幅広い医療活動を展開
桃井診療所は1962年、西荻窪診療所の分院として現在地に開設された。約2坪の池のある診療所で、緑の木々に囲まれ、家庭的な雰囲気だったという。
紆余曲折の歳月を経ながらも、ひたむきに地域に根ざしてきた診療所は、地域の住民運動にも積極的にかかわってきた。その一つが1986年に結成された「杉並の会」(住民本位の保健・医療・福祉を求める杉並の会)である。沼田稲次郎、樋口恵子ら著名人11人が呼びかけ人となり、団体や労働組合、個人では医師、保健師、ケースワーカー、教師、弁護士など多彩な顔ぶれがそろっていた。子育て問題から老人問題まで幅広く活動し、杉並区の住民運動の中でも知られる存在だった。
「荻窪南口のこの地域は高級住宅街が多く、同じ荻窪でも北口の天沼診療所の地域とはだいぶん違います。歴史的にも、文人や大学の先生などが多く住み着いた所で、日曜診療の当番の日には一流企業の保険証を持ってくる患者さんが多いです。健友会の中では一風変わった診療所かもしれません」と菊地篤事務長は説明する。
診療所の特徴は、外来、在宅、通所リハ、透析と幅広い医療活動を展開している点だ。その一つ、透析から見てみよう。
健友会が新しい展望を開くために桃井診療所を現在の鉄筋コンクリート造り3階建てに建て替えたのは一九九一年。そのときに2階に代々木病院の透析部門の分院という形で透析室を設け、人工透析治療を開始した。現在、ベッド22床、患者さんは46人だ。
「規模が小さいので、なかなかスケールメリットが出せなかったのですが、3年ほど前から利益を出せるようになって、今は一番利益を出す部門になっています」と事務長は話す。
増やせるところは増やそう
では、外来、在宅はどうだろう。事務長は、
「健友会の診療所ではだいたい2年ぐらい前から患者減が始まっていますが、うちは去年まではわずかながらも右肩上がりだった。それがいよいよ下がってきたのが今年に入って、特に7月からです。外来患者さんはそれほど変わらないんですが、在宅分野がぐっと減ってきています。予想はしていましたが、こうして数字に表れてくると、心理的にきついものがあります」
外来患者数は月平均420〜460件、訪問診療件数は40件、この間在総診が15件ほど減った。収益でいうと、全体では黒字だが、透析部門以外は赤字構造になってきている。「これは大変」と目下構造転換をはかっている最中だという。
その一つが今年春から始めた「増やせるところは増やそう」の取り組みだ。まず、通所リハを1日増やし、週5日にした。今後は祭日の営業も検討している。それから、透析のベッドを増やした。ケアマネを配置してもらい、相談業務をきちんとできるようにもした。
「透析も徐々に増えているし、通所リハも週5日にして、厳しいとはいえ、ようやく予算を超えるようになってきています。うちは医療・経営構造の転換という意味では奮闘してきたと思っているし、医療も介護も活動の規模は増えています」と事務長。
続けて、「さらに巻き返しをはかる努力をし、人員体制の見直しも行いながら、黒字の構造をつくっていきたい」「透析以外は外来も通所リハも非常勤職員が診療所の『顔』として活躍しています。この方々の思いを共有しながら地域の要求に応えていくうえで管理者としてのレベルアップが切実に求められていることを感じる」と話す。
厳しい医療情勢の中でますます求められる管理者としてのレベルアップ。事務長の口から思わず「なかなか辛い話が多くて……」という言葉が漏れた。
こうした背景には医師体制の厳しさもあるようだ。「あれを見てください」と事務長に指し示された壁の医師の診療体制表を見ると、なるほど、曜日ごとに医師名がくるくると変わっていて、つなぎつなぎの診療体制ということが一目瞭然だ。現在は松永伸一医師(中野共立病院院長)を所長代理にして医療展開をしているが、「どしっと座れる所長がほしい」というのは職員たちの痛切な願いだ。
模索しながら新しい取り組みを開始
そうはいっても、医療情勢が厳しいからといって首をすくめたままでいないのが民医連の診療所だ。地域に根ざしてこの地で40数年医療活動を展開してきた桃井診療所は今、改めて地域に根ざそうと行動を開始した。
「先日、前の所長だった伊藤先生(現中野共立診療所所長)から『菊地さんは商店街や町内会との付き合いも大事にしていると言うけれど、荻窪団地に一人暮らしのお年寄りが何人いるか知っているのか』と言われて、ハッとしたんです。一人暮らしのお年寄りの訪問など、具体的な活動がもっともっと必要だなと思いました」
今、地域訪問活動を毎月定期的にやっていこうと、友の会と話し合っている。また、在宅では地域のケアマネさんとどれだけ連携できるかが大事になるので、去年の秋、地域のケアマネさんへの訪問活動を行った。そして、毎月第3水曜日の午後を「ケアマネタイム」に設定し、「電話でも来院でもどうぞ。何でもご相談ください」とケアマネさんに発信している。
医師と連絡がとれずに苦労しているケアマネさんが多く、また医療職ではない人も多い。そうしたケアマネさんにとって、「ケアマネタイム」は心強い味方だ。
今の時代、本当に地域に根ざすためには何をどうすればいいのか。桃井診療所は模索しながら新しい取り組みを始めている。
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