短期間での5例の看取りを振りかえって
農大通り診療所看護師長 尾藤 文江
農大通り診療所も10周年を迎え、向かいに友の会事務所もでき、その通りを挟んでご近所の方も診療所に通ってくれるようになりました。「ここを民医連通りにしてしまえばいいんじゃない」などと語りあったことを思いながら毎日を頑張っています。
当診療所では、現在38〜40名の往診(訪問診療)を行っています。例年の在宅看取りは1年間で2例程度でしたが、今回5月27日から7月7日までの6週間の間に5名の在宅看取りを経験しました。緊迫した毎日でしたが、幸いそれぞれの看取りが納得でき、「よかったね」と思える結果となり、ホッとしています。その中の1例を紹介します。
K・Mさん(92歳、女性)は娘さんと二人暮らしで、慢性関節リウマチでベットから食堂まで伝い歩きがやっとでしたが、病状は落ち着いていました。テレビで相撲を見るのが大好きなのと、「沈まぬ太陽」「太平記」など長編小説の読破力は92歳とは思えないほどでした。6月10日、全身黄疸が出現し、家族、私達ともこれは大変な事態になってしまったと思っていたのですが、当の本人は非常に落ち着いていて、若い頃に一度黄疸が出たことがあり安静にしていたら治ったとのこと、「このまま静かに過ごしていれば大丈夫よ」とドンと構えていました。確定診断のため代々木病院への入院としましたが、腹部エコーの結果、胆嚢がんが疑われ、娘さんの判断で家族会議を開き、「入院しても治る病気ではない、本人も入院を希望していない」とのことで即日退院となりました。在宅にもどり、好きな時に好きな物を食べ、痛みもなく、娘さんの手厚い介護に見守られながら7月7日17時49分永眠されました。
後日、娘さんが挨拶にこられ、素晴らしいお別れができたことを私達に伝えてくれました。入院中、大野先生から、これから先は、黄疸も強くなり、尿量も少なくなり、肝性脳症で意識もなくなっていくと聞き、呼びかけでやっと返事ができる状態の頃、今だと思い母親に「お母さん、私達を生み育ててくれてありがとう。お母さんの娘に生まれて幸せでした」と伝えたこと。母親の目からも涙がながれて、私の言ったことが伝わったんだと思い感激したこと。こういうことは正気では恥ずかしくて親子でも言える言葉ではない、事前にこうなることを聞いていたからこそできた、と感謝されました。
さらに葬儀社の方から、「こんなにきれいな死後の処置を見たことがない、どこの、どなたがされたのか」と聞かれ、診療所のことを話したとのこと。生前から和洋とも凛とした装いをする人で、最後の旅立ちもそうであったことが嬉しいとお礼をのべられました。
5人の方の看取りを終え、このお礼の言葉で、心も体も軽くなったようにも感じ、明日への励みにつながりました。
看取りそのものは、病院であれ、在宅であれ家族にとって最大の気力とエネルギーを必要とします。その意味でも、ご本人、家族、医療、看護・介護チームで悔いのない看取りができるよう連携をとりながら、今後も頑張っていきたいと思います。 |