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協同組合法vol.29

トピックス/10月、いよいよ桜丘ケアセンターがオープンします

校長 三上 満

人間に対する深い愛

 ――東葛看護専門学校は今年4月で開設10周年を迎え、この9月17日に記念祝賀会が開催されました(写真参照)。三上先生は「東葛の金八先生」として学生たちからも教師たちからも、さらに勤医会以外の多くの方々からも絶大な信頼を寄せられてきました。その名物校長の先生が9月30日付で退任されることになりましたので、今日は、先生ご自身の生き方をからませながら、「東葛看護専門学校の10年」を語っていただきたいと思います。何をめざし、何と格闘してきた10年だったとお思いでしょうか。

★わたしが就任したのは5年半前ですので、その前のことは直接には知りませんが、ひとことで言えば、民医連の看護教育を育てようと格闘してきた日々だったと思います。患者さんの立場に立って、患者さんの願いに応える看護のあり方というものを追求し、丸ごと人間としての看護師を育てようと奮闘してきた10年だったと思うんです。具体的な教育活動についてはパンフレットにまとめましたので、ぜひお読みください。
 こうした看護の根本を問う教育実践というのは、患者さんと学生、学生と教師、人間と人間との一期一会の出会いが織りなすドラマから生まれるのであって、マニュアル教育ではけっしてできません。アートの領域といってもいいでしょう。
 東葛看護専門学校の「教育宣言」に書かれていますが、看護というものは科学とヒューマニズムが織りなす世界であり、それを育てていくのは日々の学びによる成長と、人間に対する深い愛です。そういうものが土台になって、二つの実践が沸き出てきます。一つは、患者さんの病気を治し、患者さんの健康を取り戻す医療的な実践です。その中で、患者さんの人権に応えていく。もう一つは、看護は真空の中にあるのではなく、日本という社会、政治の中にある。しかもこの世界は、放っておけば、強いものに蹂躙される世界になりかねないわけです。そういう中で、医療や看護をより良いものに育てていく社会的実践。つまり、科学とヒューマニズムをベースにして、それらを学びとる学びと、根本にある愛、そこから湧き出てくる二つの実践。そういうものに支えられて看護というものはあるんだろうと思います。
 いうならばこの学校は、看護の技術や知識の面だけでなく、人間性をも育てようとしてきた、そういう10年だったと思うんです。それを一番よく表すのが、「学生こそが主人公」という言葉です。学生が主人公というのは、この学校の中だけの言葉ではなく、主人公として学んだことを今度は臨床の中で生かしていく、そういうつながりを含んでいる言葉であり、主人公となって生きる人間を育てるという意味合いをこめた言葉です。それは、職場の中で医療をよくしていく主人公になると同時に、社会の中で主人公になって日本を、世界をよくしていくという意味も含みます。そういうことをめざして頑張ってきた10年間だったと思います。
 この学校に最初に来たとき、本当に驚きました。一般の教育現場は文部科学省や教育委員会といったものから支配されていて、民主的な教育実践というものは厳しい闘いや組合活動などを通じて切り拓かれています。それがこの学校では、当たり前のようにすすめられている。わたしは「この学校には宝物がたくさんあります」と繰り返し言ってきましたが、われわれのように厳しい教育現場で闘ってきた者にとってはうらやましい限りの教育現場でした。それはひとえに民医連の持っている力だと思うんですね。

「日陰のありがたさがわかった」  ――体に刻む体験を通して

 ――この学校で学んで実践の場に出ていくわけですが、実際の仕事の場では思ったことができないことのほうが多いですよね。そのギャップで悩んだり苦しんだりしたとき、ここで学んだことはどう役に立っていると思われますか。


