「異変」が起きている
城西診療所が開設されたのは敗戦直後の1949年2月。健友会の診療所の中で一番古い歴史をもつ。後藤励蔵医師と妻のマン医師が幼い二人の子どもとともにバラックの診療所の2階に住み込み、診療を開始した。この城西診療所の発展によって57年、中野共立病院の前身である城西病院が開設され、その7年後の64年に医療法人財団・中野勤労者医療協会が設立される。
この歴史ある診療所に最近「異変」が起きているようだ。所長になって15年目に入った中根あつ子所長はこう話す。
「長年、地域医療に取り組んできた診療所ですから、往診も一時は健友会の他の診療所の中でもダントツに多かったんです。最高で月の往診件数が110件ありました。それが今は40件、4割以下に落ち込んでいます。在宅は大変な減り方なんです」
その40件も3分の2が90歳以上と超高齢になっている。往診を新規に増やしたいと思っても、依頼があまりないのだという。
「それで、新たな医療展開をはからなければいけないということで、2年以上前から漢方外来を開始しました。夜間診療から始めて、現在は毎週月曜日の午後、2診体制でやっています。この漢方外来で、これまで民医連にかかったことのない患者さんが増えています。裾野が広がってきているということですね」
在宅は激減だが、漢方外来が定着してきたことと、若い患者さんが増えてきたことで、新患は増えているそうだ。ちなみに今年と去年の6月を比較してみると、去年の新患は12人だったのに対して今年は29人、2・5倍ぐらい増えている。若い患者さんが多くなっているのは、ワンルームマンションが増えているからだ。
なぁんだ、在宅が減っても新患が増えているなら、プラスマイナスゼロになるんじゃない? 「異変」なんて大げさだったか。
「いえ、相対的には患者さんが減っていて、経営的には非常に苦しくなってきているんです。去年、初めて赤字に転落しました。城西診療所は2年前までは年間1000万円ぐらいの黒字を出していた。普通にやれば黒字になったんです。それが今は普通にやっていては赤字になってしまう。患者さんが減っている、どうしよう、という話が多くなりました」と橋詰秀剛事務長は嘆く。
普通にやっていれば黒字になったものが、普通にやっていると赤字になる。これはやっぱり大変な「異変」だ。
すでに時間の競争で負けている?!
それにしても、在宅が4割以下に落ち、全体の患者数も減っている理由は何だろう。去年10月の診療報酬の改訂が影響していることはまちがいないが、それにしても在宅の減り方がすごすぎる。
「ここは医療過密地域というより医療過剰地域なんです。近くに300床規模の病院が二つあるし、開業医も多いうえに、この2年間で近くに新しいクリニックが二つオープンしました。今の開業医は昔と違って、往診を積極的にやるし、診療時間も長いです。朝7時から開いている所もあるし、午後はたいてい7時ぐらいまでやっています」と事務長。診療時間が朝7時から夕方7時まで。途中12時〜3時の間は休んだとしても、医師がこれだけ長時間診療できるのは自宅だからだ。
「私たちはすでに時間の競争で負けているんです。ここは受付が4時半で終了ですから。夜間外来は週1回だけです」と江浦孝子看護師長。「それをカバーするために、漢方外来、糖尿病外来に力を入れ、誕生月健診のお誘いの電話かけ、定期的な患者訪問と懸命にやっているんですが、経営的には非常に苦戦しています。『これだけ頑張ってもまだ赤字なの!』という感じです」
ここにさらに重くのしかかっているのが家賃だと3人は口をそろえて言う。「なにしろ家賃が月に70万円、駐車場を入れると年間約1000万円かかっているんです。何といっても、これが辛い。健友会の診療所で家賃を払っている、つまり賃貸はうちだけです」
このままではとてもやっていけない、「踏ん張り甲斐がない」(所長)ため、城西診療所では新しく土地を探し、診療所を建設するという方針を立て、健友会の理事会にはかっているところだ。
若者からもお年寄りからも頼りにされる診療所に
常勤のスタッフは5人(所長、看護師長、看護師、事務長、事務)、それにパートの看護師が0・3人で、業務を切り盛りする。人件費を削るために、去年、看護師のパート半日をとりやめ、派遣の事務もやめ、これ以上削れないところまでスリムにした。外来患者さんは月平均500〜520人だ。
「今は医療だけで収益をあげるのは難しい時代です。在宅が減っているのを医療だけで増やそうとしても無理なんです。医療と介護の両方の事業展開がどうしても必要ですが、現在のこのスペースでは通所リハやデイサービスといった介護分野の事業を展開することができません。ここでどうやって生き残っていくか、どう特色を出していくか……最大の課題です」と事務長。
展望を切り開くためには、3階建てぐらいの新しい診療所がどうしても必要だと3人は話す。そしてそこに訪問看護ST、ヘルパーSTを開設し、通所リハあるいはデイサービスを併設する。
「こうした医療と介護の複合施設にして拠点をつくっていかないと、地域の患者さんは頼りにしてくれません」と看護師長、事務長は話す。
どうも明るい話題が少なかった気がするが……と思っていると、看護師長は「ここは歴史が古いこともあって、友の会活動がすごく活発なんです。これは大きな特徴です」と説明する。友の会会員は507世帯、994人。診療所の2階に集まってわいわいと活動計画を練り、さまざまなサークル活動を繰り広げている。絵手紙サークル、手話ダンスサークル、手ぶらでウォーキング、ウェルカム・ランチ……ネーミングがまたいい。
ウェルカム・ランチは一人暮らしのお年寄りを中心に楽しくランチをいただく会だ。月に1回、診療所の2階がレストランになる。「私、ちょっと足が痛むのよ」「あら、足だけならまだいいわよ。私なんか手も腰も痛いのよ」などと病気自慢をしながら、楽しいひとときを過ごす。
城西診療所は居宅介護支援事業所としてケアプランも作成しており、看護師長は7月現在で44件のケアプランを担当する。看護師長との兼務だから、非常に多い数字だ。
「たしかに大変ですが、お年寄りが少しでも安心して生活できるように、少しでも幸せに暮らすことができるようにと思いながらやっています。これが私の生きがいだから、断れませんね」
この地域は若者が増えているが、路地を少し入ると高齢者が多く住んでいる。若者からもお年寄りからも、働く人たちからも頼りにされ、拠り所にされる。「そういう診療所にしていきたい」と3人は意気込む。
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