10年の実績
上高田訪問看護ステーションが東京都中野区上高田にオープンしたのは1995年10月、去年10周年を迎えた。中野区では医師会のステーションに次いで2番目、健友会のステーションとしては第1号だった。
この10年を簡単に振り返ってみると……。まず開設だが、介護保険制度が始まる前のステーション開設はどこでもそうだったように、上高田訪問看護ステーションも暗中模索の出発だった。訪問看護師は3名とギリギリの人数で、経営的にもトントンか赤字という状態が続いた。
「それで、小さなステーションがそれぞれやるよりも合併して大型にしたほうが体制もとりやすいし、経営的にもメリットがあるんじゃないかということで、2001年12月、三つのステーションが合併して“上高田訪問看護ステーション”として再スタートしたんです」と内孝子所長は語る。
常勤8名、非常勤が常勤換算で2名、計10名で160名の利用者さんを管理する大型ステーションとなった。しかしながら、順調とは行かず、「管理面の難しさもあって、利用さんが少しずつ減っていって、私が異動してきた04年4月時点では95名でした」と所長。
そこから再度体制を整えて少しずつ利用者さんを増やし、現在140名というところまで来た。その内訳は、中野共立診療所が近いため、共立診療所が医療管理する利用者さんが約60名、法人内の他の診療所で医療管理する利用者さんが約30名、その他が約50名だ。
健友会のステーションは中野区に3ヶ所、杉並区に1ヶ所あり、その中で上高田訪問看護ステーションは“牽引車”としての役割を担っている。
困難は多々あったが、10年という歴史は、目に見えないところでも評価につながっていたようだ。所長がそれを実感したのはこんな出来事があった時だった。
ある日、東大病院の看護師長から突然電話が入った。先天性の心臓病という難病の赤ちゃんが手術を終え、自宅に帰ることになった。「ついては、大事な命をお任せするには実績のあるステーションをと探したんですが、上高田訪問看護ステーションならば安心してお任せできるだろうと思い、ぶしつけながらお電話しました」とその看護師長は言った。
何のつながりもないところから見込まれての紹介である。赤ちゃんを看護した経験をもつ看護師はほとんどいなかったが、所長自身は大病院の小児科に勤務した経験がある。大手術を終えて退院する赤ちゃんのことを思えば一刻の猶予も許されないと判断した所長は、「お任せください」と即答した。職員の力を信じていればこその返事でもあった。
「その赤ちゃんも1歳になり、今、元気に3度目の手術を待っているところです。紹介があったのは地域で地道に頑張ってきた10年の歴史を評価してくれたからだと思うんです。でも一方で、すごい責任も感じます。何かあったら大変ですから」
生きること・死ぬこと
中野区上高田は小さなアパートが肩を寄せ合うように建っている一方で目を見張るような豪邸もあり、格差がはっきり表れている地域だ。そういう中で上高田訪問看護ステーションの利用者さんは、年金6、7万円で切り詰めて暮らしている人や生活保護を受けている人など、生活ギリギリ層の高齢者が多い。
高齢になれば、おのずと死が身近になってくる。「どう死を迎えるか」という問題は一人ひとりに突きつけられる最後の難問であり、哲学的ともいえるテーマだ。看取りのための訪問看護も増えている現状の中で、訪問看護師は日々の仕事の中でそのテーマと向き合うことになる。
ある日、寝たきりで全介助の男性が所長にこうつぶやいた。「人の世話になるだけで、何もできない。もうこの世に生きていても仕方ないよ」と。こうした場合、「そんなことないですよ」と言ってみても、何の励ましにもならない。利用者さんが死を口にしたとき、どういう言葉をかければいいのだろうか。
「『生きること・死ぬこと』を自分はどう考えるか、自分ならどう死にたいか。それを自分で持っていないと、かける言葉が見つかりません。『死にたい』と言ったそばから、『生きていたい』と思う、そういう矛盾の中で死ぬ間際まで生の可能性を追い求めるのが人間だと思うんです」
たとえ寝たきりでも、生きている「今この瞬間」を少しでも充実し、安らかな死を迎えてもらいたい。その手助けをするのが看取りで訪問するときの看護師の仕事だと所長は言う。
「そのためには、利用者さんと真剣勝負で向き合うこと。それしかないと思うんです。自分自身が問われるだけに簡単ではありませんが、でも、『真剣に向き合いたい』という気持ちが伝われば、何かが変わってきます」と所長は話す。
どこまで伸ばせるか
職員は現在、常勤が4名、非常勤が4名、PT、OTを入れて常勤換算すると全体で8・5名になる。利用者140名の大型のステーションには大型ゆえの悩みがあるようだ。
「職員の人数が増え、利用者さんが増えるということは管理が難しくなってくるんです。私が言う管理というのは、医療の質を一定に保ちながら、さらに向上させていく。そこを管理していくことの難しさという意味です。訪問看護師の場合は一人ひとりの経験が全てです。利用者さんの必要とする技術があるかどうか、技術があっても、その人に合うかどうかも考慮する必要があります。その組み合わせを考え、さらに、経験のある人とない人がペアを組んで訪問する中で学ぶ機会をつくったりと、現場の中で教育もしながらキメの細かい管理が必要です」
忙しさの中で惰性で流れていく。それが一番怖いと所長は言う。それを食い止めるために、毎朝ミーティングを行い、「そういう考えもあるけど、こういう考えもあるんじゃない?」と必ず問いかけていくようにしているという。
所長として一番きついことは? そう尋ねると、「医療管理と経営管理を同時にしていかなければいけないこと。このバランスが難しいです」という答えが返ってきた。同じ看護師なので、みんなの気持ちがわかりすぎるほどわかる。しかし一方で経営を考えると、「ちょっと待って、それはね」と修正しつつ引っ張っていかなければいけない。
そのバランスがうまく行っているのだろう、上高田訪問看護ステーションは去年11月時点で予算を達成、収益比率は12〜13%、それを15%ぐらいまで伸ばせればと考えている。「みんなすごく頑張ってくれて、新規も毎月8名ぐらい確実に増えているんです」
やる気のある所長とやる気のある職員が相乗効果を起こし、力を倍加させているのがここの特徴のようだ。
|