★どの職場でも、患者さんの立場に立って考える余裕やゆとりが奪われてきています。「こういうことができるはずなのに」と思っても、それができない悩み、現状を変えようとする瑞々しさみたいなものを失っているように見える先輩。そういうものにぶつかって「こんなはずじゃなかった」と思う卒業生はいます。そういう卒業生がこの学校に来て、いろいろしゃべります。こっちから何かアドバイスするわけではないんですが、話すことでまたエネルギーをもらって帰っていく卒業生が多いです。苦しいにつけ悲しいにつけ学校が拠り所になっているようです。
 それから、この学校で習ったことが生きるような職場にするにはどうしたらいいのか、「一緒に変えていこう」と、職場で主人公になって頑張っていく卒業生も多いのは嬉しいことです。
 ――先生は「管理教育、序列教育で身についたものなんてサビみたいなもの、サビなら落とせばいい。人格に影響を及ぼすものではない」とおっしゃっています(「協同組合報」04年5月号)。「サビなら落とせばいい」という言葉がとても印象に残っています。
★競争で尻を叩かれなければやる気が出ないというのは人間の本質に根ざしたものでなく、いわばつくられた世界です。「他の人と比べる必要はないんだよ」という世界は今まで知らなかった世界ですから、とても新鮮に映るようです。人間が本当にやる気を出して、何かをやり遂げたときの喜び、はじけるような笑顔。そういうものと出会えるのがこの学校の一番の喜びですね。
 それから、この学校では、常々「患者さんに学びなさい」と言います。外来や病棟での学びはもちろんですが、特にこの学校では、在宅の患者さんが学生を積極的に受け入れてくれ、患者さんとの人間的なふれあいの中で、学生が成長していきます。また、「地域フィールドの学び」ということで、中小企業、農業、自営業などを営む地域の方々が働く現場に学生を積極的に受け入れてくれ、学生を育てようという気持ちでいてくれる。そういう中で、学生は人間として成長していきます。
 ある学生が「日陰のありがたさがわかった」と言いました。働いて汗を流したあとの日陰のありがたさを知ったんですね。こうした体に刻む体験ができるのもこの学校の大きな特徴であり、それを地域の方々が支えてくれているのです。

歴史のリレーランナーたちへ

 ――次の10年にバトンを渡すにあたって、ひとことメッセージをお願いします。

★「教育宣言」にも書かれていますが、学校というものは二つの門を持たなければいけません。わたしは表門と裏門という言い方をしていますが、表門というのは、看護学校でいえば、看護に必要なたしかな知識・技術を身につけることです。そのためには授業にちゃんと出席しなければいけないし、学問の段階を一つひとつクリアしていかなければいけない。学ぶ量がものすごく多いですから、大変厳しいです。
 しかし、この厳しさは序列をつけたり切り捨てたりする厳しさであってはいけません。学生一人ひとりに即した柔軟性というものが不可欠です。親が倒産するなど、さまざまな困難を抱えた学生たちを温かく見守る柔軟性、言うならば裏門です。がっちりした表門と優しい隙間だらけの裏門、この二つが学校の本当の値打ちを決めるのです。出席日数や成績でどんどん切り捨てる、裏門のまったくない管理一辺倒の学校もありますが、そういう学校には絶対にしてはいけない。かといって、学ぶ厳しさをゆるめてもいけない。わたしが何に苦労してきたかといえば、この表門と裏門のバランスの取り方といえるかもしれません。この学校を見ていて、その教育的力量はこれからの課題だと思います。
 たとえば、留年という厳しい現実があります。わたしは、こだわりは一切捨てる必要があると思います。極端にいえば、留年、けっこう。学生自身が選択して、「もう1年勉強したい」と考えたならば、何の違和感もなく留年できる環境が必要です。つまり、学生一人ひとりの歩みを学生主体に考えていくということ。そういう中で教員は柔軟性と原則性を統一する。この辺が教育の醍醐味であって、そこが、この学校を真の教育の場にしていくための一つの課題だろうと思います。

 ――先生は9月16日に最終講義をなさったそうですが、どういう内容で話されましたか。

★「歴史のリレーランナーたちへ――自分史と現代史を重ね合わせて」というタイトルで、5楽章に分けて話しました。第1楽章は「少年のころ戦争があった」。わたしは深川に住んでいて、60年前の東京大空襲のとき中学1年でした。東京大空襲の体験と、体で知った平和の嬉しさについて話しました。第2楽章は「青春の日々――自己の探求」。大学時代に書いていた日記から引用して、どうやって自己を探求していったかを話しました。第3楽章は「子どもたちの可能性を信じて」、教師時代のことですね。第4楽章は「平和と民主主義――人間が輝く社会めざして」、第5楽章は「みんなと出会えてよかった――東葛看護専門学校の日々」。そして、これからが第6楽章です。
 これらを通してわたしが伝えたかったのは、人間としてどう生きるかということです。自分と出会いながら生きる、と同時に、道幅を広げていく生き方をしてほしいと。そして最後に「私に人生というものがあるなら」という歌を東葛バージョンにして、学生のギターの伴奏で歌いました。最後は大きな拍手をしてくれました。いろいろな悩みを持っている学生も寄ってきてくれ、目に涙をためながら「わたしもがんばるから」と言ってくれた学生が何人もいました。私もこの5年間の第5楽章を励みにがんばっていきたいと思います。


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