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協同組合法vol.22

トピックス/障害者福祉はどうあればいいか

みさと協立病院院長 大谷 明

猫の目のように変わる障害者福祉

 ――この間、障害者福祉の施策が猫の目のようにクルクルと変わっていて、多くの障害者がとまどっています。まず、03年に仕組みが大きく変わり、障害者自身がサービスを選ぶ支援費制度になりました。ところが、それが早くも予算不足に陥り、介護保険との統合案が出されました。その決着がつかないまま、去年10月には、「今後の障害保健福祉政策について(改革のグランドデザイン案)」という、障害者施策全般にわたる見直しが発表されました。

 しかしながら、介護保険との統合は見送られることになり、今国会では、「障害者自立支援給付法案」という名前の法案が提出されることになりました。厚生労働省は何をどう見直そうとしていて、その何が問題なのでしょうか。

★厚労省は理念としては、「介護を必要とするすべての人が、年齢や原因、障害種別を問わず、公平に介護サービスを利用できる『普遍的な制度』への発展を目指す」とし、高齢者も障害者も、難病やガンの末期患者らも利用できる制度をつくりたいといっています。「グランドデザイン」という名にふさわしい「普遍的な制度」を目指すというわけです。

 それを障害者福祉でいうと、身体・知的・精神の3障害に分かれていた障害者福祉サービスを1本化し、介護を必要とするすべての障害者がその種別を問わず公平にサービスを利用できる制度をつくるとしています。日本では障害種別に、制度がいわば縦割りになっていますが、これは世界的に見ると一般的ではなく、障害、年齢、障害種別の区別なくサービスが受けられるという制度のほうが一般的なんです。したがって、3障害統合、あるいは介護保険との統合は、理念的には正しいのです。

 具体的な内容を見ても、高齢者にしろ障害者にしろ、サービス体系はほとんど同じです。訪問系サービス、通所系サービス、短期滞在系サービス、居住系サービス、入所系サービスなどですね。医療費の公費負担もいくつかありますが、そういうバラバラのものを統合して、そこに足りないサービスを付け加え、もっと体系化しようというのがねらいです。

 たとえばドイツは、基本的には年齢、障害種別の区別なく保険方式でやっています。内容は不十分だと聞いていますが、統合した形でやっていることはたしかです。日本の場合も高齢者と障害者のサービスが分かれているほうがおかしいんですが、高齢者の人口が多く、政治的な判断もからんで、介護保険制度が先になったわけです。

 しかし問題は、その財源と費用負担です。厚労省は一般財源、つまり税金でその財源をまかなうのは無理と判断し、保険方式、つまり介護保険との統合を打ち出しました。しかしながら、これは先送りになった。そうなると、「グランドデザイン」は「絵に描いた餅」になって、実現は不可能です。財源の裏づけがないわけですから。

応益負担の導入は大問題

 今、どの分野でもそうですが、受益者負担、自己責任の傾向がますます強められています。こうした全体の動きの中で、「介護も障害者福祉も一定の自己負担を」というのが政府・厚労省の基本的な姿勢です。

 障害者福祉のサービスは、以前は「措置費」といってほとんど無料でした。それが支援費制度になり、契約になりましたが、その人の払える能力に応じて負担を求める「応能負担」ですから、何をどれだけ利用したかは関係ないという考え方で運用されてきました。ホームヘルプサービスを例にとると、住民税非課税の方までは無料でしたので、実際には95%が費用負担なしにサービスを受けることができました。それをならすと、実質1%負担であると厚労省は説明しています。

 それを今回の改革案では、これまでの「応能負担」から「応益負担」とし、介護保険と同じように自己負担一律10%を求めています。実質1%負担だったものが10倍の負担になるわけで、大変な負担増です。「障害者も高齢者も同じだから、同じ負担を」と、統合の理念を逆手に取ったわけです。

 さらに、通所施設も実質95%の人が無料でしたが、食費の負担が加わり、そのうえに1割負担になります。入所施設もホテルコストといわれる食費などが自己負担となります。介護保険の見直しの根拠となっている「持続可能の制度にする」ということと同じ理屈です。財政的に厳しいんだから、こうするしか持続できないんだと、簡単にいえばそういう論理です。

32条改悪の動き

 ――支援費制度は身体・知的障害者向けで、精神障害者は対象外でしたが、今回の改革案では精神も含める、と。そのかわり、精神の患者さんにとって大事な「通院医療費公費負担制度」の見直しが出されています。これは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律32条に基づくもので、いわゆる「32条」と呼ばれています。この動きをどうお考えでしょうか。

★上の表を見てください。これは精神科に通院する患者さんをモデルとして厚労省が作ったものですが、見直し案では、「給付の重点化・公平化」の観点から、所得を5段階に分け、一定所得以上を3割負担にしようという案になっています。これまで32条を使って5%の負担だったものが、低所得者にも10%という費用負担が生じ、一定所得以上は3割にするというのです。

 介護保険もそうですが、全体を見直していこうということで、そうすると、32条は医療ではなく福祉で対応することではないか、という理屈です。精神障害の福祉は医療と福祉が一緒になった「精神保健福祉法」に基づいているわけで、医療保障なのか福祉なのかについては議論のあるところです。とはいえ、医療保障になると3割負担だよ、福祉なら1割ですむよと。この辺りが厚労省の巧妙なところだと思います。

