偵察”に行き、息せき切って帰ってきた。「たいへんだよ、ものすごい人だよ! 僕たちも参加しようよ」。そこで急きょ準備に入り、買い出しに行き、ソウメンチャンプルーとソウメン、シークヮーサージュースのお店を出し、血圧測定と医療相談コーナーを設けた。お祭りの出店は小さな出来事だが、日ごろからのフットワークの軽さ、前向きさに加えて、「楽しんじゃおう!」という雰囲気がなければ成功しない。

 スタッフは所長とパート医、看護師は看護師長を含めて常勤3人、パート1人、事務は橋詰事務長が兼務、常勤1人、パート1人、マッサージ師1人という構成だ。

小さな診療所の役割

 古くからの診療所は難しい局面を迎えている。長年信頼して通い続けてくれていた患者さんが高齢になり、施設に入所したり亡くなったりする。川島診療所も去年1年だけで在宅の患者さんが23人も亡くなり、在宅管理数が一挙に減って53〜54人になった。4年前は80人以上いて、「これ以上増えたらどうしよう」という状態だったそうで、それ以降も数をさほど落とさずにやってきたのだが、去年はストンと落ちてしまった。新規の患者さん以上に亡くなる方が多いのだ。

 「それでも経営的には赤字になったことはないんです。外来患者さんの数をさほど減らさずに踏ん張っているというのが大きいですね」と看護師長。外来は月平均610件だ。

 看護師長は続ける。「先日、職場会議でも話したんですが、うちは小さな診療所だけど、小さな町の総合病院みたいな役割を果たせるのが理想かなと。来た患者さんにはすべて方向を見出してあげられる。『なんでも来い!』と、そういう役割を果たしたいと思っているんです」

 まだまだ不十分ではあるけれど、そこに確信めいたものはある……所長と看護師長は口をそろえた。


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