スイカ食うけのう
はたがや協立診療所看護師長 杉本 育子
寝たきりのT子さん、布団に横たわっている。
枕元に吸飲み、ティッシュ、濡れたタオル……。
「T子や、スイカ食うけのう」と自分の口で噛み砕いたスイカをスプーンに戻し、T子さんの口元に運ぶ老夫、夫の目をじっと見つめ口をあけるT子さん……まさにラブラブ。
80歳前後のこの夫婦は、12年前に新潟より上京。3人の子ども達が都内に住んでおり、このマンションを用意してくれた。隣近所の交流はほとんどなく、子ども達が交代で様子を見に来るくらいで、二人だけの生活を送っていた。
ところが2年前、T子さんが胆嚢炎で某病院に入院中、転倒したままになっている姿を、見舞った夫が発見。即刻自己退院し、治療中断後のフォローということで、はたがや協立診療所で関わるようになった。以後定期往診し、二人で散歩するほど元気になられたが、昨年9月、T子さんは脳梗塞再発で、右麻痺、失語症出現。
病院不信の夫は頑固、もと衛生兵という自信も加わり、入院を絶対拒否、単独の介護が始まった。もちろん介護認定に申請も拒否。子ども達も毎日交代で来るが、T子さんの直接ケアーはやらせてもらえない。
介護用ベッド、訪問看護、訪問入浴、訪問リハビリ、通所リハ、ショートステイ、訪問ヘルパー等々、既存のサービスを受けるだけでもどんなに良くなり、夫も楽になるだろうと進めてみたが断固拒否。
「父は一度言ったら聞かない人。子どもとしては医療機関と切れてしまうことのほうが怖い。なんとしても医療機関とつながっていてほしい。勝手で申し訳ない、不合理は十分承知だが、母の生命を守るために父のわがままを聞いてほしい」と子どもさんたちに懇願された。
あれから1年余り……夫はいつもT子さんの傍に座り、食事、オムツ、保清とかいがいしく世話をし、長い黒髪をとき、一緒に歌ったり、全身をさすったり、彼らしい心遣いの介護を続けている。ところが最近変化が…T子さんがやせてきて、仙骨部に褥瘡ができ、両便失禁状態。T子さんの身体の変化もあるし、夫の疲れもあると私たちは両面から見ている。
毎日のように夫から電話が入る。「T子が腹が痛めるというだども」「頭が痛めると泣いている」「下痢した」「熱があってボーッとしている」などなど……。
点滴したり、褥瘡処置をしたり、敵便をしたりと私たちの訪問は1ヶ月20回以上におよぶ出血無料大サービス。「ムッ! もう……」と感じることもある。
かわいいT子さんを見ると極上の笑顔で接している私たちであるが、打開策が見つけられない現状に悶々とすることもある。はたがや協立診療所の園田所長、一戸看護師みんな良く頑張っている。 |