家族にも負担を押し付ける

 さらに問題なのは、所得を計算する場合、必ずしも本人の所得ではなく、一緒に住んでいる家族に所得がある場合、場合によっては3割負担になる可能性があるんです。3割となれば現行の6倍という、とんでもない数字になってしまいます。

 ――今回の見直し案の柱は「障害者の自立支援」であり、地域での生活や就労の支援を中心に位置づけています。自立という場合、家族から自立・独立できる制度的な基盤が何よりも重要であり、多くの障害者団体が運動をすすめてきた結果、不十分ながらも障害者基礎年金がつくられ、施設や支援費の費用負担の範囲に親兄弟を含めないなどの施策が実現されてきました。全体の流れもその方向になってきていたのではなかったでしょうか。

★そうです。理念的には「扶養義務は廃止する」としていますが、負担の見直しにあたっては、低所得者の負担上限額の設定は世帯収入に基づいたものになり、さらに、減額措置も世帯収入に基づく方式になっています。

 たとえば統合失調症の場合、本人はほとんど所得がなく、家族と一緒に住んでいる場合が多い。ヨーロッパなどでは、成人したら親子の世帯は別という考え方ですが、日本では、成人しても世帯は一緒で、介護も親の役割というのが一般的でした。世帯収入の概念を導入することは、結局、障害者の自立を阻むことになるわけで、一緒に住んでいようが別に住んでいようが、本人の所得で決めるべきです。

 ヨーロッパの場合は、たしかに施設入所者はホテルコストを負担しているようですが、それは障害者の所得保障があったうえでのことであって、日本では所得保障、就労保障がまったく不十分です。所得保障がないのに負担が増え、しかもそれを家族にも押し付けようとしているのです。

視野を広げるチャンスでもある

 いずれにしても、これまで見てきたことからわかるように、今の制度からも後退する可能性があります。本来はサービスを拡大したいのに、それが財源不足でできない。そうすると、今あるサービスだけが後退することになるわけです。

 ――介護保険の見直しも含めて、本当に大変な問題です。どうしたらいいでしょうか。

★厚労省は非常に緻密に、うまくすり替えをやってきています。それに対して私たちは、負担増に反対するのはもちろんですが、そこだけだと、スローガンだけで終わってしまう危険があります。

 民医連はこの間、医療も福祉もということで頑張ってきましたが、福祉という場合、高齢者だけではなく、障害者にも目を向ける必要があります。実際問題、介護保険には目が行きますが、障害者の医療・福祉という点ではまだまだ弱いと思います。じつは、65歳以下の障害者の医療(特定疾患の場合は40歳以下)というのは、精神障害者の医療・福祉と同様に、「谷間」になっている分野なんです。

 勤医会は精神科が確立されているし、東葛病院でのALS患者さんへの援助の実践などもあります。障害者・高齢者の医療・福祉に力を発揮できる資源があるわけで、こうした強みを大事にして、もっと積極的に取り組んでいく必要があると思います。

 ――財源が必要というのはある意味、当然のことです。先日、テレビで、デンマークの子育てのドキュメンタリー番組をみましたが、デンマークでは生まれてから死ぬまでの社会保障がきちんとあるかわりに、その女性は税金を全部で所得の67%払っていると言っていました。それだけ高額の税金を払っても、デンマークの国民は世界で一番「国に対する満足度」が高い。社会保障が充実するなら税金が高くなってもいいと思うんですが、日本ではどうも長期的な展望が持ちにくい。なぜだと思われますか。

★政府が信用されてないからですよ。税金の使い道がちゃんとしていないから、税金を預けたくない。

 高度成長時代からバブルが崩壊するまで、なんだかんだ言っても税収は増えていました。それが低成長の時代に入り、日本は今、少子高齢化の問題も含めて、大きな岐路に立っています。

 今回の見直し案も、合同という視点は評価できるんです。評価できる点は評価し、だめなところは変えさせるというふうにしていかないと、「負担増だからだめ」という議論だけでは先に進みません。

 さらに今回の見直しは、三位一体改革とセットになっています。国は「財源委譲をするから、各市町村でやりなさい。どこにお金を使うかは各市町村の判断です」というわけですが、地方も財源がありませんから、どこかを削らなければいけないことになる。三郷市では05年度の予算削減規模が障害福祉だけで3500万円といわれており、このままでは大変なことになります。そこで、去年12月に障害者団体などが集まって緊急集会を開き、「三郷の明日を開く福祉緊急集会実行委員会」の結成を呼びかけました。病院からも何人か参加していますが、逆にいえばこういう共闘のできる大きな問題が突きつけられているとも考えられるわけで、視野を広げていくチャンスでもあります。三郷市の障害者団体とももっと連携をとり、積極的に運動をすすめていきたいと思っています。

モデル1 精神通院:うつ病 月1回の受診と継続的な服薬 月額医療費約1万円

現在 見直し案
生活保護 0.5千円(5%) 円(0%)
低所得1
1千円(10%)
低所得2
1千円(10%)
所得税課税
1千円(10%)
一定所得以上
3千円(3割)
モデル2 精神通院:統合失調症 デイケア等を利用 月額医療費約15万円

現在 見直し案
生活保護 7.5千円(5%) 0円(0%)
低所得1
2.5千円(1.7%)
低所得2
5千円(3.1%)
所得税課税
1万円(6.7%)
一定所得以上
1.5万円(10%)
* 上記数値は月額の負担額である。( )内は、医療費に対する当該負担額の比率である。



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