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協同組合法vol.22

事業所を訪ねる(21)
(医)東京勤医会クリニック千駄ヶ谷

都心で、地道に頑固に地域に根ざす


外来と在宅訪問診療に力を入れている

 診療所というと何人もの患者さんが順番待ちをしていて、特に冬の風邪の時期は混み合うものだが、クリニック千駄ヶ谷はいつも静かだ。なぜだろうと前々から不思議だったのだが、ここの特徴を聞いて納得した。吉田廣海所長(東京勤医会理事長)はこう語る。

 「うちは外来と在宅訪問診療に力を入れていて、比率は外来6、在宅4といったところです。外来は循環器を中心にした専門外来を私が担当し、漢方外来もやっています。ほとんどが予約中心で長期の管理をしていますから、混みあうということはありません」

 飛び込みの患者さんには隣の代々木病院を紹介することもあるという。JR千駄ヶ谷駅から徒歩3分、代々木病院と連携をとりながら、外来と在宅で都心の地域医療を担っている。

 以前、千駄ヶ谷クリニックは透析専門の診療所だったが、代々木病院の建て替えを機に病院内に透析室ができ、透析部門はそちらに移った。診療所はリニューアルされて、まず2000年6月に往診だけの診療所として出発、01年8月から外来機能を開始した。

 まず外来から見てみよう。月に約560人の患者さんをみている。循環器は狭心症、不整脈が主で、20年、30年と長く代々木病院にかかっていた患者さんが多いという。「高齢化が進んでいて、循環器外来=高齢者外来の感があります。ですから、心臓だけをみていればいいというわけではなく、全身管理が必要です。検査で脳こうそくやがんが見つかることもある。患者さんからは、『待ち時間が少なくて、小回りがきく』『いろいろな検査をすぐにやってくれる』と喜ばれています」と所長。

 最近は代々木病院の栄養士に来てもらって、栄養指導にも力を入れている。また、渋谷区の誕生月健診、被爆健診も行っている。

 漢方外来は週2回、漢方専門医の矢船明史医師が担当、患者さんが口コミで少しずつ増えているという。「本当によく話を聞いてくださる先生で、男性の先生ですが、更年期障害や腰痛、肩こりなどで苦しんでいる女性の患者さんが多いです。ニキビの若者も通ってきています。漢方を飲みながら体質改善をはかっていくわけですが、薬局と違って保険がききます。ここの漢方外来の存在はまだあまり知られていませんが、もっと知らせていけば需要は大きいと思っています」と蛭田浩子看護長は話す。

在宅訪問診療は月のべ200回

 次は在宅訪問診療だが、まず驚いたのは、その範囲が非常に広いことだ。渋谷区、新宿区、港区の半径4キロにまたがった地域をコース別に分け、月曜から金曜まで毎日出かけていく。5人の医師が日替わりで担当し、蛭田看護長と藤島百合子看護師が支える。患者数は120名、回数にすると月のべ200回にのぼる。

 「都心だからこその大変さがあるんですよ」と看護長。広範囲の地域を回るには自転車というわけにはいかない。「クリニック千駄ヶ谷」と書かれた専用の往診車で回るのだが、道路が渋滞する、駐車できない、狭い路地が多い、と道路事情はすこぶる悪い。「うちでは4人の運転手さんが交替で運転してくれています。駐車できない場所では、診療の間、グルグル回ったり、狭い路地をスレスレに神業で入っていったりしながら、訪問診療を支えてくれています」

 東葛病院から異動してきた藤島さんは、高齢の一人暮らし、もしくは高齢夫婦の二人暮らしが多いのに驚いたという。「なにしろ患者さんの平均年齢が83歳、最高齢が100歳、90歳以上が39人もいらっしゃるんです」。看護長が続ける。「胃ろう造設が15人、痴呆の患者さんも増えています。訪問看護ステーションやヘルパーステーションなどのサービス提供者同士で連携をとりながら支えていますが、一歩まちがうと一人暮らしが困難になってしまうケースが多いです」

 都心の住環境はバブル以降、様変わりし、高齢者を直撃した。原宿の表参道で一人暮らしをしている患者さんがいる。敗戦直後から住み続けてきた80代のおばあちゃんだ。周囲はビルが建ち並び、ブランド品を並べたブティックが軒を連ねる。おばあちゃんの家は周囲のビルに挟まれて1日中太陽が当たらなくなった。隣近所は誰もいなくなった。「都心に住むお年寄りにとって、診療所や訪問看護、ヘルパーさんの訪問は大きな支えになっていると思います。在宅ネットワークはかなりできてきていますが、もっと充実させていかなければいけません」と看護長と藤島さんは話す。

 孤立は人の心をまいらせてしまう。訪問診療のスタッフたちは、訪問看護ステーション、ヘルパーステーションなどとネットワークを組みながら、高齢者の健康を守り、生きる意欲を引き出す。

新しい活動にも挑戦

 今、どの診療所も厳しさを抱えているが、クリニック千駄ヶ谷も例外ではない。「ここは予約外来ですから、新陳代謝が少ないんです。それに患者さんの高齢化が進み、入院したり施設に入所したりする方が増え、外来に関しては患者さんが減る傾向にあります」と事務の泊谷健一さんは話す。「さらに」と工藤はる子事務長が続ける。「ここに通う患者さんは概ね老齢福祉年金の受給者です。その年金の中で生活して、そのうえに医療費となると大変です。しかも医療費が高くなっていますから、気がつくと、受診の間隔が30日から35日になっていたりする傾向が出ています」
 それは大変、打開策はあるのだろうか。

 「魔法の杖なんてものはないわけで、発展する可能性の一つは在宅ですね。渋谷区でこれだけ訪問診療を一生懸命にやっている診療所はそうはない。本当に暮らしやすい渋谷、新宿にするために、在宅を地道にやっていくことが大事です。外来については、ここは代々木病院の外来医療の一部を担っている格好なので、代々木病院と一緒になって困難を打開していく道を考えていく必要があります」と所長は言う。そのあとを受けて事務長は、

 「訪問診療の患者さんは自治体健診を受けていない方も大勢います。今年は自治体健診も拡大していきます。それから、友の会と協力してボランティアの時間積み立てシステムなど、新しい活動にも挑戦していきたいと思います」

 「地道に頑固に地域に根ざすことしか活路はない」という所長の言葉にスタッフ一同うなずいた。




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